ロボットと光技術の融合へ―光センサー・システムの高度化が重要(3)

東京大学 石川正俊

―具体的にどのようなインパクトがあるのでしょうか?

それはロボットを止める必要がなくなるということです。現状は、ロボットが三次元形状計測を行なう際には毎回動作を止める必要があります。止まって画像計測を行ない,それに合わせて動作し,また画像計測を行なうのに止まるのを繰り返すわけです。その間に揺れてしまうという問題もあります。
それがこの高速ビジョンセンサーを使うと,揺れても1/1,000秒単位の情報がコントローラーに入っているので止まらずに動作することが可能になります。
それともう一つ,我々が取り組んでいるものとしてDynamic Compensation(動的補償)があります。これは大きな動きに対して細かいところは全てローカルのフィードバックに任せるというものです。画像計測が高速であれば本体のダイナミクスを全て補償できるので、筐体がどう動こうが問題になりません。例えばロボットアームの先に取り付けたセンサーで20 mm×20 mmの範囲の動きをフィードバックすれば,相対位置制御によってアームから先の動きは20 mmの精度で良くなるわけです。1/1,000秒の高速画像処理ならびに1/1,000の三次元形状計測ができると、産業用ロボットのフレキシビリティや知能は格段に上がります。

―AI系ロボット側から見るといかがでしょうか?

三次元形状計測は出来ていますが,先ほども申し上げたようにスピードが遅いという問題があります。高速化するにはセンサーのことが分かっていないといけません。いま期待されているのはTOF方式センサーですが,自己位置推定の高速化も必要です。
AIについて、ロボット掃除機「ルンバ」の開発者であるロドニー・ブルックスが随分前に「象はチェスをしない」という論文を発表しました。ここでチェスというのはロジックのAIを指しています。このロジックは組合せの最適化で問題を解くというタイプで、正しいロジックを通じてインテリジェンスを発揮していくというものです。しかし象にそんなロジックは必要ないというのです。象にとっては,リアルワールド・リアルタイムである今の世界をどうやって生きていくかという知能が必要であって、チェスの知能は要らないというわけです。
ロジックの方の知能には,あまり光技術は関係してこないと思います。しかし,リアルタイムの世界では光技術,あるいはセンサー技術が重要となります。いずれもリアルタイムを実現するものです。私はどちらかというと象の方の立場にいますが,近い将来,ロジックとリアルタイムの知能が一体化すると思っています。一体化するためのカギを握っているのは,リアルタイム側の技術です。なので,センサーデバイスの高精度化,高速化は必ず必要です。
AIやIoTを実現するため、ディープラーニングなど色々な知能を埋め込むのも重要ですが、実際にインプリメントする場合には実世界を全て理解していることの方が重要で、そうなるとセンサーの能力が高い方が知能としても高くなります。これが、私が見ているこれからのロボット開発のトレンドと、光センサーを開発されている方々への期待感です。
そのことを理解してAIやIoTを構築する必要があります。これは日本が強いのではないかと思っています。欧米はチェスロボットに代表されるような上の層の知能を上げるという方向に走っていますが,例えば,工場全体を知能化するには,どれだけセンサーをうまく作れたかが重要となります。ですので、日本はセンサーの知能の高度化に迫って行くほうが良いと思います。

(月刊OPTRONICS 2017年12月号より転載)

次週に続く—