生産性・品質向上、設備保全の革新を実現する分布型光ファイバ温度センシング(2)

横河電機(株)
平井 剛

3. ベルトコンベアローラ異常早期検知(設備保全)

電力、鉄鋼、紙パ、自家発、IPPプラント等におけるバイオマスペレット、石炭、ウッドチップ等の搬送ベルトコンベアでは火災事故が頻発しており、広大な監視対象において火災発生場所の特定がリアルタイムで可能というその特徴から、当社の分布型光ファイバ温度センサを用いた火災検知システムの導入が多く行なわれてきている。
さらに近年では、ベルトコンベア火災が主にローラ故障からの異常発熱に起因するということに着目し、ローラ異常発熱の早期検知により、火災発生自体を防止するという考え方も広がり、ベルトコンベア設備保全の革新が進んでいる。
特にこのアプリケーションへの要求度が高いのは海外のマイニング市場である。第6図にあるように、国内とは比較にならない広大な敷地に超長距離を無人で運転するベルトコンベアがある。

第6図. 広大なマイニングエリアと超長距離ベルトコンベア

何らかの異常が確認され、現地に到着するまで長期間必要なエリアもあり、コンベアローラの異常により突発のラインストップは、数億円規模の売り上げや機会の損失につながる。また複数のマイニングエリアを所有する資源メジャーでは、DX化として設備状況を一括監視するだけではなく、どこからでも情報共有可能とすることで効率化が求められている。
これらの課題に当社DTSXシリーズは、コンベアローラの異常発熱を検知し、突発のラインストップを回避し売り上げ、機会損失を回避するだけでなく、あらかじめ修繕計画を立てられることで大幅なメンテナンスコスト削減が可能との評価を受けている。社内外で必要な情報を共有できるクラウド化にも対応するなど、当社の大型システムJOBの提案・遂行能力も高く評価されている。

第7図. マイニングコンベアのローラ異常検知導入例

仮にコンベアローラの発熱が100℃まで上昇した場合、これらローラへ非接触で得られる温度変化は5℃程度である。一般的な分布型光ファイバ温度センシングでは、測定器本体の周辺温度変化により測定結果が3~4℃程度ドリフトすることがあり、本事例のように5℃の温度変化の場合は、異常として捉えることができない。現実的には1℃程度の温度再現性が必要となるが、これを当社独自技術で実現をしている。例えば、DTSX本体の周囲温度に非常にセンシティブな光素子特性をハード、ソフトの両面で作りこみ補正を行い、またDTSX本体に内蔵された温度基準部のドリフト特性を補正している(特開2012-52952)。これによりDTSX本体の周辺温度が大きく変化しても、その影響が測定結果に出ないことから、膨大な数量のコンベアローラの設備保全に使用されている。第8図はDTSX本体の設置環境温度が-50~+70℃まで大きく変動(青破線)しているにもかかわらず、測定結果は1℃以内に収まっている(赤線)当社DTSXシリーズの実測データである。

第8図. DTSX本体の周辺温度変化と測定結果

これら独自技術を実現してきた背景は、製品の開発当初から石油・ガスの井戸内部温度測定のアプリケーションにおいて、1日の中でも温度変化の非常に大きい屋外の井戸付近にDTSXを設置し、井戸内部の温度測定を行ってきたことが挙げられる。顧客であるオイルメジャーからの著しく厳しい要求を満たすために、当社独自技術として上記技術を確立してきた。これら技術をベースに当社は数十~数万個/JOBのローラ異常発熱検知システムを当社客先に導入した実績を複数有している。

4. データセンタの設備保全

プラント以外にも、データセンタといった重要な施設への適用も広がっている。近年クラウドサービスの伸びに伴い、データセンタの建設が増加している。ITおよび通信分野に関する調査や分析を行っているIDC Japanが2020年7月に発表した、国内データセンタ事業者のデータセンタ投資予測によると、データセンタ建屋、電気設備、冷却システムなどの新増設の投資額調査によると、データセンタの新増設投資は2020年に急増し、それ以降も同程度の投資規模が継続する見込みとしている。
データセンタの要となるサーバには電源の安定的な供給が24時間365日必要とされており、その大容量の給電には、電源ケーブルではなく、バスバーと呼ばれる板状のアルミや銅を接続する手法で行われている。

第9図. 銅製バスバー

大電流の流れるバスバーを露出しての運用は危険なため、バスダクトと呼ばれるダクトに収納することで安全に運用が行われている。

第10図. 建屋内に施工されたバスダクト(提供:共同カイテック株式会社)

バスバーの接合部分が緩むことにより接触抵抗が増加し、事故に発展するケースもあり、その損失は非常に大きい。そのための接合部分の点検を実施しているケースが殆どである。しかし接合部分は例えば3~5mごとに存在するため、規模によるが一つの建屋内に1km程度のバスダクトが設置される場合、接合部分は単純計算で200~300か所となる。この膨大な接合部分の主な点検手法は、接合部分に温度で変化するシールを貼り付けておき、1年に1回の点検時に、シールの変色を目視確認し、その後に手書きで記録を残す方法や、点検者がハンディタイプのサーモカメラや放射温度計を手に持ちながら巡回する方法もある。前者の場合は点検者による見落としや記録の記載ミスの可能性や、後者の非接触方式は人により結果が異なることもある。両者に共通の点検の課題としては以下が挙げられる。①点検サイクルは1年に1回程度と長く、リアルタイムに定量的な監視データが取得できない。②天井裏などの環境も多く、点検作業そのものが危険で過酷である。つまり事故発生の代償は大きいが、その点検にも非常に多くの課題がある。
分布型光ファイバ温度センシングでは、バスダクトに光ファイバケーブルを敷設することで、バスダクト全長の温度分布をリアルタイムで監視することが可能となる。また電気を使用していないため、電磁ノイズの影響を受けず正確な温度監視が可能となる。それに加え上述の当社独自技術により、早期に細かな温度変化を捉えることで、万が一温度異常が発生した場合、発生場所を特定できるため、計画的な修繕、迅速な初動、点検負荷軽減といったメリットがある。
また、収集したデータは当社のデータロギングソフトウェア「GA10」を使用することで、工場内や敷地内に分散設置されているDTSXも含めたさまざまな機器とEthernetネットワークを介して接続し、監視・記録が可能となり、第11図のようにPCへの一元化により、今後益々増えるデータの監視・記録業務の効率化によりユーザの負担軽減に寄与している。

第11図. データロギングソフトウェアGA10

また、GA10では大量のデータをロギングしている運用中に、異常発生個所の位置や温度の情報がポップアップで表示される機能も搭載され、更には第12図のように、Eメールによりアラーム発生を通知できるので、仮に新型コロナ対策でオペレータを最小人数で運用し、オペレータが別件で席を外している場合でも、タイムリーな通知により迅速かつ確実な初動に貢献できる。

第12図. GA10のEメールによるアラーム送信

5. おわりに

本稿では、従来の防災対策に加え、生産性・品質向上、設備保全の革新に最適な分布型光ファイバ温度センシングDTSXシリーズとその適用事例を紹介した。市場から求められる技術的要求は、今後益々高くなると想定しており、今回その一部を紹介した当社独自技術を軸にさらなる高度化を図り、顧客価値を提供してゆく所存である。

参考文献

1) 足立, ”プラント活用が急速に広まる光ファイバ温度分布センサ”, 計測技術, Vol.42, No.12, 2014, pp.32-36

2) 佐藤, “プラント活用が急速に広まる光ファイバ温度センサとその実績例”, 計装, Vol.57, No.4, 2014, pp.59-64

3) 福澤, “光ファイバ温度分布センサ活用の新提案”,計測技術,Vol. 43,No. 2,2015,p. 43-47

4) 福澤, “高度活用が広がる光ファイバ温度センサDTSXのソリューション”, 横河技報

5) 大矢,福澤, “プラント設備の火災リスク対策に適した線形熱感知器”, 計測技術,

商標:
DTSXは横河電機式会社の登録商標である。
その他、本文中に使われている会社名、製品名は横河電機株式会社、および各会社の登録商標、または商標である。



【著者紹介】
平井 剛(ひらい つよし)
横河電機株式会社
IAプロダクト&サービス事業本部 インフォメーションテクノロジーセンター
ITC営業統括部 マネージャ

■略歴
2000年 横河電機株式会社 入社。主に光半導体事業に従事。
2012年 分布型光ファイバ温度センサ事業に異動、現在に至る。