CdTeを用いた次世代X線イメージセンサ(2)

(株)ANSeeN 代表取締役
小池 昭史

3.CdTeを採用したX線イメージセンサ

 前節で紹介した受光素子の中で、直接変換型であるCdTeを採用したイメージセンサについて、それぞれの信号処理方式を採用した例について以下に述べる。

3.1.電荷蓄積イメージセンサ

 金属製品製造時の内部構造の検査や、インフラメンテナンスとしての配管検査など従来は製造技術や製品寿命に余裕を持った厚物部材などで対応していたが、効率化や低環境負荷を実現しつつ品質も保証するための検査需要が増えてきている。図 3に電荷蓄積方式のCdTeラインセンサの外観と撮像例を示す。従来のシンチレータを採用したセンサでは受光素子の特性から適応できる範囲が狭かったため、撮像対象や現場に応じて熟練の技師が使用するセンサを選ぶ必要があった。一方で、このセンサはX線管電圧150kV以上であればどのようなシーンでも同じセンサで対応可能で、リアルタイムで画像化を実現している。
 また、電荷蓄積方式の特徴である短時間に大量のX線が照射されるパルスX線源に対応可能で、かつ入射するX線のエネルギーに比例した信号強度で画像化が可能であることから、可搬型のX線源との相性も良い。

3.2.フォトンカウンティングイメージセンサ

 電子回路基板のハンダ実装不良検査や、CFRPと金属の複合材料の検査、セキュリティチェックとしての手荷物検査の自動化など軽元素と重元素混合の詳細な画像化の需要が増えてきている。図 4に受光素子にCdTeを採用した電荷蓄積とフォトンカウンティングので線量比較を行った結果と、材料識別CT撮像を行い疑似着色をした例を示す。

図 3:電荷蓄積イメージセンサ(左)と撮像例(右)
図 3:電荷蓄積イメージセンサ(左)と撮像例(右)
図 4:電荷蓄積とフォトンカウンティングの線量比較(左)と材料識別CT(右)
図 4:電荷蓄積とフォトンカウンティングの線量比較(左)と材料識別CT(右)

4.フォトンカウンティングと電荷蓄積の融合方式

 フォトンカウンティングの特徴は低線量でも良好なコントラストを得ることができることである。一方で、高線量条件での撮像には不向きであると同時に、どのようなエネルギーでも1個として計上し画素値を決定してしまうために、本来は高エネルギーのX線ほど高い画素値を出力すべきだが、このような動作は不可能であり、低エネルギー強調の撮像しかできないという課題がある。
 X線イメージセンサとして求められるニーズを考えると、ボケがなく高解像度であること、自己ノイズの影響を受けないノイズレス撮像ができること、さらにはダイナミックレンジが広く、入射するエネルギーに比例した透過情報を取得できるセンサを満たすことである。
 これらすべてを満たす信号処理方式を実現するのは、フォトンカウンティング方式で 一般的に用いられる高速な積分と波形整形(シェイピング)のアンプを用いる方法では難しいため、図 5に示すような、センサで発生した電荷を直接カウントする回路を考案した[3]。この回路の特徴は積分をする前の段階で、電荷を数える動作によるデジタイズをすることができるため、その後の処理回路の機能と分離できることである。これにより、カウント値のみを数えるフォトンカウンティング方式、エネルギーしきい値を設定しつつエネルギーを考慮した積分が可能なデジタル積分モードの2つを同時に実装することが可能となった。特に後者のデジタル積分モードについては課題となっていた点をすべて解決するような動作モードとなっており、ダイナミックレンジも大幅に改善している。更に実用的にメリットがあるのは、飽和後は一定値となるためフォトンカウンティングモードのように低線量なのか高線量なのかセンサの出力だけではわからないということが起こらない。

図 5:電荷カウント回路の概念図
図 5:電荷カウント回路の概念図
図 6:デジタル積分モードとフォトンカウンティングモードのダイナミックレンジ比較
図 6:デジタル積分モードとフォトンカウンティングモードのダイナミックレンジ比較

5.おわりに

 X線イメージセンサの受光素子、及び信号処理方式と、CdTeを採用したセンサとその技術、及び撮像事例について紹介した。半導体プロセス技術、パッケージ技術の進歩により、多段積層の集積回路による機能化や、横方向への高密度実装などが可能となってきたことで、X線イメージセンサにとって理想的なデバイスを実現できる環境が整ってきている。
 ロボットやドローンが社会実装されていき、協業相手が人間ではなくなる時代を実現するために、それらの製造時の安全性の担保などはより一層重要性を増していき、X線イメージングによる検査がこれらを解決するソリューションの1つの手段となるであろう。



参考文献

  1. Katsuyuki Takagi, Toshiyuki Takagi, Tsuyoshi Terao, Hisashi Morii, AKifumi Koike, Toru Aoki, “Readout Architecture Based on a Novel Photon-Counting and Energy Integrating processing for X-ray imaging”, IEEE Transactions on Radiation and Plasma Medical Sciences 1-1 2020


【著者紹介】
小池 昭史(こいけ あきふみ)
株式会社ANseeN 代表取締役

■著者略歴
2007年 静岡大学情報学部情報科学科 卒業
2009年 静岡大学総合科学技術研究科情報学専攻 卒業
2013年 静岡大学創造科学技術大学院自然科学系教育部 退学
2014年 博士(工学)取得 2011年〜2012年 ANSeeN取締役
2012年〜現在ANSeeN代表取締役