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SII、業界最長、内蔵電池で10年間稼働する振動センサノードを発売

セイコーインスツル(株)〔以下「SII」〕は、920MHz帯を利用した無線センサネットワーク「ミスター省エネ」から、電池駆動では業界最長※となる10年間稼働の振動センサノード(SW-42F0-1000)を今月より発売する。

従来、生産設備の故障の検知は、音、振動、温度等の異常を人の感覚を頼りに確認を行ってきた。しかし昨今の工場、プラント等では人手不足が深刻化しており、人の手に頼らないデータ取得・自動監視が求められている。

モータ、ポンプ、ファン等の生産設備では、故障する前兆として振動等の変化が生じる。振動センサノード「SW-42F0-1000」は、加速度、速度、変位からなる振動データと温度を測定し無線送信することで自動監視を可能にする。一定期間、振動、温度データを解析することにより、故障の予兆を検出し、突発的な生産設備の故障回避に役立つ。

※業界最長:30分周期で測定し無線送信した場合(2023年10月31日現在、同社調べ)

<主な特長>
1. 完全ワイヤレスで簡単設置
内蔵電池による完全ワイヤレスのため、電源を供給するコンセントの位置を考慮することなく、測定したい場所に簡単に設置できる。

2. 業界最長、10年間稼働でメンテナンスフリー
30分周期の測定、送信で10年間稼働するため、電池交換や充電の手間がなく長期間にわたりメンテナンスフリーで使い続けられる。

3. 安定した通信品質と容易な拡張性
電波伝搬特性に優れる920MHz帯域を使用しているため、障害物の多い工場内でも通信が安定している。また大規模工場でも別売のルータ(中継機)を利用することで、マルチホップ接続による広範囲な通信や複数ルートでの安定した通信を可能にする。

ニュースリリースサイト(sii):https://www.sii.co.jp/jp/news/2023/11/21/15207/

ST、柔軟性に優れた最新の大電流モータ・ドライバ「STSPIN9シリーズ」

STマイクロエレクトロニクスは、ハイエンドの産業機器や、業務用および生活家電に最適な大電流モータ・ドライバ「STSPIN9シリーズ」を発表した。

STSPIN9シリーズ初の製品である「STSPIN948」(出力電流4.5A)および「STSPIN958」(出力電流5.0A)は、PWM制御ロジックと58Vのパワー段を集積しており、システム保護機能と2つの電流センス・アンプを備えている。ブラシ付きDCモータおよびバイポーラ型ステップ・モータの駆動に最適で、部品コストの削減に貢献するとともに、優れた柔軟性と拡張性を提供する。

STSPIN948は、2個のフルブリッジを集積しており、異なるモードで駆動するように設定可能。これにより定格の異なる複数のモータを異なるモードで駆動するような柔軟な開発が可能になる。また、PWMベースの電流制御モードをオフ時間固定、またはしきい値設定から選択することで、5種類の駆動モードを使用可能。同製品は、VQFPN48パッケージ(7 x 7mm)で提供される。

STSPIN958は、1個のフル・ブリッジを内蔵しており、単方向モータを2個、双方向ブラシ付きDCモータを1個、または出力を並列化することで大電流の単方向モータを1個駆動するモードが可能である。STSPIN948と同様に、オフ時間固定としきい値設定の電流制御モードを選択でき、デュアルのハーフブリッジや、シングルのフルブリッジ、およびハーフブリッジの並列接続が可能なため、7種類の駆動モードを使用できる。同製品は、VFQFPN32パッケージ(5 x 5mm)で提供される。

STSPIN948およびSTSPIN958は、幅広い動作電圧範囲と優れた柔軟性を備えたモータ・ドライバである。ファクトリ・オートメーション、繊維機械、産業用・家庭用ロボット、舞台照明、ATMや現金処理機、アンテナのコントローラ、自動販売機および、さまざまな産業機器および生活家電に最適である。

両製品ともに、外付け抵抗を使用することで出力トランジスタのスルー・レートを0.3V/ns、0.6V/ns、1.2V/ns、または2V/nsにプログラム可能である。これにより、消費電力と電磁ノイズの最適化が可能。また、デッド・タイムを設けているため、貫通電流を防止できるとともに、各MOSFETのオン抵抗がわずか200mΩと低いため、動作効率の最大化にも貢献する。伝搬遅延が280nsときわめて短く、システム・コマンドに対する高速のダイナミック応答が実現する。

STSPIN948およびSTSPIN958は、過電流保護や過熱保護、短絡保護、低いバス電圧を検出する減電圧保護(UVLO)など、豊富な保護機能も内蔵している。

また、開発期間の短縮に貢献する低コストで使いやすい評価ボード「EVSPIN948」および「EVSPIN958」も提供されている。EVSPIN948は、STSPIN948を使用して最大2個のモータを駆動し、EVSPIN958は、STSPIN958を使用して1個のモータを駆動する。いずれも機能拡張用に設計された評価ボードで、ほとんどのSTM32 NucleoボードやArduino® UNO R3コネクタと互換性がある。

両製品は現在量産中で、1000個購入時の単価は、STSPIN958が約1.42ドル、STSPIN948が約2.35ドル。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001334.000001337.html

ヴァレオ、第3世代LiDAR SCALA 3がCES2024イノベーションアワード受賞

ヴァレオは、同社第3世代LiDARであるSCALA 3がCES 2024 イノベーション賞を「車両技術および先進モビリティ」部門で受賞したと発表した。

ヴァレオの第3世代 LiDARシステムである SCALA 3 は、自動車グレードの高解像度 LiDARセンサを提供し、自動車業界の品質と安全基準を最高水準で満たし、あらゆる状況で高度な認識を可能にする。 SCALA 3 の高密度な点群と関連する AI ベースの認識ソフトウェアは、より広範囲の条件で高速道路での高速自動運転を可能にし、レベル 3 システムの領域と、レベル 4 のロボタクシー車両の運用と拡張性と大幅に拡張することで、エンドユーザーへの価値を劇的に高める。

同社のLiDARは、世界初の自動運転レベル3として国土交通省の型式指定を受けたHonda LEGENDと、ドイツで認証された唯一の自動運転レベル3乗用車に搭載されている。また、ヴァレオは、2023 年 3 月時点で SCALA 3 の過去 18 カ月間の受注額が 10 億ユーロを超えたと発表した。

1月に米・ラスベガスで開催されるCES 2024 においては、SCALA 3を展示し、LiDARが検知した点群をAI ベースの認識ソフトウェアによって識別しオブジェクトを分類する実演を行う。

SCALA 3 は車両周囲の 3Dイメージを生成し、自動車システムに比類のない解像度の点群を提供する。 1 秒あたり 1,200 万以上のピクセル (SCALA 2 と比較して 48 倍) で、低反射率の物体では 200 メートル、高反射率の物体では 300 メートルの検出範囲を有し、人間の目には見えない物体を認識する。

また、ハードウェア機能に加えて、認識と人工知能ベースのアルゴリズムを含む一連のソフトウェア・モジュールが付属している。 これらの機能は、汚れ、雨や水しぶきの検出、オンライン補正や位置ずれの検出などを行い、高い安全性と信頼性をもたらす。SCALA 3は、カメラやレーダーとは比類ない独自の検出性能で、150メートル以上先の暗くて黒いアスファルトの路面上に放置されたタイヤなどの物体を識別することができる。
また、物体を識別、分類、追跡し、車の周囲の完全な 3D マッピングを提供することで、自動運転を可能にする。 これらのソフトウェア・モジュールは、主要な SoC プラットフォームに組み込むことができ、専用の ECUやドメイン コントローラーで実行することができるという。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000154.000004446.html

Teledyne FLIR、侵入検知を強化するAI最適化サーマルカメラ

 Teledyne FLIRは、代表的な固定カメラ(FC)シリーズの最新モデルである新型FLIR FCシリーズAIを発表した。
FCシリーズ AIは、AI解析機能を搭載したサーマルセキュリティカメラで、人や車両を正確に識別し、早期に侵入を検知することで周辺保護や遠隔地の監視に使用できる。ディープニューラルネットワーク(DNN)とモーションベース分析を組み合わせたビデオ分析により、FCシリーズAIは、業界をリードする侵入検知機能を提供する。これにより、ユーザーは状況認識を向上し、安全性を高め、調整と効率を向上させ、情報に基づいてより良い意思決定を行うことができるという。

 40×512のフル解像度を持つプレミアム赤外線センサを搭載したFCシリーズAIカメラは、可視光のみに頼るのではなく人や物体が発する熱に基づいて画像を生成する。このサーマルカメラは、業界をリードする熱感度25mK(ミリケルビン)未満(市場で最も優れた雑音等価温度差(NETD)値の1つ)を実現し、悪条件下で視認性と検出率が低下する他のサーマルカメラよりも優れた性能を発揮する。
8.6°×6.6°から90°×69°の視野範囲を備えた8つの高性能レンズから選択可能なため、セキュリティオペレーターは、完全な暗闇、雨、霧、煙の中でも、侵入者をはっきりと確認し、検知できる。

 FCシリーズAIは、DNNとモーションベースのビデオ分析を組み合わせて信頼性の高い検知を行うため、セキュリティ管理者は真の脅威と誤警報を区別できる。厳選された何千枚もの赤外線画像からなるフリアーシステムズのライブラリーの使用により、同社のDNN解析は、人や車両がわずかに隠れていたり、識別が困難、もしくは侵入者がシステムを欺こうとしたりするなどの実際の状況下でも、対象物を識別できるように調整されている。また、FCシリーズAIは、ターゲットの位置特定機能を備え、パンチルトズームカメラに正確に連結させることで、効率的にターゲットを追跡できる。

 FCシリーズAIカメラは、新規および既存の多層物理セキュリティシステムの性能を最大限に引き出すよう設計されており、FLIRのUVMSやサードパーティー製ビデオ管理システムと緊密に統合でき、FLIR のNexusソフトウェアでサポートされている。NDAA準拠のFCシリーズAIカメラは、セキュリティ専門家に広範なサイバープロテクションと安心を提供する。筐体は耐久性に優れ、頑丈で耐候性のあるIP66およびIP67等級、耐衝撃性はIK10となっているとのこと。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000027932.html

ダイキン・東ガス・理研、初めて冷媒の漏えいを遠隔検知するレーザー式R32検知技術を開発

 ダイキン工業(株)、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(株)〔以下「TGES」〕と、(国研)理化学研究所〔以下「理研」〕は、世界で初めてレーザーによるHFC-32(以下「R32」)の遠隔検知技術(以下「本技術」)を開発した。また、ダイキンとTGESは、その技術を実装した遠隔R32検知器の試作機(以下「本検知器」)を共同で開発し、本検知器による遠隔でのR32検知を実証した。今後、検知感度のさらなる向上を図り、2024年度中のフィールドテストの実施を経て、2025年度の実用化を目指すという。

 エアコンには、空気を冷やしたり温めたりするために欠かせない冷媒と呼ばれるガスが封入されており、冷媒には主にHFC(ハイドロフルオロカーボン)が使用されている。近年、その漏えいによる温暖化影響が国際的に問題視され、冷媒の温暖化係数(以下「GWP」)低減や、漏えい対策が求められている。こうした中、日本では世界に先駆けて、2012年以前に主な冷媒として使用されていたHFC-410A(以下「R410A」)※1と比べてGWPが1/3となる低GWP冷媒のR32への転換が進み、現在では、国内向けに製造販売されている家庭用エアコンのほぼ100%がR32となっている。また、R32はグローバルでも低GWP冷媒としての認知が広がり、すでに130ヵ国以上で普及が進んでいる。世界的に普及が進むR32に対する漏えい対策の重要性が増す中、R32の漏えいを的確かつ効率的に発見できる本技術の実用化を通じた温室効果ガス排出のさらなる抑制に取り組む。

 現在、エアコンのフィールドサービスで行われる冷媒漏えい有無の確認には、漏えいが疑われる箇所に検査機器を近づけて周辺の気体を採取する採気式※2を用いるのが一般的である。この手法では、エアコンの本体や配管は、天井の裏側など、脚立が必要な高所や人の手が届きづらい狭い場所に据え付けられていることが多いため、作業に手間と時間を要するだけでなく、安全性を確保しづらい場合や、検査機器を近づけることが困難な場合もあった。一方、このたび開発した本検知器は、離れた場所から対象物周辺に向けてレーザー光を照射することで、レーザー光の経路中におけるR32の有無を遠隔から効率的に確認できる。従来の採気式と比べ、作業工数の大幅な削減や安全性の向上が期待でき、その後の迅速な対処にもつなげられる。

 加えて、本技術および本検知器は、R32を含む混合冷媒の検知もできるため、例えば、以前は主要な冷媒として使われていたR410A冷媒に対しても活用可能である。また、使用中の機器からの冷媒漏えいの検知だけでなく、撤去された機器からの漏えい検知、冷媒の再生プラントでの漏えい監視など、冷媒循環サイクルにおける様々なシーンでの活用を通じた、温室効果ガス排出抑制への貢献も期待できる。今後、本技術および本検知器の社会実装を通じてサステナブルな社会への貢献を目指す。

※1 R410AはR32とR125を50:50で混合した冷媒で、地球温暖化係数がR32の約3倍。
※2 検査機器に内蔵したセンサに接触した冷媒を検知する方式

ニュースリリースサイト:https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20231115-01.html

自律型無人探査機(AUV)戦略について(2)

角田 智彦(つのだ ともひこ)
内閣府総合海洋政策推進事務局
角田 智彦

(4) AUV官民プラットフォームの開催

 総合海洋政策本部参与会議のAUV戦略PT「中間取りまとめ」において、「AUVの開発や利用に取り組む我が国の企業、大学・公的機関、関係府省が連携」する必要性が示された。これを受けて、AUVの社会実装に向けた交流や様々な情報共有を促進するとともに、戦略策定に向けた将来ビジョンやロードマップ等について検討するため、令和5年5月にAUV官民プラットフォーム(事務局:内閣府総合海洋政策推進事務局)を設立した。その第1回全体会議(5月24日開催)では、海洋政策担当の谷公一大臣(当時)より「AUVの社会実装に向けた議論が深まり、産官学が連携した取組みが加速していくこと」への期待を、ビデオメッセージを通して会議冒頭に表明いただいた。
 会議の流れは(図3)の通りで、全体会議に加えて、主に技術的側面の検討を行う技術部会と、主に利用面に着目した検討を行う利用部会の2つの作業部会を設置し、研究開発と利用の両面から議論を重ねてきた。これら会議に、50社以上の民間企業に加えて、13の関連団体、2の教育機関、8名の専門家、地方公共団体(神戸市)が、内閣府のウェブサイトを通じた参加募集等に応えて登録をいただいた。関係府省庁として、内閣府、文部科学省、資源エネルギー庁、国土交通省、海上保安庁、環境省、防衛省が参加するほか、(国研)海洋研究開発機構をはじめとする5つの公的機関等が参加する規模の大きな官民が集うプラットフォームとなった。

図3:AUV官民プラットフォームの議論の流れ
図3:AUV官民プラットフォームの議論の流れ

(5)AUV官民プラットフォーム提言:3類型を目指して

 松村祥史海洋政策担当大臣の対面参加のもとで令和5年10月11日に開催した第3回全体会合を受けて、将来ビジョンや技術マップをはじめとするAUV官民プラットフォーム提言の内容が固まった。ここでは、将来ビジョンと技術マップを中心に紹介する。
 将来ビジョンの検討では、AUVの具体的な利用に注目したユースケースを、主に利用部会を通して分析してきた。海洋資源開発、洋上風力発電、科学調査・研究、海洋環境保全、海洋安全保障、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、水産業、海洋インフラ管理、防災・減災の9つを活用が期待される分野として想定し、参加者から指摘を受けた修正や、企業・団体等へのヒアリング調査の結果を反映してユースケースを具体化し、将来ビジョンを作成した。そして、将来ビジョンを踏まえて分析を行った結果、「技術チャレンジ型」「目的特化型」「小型安価型」の3類型がニーズを満たす鍵になるAUVの形態として浮かび上がった(図4)。

図4:AUV開発の方向性(3類型)
図4:AUV開発の方向性(3類型)

 技術マップの作成では、膨大な技術調査を経て個別技術を網羅的に分析した。AUVの主要技術である航法装置ひとつとっても、慣性航法装置、音響測位、加速度計等、様々な要素があり、これらを国内技術の優位性やサプライチェーン上の課題等の観点から整理をした。例えば慣性航法装置には1つあたり数千万円の高精度なものから、数万円程度のものまである。高精度なものは、AUV全体のコスト増大要因となるが、衛星測位システム(GNSS)を使えない水中で長期間のAUV連続運航を実現するためには欠かせないものである。このような装置は、「技術チャレンジ型」にて国産技術の開発を行い、その成果を「目的特化型」等に反映して国産化していく必要がある。一方、安価なもの(MEMS)は、自動車の自動運転等の分野で普及が進むもので、GNSSを補完する役割を果たしている。自動車分野等における活発な研究開発により水中でも利用可能な一定の精度の製品ができれば、「小型安価型」のAUVへの適用が進むことが期待される。この際、水中においてGNSSの役割を担う音響灯台との組み合わせ等も想定され得る。
 センサについては、例えば音響測深等については国内製品が少なく、海外製品の利用が定着していることを反映した整理となったが、CO2やpH等の環境センサについては、国内製品に一定の強みがある。また、水中コネクタのような基盤部品についての国産化の必要性等も示された。
 AUV官民プラットフォームでは、これらの将来ビジョンと技術マップを組み合わせ、ロードマップを作成した(図5)。提言では、ロードマップを踏まえて「2030年までに、我が国のAUV産業が育成され、海外展開まで可能となるよう、国主導の下で、官民が連携して産業化に取り組む」ことが示されている。出来るだけ早期に民間による自立的な取組を進めるべく、戦略的に取り組んでいく必要がある。

(6)今後に向けて

 国内では、まだまだAUVの利用事例が少なく、潜在的な利用者にとっては、期待通りのデータが得られるか等の懸念がある上、試験的に利用するにもよう船や他の海域利用者との調整等にコストを要するため、参入障壁が高いという課題がある。このような課題を踏まえて、例えば利用実証を行い、AUV利用の具体的な効果を示すとともに、利用時に生じる課題を抽出し、制度環境整備や研究開発等につなげていく必要がある。官民が連携した取組を通して、2030年頃までに洋上風力発電、海洋安全保障、海洋環境保全等の現場で、AUVが標準的に利用されることを期待したい。
 AUV官民プラットフォームでは、共同議長である海洋産業タスクフォースの佐藤弘志運営委員会副委員長と(国研)海洋研究開発機構の永橋賢司理事補佐の2名のリーダーシップのもと、毎回150名程度の多くの方々が参加し、活発な議論を経て提言書を作成いただいた。皆様に感謝を申し上げたい。
 今後は、この提言を受けて総合海洋政策本部参与会議のAUV戦略PTにて検討を進め、AUVの社会実装に向けて、年度内に総合海洋政策本部決定する予定である。

図5:AUVの社会実装に向けたロードマップ
図5:AUVの社会実装に向けたロードマップ


【著者紹介】
角田 智彦(つのだ ともひこ)
内閣府 総合海洋政策推進事務局 上席政策調査員 

■略歴

1996年京都大学理学部(海洋物理学教室)卒業、1998年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了。1998年に三菱総合研究所に入社し、2008年より主任研究員として、海洋再生可能エネルギーや海洋情報管理などの事業に従事(2015年退職)。2015年より笹川平和財団海洋政策研究所にて海洋酸性化などの海洋環境問題や海域管理に関する調査研究に取り組むとともに、「海洋白書」の編集統括などを担当。2022年より現職(出向)、第4期海洋基本計画の策定やAUV戦略の検討に従事。

MEMSジャイロを用いて慣性航行できる日は来るか(2)

田中 秀治(たなか しゅうじ)
東北大学
田中 秀治

4.MEMSジャイロの高性能化

 海洋産業で水中ドローンの用途が広がっているようだ。空中ドローンは姿勢を維持するのにMEMS慣性センサ(ジャイロ+加速度センサ)を、また、高度を測定するのにMEMS気圧計を利用している。MEMSジャイロはこの姿勢制御では良い働きをしている。これは、姿勢制御は比較的短時間の精度しか必要ないので、バイアス安定性の比較的悪いMEMSジャイロでもその任を果たせるからである。一方、GPSが利用できない水中ドローンでは、姿勢制御に加えて慣性航行のためにMEMSジャイロへの期待が高いと思う。しかし、慣性航行には現状のMEMSジャイロの性能は十分ではない。
 いわゆる自動運転では、高層ビル群やトンネルでGPS信号が途絶える事態を想定して、実使用で0.1 º/hのバイアス安定性が必要だと言われている。図2に示したように、この性能はMEMSジャイロによって手が届く範囲にある。ただし、それを実現することの難しさは、どのような形態でこれを実現するか、どの温度範囲で性能を保証するかなどによる。特に難しいのは、この性能を図4 (a)に示した樹脂モールディングによる小型パッケージで実現することだろう。一方、MEMSダイをセラミックパッケージに入れ、さらにそれを堅牢な筐体に収めれば、MEMSダイは実装時や使用時の応力を受けにくくなり、安定性は格段に良くなる。また、MEMSダイを1つ1つトリミングして、加工誤差を補正する方法も高性能化には有効である。ただし、こうした方法はコストがかかるため、100万円以上の値付けになることもある。樹脂モールド品が100円以下で売られているのにである。
 さて、MEMSジャイロの高性能化の主たる指針は、①マスを重く、②x軸の振幅を大きく、③y軸のQ値を高く、④x軸とy軸の共振周波数を近くすることである。MEMSジャイロでもマスは、ある程度、大きくできるが、それはダイ寸法の拡大を介してコストに跳ね返る上、そもそも限度がある。②は単純には駆動電圧を上げればできるが、消費電力が増えるので、特にモバイル用途では困る。Q値の向上は②と③の両方に有効であるが、y軸のQ値を上げると、fxとfyを近づけなくてはならなくなり、前述のようにバンド幅が小さくなる。ただし、これはy軸の変位を0にフィードバック制御する「フォースリバランス」によって回避できるため、Q値の向上は高性能化に有効な方法である。④の究極の形として、両軸の共振周波数を完全に一致させる(fx=fy)ことを「モードマッチング」と呼ぶ。これも高性能化に有効な方法として開発されているが、詳しくは 別の解説4) を参照して欲しい。

図2 ジャイロの種類と性能
図2 ジャイロの種類と性能
(a) MEMSジャイロの外観
(a) MEMSジャイロの外観
(b) MEMSジャイロの内部構造(TDK-InvenSense MPU-9250、撮影:田中・塚本研究室)図4 MEMSジャイロ
(b) MEMSジャイロの内部構造(TDK-InvenSense MPU-9250、撮影:田中・塚本研究室)
図4 MEMSジャイロ

5.高性能MEMSジャイロへの挑戦

 上述の②から④の指針に沿ってMEMSジャイロを高性能化するための最大の障害は、加工誤差である。もし私達に設計通りに構造体を製造できる「神の手」があれば、高性能MEMSジャイロを実現することは比較的たやすいと思う。本稿の最初に紹介したESGを思い出して欲しい。理想に近いローターを製造するために「狂気の加工技術」が用いられ、その結果、超高性能が実現されたわけである。ベリリウムは人体に有害なので、その加工中の安全対策も大変だったはずである。また、他にも凄い加工技術が使われていることは想像に難くない。
 ところで、図5を用いてMEMSジャイロの原理を説明したが、そこでx軸とy軸は直交していると仮定した。ここで直交とは、系が静止している時、2つの軸がお互いに影響を及ぼさない、すなわち独立しているということである。しかし、実際にはそうならず、x軸が振動すると、MEMSジャイロが静止していてもy軸が僅かに振動してしまう、あるいはそのように検出されてしまう。その原因として様々な不完全性が考えられる。たとえば、x軸の櫛歯アクチュエーター(図4 (b)参照)のギャップが僅かに不均一でy方向にも力が働く、僅かな非対称のためx軸変位の歪みによってy軸が動く、x軸の駆動信号がy軸に漏れるといった原因が考えられる。これらの原因によるy軸の不要振動のうち、コリオリ力による振動と同相の成分は原理的に排除しようがなく、そのまま角速度の誤差となってしまう。

図5 振動ジャイロの機構
図5 振動ジャイロの機構

 上に例示した原因のうち1つ目と2つ目の例示は加工誤差によるものである。CD-SEM(測長電子顕微鏡)で見て完璧にできていても、計測できない水準の僅かな不完全性によってx軸とy軸の不要なカップリングは生じてしまう。これはfxとfyを近づければ、より深刻になる。さらに、仮にMEMS構造体が完璧にできていたとしても、それをウェーハレベルパッケージング(参考記事5) )する際、MEMSダイをダイボンディングする際、あるいはパッケージ品をプリント基板に実装する際に歪が生じることがあるし、もちろん温度変化による熱膨張や樹脂モールドの吸湿で歪が生じることもある。
 したがって、第1に加工誤差や歪が生じない構造設計、第2に高度な加工技術とパッケージング技術、第3に不完全性を補正する技術が重要になる。これらは、たとえば、原理的に理想的な構造でも作りにくければ、加工誤差が生じやすい、加工誤差が大きければ、制御や補正に無理が生じるといったようにお互いに関係しており、奥の深いMEMSジャイロの高性能化に向けて研究開発する余地はまだまだ大きい。

6.フーコー振子と全角モードジャイロ

 フランスの物理学者Jean Bernard Léon Foucault(1819~1868年)は、1851年にパリのパンテオン宮殿に長さ67 m、質量27 kgの振子を設置して、地球の自転を実証する公開実験を行った。このフーコー振子(図6)はゆっくりとした地球の回転を測定できるジャイロであり、しかも、出力は角速度ではなく回転角そのものである。このようなジャイロを全角モードジャイロと呼ぶ。自律航行や位置同定にはある基準に対する角度が必要であるが、角速度を出力する普通のジャイロ(レートジャイロ)を用いてこれを得るためには、角速度を積分しなくてはならない。しかし、角速度出力にはドリフトやゼロオフセットが含まれているので、積分によってあっという間に誤差が蓄積し、得られた角度はあさっての方向を示してしまう。これに対して、地球の回転を測定できるフーコー振子は高性能ジャイロと言える。
 実は、図5に示した直交2軸振動系を用いてフーコー振子をMEMSで再現できる。そのための条件は、x軸とy軸が完全に同じで、かつ完全に直交していることである。このような振動系に直線振動を起こすと、系の回転に比例してマスの振動方向が回転し、つまり全角モードジャイロが実現する。

図6 フーコー振子(ドイツ博物館、撮影:著者)
図6 フーコー振子(ドイツ博物館、撮影:著者)

 全角モードジャイロは、原理的にバンド幅が無限大で、しかもスケールファクターがジャイロの構造だけによって決まり、温度に影響されないという特長を持つ。上述のフォースリバランスジャイロでは、スケールファクターはy軸の共振周波数によるが、シリコンを含むほとんどの材料は温まると柔らかくなるため共振周波数には温度依存性があり、したがってスケールファクターは温度で変わってしまう。既に述べたように、温度変化によるスケールファクターの変化は高性能ジャイロにとって深刻な問題であり、これがMEMS全角モードジャイロが期待される1つの所以である。しかし、既に述べたように、x軸とy軸が完全に同じにし、かつ完全に直交させることは難しい。その実現には多くの挑戦があるが、私達の研究については次の論文を参考にして欲しい( 論文16)、論文27) )。

7.おわりに

 海中では、地上、海上、および空中より慣性航行に頼る部分が多くなるため、ジャイロの役割が大きいはずである。だからこそ、ポラリス潜水艦のためにESGが開発された。現代においては、海洋産業向けの高性能MEMSジャイロがこの分野の技術を先導し、VR、自動運転、ロボティクスなどに応用を広げていくストーリーがありうるだろう。様々な応用が広がるというのはとても重要なことである。というのも、半導体製造技術に基づくMEMSは大量に生産すれば、安くなり、安くなれば、さらに思ってもみなかった応用が広がるというポジティブ・フィードバックが働く製品だからである。ジャイロの専門的な技術に興味があれば、国際会議 IEEE Inertial 20248)に参加してみるのもよいと思う。





【著者紹介】
田中 秀治(たなか しゅうじ)
東北大学 大学院工学研究科 教授

■略歴

  • 1999年3月東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻博士課程修了。博士(工学)。
  • 1999年4月東北大学大学院工学研究科助手。
  • 2001年4月同講師。
  • 2003年4月~2013年7月同助教授。
  • 2013年8月同教授。
  • 2004年1月~2006年3月科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー(兼務)。
  • 2006年4月~2018年3月同特任フェロー。
  • 2017年度日本機械学会マイクロ・ナノ工学部門 部門長。

IEEE Fellow、日本機械学会フェロー。
日経クロステック等に多くのMEMS関連記事を執筆。
ビジネスディベロップメントコンファレンス“MEMS Engineer Forum”代表
JST ACT-X「強靭化ハードウェア」領域総括
IEEE MEMS 2022 General Co-Chair.
Transducers 2023 Executive Program Chair.
MEMSセンサ、弾性波デバイス、集積化技術、MEMSパッケージング技術、圧電デバイス・材料などの研究に従事。

海洋へのレーザー応用(2)

染川 智弘(そめかわ としひろ)
(公財)レーザー技術総合研究所
染川 智弘

3.ラマンライダーによる海上観測

 ラマンライダー技術で海水中のガスの計測が可能かどうかを検証するために、水深が20 mと比較的浅い海底からメタンガスを70%程度含む火山性ガスの湧出がある竹富島海底温泉にて海上観測を実施した。竹富島海底温泉は石垣島を中心とした八重山諸島にある竹富島の北東沖約1 kmの海底に位置する。
 図4に海上ラマンライダーの構成図と写真を示す。波長355 nmのレーザーパルスを鉛直下向きに海中に照射し、海中からの散乱光を直径20 cmの望遠鏡で集める。観測した散乱光はレンズでコリメートした後、波長355 nmのエッジフィルターとノッチフィルターでレイリー光を除去し、光ファイバで分光器に導いた。分光器の測定ポートにはラマンスペクトル計測用の電子冷却CCDカメラと、ライダー信号を計測する光電子増倍管(PMT)を搭載している。分光器の光路上に設置したミラーの出し入れによってCCDとPMTの検出機器を切り替えることが可能である。

図4 海上ラマンライダーシステム
図4 海上ラマンライダーシステム

 図5に漁船に搭載した海上ラマンライダーの写真(a)、(b)と竹富島海底温泉での観測の様子(c)を示す。海上ラマンライダーシステムは大阪から石垣島までコンテナ輸送したが、トラックや船での輸送による光軸ずれなどの影響はほとんど見られず、本ライダーシステムは特別な調整の必要なく、動作が可能であった。図6に竹富島海底温泉の真上にて実施した観測結果例として水のラマンスペクトルを示す。不安定な海上においても、これまでの室内実験と同様のラマン信号の観測が可能であり、本水中ラマンライダー技術は海中モニタリングに適用可能である。

図5 海上ラマンライダーによる海上観測
図5 海上ラマンライダーによる海上観測
図6.海上ラマンライダーによる水のラマンスペクトル
図6.海上ラマンライダーによる水のラマンスペクトル

4.長水槽による水中ライダー実証試験

 図7に示すような長さ6 mの長水槽を実験室に保有しており、水中ライダーの原理実証実験を実施している。水槽実験では、海底パイプラインからの原油の流出を模擬して、蛍光セルに入れたキャノーラ油を測定対象としている。
 これまで紹介した水中ライダー技術で水中にある物質・ガスの3Dイメージを取得する方式には、スキャン方式とフラッシュ方式がある。スキャン方式は、先述したTOF方式でコリメート光の送出方向をガルバノミラーなどによって高速に走査し、そのライダー信号を連続で取得することによって3Dイメージを得るものである。図7はTOF方式でのライダー観測の様子であり、波長532 nmのレーザーで励起した場合の、油(628 nm)、水(649 nm)の2波長でのライダー信号を同時に測定することで水中にある油の位置と濃度情報を得ることが可能である(11),(12)
 一方、フラッシュ方式ではカメラ撮像のように、カメラの視野内にレーザーを拡散照射することによって得られる2Dイメージの取得時間を時間的に掃引することで3Dイメージを撮像する。図8が長水槽で5 m先に設置した油(蛍光セルの光路長:20、10、5 mm)のフラッシュラマンライダーによる可視化画像である(13)。レーザーは凹レンズで拡散照射し、ナノ秒の時間ゲート測定が可能なICCDカメラで記録した。干渉フィルターを利用して、油(628 nm)、水(649 nm)の2波長の画像を取得し、それらの比を取った画像である。濃度(光路長)が異なる油をフラッシュラマンライダーによって可視化できていることがわかる。フラッシュ方式は、レーザーの走査が不要であることから、撮像画面内の時刻ずれのないイメージが得られるため、水中ガス・物質の漏洩モニタリングなどには有効な手法になると考えられる。

図7.6 mの長水槽を利用した水中ライダー実証試験の様子
図7.6 mの長水槽を利用した水中ライダー実証試験の様子
図8.フラッシュラマンライダーにおる5 m先に設置した油の可視化画像(左から光路長20, 10, 5 mmの蛍光セルに入れたキャノーラ油)
図8.フラッシュラマンライダーにおる5 m先に設置した油の可視化画像
(左から光路長20, 10, 5 mmの蛍光セルに入れたキャノーラ油)

5.おわりに

 海中インフラの維持管理や、海底開発が海中の環境に及ぼす影響を効率よく評価することを目的として、海水中に含まれるガスや油をラマン散乱で測定するラマンライダーによる海中モニタリング手法の開発を行っている。水の透過が比較的高い波長532, 355 nmのパルスレーザーを利用して水中ガスのラマン分光測定が可能であることを示した後、船舶搭載型のラマンライダーシステムを開発し、海上観測に成功した。また、実験室にある長水槽を利用して、水中の油のTOF方式、フラッシュ方式による検出試験を実施している。
 今後はこの海上観測で抽出した問題点を改善するとともに、新たな水中ライダー技術を海洋モニタリングに適用する予定である。こうした水中ライダー技術開発だけでなく、海上・海中という不安定な環境では、レーザーの小電力化、小型化によってますます利用しやすいモニタリング技術につながるのではないかと考えている。



参考文献

  1. T. Somekawa, J. Izawa, M. Fujita, J. Kawanaka, and H. Kuze, Opt. Commun. 480, 126508 (2021).
  2. T. Somekawa, J. Izawa, M. Fujita, J. Kawanaka, and H. Kuze, Appl. Opt., 60, 7772, 2021.
  3. T. Somekawa, S. Kurahashi, S. Matsuda, A. Yogo, and H. Kuze, Opt. Lett., 48, 5340 (2023).


【著者紹介】
染川 智弘(そめかわ としひろ)
(公財)レーザー技術総合研究所 レーザー計測研究チーム 主任研究員
大阪大学 レーザー科学研究所 招へい教授

■略歴

  • 2008年3月大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻 博士(理学)
  • 2008年4月~公益財団法人レーザー技術総合研究所 入所 研究員、副主任研究員、上席研究員を経て現在、主任研究員
  • 2023年4月~大阪大学レーザー科学研究所 招へい教授

海洋化学センサ(2)

下島 公紀(したしま きみのり)
東京海洋大学
海洋資源環境学部 教授
下島 公紀

4. 海洋観測プラットフォームへの搭載

 開発された小型電子回路基板では、シリアル接続(RS232C、RS485、RS422)とアナログ接続(1-5V)を、接続する海洋観測プラットフォームによって使い分けている。RS232C接続ポートは元々メイン基板に組み込まれており、それ以外の接続は同サイズの専用接続サブ基板を用いる。RS232C接続は大型有索無人海中ロボット(ROV;ハイパードルフィン)・大型AUV(AUTOSUB6000)・海洋グライダー(Seaglider)3)、RS485接続は小型ROV(VideoRay)、RS422接続は長距離RS422ケーブル4)、アナログ接続はCTD多筒採水器システム(CTD-RMS)でそれぞれ使用し、小型AUV(REMUS100)5),6)や他のROV5),7)にはスタンドアローンで搭載している(図3)。また、海洋観測プラットフォームがケーブルで接続されているROV、CTD-RMS、RS422では、船上(あるいは陸上)においてリアルタイムのモニタリングが可能である4)
 図4は、SeagliderにpH/pCO2センサを搭載し、地中海において表面から水深1000mまでの範囲で15日間の広範囲連続計測を行ったものである。また、図5は、pH/pCO2センサを搭載したREMUS100による鹿児島湾の熱水噴出地帯の水深100m層でのpHとpCO2の広範囲マッピング計測結果である。水深200mの海底に存在する熱水由来の低pH・高CO2水塊の拡散状況を捉えている。

図3 現場型pH/pCO2/ORPセンサを搭載した種々の海洋観測プラットフォーム
図3 現場型pH/pCO2/ORPセンサを搭載した種々の海洋観測プラットフォーム
図4 Seagliderによる地中海での広域連続計測結果
図4 Seagliderによる地中海での広域連続計測結果
図5 AUVによる鹿児島湾の熱水噴出地帯の水深100m層でのpHとpCO2の広範囲マッピング計測結果
図5 AUVによる鹿児島湾の熱水噴出地帯の水深100m層でのpHとpCO2の広範囲マッピング計測結果

5. その他の現場型化学センサ

 放射性元素は生物起源沈降粒子や陸起源粒子などの懸濁粒子に吸着し、懸濁粒子の沈降に伴って深層へ輸送される。これまでの沈降粒子中の放射性核種の計測は、大容量採水器や現場ろ過装置で試料採取して陸上実験室で計測を行ってきた。海洋中の放射線を現場計測できるセンサで鉛直連続計測を行うことができれば、データ取得にかかる労力の大幅な減少や、計測データ数の飛躍的な増加が期待できる。筆者は、放射線の一つであるガンマ線を現場計測するガンマ線センサを開発した8)
 これまでの海洋環境における放射線計測では、一般的にアルミニウム容器等に密閉したNaI(TI)シンチレータ(結晶)、光電子増倍管検出器(PMT)、マルチチャンネルアナライザ(MCA)を耐圧容器内に収納したものが用いられてきた。しかし、シンチレータが2重の容器に密閉されるため検出感度の低下は避けがたく、かつ、MCAによる核種同定のための10分程度の積分時間(同一場所に留まる)が必要であるため機動性に欠けていた。開発した現場型ガンマ線センサ(図6)は、検出器であるNaI(Tl)をドープしたプラスチックシンチレータを耐圧容器に嵌合する形状に加工し、耐圧容器の一部とすることによって耐圧性と高感度を実現させた。海水中のガンマ線量を1秒毎に現場計測できるため機動性があり、空間的な連続計測が可能である。可視光によるプラスチックシンチレータの発光を防止するためとガンマ線による発光のみをPMTで計測するため、プラスチックシンチレータの検出面には遮光塗料を塗布してある。現場型ガンマ線センサはRS232C通信あるいはアナログ出力によってオンライン計測が可能である。
 図7は竹富島海底温泉地帯(水深20m)で実施したマッピング計測結果である。海底から噴出する温泉水由来のガンマ線(主にラドン由来)の拡散状況を捉えている。図8は現場型ガンマ線センサをCTD-RMSのフレームに取り付けて北西太平洋の外洋域で実施したガンマ線、濁度、蛍光強度(クロロフィル量)の鉛直連続計測結果である。これらの成分は水深25m付近に極大値を示しており、植物プランクトンなどの懸濁粒子に吸着した放射性核種を鉛直連続計測することができた。
 その他の化学センサとして、陽極溶出法(ASV)センサによる金属元素計測法や、光ファイバー型表面プラズモン共鳴(SPR)センサによる海水中に溶存した気体計測法の検討を行っている。

図6 現場型ガンマ線センサ
図6 現場型ガンマ線センサ
図7 竹富島海底温泉地帯におけるガンマ線のマッピング計測結果
図7 竹富島海底温泉地帯におけるガンマ線のマッピング計測結果
図8 北西太平洋におけるガンマ線(赤)、濁度(青)、蛍光強度(緑)の鉛直連続計測結果
図8 北西太平洋におけるガンマ線(赤)、濁度(青)、蛍光強度(緑)の鉛直連続計測結果

6. マルチセンサ統合型制御システム

 これまでの化学センサを使った観測や探査では、種々のセンサを別々に運用していたため、センサの設定やデータ管理が繁雑であった。このため、筆者が開発したセンサや市販センサなどの種々のセンサを接続して一括制御でき、多成分同時計測が可能な小型のマルチセンサ統合型制御システムを開発をした。このシステムでは、先に開発したpH/pCO2/ORPセンサの電子回路基板(図2)に接続できる、シリアル入力用とアナログ入力用の2種類の同形状・同接続方式のサブ基板を新たに開発した(図9)。これらのサブ基板は、それぞれの市販センサに適合した電圧供給と計測データ取り込み機能にあわせて設定し、順次メイン基板に接続してメイン基板で全ての接続されたセンサを制御する。なお、市販センサ接続用サブ基板では、センサを作動させるための電源を別途に供給する方式とした。これまでに統合したセンサはpH、pCO2、ORP、深度、塩分、水温、溶存酸素(DO)(以上はシリアル入力)、濁度、蛍光性有機物(以上はアナログ入力)の9種類である。今後は、より多くのセンサを接続したマルチセンサ統合型制御システムを海洋観測プラットフォームに搭載することを考慮し、大量のデータ通信に対応できるようにイーサネット接続への変更を計画している。将来的には、マルチセンサ統合型制御システムの汎用化を見据えた開発を進めている。

図9 マルチセンサ統合型制御システムと接続した化学センサ
図9 マルチセンサ統合型制御システムと接続した化学センサ


参考文献

  1. Hemming, M. P., Kaiser, J., Heywood, K. J., Bakker, D. C. E., Boutin, J., Shitashima, K., Lee, G., Legge, O., and Onken, R. “Measuring pH variability using an experimental sensor on an underwater glider”, Ocean Science, 13(3), 427-442 (2017).
  2. Shitashima, K., Maeda, Y. and Sakamoto, A. “Detection and monitoring of leaked CO2 through sediment, water column and atmosphere in sub-seabed CCS experiment”, International Journal of Greenhouse Gas Control, 38, 135-142 (2015).
  3. Shitashima, K., Maeda, Y., Ohsumi, T. “Development of detection and monitoring techniques of CO2 leakage from seafloor in sub-seabed CO2 storage”, Applied Geochemistry, 30, 114-124 (2013).
  4. Maeda, Y., Shitashima, K. and Sakamoto, A. “Numerical study of leaked CO2 diffusion in sub-seabed CO2 release experiments”, International Journal of Greenhouse Gas Control, 38, 143-152 (2015).
  5. Shitashima, K., Maeda, Y., Koike Y., Ohsumi, T. “Natural analogue of the rise and dissolution of liquid CO2 in the ocean”, International Journal of Greenhouse Gas Control, 2, 95-104 (2008).
  6. 下島公紀: プラスチックシンチレータを用いた現場型ラドンセンサの開発. 電力中央研究所報告, V0854, (2009).


【著者紹介】
下島 公紀(したしま きみのり)
東京海洋大学 海洋資源エネルギー学部門 教授 学術博士

■略歴

  • 1989年3月広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期修了 学術博士
  • 1989年4月日本学術振興会特別研究員(東京大学海洋研究所)
  • 1990年8月(財)電力中央研究所 我孫子研究所 研究員
  • 2006年7月(財)電力中央研究所 環境科学研究所 上席研究員
  • 2011年6月九州大学 世界トップレベル研究拠点カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 CO2貯留研究部門 准教授
  • 2016年4月東京海洋大学 大学改革準備室 教授
  • 2017年4月東京海洋大学 海洋資源エネルギー学部門 教授

■受賞歴
2004年10月 第一回 堀場雅夫賞

産業用水中音響探査技術(2)

浅田 昭(あさだ あきら)
東京大学 名誉教授
浅田 昭

3.水中コンクリート構造物の劣化診断

  1. 水中コンクリート構造物の劣化をP波とS波で探る
    寒地土木研究所のコンクリート製試験水路に予め、2枚のコンクリート板を合わせ、隙間を0mmから5mmに調整した。送波には100kzのPSBP(パラメトリックプローブ)を焦点ポイント(水平0mm)に照射し、P波、S波がコンクリート板内を水平伝搬するようにした。
    受波素子は表面をウレタンシートで覆い、水中伝搬波を遮蔽し、水面下120mmの深さに、コンクリートの合わせ目の左側に100mm, 200mm, 合わせ目を300m右側に400mm, 500㎜の位置にTC4013 のはハイドロフォンをセットした。同時に水面にPCBの空中マイクをセットした。
  2. 計測試験
    入射角を0度、20度、35度に変え、2次周波数を8kHz,10kHz,12kHzにおいて、コンクリート板の隙間の間隔を0mm, 0.2mm, 0.4mmで送受信計測を実施した。
  3. 解析状況
    まずは、1次伝搬波について解析を実施した。コンクリート板内には、P波、S波が形成され、伝搬速度で区別が可能であった。
    また、振幅についてはつなぎ目付近では、P波に比べS波が小さくなる傾向がみられた。亀裂の診断に有効な特徴と推定される。
    これまで、コンクリート岸壁や、矢板岸壁に垂直にPSBP音波を照射して、2次波で内部を診断する技術開発を行ってきた。本研究は寒地土木研究所との共同研究として、構造物の表面横方向に音波を伝搬させて診断する手法を探る目的で実施している。
図6 水路に設置した2枚のコンクリート板とPSBP送波器とハイドロフォンの配置
図6 水路に設置した2枚のコンクリート板とPSBP送波器とハイドロフォンの配置
図7 ハイドロフォンで受信した、P波とS波の包絡線解析結果
図7 ハイドロフォンで受信した、P波とS波の包絡線解析結果

4.音響ビデオカメラを使用した船体歪と付着生物量の計測システム開発

  1. 動揺を抑え、等間隔で音響的に撮像するため、8mの連結スキャンレールを独自に設計開発し、音響ビデオカメラで船体を2mから5mの距離で三次元計測を行った。音響ビデオカメラARIS3000の前面に1度のconcentrate lensを装着し、水平移動方向に1度、鉛直方向に0.25度の送受ビームを128本形成した。移動速度はステップモータを使用し0.5m/sとし、10 fames/sで撮像した。船体、ビルジキール、スラスター、シャフト、舵板などを3mmの高精度で計測を行った。
  2. 船体映像の動揺補正を行い、3mmの分解能で船体歪と付着生物の量を計測
    船体形状、ビルジキール等の特徴を利用して、カメラの動揺を検出して補正を行った。
    これらに加え電気ノイズ、干渉ノイズ除去手法を開発し、高品質化を図った。
  3. 船体歪と付着生物量の定量計測
    本計測、解析技術を使って、船体の歪や、フジツボ等の付着量を計測することが可能となった。
    本技術開発は東京都補助金を受け、株式会社AGSの事業として実施した。
図8 ARIS3000で計測した船体舷側鋼板上の溝、付着したフジツボの分布と量
図8 ARIS3000で計測した船体舷側鋼板上の溝、付着したフジツボの分布と量
図9カメラ深度3mスキャン音響計測画像、動揺補正解析(三次元画像)
図9カメラ深度3mスキャン音響計測画像、動揺補正解析(三次元画像)

5.おわりに

 これから産業技術として期待される水中計測技術は、画像、映像処理に移行しつつあり、視覚的にわかりやすい結果が求められる傾向にある。一方、映像から簡潔に特徴を数値化、定量評価、診断する、マッピング技術も並行して必要である。また、水中探査の音響ビデオ信号や音響信号もwcs水中映像化され、数値、定量化が重要である。
 これらの情報を汚す、ノイズ除去処理、歪補正、動揺補正、位置ずれ修正、大きなノイズに埋もれた僅かな信号を的確に抽出する差分解析技術、音速と反射吸収減衰から土質の密度を推定する、P波とS波の伝搬特性から物体の劣化を推定する、時空間的に変動する不要な信号と時間的にゆっくり移動する有用な信号を識別抽出する、プルームとプランクトンや魚を識別する技術開発に取り組んできた。水中気泡の定量化、水中の気泡や砂泥に覆われた被写体を復元する技術、などの取り組みを紹介してきた。また、測位、計測技術を踏まえた総合的な映像信号処理の重要性も強調したい。



【著者紹介】
浅田 昭(あさだ あきら)
東京大学 名誉教授

■略歴

  • 昭和52年3月早稲田大学工学部電気工学卒業
  • 平成7年10月東京大学理学博士授与
  • 昭和54年4月海上保安庁海洋情報部入庁
  • 平成12年4月東京大学生産技術研究所教授
  • 平成25年4月東京大学生産技術研究所海中工学国際研究センター長
  • 平成31年3月定年退職
  • 令和元年6月東京大学名誉教授

学会活動:
WSS2008,Scientific Committee (平成20年)
IEEE/OES Japan Chapter , 表彰選考委員(平成20年)
海上保安庁UJNR海底調査専門部会, 日本側技術顧問(平成22年)
UT2013, Technical Committee Co-chair (平成25年)
TECHNO-OCEAN General Co-Chairs (平成30年)