極高真空(XHV)技術とその応用(2)

一般社団法人センサイト協議会
常務理事 島田芳夫

4 極高真空の質量分析への応用

4.1 四重極分析計 WATMASS-MPH

四重極方式(QMS)の質量分析計で、通常のQMSではセンサ先端部のイオン源からのガス放出のため高精度測定が不可能な超高真空・極高真空での残留ガス分析が、イオン源の改良によって10-13Pa台の残留ガス分析を可能としている。これを実現するために、1)熱陰極イオン源、センサニップル管に0.2%BeCuを採用しガス放出を大幅に低減 2)グリッドに白金イリジウム合金を採用、ESDガス放出を低減、3)徹底した低ガス化処理による水素の排出 等の改良が行われている。WATMASSの現状の応用分野としては1)超高真空、極高真空での高精度ガス分析、2)表面分析 3)半導体デバイスの劣化とガス放出分析 4)光あるいは電子刺激によるガス分析 5)微量ガス分析 6)封止デバイスのガス分析 7)ガラスのガス透過試験 等がある。
(図-4)

図-4 WATTMASSとその分析例

4.2 四重極分析計WATMASSの応用例

WATMASSの応用として半導体パッケージ、特に近年その重要性が高まっている車載用MEMSデバイスの信頼性確認のための破壊検査システムが実用化された。これはMEMSパッケージの中に残留不純物ガスが存在するかどうか、パッケージを破壊してガス分析を行うシシテムである。WATMASSは低ガス放出に徹底的にこだわり、真空で封じきった排気ポンプなしの状態で10-7Pa台の真空を1年間保持できる性能を示している。このWATMASSを用いると、計測室の形状と構成をいろいろ変えることにより各種高性能分析を実現する事が出来る。極めて微量なガス分析で、10-15Pa-m3/s(He)という超微少リークを検出、品質の担保に役立っている。この技術は産総研の技術ライセンスの指導を受けているが0.2%BeCuによる極高真空技術によって通常数日かかる真空引きの時間を6~10時間に短縮する事が可能となっている。
(図-5)

図-5 WATTMASSの応用例

5 新しい真空技術応用ーミニマルファブへの取り組みー

ICに代表される半導体の製造工場は高度なクリーンルームを必要とし、また大型ウエハによる同一仕様の大量製造が原則であったが、近年は小ロットの要望が強くなってきている。この要望にマッチする製造システムとして国内では産総研指導の国家プロジェクトとして〔ミニマルファブ〕の開発が進められている。これは半導体の前工程・後工程それぞれの装置を作業毎に分離、小型統一規格サイズの装置としている。これら工程毎の小型統一規格サイズの装置を要望に応じて適時組見合わせて製造トータル工程を実現するものである。ただし現行のミニマルファブで高熱が発生する真空工程では、装置の小型化が難しいとされている。またシリコンデバイスでのAl配線による水分分圧の問題なども提起されている。この様な課題解決に極高真空向けに開発されたBeCuの採用に期待が高まっており、今後この材料を基本にミニマル装置への応用が実現できるべく開発が進められている。
(図-6)

図-6 ミニマル仕様成膜装置(MBE)開発における東京電子の役割

6 まとめ

極高真空を実現する材料、部品技術について解説、その応用例と今後の可能性について記述した。極高真空はまだ限定された応用分野であるが、構造材および部品としての提供も可能であるので、今後の半導体産業、分析機器産業などでの応用が高まってくることが期待出来る。


(文責 一般社団法人センサイト協議会 島田)

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