水中における位置の計測(2)

(株)SGKシステム技研
  尾崎 俊二

3.SSBL方式音響測位

SSBLでは、一つの受信器で目標からの応答信号を受信し、伝搬時間を計測して距離を求めるとともに、到来方位や俯仰角を求める。LBLやSBLに比べて受波器配列の広がりが非常に小さいため、信号の到来方向を高精度で求めるには、受波器配列及び処理に工夫が必要である。
受波器配列の形状に焦点を当てて、3つの異なる配列のSSBLシステムを紹介する。紹介するシステムの受波器配列の外観を図1に示す。

図1 さまざまな形状のSSBL受波器配列
左から (a) 球面配列1)、(b) 4素子3次元配列2)、(c) 3素子平面配列3)

(a) 球面配列
受波素子を球面上に配列し、視野範囲に複数のビームを形成して、信号の到来俯仰角とそれに直交する方向の角度を高精度で求めている。受波器配列を球面上に置くことにより、広い角度範囲(この例では直下±100度)で均一な測位性能を持たせるようにし、かつ受波面積を広くとることで高いSNRを確保して、深海・遠距離までの測位を実現している。受波面を凸面にし、シャープなビームを形成することで、受波器相互の干渉は抑えられ、またマルチパスの影響も抑えられている。姿勢センサと連接して運用し、受波器配列の動揺の影響を補償している。

(b) 4素子3次元配列
4つの受波器を四面体の頂点に配置し、相関処理により各受波器間の到来時間差を求め、それらを連立させて、応答信号の到来方位と俯仰角を算出している。受波器配置が3次元的な広がりを持っていることにより、直下±100度の視野範囲全体でほぼ一様な測位精度を得ている。また、受波器間隔を広くとる(外径約300mm)ことで、受波器相互の干渉を抑え、高精度測角を実現している。
受波器と同じユニット内に慣性航法装置を組み入れることで、受波器配列の動揺を補償している。
(a)及び(b)とも、広帯域の符号化パルスを用いることにより、時間分解能とSNR改善とを図っており、数kmの測位距離を得ている。また、符号化により、多くのチャネルの同時運用も可能にしている。

(c) 3素子平面配列
最もシンプルな受波器配列である。3つの円板型受波器を下方の水平面にL字型に配置し、L字の各辺方向の方向余弦を相関処理により求めて、方位及び俯角を算出している。受波器を平面上に配置することで、受波器間の相互干渉を抑え、到来信号に対する条件を均一化している。上方向に対しては感度を抑圧し、直下±90度の半空間を視野範囲としている。水平面上の配列であるため、小さい俯角範囲で俯仰角精度が低下するが、トランスポンダ側に水圧センサを取付け、その情報を応答信号として受波器に送信して、深度情報として用いることで補っている。港湾等の浅海域で、海面・海底の多重反射波が大きな影響を与える条件の下では、水圧センサでの補完は有効である。
容器内には姿勢センサが組み込まれ、受波器配列の動揺を補償している。

4.海洋生物の追尾への応用

2節で触れたパッシブ音響測位の応用例として、クジラのトラッキングに応用した例を紹介する。浦等4)はマッコウクジラの発するクリック音を2組の受波器アレイで受信してそれぞれで到来方向を求め、方位線の交点によりクジラの位置を測定追尾する実験を行っている。観測システムの概念を図2に示す。

図2 マッコウクジラの観測システムの概念図4)

2隻の船から4素子受波器アレイ(1辺30cmの立方体の頂点に受波器を配置)をそれぞれ吊下し、クジラのクリック音(中心周波数約15kHz)を受信して、SSBL方式により到来方向を求める。2つの受波器アレイ間の位置関係は、GPSでの測位とともに、質問・応答用に取り付けた送受波器と合わせてアクティブのSSBL機能を構成し、音響的にも求められるようにしている。2つの受波器アレイ間距離を500m、クジラとの距離を2000mとすると、約20mの位置精度で測位ができるとのことである。
同様の技術は河イルカの生態調査などにも用いられ、国際的な共同研究が行われている。

5.おわりに

水中で対象目標の位置計測を行う手段として音響測位の概要を紹介し、受波器配列が一体であり、トランスポンダキャリブレーション等の面倒な作業が不要な方式であるSSBLに焦点を絞って説明した。例として、異なった形状の受波器配列を持つ3つのシステムを紹介したが、目的や運用環境に適したシステムを構築する必要があろう。また、対象が発する音を利用して測位を行うパッシブ音響測位の例として、クジラのクリック音による測位の例を紹介した。
海洋のエネルギー開発、資源開発や様々な調査等で、音響測位技術は音響通信技術などとも融合して、その活躍の場が広がっていくものと思われる。

参考文献

1) Kongsberg MARITIME社 USBL測位装置 HiPAP,
http://www.nipponkaiyo.co.jp/product/id:5a606e33-a428-4dfd-b6d0-7610a0108c5f/maker:9805bf55-c4ef-11e7-b11b-9ca3ba0232db

2) Gaps M7 High performance USBL positioning system
https://www.ixblue.com/sites/default/files/2020-03/Gaps-M7.pdf

3) SSBL-100CHD音響測位装置
http://www.sgktec.co.jp/pdf/location%20system/SSBL-100CHD.pdf

4) 浦環他:”2組のハイドロフォンアレイを用いたマッコウクジラの追跡観測実験” 生産研究,56(2),  157-160(2004)

【著者紹介】
尾崎 俊二(おざき しゅんじ)
株式会社SGKシステム技研

■略歴
1973年3月        京都大学工学部電気工学科卒業
1973年4月~2009年10月 沖電気工業株式会社
2009年10月~現在     株式会社SGKシステム技研

■専門分野
海洋音響、音響信号処理

■所属学会
海洋音響学会、日本音響学会、米国音響学会