5.研究紹介
このセクションでは,私が取り組んでいる研究を紹介する.
AI を用いた研究には一貫した基準で継続的にデータを取得し続けることが必要であるが,通常の臨床検査で教師データを収集できないため教師データに医用画像を使用しない AI技術 (5-1) および AI を使用しない解決方法を用いた場合 (5-2) について記す.
5-1.超解像を用いたノイズ低減処理 13
高精細なディスプレイパネルが実用化されているが表示されるコンテンツの解像度は大きく変化しておらず低解像度コンテンツの表示にはアップサンプリング処理が適用される.アップサンプリング処理の中でも入力画像を分析しながら標本化により失われた高周波成分の情報を推定したアップサンプリング処理である超解像が注目されている.しかし,医用画像に特化した AI モデルを作成するのに必要な教師データが取得できない.具体的には,超解像モデルを作成するために必要な高解像度画像は,撮影装置 (放射線医療機器) の幾何学的制約 (主に検出器に起因した制約) により取得できない.また,ノイズ低減モデルを作成するために必要な低ノイズ画像は,患者さまの被ばく線量を低減する観点から取得することは不可能である.別の観点とし,AI を用いたデノイズ処理は未だ不自然さが発生するため,医用画像処理としては不適切だと考える.
本稿では医用画像に特化した教師データが取得できないことから,自然画像のみから学習した超解像モデルを使用して,放射線画像の中でも,核医学検査の一種である PET 画像に対してボケの少ないノイズ低減処理を提案した (Fig. 1).
本稿で用いたモデル学習では,元画像群に対して四方 4 ピクセル分の画素値を加算することで低解像度画像を作成し,元画像と低解像度画像の関係を学習した超解像モデルを作成する (Fig. 2).画素を加算することで解像度は落ちるが,統計ノイズの影響が低減した画像が生成される.また,超解像により高解像度化する際に必要なエッジが強調される.
統計ノイズの多い PET 画像に対して,モデル作成と同様の方法で低解像度・ノイズ低減画像を作成し,予め作成した超解像モデルを用い超解像を適用することで,統計ノイズの影響が低減された元画像と同じ解像度の画像が生成される.
提案した方法の有用性を検証するために,Hoffman 3-D Brain Phantom を使用し,PET 画像のデノイズ処理として一般的なガウシアンフィルタを適用した画像と提案手法を適用した画像とを数値評価より比較した.
提案手法を適用した PET 画像の数値評価の値は従来手法に比べて良好であり (Fig. 3),エッジが保持され統計ノイズに依存することなく一定のノイズ低減効果が得られたことより,旧来手法に比べて有用である可能性が示唆された.
5-2.二方向の血管造影検査の画像から三次元形状の復元 14
脳動脈瘤コイル塞栓術は脳動脈瘤に対する標準治療の一つである.本手技は非侵襲的であるが,病変の大きさや形状によっては十分な治療効果が得られず,また重篤な脳虚血合併症が起こり得るなど克服すべき課題が多い.
本研究ではより安全で効率の良いコイル塞栓術を実現するため,術中に得られる一連の連続画像を用いて同一の特徴点をもつコイルを識別しながら個々のコイルの形状やこれらの相互干渉をリアルタイムに追跡し,可視化するための方法と装置,ソフトウエアを開発することである.
当初,AI を用いて本課題を解決する方法を考えていたが,当院で行われている脳動脈コイル塞栓術は年間 50 件程度であり,大量のデータを取得することが困難であること,コイルを留置する毎に CT の撮影を行わないので,正しいコイルの形状 (教師データ) の取得が困難であることより,AI 技術ではなく二方向の血管造影像から三次元形状の復元を試みている (Fig. 4).
6.さいごに
近年,“AI 技術” と言う名称で総括されることが非常に多い.しかし,医用画像処理に対する AI 技術は,物体検出,画像認識および画像分類などの “画像解析技術” から低解像度画像から高解像度画像の生成や統計ノイズの低減などの “画像処理技術”,敵対的生成ネットワーク (generative adversarial networks: GAN) を用いた “画像変換 (image-to-image translation)” まで多岐に渡る (Fig. 5).文献検索をする際のキーワードは “AI” だけでなく具体的な技術名を足したほうが目的の資料を探すことができると思われる.
AI 技術を用いて何れの課題を解決する場合でも,AI は統計的に最適解を導き出すシステムであるため,課題に対応した適切な教師データを用意する必要がある.すなわち,学習データを増やすことが見込めない状況や学習データと検証用データが乖離する場合は,5-2 で示したように AI 技術を用いないほうが良い場合があることに留意頂きたい.
謝辞
本研究の一部は JSPS 科研費 19K09533 の助成を受けた.
引用文献
- 片山 豊, 上田 健太郎, 日浦 慎作, 木村 大輔, 高尾 由範, 山永 隆史, 市田 隆雄, 東山 滋明, 河邉 讓治. PET 画像に対する超解像を用いたデノイズ手法の適用. 日本放射線技術学会雑誌, 2018, 74.7: 653-660.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrt/74/7/74_2018_JSRT_74.7.653/_article/-char/ja/ - 脳動脈瘤コイル塞栓術において個々のコイル形態をモニタリングする装置の開発 (19K09533)
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-19K09533/
【著者紹介】
片山 豊(かたやま ゆたか)
大阪市立大学医学部附属病院 中央放射線部
■著者略歴
2003 年 大阪大学医学部附属病院,
2004 年 りんくう総合医療センター,
2006 年 北摂総合病院,
2007 年 大阪市立大学医学部附属病院に勤務.放射線技術学会,核医学技術学会に所属.スパースコーディングを用いた医用画像処理の研究開発を 2014年頃より始め,その後,深層学習を用いた医用画像処理の研究開発に 2017 年頃より従事.