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ugo、ロボット大賞 – 優秀賞(ビジネス・社会実装部門)を受賞

ugo(株)〔ユーゴー〕が開発を手掛ける業務DXロボット「ugo」(ユーゴー)が、経済産業省(幹事)、一般社団法人日本機械工業連合会(幹事)、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省共催の第11回ロボット大賞において、優秀賞(ビジネス・社会実装部門)を受賞した。

ロボット大賞は、日本のロボット技術の発展やロボット活用の拡大等を促すため、特に優れたロボットや部品・ソフトウェア、それらの先進的な活用や研究開発、人材育成の取組みなどを表彰する制度で、今回が11回目の開催となる。

今回の受賞では、「アナログ計器の読み取りなどの機能を備え、既存設備を変更することなく従来の人間の業務を確実に代替している。ハードウェア、ソフトウェア、運用プラットフォームを自社で一貫して開発し、ユーザのニーズに応じたソリューションを提供する点で独自性がある。出荷開始から3年弱で累計出荷台数は200台を超え、2023年にはマーケットシェア1位(54%)を獲得。今後は介護現場や医療施設、通信基地局やデータセンターなどでの活用が期待されており、国内外でのさらなる展開も計画されている。」と、人の業務の代替や一貫した開発スタイルと独自性、今後の普及の可能性などを高く評価された。

●業務DXロボット「ugo」(ユーゴー)
“ugo” は、遠隔操作とAI⾃動モードのハイブリッド制御を採⽤した業務DXロボットである。
 オフィスビルや商業施設の警備用途やメーター点検を行うロボットとして、「ugo Pro」「ugo Ex」「ugo mini」の3つのモデルを提供している。「ugo Pro」は、2本のアームと表情豊かな顔ディスプレイを備えており、エレベーターの操作によるフロア移動に優れた機能を持っている。「ugo Ex」はユーザー自身によるカスタマイズが可能で、多様なセンサやカメラを追加することができる。「ugo mini」はコンパクトで機動性が高く、狭い空間での点検作業に適している。
 さらに、ロボットアームを活用したエレベーターのボタン操作や、AIを用いた障害物チェック機能を搭載しており、安全性と信頼性を高めているという。

プレスリリースサイト(ugo):https://ugo.plus/news/2024/09/11/20240911_therobotaward/

リゾートホテル宿泊客向けにスマートリングを用いて健康状態を分析する実証実験

 (株)村田製作所とリゾートトラスト(株)は、スマートリングに搭載された光学センサと村田製作所が独自に開発したアルゴリズムにより、宿泊客の末梢血行の状態を分析し、最適なパーソナルサービスを提供する実証実験を2024年9月より開始する。
 本実証実験は、「ホテルxウェルネス」をテーマとするリゾートホテルの宿泊客がスマートリングを装着することで、ホテル滞在時の血行状態を推定し、その結果から個人の状態に適したアクティビティ(SPA、エステ、ジムでの運動など)を提案することにより、リゾートに滞在しながら健康寿命の延伸を促進するための新たな価値の提供を目指して実施するもの。
 高齢化社会が進む昨今、人生100年時代をより健康に暮らすための健康寿命の延伸が重要なテーマとなっている。生活習慣の乱れから引き起こされる糖尿病、脂質異常症、高血圧症といった生活習慣病と血行・血管のコンディションは密接に関係していると言われている。村田製作所では、スマートリングに搭載した光学センサから複数の波長での光電脈波(PPG)を取得し、独自のアルゴリズムで分析することにより末梢の血行状態を推定する技術を開発したという。

■概要
期間 2024年9月末 ~ 1か月程度

場所 芦屋ベイコート倶楽部

目的 「ホテル x ウェルネス」をテーマとするリゾートでの新たな価値提供

内容 1. 光電脈波と独自アルゴリズムによる血行状態の把握
   2. パーソナライズサービスの提供による血行状態の改善を目指すアクティビティの提案のための試験的運用

役割 ・村田製作所:リングデバイス(光学センサ)、分析アルゴリズム、モバイルアプリケーションの提供
   ・リゾートトラスト:宿泊施設、アクティビティの運営

プレスリリースサイト(murata):
https://corporate.murata.com/ja-jp/newsroom/news/company/general/2024/0910

行動認識AIをベースとした警備システム『AI Security asilla』の本格運用

 (株)アジラと(株)アール・エス・シー(以下「RSC」)は、RSCが警備業務等を受託している大型複合施設「サンシャインシティ」において、 2023年11月9日よりAI警備システム『AI Security asilla(以下asilla)』を導入し、実証実験を実施してきたが、この度2024年9月5日より、サンシャインシティ各エリア(サンシャイン60ビル、専門店街アルパ、ワールドインポートマートビル、文化会館ビル、サンシャインシティプリンスホテル)で『asilla』の本番運用を開始した。

 池袋のランドマークである「サンシャインシティ」では、観光やショッピング、ビジネスなどを目的とした年間3千万人を超える多くの人々が出入りする中、常に安心・安全に利用できる環境作りを推進し、警備体制を強化している。行動認識AIを使用した『asilla』は、防犯カメラの映像から、瞬時に人の行動を解析し通知を行うため、不審行動の早期発見や転倒事故など起こりうる様々な危険への迅速な対応を可能にすることで警備業務の質的向上と効率化に大きく貢献するという。

『asilla』の特徴
・特許取得の「違和感検知」で事件事故の予兆検知
 各カメラにおける行動をAIが自律学習し、通常から逸脱した動きを「違和感」として検知。予期しない危険行動を即時通知することで、事件事故の未然防止に繋げる。

・AIの眼で24時間365日モニタリング
 数百台規模のカメラ映像もAIが常に映像をモニタリング。異常が起きた際には自動で検知、即時通知し、人の眼だけでは捉えきれない些細な動きも見逃さない。

・既設カメラを利用可能、サーバー1台で最大50台分の映像を処理
 既設のカメラがそのまま利用可能。初期コストの負担がゼロ。エンタープライズプランでは、サーバー1台で最大50台分のカメラ映像を解析でき、大規模な施設では運用コストも安価。

・セキュアな環境で利用可能
 ローカルで完結するネットワーク構成により外部へ映像流出するリスクが無い。

※AI警備システム『asilla』は、今後もさらなるアップデートを予定している。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000269.000043312.html

ポータブル振動校正器用ソフトウェア「9140D」

(株)東陽テクニカは、ポータブル振動校正器用ソフトウェア「9140D」を2024年9月5日に販売開始した。本製品は、米国The Modal Shop社が新たに開発したもので、既存のポータブル振動校正器「9110D」と組み合わせることで、加速度計や速度計などの振動センサの校正作業を完全自動化でき、校正にかかる時間が最短1分と、作業工数の削減に寄与するという。

【 背景/概要 】
 近年、自動車、産業用装置、エネルギー分野において、製品の信頼性・快適性評価、設備の状態監視など、振動計測の需要が急速に高まっている。振動計測に使われる加速度計や速度計などの振動センサは、計測の信頼性を確保するため、センサの品質も厳重に管理することが規格などで求められている。振動計測の需要が高まるにつれセンサの品質管理が複雑化し、実際に振動計測を行う現場ではセンサの校正作業を簡便かつ迅速に実施することが課題となっている。
 一般的に、加速度計や速度計などの振動センサは、複数の周波数ポイントで加振して校正を行う。今回発売したソフトウェア「9140D」は、ポータブル振動校正器「9110D」をPCから制御できるようになり、あらかじめ定義された周波数ポイントでの校正を自動で実行することが可能である。これにより、周波数校正の作業が最短1分で完了し、振動計測の現場におけるセンサの校正作業をさらに効率化する。また、ISO 17025に準拠した書式の校正証明書も発行できるため、校正データの一元管理も容易になるという。

【 主な特長 】
➢USBケーブルでPCに接続、ポータブル型振動校正器「9110D」をPCから制御
➢ソフトウェア上で校正証明書(ISO 17025に準拠した書式)の発行も可能
➢ ICP®(IEPE)型、電荷出力型、差動出力型、ピエゾ抵抗型、静電容量型のセンサに対応
➢大容量バッテリー内蔵(最大18 時間動作)

【 主な用途 】
センサの定期メンテナンス/現場での動作確認/試験前後の即時検証/任意周波数、振動レベルでの動作確認、など

【 製品データ 】
・製品名:ポータブル振動校正器用ソフトウェア「9140D」
・販売開始日:2024年9月5日
・価格:要見積り
・製品ページ:https://www.toyo.co.jp/mecha/products/detail/themodalshop-9140d.html

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000144.000075068.html

TIS、「RoboticBase」にホテル向けロボット活用テンプレートを追加

TIS(株)は、TISのマルチロボットプラットフォーム「RoboticBase®」に、ホテル向けロボット活用テンプレートを9月4日より追加することを発表した。

 TISが提供する「RoboticBase」は、サービスロボットをインテグレーションするための統合管理機能を提供するプラットフォーム。運搬、清掃、案内、警備など種類の違うサービスロボットやセンサ、カメラ、サイネージなどのIoTデバイスを統合管理する基本機能を備え、施設管理や企業システム、外部データとの連携などを容易にすることで、サービスロボット利用の利便性を向上させ、活用普及およびイノベーションの加速を実現する。

 今回公開するホテル向けロボット活用テンプレートは、ホテル内の清掃やレストランでの配膳・下膳、ルームサービスの配送といった業務を行う複数台のロボットを統合管理し、運用計画の策定や運用状況のモニタリングなどを行う。

背景
 国土交通省が公表している宿泊旅行統計調査によると、2023年の延べ宿泊者数は前年比37.1%増の6億1,747万人、外国人宿泊者数は前年比613.5%増の1億1,775万人と、コロナ禍を経て再び国内宿泊客やインバウンド需要が急増している※1。一方、ホテル業界では労働環境や離職率の高さから人手不足が深刻な課題となっており、その改善策の一つとして業務のDX化による生産性向上の取り組みが挙げられる。
 そこでTISは、ホテル内で活用するサービスロボットを統合管理し、業務の自動化・効率化を短期間・低コストで実現するホテル向けロボット活用テンプレートの提供を開始する。
※1 国土交通省「宿泊旅行統計調査」:https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001751245.pdf

概要
 ホテル内で稼働する清掃ロボット、配膳・下膳ロボット、配送ロボットを統合管理するためのサービスである。各ロボットの運用計画の策定、運用状況のモニタリング、アラートの管理等を行う。TISオフィスで運用中のロボットのほか、様々な企業で導入・運用中のロボットによる配送、清掃、配膳・下膳業務をもとにノウハウを集約したテンプレート。
<特長>
・清掃ロボット
■ ロビー、エレベータホール、客室廊下等のパブリックスペース(共用部)を清掃
■ ロボットによる清掃計画を登録、計画通りに効率よく清掃を実施し、結果をレポート

・配送ロボット
■ 宿泊客からのアメニティグッズ等のルームサービス依頼に対応し、ロボットが客室まで配送
■ 客室内線とも連動し、配送ロボットの到着を宿泊客へお知らせ

・配膳・下膳ロボット
■ レストランやカフェで、ロボットが指定されたルートを巡回して、スタッフの配膳・下膳業務を支援

・ロボット稼働状況のモニタリング
■ 各業務管理者のための機能として、各ロボットの稼働状況をモニタリング
■ ロボットへの業務指示や、ロボットに異常があった場合に速やかに対処可能

・ロボットの活動エリアの拡張
■ ロボットを導入するホテル環境によって、エレベータ乗降、自動ドア、セキュリティゲートの通過等、ホテル設備とロボットとの連携にも柔軟に対応

・ロボット業務の拡張
■ 各ロボットの稼働状況は一元管理され、どこからでも確認可能。清掃、配送、配膳・下膳業務のほか、案内や警備等の様々なサービスロボットを接続し、将来の有効活用の幅を拡張

メリット
「RoboticBase」のホテル向けロボット活用テンプレートの利用により期待できるメリットは以下の通り。

・短期間・低コストでのサービスロボット導入
 従来サービスロボットの導入に必要なシステム構築と比較して、期間・コストともに約30~50%の効率化が可能

・ロボットメーカを問わず活用可能
 国内外のあらゆるメーカが製造するサービスロボットに対応※2

・ホスピタリティ向上
 清掃や配送、配膳・下膳業務などへのサービスロボット活用により、スタッフの業務負担が軽減され接客に集中できるようになり、ホスピタリティの向上に寄与

・機会損失回避
 ロボットによるスタッフの業務代替により、スタッフ不足による稼働率低下を防ぎ、機会損失を回避

・サービスロボットの豊富な運用実績とノウハウ
 ロボットの普及活動をリーディングし、数多くのシステム構築運用実績を持つTISが高品質で安定したサービスを提供
詳細は以下をご参照。
https://www.tis.jp/service_solution/dxrb/hotel_template/

※2 ロボットメーカ側の方針等により、一部のロボットは対応できない場合あり。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001624.000011650.html

超小型で高感度かつ低ノイズ、プリポラライズドICP®1/4マイクロホン「378A08」

(株)東陽テクニカは、米国PCB Piezotronics社製のプリポラライズドICP®1/4マイクロホン「378A08」を2024年9月4日に販売開始した。
 本製品は、全長80mmと超小型サイズでありながら、最大50mV/Paと高感度かつ低ノイズを実現したマイクロホンである。EV(電気自動車)特有の高周波で微小な音を耳位置で高精度に計測でき、電動コンポーネント付近の狭い箇所に設置して計測することも可能とのこと。


【 背景/概要 】
 自動車開発において、快適性の向上における課題の一つとして低騒音化が挙げられる。近年開発が進むEV(電気自動車)においては、従来の主たる騒音源であったエンジン音がなくなったことで、各コンポーネントの騒音が相対的に目立つようになっている。特にインバータやモータなどの電動コンポーネントから発生する騒音は、微小ではあるものの高い周波数で人間にとっては非常に不快な音とされており、騒音対策が求められている。この高周波の音は波長が短いため、位置が数cmずれただけでも位相が変わり音圧に大きく影響する。また、高周波になればなるほどマイクロホン自体の存在によって音場が乱されやすく、さらに車室内では音の反射が生じさまざまな方向から高周波の音が入射するため、本来の状態とは異なる音を計測してしまう懸念もある。こういった状況から、車室内の耳位置での音の評価は非常に難しいとされていた。
 今回発売した「378A08」は、全長でおよそ80mmと非常に小型でありながら、50mV/Paの高感度を実現しており、高周波で微小な音でも高精度に測定が可能である。また、数cm間隔で変動する高周波音を計測するためにマイクロホンを近接して複数点に配置する場合であっても、小型であるため音場の乱れを最小限に抑制することができる。さらに、高周波の領域でも無指向性であるため、車室内のさまざまな方向から高周波の反射音が入射する場合でも高精度な計測が可能であるという。

【 主な特長 】
➢ICP®(アンプ内蔵型)
➢小型サイズ(全長80mm)で高感度(50mV/Pa)、低ノイズ(25dBA未満)を実現
➢1kHz以上の高周波でも無指向性
➢高周波20kHzまで計測可能(±2dB)

< 主な用途 >
➢EV車両キャビンノイズ計測、電動コンポーネント音響計測

【 製品データ 】
製品名:プリポラライズドICP®1/4マイクロホン「378A08」
販売開始日:2024年9月4日
価格:要見積もり
製品ページ: https://www.toyo.co.jp/mecha/products/detail/pcb-mic-378a08.html

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000143.000075068.html

SIPスマートインフラの概要(1)

岩波 光保(いわなみ みつやす)
東京工業大学
教授
岩波 光保

1.はじめに

 2023年度より、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第3期が5年計画で開始されたが、本稿では、全14課題のうち、「スマートインフラマネジメントシステムの構築」について概要を述べる。
 我が国のインフラの整備・維持管理には古代からの長い歴史があり、それぞれの時代の社会情勢や国と地方、官と民との関係に応じて計画的に実施されてきた。その結果、インフラの存在が長期にわたって我が国の経済活動を活性化させ、人々の生活を豊かにしてきたことは歴然とした事実である。インフラの整備・維持管理は、このような歴史的な変遷を踏まえつつ、時代の要請に応じて最も効率的・効果的なマネジメントを模索していくことが求められる。
 一方で我が国では、人口減少社会への移行や経済のグローバル化の進展、厳しい財政状況、気候変動に伴って新たに生じてきた災害リスク等、インフラを取り巻く経済社会情勢が大きく変化している。このような変化を我が国は過去に経験したことがないため、これまでの対応では太刀打ちできず、斬新かつ画期的な取組みが求められている。
 さらに、政府全体としては、新しい時代「Society 5.0」を目指しているが、この中で、「未来のまち」では、インフラが産業基盤や生活基盤として重要な役割を担うこと、インフラが健全に機能していること、災害に対して強靭であることなどが強く求められており、インフラが新たな社会「Society 5.0」を支える不可欠な構成要素となっている。このように、新しい時代に移ったとしても、インフラは、国土を守り、経済基盤を支え、快適な生活を維持するものとして、その重要性は変わらないものとなっている。
 SIP課題「スマートインフラマネジメントシステムの構築」では、目指す将来像を「未来のまち」の基盤となる「未来のインフラ(スマートなインフラ)」として、「インフラの老朽化が進む中で、デジタルデータにより設計から施工、点検、補修まで一体的な管理を行い、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを推進するシステムを構築する」 ことをミッションとして研究開発が進められている。

2.現状の課題

 インフラの整備は、長い歴史の中で各時代の要請に応じて着実に行われてきたことから、その整備プロセスや業界のしくみ等は最適化されてきている。それらが質の高いインフラを提供する日本の強みである一方、大きな環境変化に決して強いとは言えない。また、既存インフラの多くが、高度経済成長期に造られており、今後急速に老朽化することが懸念されている。さらに、インフラの新規整備が中心であった時代には、研究開発、技術基準策定、標準化等が同時並行で行われた結果、社会実装は比較的順調に進んだものの、既存インフラへの対策にシフトした現代においては、新技術の導入に技術基準や制度が十分に追いついていないという問題も露呈している。このような状況の下での建設現場、建設業界、インフラに関する主な課題を以下に示す。

① 建設現場の労働力不足が深刻
 少子高齢化社会を迎え、今後、明らかに労働力が不足することを考えれば、建設現場の生産性向上は、避けることのできない課題である。しかしながら、バブル経済崩壊後の投資の減少局面では、建設投資の減少が建設労働者の減少をさらに上回って、ほぼ一貫して労働力過剰となったため、省力化につながる建設現場の生産性向上が見送られてきた。
 現在、建設現場で働いている技能労働者約302万人(2022年時点)のうち、60歳以上の技能者は全体の約1/4を占めており、年齢60歳以上の人員が建設現場を支えることによって我が国の建設現場は成り立っている。したがって、これらの人員の多くが離職すると予想される10年後には、現在と同水準の生産性では建設現場は成り立たない。

② 深刻化するインフラの老朽化
 我が国では高度経済成長期に集中的にインフラが整備されたことから、今後、高齢化インフラの割合が加速度的に増加していく。2033年には道路橋の約63%、河川管理施設(水門等)の約62%、港湾岸壁の約58%が建設後50年以上となる見通しである。施設の老朽化の状況は立地環境や維持管理の状況等によって異なるが、建設後概ね50年以上経過すると、適切な維持管理がなされていないものは物理的に劣化していくと言われている。
 笹子トンネル天井板落下事故(2012年12月)を契機として全国のインフラのメンテナンスに関する機運が高まり、5年に一度の定期点検が道路構造物等を対象に実施されることとなった。2014~2018年度の間に、全国ほぼすべての道路橋と道路トンネルが同一基準で点検された。その結果、橋梁の1割程度、トンネルの4割程度がⅢ(早期措置段階)あるいはⅣ(緊急措置段階)判定とされ、速やかな修繕が求められている。

③ データの流通や活用に向けたデータ変換・データ統合技術が必要
 インフラ分野及びそれに関係する様々な分野において高精細なデジタルツイン構築が進んでおり、都市空間等のインフラでは様々なデータが日々蓄積されている。しかし、古くに整備された既設構造物では、資料そのものが残っていない、残っている場合も紙媒体の資料しかないことが多い。
 そのため、既存のデータを活用する場合はまずデータ規格等の観点から活用可能なデータを探索し、当該データの格納場所からデータを取得する必要があったり、それぞれのシステムにおいてデータの取得・蓄積・利活用・更新・流通のルールが異なり、データ連携が困難だったりするなど、データの流通や活用が十分でなく効果的な活用がされていない。

④ 魅力的な国土・都市・地域づくりにおけるインフラの必要性
 国土・都市・地域空間とそこで展開される様々な社会経済活動を支えるインフラは多様な機能や役割を有している。Society 5.0の社会の実現に向けては、防災・減災、長寿命化、脱炭素、生物多様性保全、美観・景観、バリアフリーなどの国土強靭化に繋がる貢献とともに、well-being、ダイバーシティ、社会的包摂性などの時代の変化に伴う社会ニーズにも応えられる魅力的なインフラ(スマートインフラ)を構築し、魅力的な国土・都市・地域づくりを行っていくことが求められている。

⑤ インフラ分野における総合知の活用
 インフラは国の社会経済活動を支える基盤であり、限られたリソースの中でインフラの整備・維持管理を計画的かつ効率的に行ってその機能を継続的に維持向上していく取組みが必要である。それにより、インフラを活用する様々な分野、例えば、医療、モビリティ、エネルギー、防災などの分野が発展・高度化し、持続可能な国土・都市・地域が創出される。
 そのような中、国はインフラの整備・維持管理にICTを積極的に活用し、建設現場の一層の生産性向上を図る取組みを開始しているが、今後は人文・社会科学の厚みのある「知」の蓄積を図るとともに、自然科学の「知」との融合による人間や社会の総合的理解と課題解決に資する「総合知」の創出と活用が期待されている。



次回に続く-





【著者紹介】
岩波 光保(いわなみ みつやす)
東京工業大学教授

■略歴

  • 1999年運輸省入省(港湾技術研究所構造部構造強度研究室研究官)
  • 2002年独立行政法人港湾空港技術研究所地盤・構造部主任研究官
  • 2004年英国Imperial College客員研究員
  • 2008年同 構造・材料研究チームリーダー
  • 2012年同 構造研究領域長
  • 2013年東京工業大学教授
  • 現在に至る

インフラマネジメント、海洋構造工学に関する研究に従事。2023年より、SIP課題「スマートインフラマネジメントシステムの構築」のサブプログラムディレクターを務める。2015年、2024年土木学会論文賞、2006年、2012年土木学会吉田賞【論文部門】、2009年、2019年、2021年日本港湾協会論文賞受賞。

光ファイバセンシング技術が拓くインフラの防災と未来(1)

川端 淳一(かわばた じゅんいち)
鹿島建設(株)土木管理本部
技術管理部長
川端 淳一

1. はじめに

 日本のインフラは高度成長期の1960年代以降の20~30年間に急激に整備されたものが多い。したがって耐用年数ともいわれる建設後50年に達するインフラの割合は今後急速に増加し,2020年~2040年の20年間に橋梁(70万余)は22%から73%,トンネル(1万余)は10%から53%に増加する。すなわち今後15年間で日本のインフラは急速に劣化していく1)。一方,自然災害の激甚化に対する懸念が目に見える形で進行している。例えば2),今後30年以内の南海トラフ地震(マグニチュード8~9クラス)の発生確率は70~80%,相模トラフ沿いのプレートの沈み込みに伴うマグニチュード7程度の地震の発生確率は70%程度(2022年1月1日基準)とされ,大地震発生時の対応,特に重要インフラ復旧のシナリオ(BCP)の整備の必要性が叫ばれている。また,短時間降雨量が増加し土砂災害や洪水被害も毎年発生している2)
 さて,インフラを取り巻くこのような現状に対して様々な社会的課題が指摘されている。インフラ維持管理関連予算の不足,生産年齢人口の急速な減少,専門技術者の不足,先端技術の活用による点検の生産性の向上等々である。これらのうち「先端技術による維持管理の生産性向上」に関して新技術による成果創出が大きなニーズとなっている。先端技術を活用した生産性向上が実現すれば,人手不足に対応できるだけでなく,先端的なセンサ技術等からこれまでにない新しい情報がタイムリーに得られるはずである。これによりインフラの維持管理や運用方法の進化,ひいてはインフラの付加価値の向上が期待でき,関連産業の活性化といった相乗効果も期待できる。インフラは“老朽化するもの”というイメージが強いが,発展的に再整備しながら進化させていくべきものであり,新技術の活用を含めたインフラの再構築が求められる。
 分布型光ファイバモニタリング技術は,まさにそうした先端技術の一つとして位置づけられるものであり,技術展開されればインフラの維持管理や運用の方法をゲームチェンジし一新させる可能性を秘めている。技術の大きな特長としては,分布計測で網羅的に構造物の状況を捉え劣化箇所を見逃さない,通信用光ファイバがセンサであり電気計測に比し寿命が長く安定している,通信用光ファイバと繋げるため拡張性が大きい等が挙げられる。光ファイバのインフラモニタリングに対する親和性が非常に高いことは以前より知られていたが,実用性の観点から精度,速度が追い付かず普及が進んでいなかった。しかし,今般のDX革命を背景とした技術革新が進んでおり実用に耐えうる性能を発揮できるようになった。一方,日本の通信用光ファイバは,高速道路,国道,鉄道,一級河川堤防内を縦横無尽に走っており,光ファイバ通信網の世帯カバー率も99.8%を越える等,世界有数の通信ネットワークが構築されている。これらとインフラモニタリング用の光ファイバを相互に接続できれば,センシングはネットワーク化され,遠隔地からインフラを監視することが可能となる。また,最後に述べるように光ファイバセンシングはインフラの維持管理のみならず,インフラ運用にも活用が可能であり,今後大幅な進化が期待できる。

インフラに設置した光ファイバと既存の光ファイバ通信網を活用したインフラセンシングネットワークのイメージ
インフラに設置した光ファイバと既存の光ファイバ通信網を活用したインフラセンシングネットワークのイメージ

2.分布型光ファイバモニタリングとは

1.1. インフラセンサとしての意義と構成

 光ファイバセンサは小型軽量で,電磁気ノイズの影響を受けない,長距離伝送が可能,錆びずに長寿命(数十年以上)などの多くの特長を有する。なかでも,“分布型“光ファイバセンサは,光ファイバそのものがセンサとして機能するため,光ファイバ全長に沿って「ひずみ」,「温度」,「振動」などの情報を分布で得ることができ,通信用光ファイバと直接繋ぐことも可能である。「ひずみ」は構造物の設計に使われる基本パラメータであり,構造物の状態が建設直後から変化がないかどうかの指針として本質的なものである。すなわち,それを網羅的に捉えられるということは,構造物の劣化状況や地震等災害直後の状況の確認を行う上で決定的な情報を把握することとなる。また,「温度」や「振動」もインフラには非常に重要なパラメータであり,例えば道路等の構造物がどのような環境にさらされているか等の情報を,光ファイバを敷設した全線分布で知ることができるようになる。
 センシング技術の基本的な構成は非常に単純であり,光ファイバの片端を測定器に接続するだけである。測定器から入射されたパルス光が伝播するとともに,光ファイバ内ではわずかな散乱光が発生し,その一部が入射端に帰還する。散乱光が帰還するまでの時間から位置を,散乱光の信号を分析することでその位置で生じたひずみや温度を得ることができる。

光ファイバセンサの構成
光ファイバセンサの構成

1.2. 優れた特長と基盤技術

 光ファイバ内で生じる散乱光には三種類あることが知られており,ラマン散乱は温度の影響を受けることから火災検知などで広く展開されている。ブリルアン散乱は温度とひずみの影響を受けることから,インフラ分野における構造モニタリングなどでも一部で適用が進んでいた。近年,レイリー散乱を用いた温度とひずみ計測技術が具現化された。ブリルアン散乱を用いた計測技術では,計測レンジは大きいものの計測精度や計測時間の点で課題があったが,レイリー散乱を用いた新たな計測技術では,非常に高速・高精度での分布計測を実現できる。光ファイバセンサの特長は,こうした様々な計測技術を一本の同じ光ファイバで実現できることであり,新たな技術の出現によって僅かな変化から大きな変化までカバーできるようになり,技術的な足枷がほぼなくなってきており,インフラ分野における展開が急速に広がっている3)
 インフラモニタリングで重要なことのひとつは,光ファイバをいかに対象物へ設置するかである。各計測技術の特長を十分発揮できるように,対象と光ファイバを一体化させる必要がある。計測対象に生じる挙動を考慮したうえで,適切な光ケーブルを選択し,光ファイバの伝送損失がないよう光ケーブルを設置することが重要であり,弊社ではそうした技術の標準化を進めている。

様々な光ケーブル
様々な光ケーブル

2. インフラモニタリングにおける活用事例

2.1. トンネル(支保,盤ぶくれ,既設トンネルのひび割れ)

 インフラ構造物の維持管理は近接目視による定期点検がその基本であり,それに基づき部材の変状などを把握したうえで,診断,措置が施されることとなる。最近のトンネルの維持管理で問題となっているのは建設後の地盤の圧力や変状に起因する底盤部の盤ぶくれの変状である。トンネルの点検は5年間隔で行われ,目視可能な変状しかとらえることができないが,盤ぶくれによる変状は交通機能を損なう可能性があり,特にわが国のように山が多く,地形が複雑な国では,早目にこうした変状を捉えることが重要である。光ファイバセンサは小型軽量で,支保や覆工,インバートなどへの設置や埋込みが容易であり,これまで様々なトンネル現場での光ファイバセンサ設置を通じて,その適用性を検証してきた4)。特に,部材に沿った網羅的な情報が得られるため,これまでのポイント型によるモニタリングと比較して,ひずみが最大値となる箇所も見逃すことがない。また,設置した箇所から光ケーブルを延伸しておけば,いつでも道路規制することなく高頻度な常時モニタリングが可能となる。長寿命な光ファイバを活用して客観的なデータ取得を長期的に実現できるため,徐々に生じるような変状に対しても有効である。

光ファイバによるトンネルの監視とモニタリング結果例
光ファイバによるトンネルの監視とモニタリング結果例

2.2. 橋梁

 橋梁の維持管理の定期点検において,コンクリート床版や橋脚などの点検項目において表面のひび割れ点検は重要な項目である。ひび割れはコンクリートの美観を損ねるだけでなく,水や酸素などの劣化因子が侵入して耐久性を低下させたり,ひび割れが進展すると構造的な強度を低下させる原因にもなりかねない。そこで,ひび割れ幅が0.2mm以上の場合には記録とともに原因や注入などの補修の検討が必要とされている。橋梁はその構造上,交通規制をかけながら高所作業車や特殊な橋梁作業車によって近接目視点検されている。最近では,ドローンによって得られる高解像な画像が点検の効率化に寄与しているが,ひび割れ点検を見逃しなく網羅的,定量的に捉えられる技術があれば,維持管理はもちろん,震災後などにおいての道路啓開判断にも有効なものとなる。
 下記の写真はPC橋梁の主桁部に全長光ファイバセンサを固定して,そのひび割れの有無を長期的にモニタリングしている事例である。コンクリートのひび割れ発生位置を予め特定することは困難であるが,最新の分布型光ファイバセンサによれば,非常に微小なひび割れの有無や箇所,その幅,進展をリアルタイムで捉えることができる。当該橋梁においては,供用後15年間の定期的なモニタリングを通じて,少なくとも20ミクロン幅以上のひび割れが生じていないことを確認している5)。光ファイバケーブルの端部は橋脚部の端子箱に収納されており,道路占有などは不要で,簡単にいつでも迅速にひび割れモニタリングを実施することが可能となっている。

光ファイバによる橋梁の監視
光ファイバによる橋梁の監視

2.3. 法面

 近年頻発する豪雨災害において,生命や財産を守るという観点から,法面面監視の重要性は非常に高い。ゲリラ豪雨は予測がむつかしいことから,崩壊などの余長を早期に把握し,のり面災害発生のリスク低減が求められている。人々の生命や財産を守るうえでも,また交通などのインフラの機能維持などの点からも重要である。グラウンドアンカーは,広く普及しているのり面補強工のひとつで,地盤内のアンカー体の張力をテンドンと呼ばれる緊張材を通じて地表面を固定している。地すべりを抑止するためには,テンドンに加わる緊張力の管理が大切である。地表面付近の緊張力の確認には特殊な試験装置を用いて,現場に足場を築いての計測が必要で手間がかかる他,地表面付近の緊張力だけから変動要因まで把握することは不可能である。スマートストランド®は,光ファイバを組み込んだPCケーブルであり,グラウンドアンカーに適用すれば,その全長にわたる緊張力を常時把握できる。そのため,緊張力の変動,地盤内の変動箇所や地盤に起因する原因推定ができ,対策工や緊急対応時に活用することができる。地すべりが生じているのであれば,当該アンカーを再緊張すれば良いが,アンカー体の引抜き抵抗力が低下しているのであれば,アンカーの追加設置が必要である。これまでに,設置後5年を越える実績を重ねるとともに,高速道路近傍ののり面でも適用と実証を進めている6)。豪雨時にも,遠隔から安全にのり面状況を監視可能で,設計値などとの比較をもとにその安全性を評価できる技術である。

光ファイバによるのり面の監視
光ファイバによるのり面の監視

2.4. 空港(羽田空港)

 羽田空港4本目のD滑走路は,2010年に供用が開始されたが,その構造は,埋立部,多摩川河口域の桟橋部,そのあいだを結ぶ接続部と連絡誘導路部の4つに大別される。埋立部では,空港基盤として世界で初めてジャケット構造(鋼管杭と鋼桁)が採用された。施工当時,将来的な構造監視を想定して光ファイバセンサがジャケット構造の一部に設置されている。特に,地震などにおける杭損傷の有無を早期に把握することは,わが国の経済活動を支える重要な社会交通基盤の観点から極めて重要である。

光ファイバによる空港設備の監視
光ファイバによる空港設備の監視

以前に行われていたブリルアン散乱のみによるひずみ分布計測の精度では,鋼管杭の構造評価を行うことは難しかった。そこで,同じ光ファイバを用いて,レイリー散乱も含めたひずみ分布計測を適用,検証した結果,ひずみゲージと同等の精度で鋼管杭の挙動を把握できることを確認した。海中の劣悪環境下においても,わずかな変状を見逃すことなく監視できる手段としての実用性が証明できた7)。現在,実際の監視業務のなかへ実装できるような評価方法やシステム化の検討を進めている。



次回に続く-



参考文献

  1. 国交省 社会資本老朽化対策情報ポータルサイト インフラメンテナンス情報 – 社会資本の老朽化対策情報
  2. 防災白書 令和5 年 特集1 第2 章 第1 節 自然災害の激甚化・頻発化等 : 防災情報のページ – 内閣府
  3. 今井道男,川端淳一,平陽兵,永谷英基(2022),革新的光ファイバセンサによるインフラモニタリング~ 高速・高精度な分布型光ファイバ計測のインフラへの活用~,電子情報通信学会技術研究報告,121(332),17-20.
  4. 石井雅子,黒川紗季,野中隼人,宮嶋保幸,今井道男,川端淳一(2021)光ファイバによるインバートの計測管理技術,トンネル工学研究発表会講演集,31,1-6.
  5. 小泉恵介,藤原航太郎,今井道男,平陽兵,川端淳一,太田伸之,早坂洋太,髙梨大介(2023),光ファイバセンサによる UFC 製橋梁主桁の 15 年次計測,令和 5 年度土木学会全国大会第 78 回年次学術講演会,CS11-63.
  6. 今泉尚也,永田政司,杉本伸,青木楓,栗原健吾,曽我部直樹,今井道男,江上眞,高梨大介(2023),高速道路切土のり面のグラウンドアンカーへの光ファイバ張力計測システムの適用,令和5 年度土木学会全国大会第78 回年次学術講演会,VI-1146.
  7. 樽谷早智子,新原雄二,新井崇裕,今井道男,野津厚,小濱英司,大矢陽介,山路徹(2024),羽田空港D滑走路における光ファイバ計測の維持管理への適用検討,第49 回海洋開発シンポジウム.


【著者紹介】
川端 淳一(かわばた じゅんいち)
鹿島建設(株)土木管理本部 技術管理部長

■略歴

  • 1986年早稲田大学 大学院 建設工学修士卒
  • 1992年筑波大学 工学研究科 工学博士
  • 1992年鹿島建設㈱ 技術研究所
  • 1999年~2000年英国 ケンブリッジ大学 工学部 派遣研究員
  • 2005年~2006年鹿島建設㈱ 名古屋支店 現場勤務
  • 2018年~鹿島建設㈱ 本社 土木管理本部

水中を見える化する水中光無線技術 ~水中LiDAR,水中光ワイヤレス通信~
Underwater optical wireless technologies for ocean and underwater visualization ~ Underwater Fusion Sensor and underwater optical wireless communication technology ~(1)

鈴木 謙一(すずき けんいち)
(株)トリマティス 代表取締役
鈴木 謙一

1.はじめに

 日本を取り巻く広大な海洋およびその資源の有効活用,老朽化する水中インフラや新たな水中インフラの効率的な点検のためには,海中の詳細データの取得が不可欠であり,水中へのICT/IoT技術の積極的な導入が期待されている1,2).しかし現状では研究機関用の水中技術が主体である.ところで水中では地上で広く使われている電波が使えないことから,水中での伝搬損失の小さい音波が広く使われてきた.一方,音波は水中での伝搬損失が小さく到達性に優れているが電波に比べて扱える情報量が少ない欠点がある.そこで,水中での損失が小さい可視光を使った水中光無線技術の適用を検討し,既存の水中技術と併用することにより水中を見える化する大容量ネットワークの実現を目指す2,3)

図1 水中(海中)での音波,電波,および光の損失
図1 水中(海中)での音波,電波,および光の損失

 水中(海中)での音波,電波,および光の損失を図1に示す.図に示す様に,水中での電磁波,音波の損失は周波数が高くなるほど大きくなる.一方光については,可視光領域,特に青色から緑色(浅海や濁度が高いところでは黄色)で損失が小さくなることが知られている.また深海では、青~緑色の光が低損失,近海・沿岸、浅海・湾内と濁度が高くなると緑から黄色へと低損失波長が(さらに汚くなると赤が低損失波長に)シフトする.
 次に水中で利用可能な光デバイスについて述べる.青色光源としては,変調帯域がGHz程度以下と狭いが,高出力で,低コストなGaN-LDが普及している.また緑色光源としても期待されている.LD以外にも,ファイバーレーザー,固体レーザーや波長変換による緑色光源が入手可能である.黄色光源としては,固体レーザーや波長変換による研究開発が行われている.受光素子としては,可視光に感度があり高速なSi-APDや,さらに高感度なMPPC(Multi-pixel Photon Counter),PMT(Photo Multiplier Tube)の利用が期待されている2)

2.水中LiDAR

2.1 水中LiDARの開発状況

 トリマティスの開発するLiDAR(Light Detection and ranging)は,計測対象物にパルス化したレーザー光を照射し,その反射光が戻ってくるまでの時間から対象物までの距離を計測するToF(Time of Flight)LiDARがベースである.またレーザー光で縦横にスキャンすることで“ものの大きさ”を正確に測定することが可能である.
 トリマティスでは,電波に比べて水中での損失が小さく,音波に比べて扱える情報量の多い可視光を使った水中LiDARの開発を行っている2).これまでの水中LiDARの開発状況を図2に示す.

図2 水中LiDARの開発状況
図2 水中LiDARの開発状況

 初期に開発した水中LiDARは,直径φ200mm×全長L440mm(約16.6リットル)と大きく,計測もガルバノスキャナを用いて時間をかけて行うものであったが,開発した水中LiDARを使って水中実験を繰り返すことにより課題の抽出と解決を図った.実装の改善,パルスエッジ検出精度の改善,およびMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)による高速スキャナの採用などにより,小型・高精細で高速スキャン可能な水中LiDARを実現した.これによりφ150mm×L300mm(約6.6リットル)のサイズダウン,スキャン速度20フレーム/s,最大計測点数120万ポイント/sの高速スキャンを実現した.

2.2 水中LiDARによる計測例

 実際に泳いでいる魚を水中LiDARで計測した結果を図3に示す.図に示す様に,スキャン速度の向上により動いている計測対象物をリアルタイムに計測することが可能となっている.また測定対象物(魚の模型)を側面から計測し,視点を変えて3D表示した結果を図4に示す.取得した点群データを3D表示することで,視点を変えて,側面,斜め,上方から見た測定対象物の形状を再構築することができ,単一視点からの計測でも立体的な計測情報を得ることができる.

図3 泳いでいる魚を水中LiDARで計測した結果
図3 泳いでいる魚を水中LiDARで計測した結果
図4 測定対象物(魚の模型)を側面から計測し,視点を変えて3D表示した結果
図4 測定対象物(魚の模型)を側面から計測し,視点を変えて3D表示した結果

 さらに高機能化(高精細+新機能)を行うため,RGBカメラと水中LiDARを融合させたフュージョンセンサー(アクアフュージョンセンサー)を開発している4,5).アクアフュージョンセンサーは水中にある物体(構造物,地形,生物など)の3次元データを、レーザーでスキャンすることにより得られた精密な3次元位置情報と,カメラより得られたカラー画像と組み合わせてリアルタイムに取得,表示できる先進的なセンサーである.また水中では初となるRGB3色を用いた3次元計測,LiDARとカメラの計測データの融合を可能としている.



次回に続く-



参考文献

  1. 内閣府 海洋資源の開発及び利用(2024年8月8日閲覧)
    https://www8.cao.go.jp/ocean/kokkyouritou/yakuwari/yakuwari03.html
  2. 鈴木謙一,高橋成五,“水中LiDAR ~水中における可視光3DスキャンLiDARの開発~“,電子情報学会 通信ソサイエティマガジン No.60,春号2022, pp.307-313
  3. ALAN (ALANコンソーシアムWeb page,2024年8月8日閲覧)
    https://www.alan-consortium.jp/
  4. 鈴木謙一,奥澤宏輝,川端千尋,手塚耕一,“視光デバイスを用いた水中 LiDAR の開発”,2023年電子情報通信学会総合大会,ABI-1-4,(2023-3)
  5. Ken-Ichi Suzuki, Hiroki Okuzawa, Chihiro Kawabata, Koichi Tezuka, “Underwater LiDAR utilizing Visible Light Devices”, URSI GASS 2023, paper D02-2-3, August 2023.


【著者紹介】
鈴木 謙一(すずき けんいち)
株式会社トリマティス 代表取締役,博士(情報科学)

■略歴
NTT研究所において超高速光伝送方式や光アクセスシステムの研究開発,IEEE802.3WG,1904WGにおいてPONの標準化に従事後,2019年株式会社トリマティス入社.水中LiDARや水中光無線通信技術の研究開発に従事.2024年4月より現職.OPTICA(前OSA),IEEE,信学会各会員.

超小型人工衛星「CURTIS」に搭載した車載カメラで撮影した画像を公開

 パナソニック ホールディングス(株)ならびにパナソニック オペレーショナルエクセレンス(株)は、2024年4月に九州工業大学との共同研究にて設計・製造を行った3Uサイズ(10 cm x 10 cm x 30 cm)の超小型人工衛星「CURTIS」を国際宇宙ステーション(以下、ISS)から放出し、「CURTIS」そのものの動作実証とともに、パナソニックグループにて製造販売している部品やコンポーネンツの宇宙空間での技術実証を実施している。このたび、搭載しているパナソニック オートモーティブシステムズ(株)の車載カメラの実証により得られた画像を公開した。

 人工衛星や宇宙機器には様々な電子部品やコンポーネンツが搭載されていくことが想定される中、地上で利用されている車載カメラを用いて宇宙空間での静止画及び動画撮影の実証を行っている。宇宙空間や地球上空からの撮影、ならびにISSから放出された20秒後に行ったISSの撮影にも成功した。技術実証を通じ、宇宙用途として転用できる可能性を検証していくという。

■車載カメラの特徴
 車載カメラは身近なスマホ、デジカメなどとは異なり、軽量でありながら、低温から高温までの幅広い温度条件範囲での使用や、防塵・防滴、振動・衝撃に対する高信頼性など、様々なシーンでの高い視認性が求められる。
 また、宇宙空間での技術実証にあたり、宇宙空間で必要とされる熱真空試験、振動試験、放射線照射試験などの地上での信頼性試験に合格している。

<仕様>
・HDR(ハイダイナミックレンジ)対応260万画素CMOSセンサー採用
・ローカルトーンマッピング(局所輝度補正)技術により白飛び、黒つぶれを防止し、適正コントラストを実現
・低遅延、非圧縮の高速LVDS(Low Voltage Differential Signal)同軸デジタル伝送
・動作温度:-30℃~85℃

※本成果の一部は、経済産業省 産業技術実用化開発事業費補助金(令和2年度~令和4年度)、情報処理・サービス・製造産業振興研究開発等事業費補助金(令和5年度)を活用した研究開発において得られたものである。

プレスリリースサイト(panasonic):https://news.panasonic.com/jp/topics/205856