兵庫県川西市に本社を置く、冨士色素(株)の内部スタートアップ企業であるGSアライアンス(株)の森 良平博士(工学)と井谷 弘道研究員は、負極にアルミニウム、電解質にイオン液体や深共晶溶剤系を用いたアルミニウム硫黄電池(二次電池)を開発した。
■ポイント
1. アルミニウム硫黄電池は、理論的にはリチウムイオン電池の7 – 8倍の電池容量を持つ(リチウムイオン電池:200 – 243 Wh / Kg、アルミニウム硫黄電池:1675 Wh / Kg :硫黄の理論容量として)。
2. 資源の高騰、奪い合いの懸念があるリチウムと比較して、負極に用いられているアルミニウムは地球上で最も多くリサイクルされている金属で、さらに地殻中にも資源的に豊富に存在しており、二次電池が安価になり得る。
3. リチウムと違ってアルミニウムは空気中でも安定で、化学的にも安定で毒性もなく、電解質も不安定な物質は一切使用しておらず、全ての構成材料が安全なので、リチウムイオン電池などのように爆発や燃焼したりする心配がない。
4. イオン液体、深共晶溶媒系の電解質を用いているので、300度ぐらいまでの高温でも使用が可能な電池。
■開発の社会的背景
人口爆発による気候変動、森林の消滅、砂漠化、生物種の絶滅、水汚染、プラスチック汚染などの環境破壊は深刻になってきている。地球温暖化の主な原因は、メタンやCO2などの温暖化ガスの急増と言われている。ゆえに今後はエネルギーを石油などの化石燃料に依存することが難しく、EVや、風力や太陽光発電などのクリーンエネルギー用の二次電池(蓄電池)の開発に世界中の企業、大学、研究機関が開発生産に乗り出している。
しかしながら今後のEV、スマートグリッドの需要に対応していくにはどうしても二次電池のさらなる大容量化が必要となっており、現行のリチウムイオン電池と比較して、より高い電池容量を持つ革新的な二次電池の開発が強く望まれている。
GSアライアンス(株)はこれまで、リチウム硫黄電池、リチウム過剰型正極、シリコン系負極、全固体電池などの次世代型二次電池の研究を続けている。またアルミニウム空気電池の研究も行っていた。しかしながら、アルミニウム空気電池では、その構造に由来する電解液の蒸発などによる大型化の難しさや、アルミニウムが電解液に溶解後、還元されてアルミニウム金属に戻る反応が不安定で、製品化が困難だった。
■研究の内容
本研究においては負極にアルミニウム、正極に硫黄 – 炭素複合体、電解質にイオン液体や深共晶溶媒を用いて、アルミニウム硫黄電池のラミネートセルを試作した。
現時点において、正極中の硫黄の重量に対して、通常の室温大気下、0.025Cの充放電下において初期容量約950 mAhg-1、100サイクル後には容量は約200 mAhg-1となっている。サイクル特性の向上は今後の課題である。
また電圧が低く(実際に作成したラミネートセルの開回路電圧は約0.9V)、リチウムイオン電池のそれと比べると低めになり、また印加電流も低めになってしまうのが課題である。
しかしながら、電池容量は大きく、安全で、安くなり得るので、初期段階からのEV用途などへの検討は困難なものの、今後、加速的に成長すると思われる大電流を必要としないが、長時間の電力を必要とするようなセンサ、IT向けの電源などへの用途が期待できる。
国内外の研究機関や大学において、容量の少し小さいアルミニウムイオン電池、アルミニウム硫黄電池の研究開発はあるものの、早い実用化を見据えて実際のアルミニウム硫黄電池をラミネートセルまで作成し、商業的に展開を試みているのは世界初(※GSアライアンス調べ)である。GSアライアンスにおいては、リチウム硫黄電池の開発も行っているので、硫黄系正極の知見はあり、アルミニウム硫黄電池へその技術を応用できたことも利点である。また同社では、電極、電解質のほとんどを自社で合成、作成していることも有利であるという。
今後は、サイクル特性、電池容量のさらなる向上、そしてラミネートセルの国内外へのサンプル供給を開始し、事業化を目指すとしている。
ニュースリリースサイト:https://www.atpress.ne.jp/news/299849