IoTを牽引する広域センサネットワークLPWA の最新動向と将来展望(3)

千葉大学 名誉教授 阪田史郎

3.セルラーLPWA

3.1 4GのLPWA(LTE版LPWA)

携帯電話網の標準化を行う3GPP(ThirdGenerationPartnershipProject)は、4Gの仕様検討を2008~2014年に行い、一旦標準化を終了した。その仕様は、3Gの通信を高速化したMBB(MobileBroadBand)と呼ぶサービスのみであった。
一方で、SigfoxやLoRaが2015年からヨーロッパ中心に携帯電話網のデータ通信市場を奪い始めたため、3GPPは2015年末に4Gに関する標準化の議論を急遽再開した。スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアが中心となって4G向けのLTE版LPWAを2016年3月に規格化した。携帯電話網史上で初めて、高速化以外を目的とした仕様が規格化されたことになる。

表3.1 LTE版LPWAの仕様概要

LTE版LPWAの仕様には、より高性能のLTE-MまたはeMTC(LTE-MのMはMachine、eMTCは3GPPでの呼称でenhancedMachineTypeCommunications)と、低性能のNB-IoTの2種類がある。前者はCat.M1、後者はCat.M2またはCat.NB1(Cat.はCategory、NBはNarrowBand)と記されることもある。表3.1にLTE版LPWAの仕様の概要を示す1),2)

省電力化について、2つの仕様ではともにeDRX(extendedDiscontinuousReception)とPSM(PowerSavingMode)の2つの方式によりセンサの消費電力を抑える。eDRXは、センサのデータ着信間隔を延長する方式で、ネットワークからセンサにアクセス可能である。PSMは、センサ主導で着信確認の間隔を延ばす方式で、ネットワークからセンサにアクセスできない。
世界各国の通信事業者は、LTE版LPWA規格化直後の2016年半ばに一斉に開発に着手し、2018年初頭には、中国や北欧等においてLTE版LPWAの一部の仕様を採用したサービスを開始している。特に、4Gの普及率が低くこれまで携帯電話に関して後進国と言われてきた中国は、携帯電話網においてはより革新的な(LoRa、Sigfoxの性能、機能により近い)NB-IoTを強力に推進している。
国内では、KDDIが2018年にLTE-M(eMTC)、ソフトバンクが同年にLTE-M(eMTC)とNB-IoT、NTTドコモが2018年にLTE-M(eMTC)、2019年にNB-IoTのサービスを開始している。

(1)LTE-M(eMTC)
従来の4Gの高速通信サービス(MBB)では50RB(ResourceBlock。1RBは180kHz)を制御単位とするのに対し、LTE-M(eMTC)では6RBを制御単位として1.08MHzに狭帯域化し、繰返し送信を導入している。約1Mbpsを確保できるため、音声通信やウェアラブルデバイスなどセンサが低速度で移動するIoTサービスでの利用を想定している。既存の基地局を用いて、LTE-M(eMTC)によるIoT向けサービスとMBBを同時に提供する。通信方式の概要を図3.1に示す。

図3.1 LTE-M(eMTC)の概要

(2)NB-IoT
LTE-M(eMTC)の1/6の1RBを制御単位として180kHzに狭帯域化し、繰返し送信を導入している。スマートメータや農場、プラント、駐車場、マンホール、エレベータ・エスカレータ、自動販売機、ゴミ収集場などの決まった場所に設置されるモビリティが不要なセンサを主対象としている。通信方式の概要を図3.2に示す、ガードバンドを除く送信周波数帯域で運用するインバンドモード、送信周波数帯域のガードバンドで運用するガードバンドモード、専用帯域で運用するスタンドアロンモードの3種類の通信モードを規定している。

図3.2 NB-IoTの概要

次週に続く-

参考文献

1)S.Sakata、”EmergingLPWAasacoreofIoT-OverviewandPerspective、”Wireless TechnologyPark(WTP)、2017.5

2)阪田史郎、”LPWAの現在と未来、”MDB技術予測レポート(日本能率協会総合研究所)、2018.2

【著者略歴】

1972年早大理工電子通信卒。1974年同大学大学院理工学研究科修士卒。同年NEC(日本電気)入社。
以来、同社研究所にてインターネット、マルチメディア通信、モバイル通信の研究に従事。工学博士。
1996-2004年同社研究所所長。1997-1999年(兼)奈良先端科学技術大学院大学客員教授。
2004-2014年より千葉大学大学院教授。同大学では、ユビキタスネットワーク、IoT/LPWA、5Gネットワークの研究に従事。2014-2019年同大学グランドフェロー。
2019年より同大学名誉教授。IEEE Fellow, 電子情報通信学会フェロ―、情報処理学会フェロ―。
情報処理学会では、理事、監事歴任に加え、山下記念研究賞受賞、マルチメディア通信およびモバイル通信に関する先駆的研究に対し功績賞受賞。
電子情報通信学会では、理事、評議員(2期)歴任に加え、ユビキタスネットワークに関する先駆的研究に対し顕彰功労賞受賞。
総務省より、災害支援のための無線マルチホップネットワークに関する研究業績に対し総務省関東総合通信局長賞受賞、他受賞。
情報通信ネットワークに関する単著書4、共著書40。
http://sakatashiro.com/で詳しく紹介。