1.まえがき
圧力は物の反応系やシステムの状態を知る基本的な物理量として利用されてきた。
いわゆる戦後における日本の経済発展時、産業界における圧力計測とその情報利用は機械式圧力計(計測)から電気式の圧力計測へと発展してきた段階で圧力計測用途は爆発的に拡大した。
身近なところでは自動車、家電製品、防犯装置、警報機、スマートフォンなどが挙げられる。
また、ここ数年においてはIOT(モノのインターネット)化が加速しつつある。
例えば、工場内の機器や工場同士をネットワークにつなぐと、「監視や管理の対象となる機器のデータを収集し、状態を把握することで、システム全体を最適な制御下に置くことができる。」「収集したデータを蓄積し分析することで、新たな付加価値を得ることができる。」などのメリットが得られる。
これらのシステムはセンサの利用なしには成立できず、益々センサの有用性が増している。
本紙では、発展が著しい圧力計測用途を中心に入門編として紹介する。
また、その用途での使用される圧力センサ(圧力計)の特徴を解説する。
2.圧力センサ(圧力計)の用途分類1)
センサ使用の用途として、近年注目されている分野を考慮した分類とした。本紙特有の分類であることを承知願いたい。
2.1 FA、産業機械
2.2 空調、冷凍機、クリーンルーム
2.3 車両(自動車含む)、建設機械
2.4 産業プロセス(食品・薬品・化粧品)、水素利用関連
2.5 半導体製造用設備
2.1 FA、産業機械
この業界は工作機械、動力伝導装置、タンク、プラスチック成型機械など、非常に幅広い機械、装置、設備が存在し、この用途に使用される圧力計、センサも多種多用である。圧力計測体は空気、油類がその殆どを占めている。 この用途に使用されている主な圧力計測器を示す。
汎用的に使用される普通型圧力計(図2-1-1)が使用される。
その形状は直径10数mmから200mmが多く使用されている。
また、最大圧力値が表示できる置き針式、圧力計内に電気的接点を内蔵した接点付き圧力計、圧力表示のない圧力スイッチなども利用されている。
この他に、振動環境において耐久性を向上させたグリセリン入り圧力計を利用する場合がある。
圧力センサも一般的なものが利用される場合が多い。しかし、仕様(圧力ポート、電気的出力ポートの形状、出力信号の形態、外装ロバスト製など)が多種多様となっているため、一つの製品(型式)でも様々な仕様を選択できるように構成したセンサが販売されている。代表図としてKM31圧力トランスミッター/長野計器(株)製を示す。
尚、出力信号に加えて圧力値が表示できる 表示付き圧力センサも多く利用されている。
このセンサには設定が可変できるスイッチ機能が付加されているものもある。
また、システムをIOT化するために必要な統一出力規格「EtherNet/IP、EtherCAT、IO-Link」に対応したものやワイヤレス出力、無電源で利用できるセンサも販売されている。
図2-1-4はER31バッテリーレス圧力センサ/長野計器(株)製である。
センサ上部にスマートフォンなどを近接させると給電とセンサ出力を読み取ることができる。
生産工場などでは圧力を計測するばかりではなく、所望の圧力によって機器を検査、校正する必要がある。その用途では圧力発生器、校正器が使用される。
この装置は圧力発生と圧力計測を組み込んだ形態となっている。
校正機器として使用するので圧力計測の精度は高く、0.1%F.S.以上の精度が必要となる。
図2-1-5は高圧用途圧力校正器、図2-1-6は汎用圧力校正器である。
2.2空調、冷凍機、クリーンルーム
圧力レンジとして微圧を計測し、監視、制御することが多い分野で、空調設備や空気の流量計測の用途がある。
現在、猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のために必要な陰圧ルームの管理にも利用される。
図2-2-1は、機械式微差圧計(DG85)である。主に空調用エアフィルタの目詰まり警報を発したり、制御等に使用するほか、クリーンルーム/バイオクリーンルーム等のフィルタ、及びルーム内の圧力の監視・制御等非常に低い圧力(0~50Pa)測定に使用される。微差圧計として利用される他、流量計・微圧計として使用することもできる差圧計である。
圧力検出素子であるダイアフラムはヒステリシスの小さいシリコーンゴムを使用している。
また、図2-2-2はスイッチとして利用されるもので、作動圧力の設定は設定ツマミをまわし、設定圧力の目盛りに合わせるだけで圧力設定作業が容易である。
また、機械式圧力計に加えて、圧力センサも多く利用されている。
図2-2-3はデジタル表示付圧力センサである。
小形(24×48mmサイズ)ボディで、多彩な機能で気体の微差圧を高感度に検知できる。
その特徴は13種類の豊富な差圧レンジ、微圧(50Pa)ながら、許容最大圧力50kPa(全レンジ)と非常に高耐圧であることが特長となっている。
形状はコンパクトでも見やすい表示「文字高さ17mmの大型LCD表示(3 1/2桁)」と優れた操作性となっている。
図2-2-4は電池式デジタル表示付き微差圧センサである。
空調・ビル設備等の現場監視に適した電池式のデジタル微差圧計で、配線の必要がないため、測定箇所への設置が容易である。
外部電源のオプション対応も可能で、コンパレータ出力によるフィルタ目詰まり検出等、様々な用途にも使用できる。この用途で所望される機能は①~③である。
① 計測状況が把握し易いアナログバーグラフ表示
② 外部電源・コンパレータ出力(オプション)
③ フィルタ、ホールド、ゼロ調機能
紹介した 微圧、差圧 圧力計・圧力センサは空調、室内圧力、フィルターの健全度監視に利用され、特にウイルスなどによる実内雰囲気汚染を防ぐための管理として有効である。
図2-2-5はその利用用途を整理したものである。
計測のワイヤレス化は近年において、電気配線を用いない利点から拡大しつつある。そのメリットはワイヤレス化と電池駆動にすることで電気配線が不要となる他、離れた場所での監視が可能となるばかりか、複数台の計測システムが簡便に確立できる点にある。
図2-1-12はワイヤレス型圧力センサと、これをLAN(Local Area Network)に接続するゲートウエイを示す。また、ワイヤレス型圧力センサの特徴を列挙した。
- 無線通信方式は低消費で長距離通信が可能なLPWA (Low Power, Wide Area)
- ワイヤレス化、電池駆動により配線不要
- 最大1km離れた場所での監視が可能
- 最大200台を一括監視・管理可能
- 差圧の他に温度、湿度の測定ができる
2.3車両(自動車含む)、建設機械
この用途は殆どが電気式圧力計測(圧力センサ)が用いられ、且つ、量産(一度に大量のセンサが必要となる)特徴がある。
また、その品質要求は厳しく、自動車用ではIATF16949(自動車産業の国際的な品質マネジメントシステム規格)の取得、維持を求められる場合が多い。
自動車用ではエンジン、ステアリング、サスペンション、ブレーキなど主要な部分に圧力センサが使用されている。センサの圧力範囲は広く、低圧では、吸気圧力を計測するMAP(Manifold Absolute Pressure)センサでは100kPa程度から、高圧においては、ディーゼルコモンレール部に取り付ける燃料噴射圧力計測用の200MPaにまで達している。主な用途と圧力レンジを図2-3-1に示した。
センサ出力は自動車内の保護付電子回路(ECU)に入力されて処理されるので、考慮が必要な電気的ノイズ耐性は特定周波数とそのレベルが限定できる場合が多い。
また、計測要素として同時に温度が所望される場合があり、圧力・温度の複合センサも利用される。
図2-3-2は圧力ポートをアルミニウムとして軽量化しているエアコン冷媒圧力計測用センサである。
図2-3-3はブレーキ用圧力センサ。「センサ6台を集合化した構成で、各車輪の制動力を細かく制御できる仕組みとなっている。」
建設機械用においては、作業機の駆動に使用している油圧回路部の圧力計測(油圧ポンプ部、過負荷検出、シリンダー荷重、積載荷重)に利用されている。
この用途は屋外環境(温度、湿度(水)、電磁ノイズ、雷サージ)を考慮したセンサ構成が要求されるので、センサは堅牢な構造、且つ高い電気的ノイズ耐性を可能とするセンサ構成(測定体導入箇所は高信頼性の溶接構造、耐振構造、サージ圧力の抑制)となっている。
図2-3-4は建設機械用に特化した圧力センサである。
その内部には金属ダイアフラムと薄膜歪ゲージを用いたセンサ素子が内蔵されている。センサ素子は信頼性の高い電子ビーム溶接によって金属製圧力導入部に接合されている。図2-3-5。
建設機械用圧力センサの主な用途と圧力レンジを図2-3-6に示した。
次回に続く-
参考文献
1) 産業別計測製品 SELECTION GUIDE 長野計器株式会社カタログ
【著者紹介】
長坂 宏(ながさか ひろし)
長野計器(株)取締役
■略歴
1982年 株式会社長野計器製作所(現 長野計器株式会社)入社
圧力センサ研究・開発業務に従事
2020年 同社 営業企画本部 取締役 現職