世界初(*1)、フォノニック結晶構造を搭載した遠赤外線センサの 感度向上技術を開発

パナソニック(株)は、一般的なシリコン(Si)の断熱性能を示す物性値限界(*2)を大きく上回ることが出来るフォノニック結晶構造(*3)をSiウェハ上に量産適用可能な作製方法で形成し、デバイス性能を飛躍的に向上させる技術を開発した。本技術を遠赤外線センサの受光部に適用することで、受光部からの熱の漏れを約1/10に抑制し、従来のSiベースの遠赤外線センサに比べて約10倍の感度向上が可能になることを世界で初めて実証した。
こうしたフォノニック結晶を遠赤外線センサに導入し、センサ感度が向上することを実証した世界初の研究成果として、光学、フォトニクス、画像工学分野の国際学会SPIE(The International Society for Optical Engineering)のトップ5カンファレンスの一つであるSPIE Defense + Commercial Sensing 2021にて招待講演で発表した。

〔背景〕
AI・IoT時代における電子デバイスは、今後ますます小型・高密度化が進むことが予測される。それに伴い、デバイス局所の熱漏れや発熱密度の増加が問題視されており、従来手法を超えた高機能な熱制御技術の開発が要求されている。

熱制御技術の近年の研究において、材料にナノメートルオーダーの周期構造(フォノニック結晶構造(*3))を組み込み、熱輸送の担体であるフォノンの伝搬を人工的に操作し阻害することで、従来の物性値限界を上回る断熱性能を実現できることが明らかになってきた。しかし、フォノニック結晶構造の寸法制御性や作製スループットの限界により、フォノンの伝搬制御性を最大限に引き出しきれず、実用的な電子デバイスへの応用は困難だった。

今回同社が開発した技術では、Siウェハ上に量産適用可能な作製方法を用い、数十ナノメートルの孔の直径や整列周期が緻密に制御されたフォノニック結晶構造を実現した。これにより、Si材料の物性値限界を約10倍上回る断熱性能を得ることが可能になった。高感度化が要求される遠赤外線センサに対し、本技術をセンサ受光部を支えるSi支持脚部分に搭載し(図1)、支持脚部分の断熱性能を格段に上げることで、受光部の温度上昇率を大きくし、センサ感度を約10倍に向上させることが可能になったという。

〔特長〕
1. 周期(*5)100 nm未満のフォノニック結晶の量産適用可能なプロセス技術を開発
2. 従来構造の熱伝導率31.2 W/mKと比較して、フォノニック結晶を搭載した遠赤外センサは3.6 W/mKを実現し、大幅な熱伝導率低減を実現
3. 従来のフォノニック結晶を搭載しない遠赤外センサと比較して、10倍の感度向上を実現

〔用語〕
*1:2021年4月16日時点(パナソニック発表)
*2:断熱微細加工で得られる断熱化の限界値
*3:物質中の熱伝導を担う媒体の1つである格子振動を量子化したフォノンに対して、伝搬を阻害する禁制帯を発生させ、フォノンの波動制御が可能となる超微細ナノ周期構造
*4:走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)の略称で、電子線を対象物に照射することで放出される二次電子を結像させ、ナノ構造物を可視化する装置
*5:フォノニック結晶を形成するナノ孔の周期

ニュースリリースサイト(panasonic):
https://news.panasonic.com/jp/press/data/2021/04/jn210416-1/jn210416-1.html