センシング技術応用研究会からのご挨拶

センシング技術応用研究会
会長
筒井博司

1.はじめに
センサイトの皆様、2020年よりセンシング技術応用研究会会長に就任いたしました筒井博司と申します。ご挨拶を兼ねて、センシング技術応用研究会の紹介をさせていただきます。
私は神戸大学で計測工学を専攻しました。当時は計測工学とは何ぞや?ケイソツ工学科?という議論から始まり、電気電子・機械から自動制御まで幅広く学びました。
1975年松下電器産業株式会社(現パナソニック)に入社し、中央研究所にて放射線センサの研究からスタートしました。その開発第1号機が米国スリーマイルアイランド原子力発電所事故の被ばく管理に使用され、この放射線センサ及び計測システムはその後チェルノブイリ原子力発電所事故、福島原子力発電所事故においても使用されました。このことをきっかけに、医療・ヘルスケア分野に目覚め、新しいセンシング技術の研究開発を行いました。

その後2002年に大阪工業大学工学部機械工学科の教授となり、大学では2006年に生体医工学科、2010年にロボット工学科を新設しました。大学においてはMEMS技術を用いたヘルスケアセンシングからスタートし、筋芽細胞から培養した培養骨格筋を用いたバイオアクチュエータ、触覚センサを有するロボットハンドを用いたBMI研究などを行い、新学科を設立するごとに研究テーマが増えました。現在は自分自身の年齢を考慮して、脳科学に基づく認知症・フレイル予防のためのロボティクス、をテーマに調査研究を継続しております。私の研究してまいりました、蛍光体・半導体材料・プロセス、MEMS技術、細胞培養、ロボットハンド、脳計測など、一見ばらばらな技術は、計測工学、センサ・センシング技術という範疇からしますと、材料・プロセスからシステム設計まで一貫していると自分では思っています。

さらに21世紀の加速度的な情報化の中で、センサ・センシング技術は大変重要な位置づけになり、時代は新しいステージを迎えました。そのような状況下で、2020年に前会長奥山雅則先生よりバトンを受け継ぎました。センサイトの皆様にご理解をいただけますよう、ここからはセンシング技術応用研究会のご紹介をいたします。

2.センシング技術応用研究会のご紹介
センシング技術応用研究会は1977年に関西の産官学合同で設立され、大阪府立産業技術総合研究所、現在の大阪産業技術研究所内に事務局を置きます。この45年間、センシング技術応用研究会はセンサ材料・プロセス技術・半導体技術・バイオ技術をベースとした情報発信、共同研究を行ってまいりましたが、近年の情報処理技術・ネットワーク技術の進歩により、関連技術分野のすそ野が大きく広がってまいりました。現在の状況をSociety5.0の方向性と関連付けて、私どものセンシング技術応用研究会の目指す方向性をご紹介し、今後センサイト様、会員の皆様とご一緒に、センサ・センシング技術の発展に尽くしてまいりたいと思います。

2-1.Society5.0にみるスマート社会とセンサ・センシング技術の関連性
第5期科学技術基本計画で打ち上げられたSociety5.0、第6期ではその実現に向けた取り組みが始まりました。その中に、「サイバー空間とフィジカル空間の融合による新たな価値の創出」が挙げられています。私たちのセンシング技術応用研究会がめざすセンシング技術は、まさにこのサイバー空間とフィジカル空間を結ぶ要として重要な役割を担っていると考えます。
センシング技術応用研究会が考える、超スマート社会におけるサイバー空間とフィジカル空間を結ぶセンサ・センシング技術の位置づけを、図1に示します。デジタル社会では日常生活から多くの産業に至るまで、センサからのあらゆる情報がIoT、ICT技術を通してサイバー空間にビッグデータとして吸収され、AIなどの情報処理・情報解析により、新しい価値を生み出し、フィジカル空間に還元され、社会実装されていきます。このように、大きな循環の中で、センサ・センシング技術は未来社会の中で重要な役割を担っています。

図1.超スマート社会におけるセンサ・センシング技術の位置付け

COVID-19パンデミックは、日本が世界の中で情報化に遅れているということを教えてくれました。私たちセンシング技術応用研究会においても、大きな情報技術の進歩の中でのセンサ・センシング技術の役割を見出していくことが重要です。センサ・センシング技術は情報技術を取り込むことにより、新しい価値を創造し、将来更なる発展のチャンスを得ることができます。今がチャンスの分岐点です。
とはいえ、センサ・センシング技術はマテリアルサイエンス、材料・プロセス技術、製造技術から制御技術、通信技術まで非常に幅の広い技術を包含しています。センシング技術応用研究会はこの幅の広い技術に対し、産官学が力を合わせて現在の課題解決から新しい方向性に関する情報発信源としての役割を担っています。

2-2.センシング技術応用研究会がめざす役割と方向性
センサ・センシング技術は以下のように大きく分けられます。
1)センサ・センシング技術の創出:材料技術およびMEMS技術や半導体技術等からなるデバイスプロセス技術をベースにした研究開発・製造技術からなるセンサの創出。
2)センサ・センシング技術の応用:センサ・センサデバイスからの情報を、インタフェースを通してAI・IoTの情報として利用する技術、およびインタフェースを通して計測器やアクチュエータを制御するロボット技術などへのセンサの応用。
センシング技術応用研究会は技術の創出と応用を両輪として情報発信を行っています。図2にこの両輪を分析したセンシング技術応用研究会の役割を示します。従来は赤の矢印に示すセンサの創出側からセンサの応用に注目してまいりました。しかし昨今の情報技術の急速な進歩により、AI・IoT技術、ロボット技術の急速な進展および市場の拡大が始まっています。今後は青の矢印の方向からの視点をフィードバックすることにより、センサ・センシング技術の新しい価値創造につながると考えます。
従来のセンサ・センシング技術は物理現象等を検出しデータとして有用な情報に変換する技術として捉えられていますが、これからのセンサ・センシング技術にはより幅の広い分析・解析・判断が求められます。図2に示すインタフェースは、データの伝達のみではなく、より高次の判断を行うための前処理が含まれます。ここにセンサ・センシング技術の大きな付加価値が生まれます。さらには、AI・IoT技術およびロボット技術と融合することにより、新しいシステムが創生されるでしょう。

図2.センシング技術応用研究会の役割

センシング技術応用研究会は、センサの創出に基盤を置きつつ、センサの応用からAI・IoT技術やロボット技術の最新動向、およびセンサとのインタフェースの標準化技術に関する情報などを積極的に取り入れて、研究例会、セミナー等を通してセンサ・センシング技術に関わる会員の皆様への情報発信、技術課題相談に取り組みます。

3.おわりに
センサイトの皆様、センシング技術応用研究会は関西を拠点としておりますが、コロナ禍でオンライン化が進み、関東をはじめ全国との距離が縮まりました。ご興味を持たれましたら、ぜひ下記ホームページに立ち寄られましてご覧いただきますと共に、センシング技術に関わるセンサイトの皆様とご一緒に、新しい時代を切り開いていこうではありませんか。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
センシング技術応用研究会ホームページ:http://tri-osaka.jp/dantai/sstj/



筒井博司経歴
1975 神戸大学大学院工学研究科修士課程計測工学専攻終了
同年松下電器産業株式会社入社中央研究所配属
1993 博士(工学)神戸大学
2002 大阪工業大学工学部機械工学科教授
2006 同大学生体医工学科教授
2010 同大学ロボット工学科教授
2017 同大学ロボティクス&デザイン工学部客員教授
2020 センシング技術応用研究会会長

専門分野
放射線計測、MEMS技術、ヘルスケアデバイス、触覚センサ、ロボットハンド、BMI、脳科学

学会
IEEE、日本生体医工学会、日本ロボット学会会員