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IoT時代のセンサ技術について(3)

栗山敏秀
((一社)次世代センサ協議会 理事 IoTセンサ技術研究会)

3.IoT時代のセンサ信号

センサは「センサ(千差)万別」と言われるように種類が多く、動作原理や応用分野も異なるのでここでは個々のセンサについては議論せず、使用する立場から図3の従来型センサシステムと図5のIoTセンサシステムついて考える。
一般にセンサの出力信号は微小であるため信頼のおけるセンサ情報を取り出すためには、センサ自身のノイズとともに外部からのノイズにも注意を払う必要がある。例えば、信号回路ではセンサのmV程度の出力信号を3.3~5Vの電源をもつディジタル回路であるマイコンに入力するためには、100~1000倍に電圧を増幅する必要がある。その時、何もしなければ外部から入るノイズも同時に増幅されるが、シールド(電磁遮蔽)、フィルタ、熱変換(フェライトなどを使用)、差動伝送技術などにより外部ノイズを防ぐことができる。
また、逆にディジタル回路からの影響も考慮する必要がある。センサとマイコンを同一基板に製作する場合、マイコンの動作時に電源(グランド)の電位が変化し、それがノイズとなりセンサ信号に影響を与えることがある。一般には、プリント基板上のグランド面積を大きくしたり、アナログ回路のグランドとディジタル回路のグランドを一点だけで接続することにより防ぐことができるが、ノイズの小さいマイコンを選択したりキャパシタ(コンデンサ)を使用することも重要である。

図8 マイコンのノイズ 抑制回路

図8は、マイコン近傍におかれたキャパシタ(ノイズを伝わらなくするという意味で、デカップリングキャパシタと呼ばれる、電源供給という立場から見るとバイパスコンデンサと呼ばれる)の効果を高周波電流測定用の磁界プローブにより測定した結果である。キャパシタのためにLSIから外に出てゆく電源ノイズが減少していることが分かる。

また、外部からの妨害電波に対する電磁ノイズ耐性は自動車などの使用環境が厳しい状況で重要で、高周波電界を印加するテストが行われている。ほかの機器、システムからの電磁妨害を受けても自身も満足に動作する耐性は(EMS: Electro Magnetic Susceptibility、電磁耐性)と呼ばれている。
これらの電気的特性は、SI(Signal Integrity:信号品質)、PI(Power Integrity:電源品質)、EMC (Electro Magnetic Compatibility:電磁両立性)と呼ばれ電子機器を設計する上で考慮される。最後のEMCは、EMSとともに電子機器が発する電磁妨害波(EMI: Electro Magnetic Interference、電磁妨害)がほかのどのような機器、システムに対しても影響を与えないことも含んだものである。
IoT時代を象徴するものにスマートフォンがあり多数のセンサが使われているが、狭い機器の中に信号の大きさの異なる部品(電波の送信回路、受信回路、アンテナ、各種センサ、LSI)が搭載されているため、それぞれの回路がすべて正常に働くためには、上記のSI、PI、EMC設計が重要である。

図9 回路設計、電磁界 解析技術

図9はスマートフォンのハードウェア設計に使用される技術を表している最初に図1でCPUのクロック周波数の年代変化を示したが、現在スマートフォンで使用されているクロック周波数は2GHz前後で、スマートフォンの無線通信のキャリア周波数を上回っている。そのため、センサやLSIなどの小型電子部品は集中回路で扱われるが、それらが搭載されたプリント基板は分布定数回路で扱われ、電波に関するアンテナと装置内の電磁干渉(EMC)は電磁界解析技術が使われる。

インテリジェントセンサーの時代と巨大化するソフトウエア(3)

三田典玄(ITコンサルタント、元慶南大学校(韓国)教授)

●なぜOSSを使うのか?

なぜOSSを使うのかというと、同じ機能ものが、より低いコストで開発できるから、ということだ。そしてソフトウエアの開発費用というのは、そのまま人件費である。人件費も悠長に垂れ流すわけにもいかない。現代は開発競争の時代であり、ソフトウエアの検証などの時間を取られていることさえ惜しい。まごまごしていると、すぐに競合他社が追い抜いていき、より機能の高い製品をより短期でリリースする。そういう時代なのだ。

筆者が関わった例を掲げると、こういうことがあった。あるシステムでOSSのOSを使ったものがあり、それが何が原因か時々停止する。しかし「なぜ停止するか」を追求している時間はない。追求すればもちろん原因をつかめて、バグを修正できるだろうが、当然そのための時間がかかり、納期は確実に遅れる。納期が遅れているあいだに、競合他社は新製品を出して、自社を追い抜いていく。「原因を追求する」などと悠長なことは言っていられない。仕方なく、OSが止まったら、全てが動かなくなるので、動かなくなったことを検知するハードウエアを外部に用意し、それがシステムが止まったことを検知すると、コンピュータの電源を切って、入れ直す、ということを自動的に行う「ウォッチドッグ」という仕組みを付けざるを得なかった。昔であれば「なにを情けないことを技術者はやっているのか?」ということになっただろうが、いまはこれは「当たり前」である。ハードウエアやソフトウエアの巨大化、複雑化は止めようもなく、こういった方法での「トラブル回避」は普通のことになっている。

●インテリジェント型センサーでも重要な「ソフトウエア」

UberのLiDARの死亡事故の例を見てもわかると思うが、今回はメインの航行コンピュータの中のソフトウエアの問題が死亡事故につながった。しかし、センサーの中にもコンピュータがあり、ソフトウエアで動いていることを考えれば、今後、LiDARのセンサーのソフトウエアの問題で事故が起きることもあるのかもしれない。もちろん、筆者は無いことを祈るが、現状では私は祈る以上のことはできない。願わくば、LiDARのソフトウエアに限らず、過度の競争そのものの停止など、なんらかの法的拘束が考えられるべきではないだろうか?と考えている。「LiDARセンサーが原因の死亡事故」。それは、起きる確率はゼロではない。

LPWA(Low Power Wide Area)が繋ぐセンシングネットワーク(3)

三田 典玄(本誌企画運営委員)

●各国のLPWAの現状

韓国:
韓国ではSKテレコム社が韓国のほぼ全域でのLoRaWANの電波が届く。このインフラの上に、中小のサービス業者が様々なビジネスを発表している。一例として「Spacosa社」が、「Pger」というLoRaを使ったシステムを発表しており、間もなくサービスを全国展開する。小さなGPSつきのキーホルダーにLoRaの通信モジュールが組み込まれており、キーホルダーを持つ子供やお年寄りなどの迷子などの探索を行う。

中国:
中国IT市場の著名なレポートによれば、中国の機器間(M2M/IoT)市場は2020年までに10億のデバイスをつなぐことになり、そのほとんどがLPWAになる、とレポートしている。中国では、スマートフォンで有名なHuawei社のNB-IoT、土木やプラントなどの重工業系で使われるという「RPMA」など、日本で普及し始めているLoRaとは違う形式のものが多く使われる予想もある。

米国:
米国では、各種のLPWAがサービスとして提供され、百花繚乱の様相を見せており、現状ではどの規格が優位か、という「業界地図」が見えないほどである。なお、LoRaを使い、KDDIの資本を入れたSORACOMが米国展開を発表している。

東南アジア諸国:
東南アジア諸国(タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、他)もLPWAは注目されているが、まだ決まった規格が優勢、ということはなく、各規格がしのぎを削っている、というのが現状だ。

●将来のLPWA

LPWAは現在、インターネットを基幹として、その「ラストワンマイル」の低速通信を補うもの、という位置付けの商品やサービスが多く、実際、LoRaなどの規格はそれを前提としている。しかしながら、災害などの利用という面では、基幹システムであるインターネット網そのものが被災地では使えなくなる、ということを考えれば、「ラストワンマイル」ではなく、むしろ災害時においては、低速ながら情報のやり取りができる、という非常時の基幹システムでの利用が促進されることが望ましいだろう。また、現在、日本でLPWAを商品ラインとしている業者は数多く出てきたものの、自社でチップやプロトコルまで考案し作れる業者は限られており、これらの基礎的な部品を作れる業者の育成も、日本の産業を考える上では課題であると言える。LPWAの市場はこれから大きくなる、という観測がどの国でも見られるが、これまでにあるWi-Fiなどの無線システムや既に基礎的な敷設が終了していると言われている携帯電話網(3G/4G/5G)との差別化において、特にコストや低消費電力などの面で大きなアドバンテージが出せるアプリケーションを用意できるかどうか?ということが、大きなLPWAの今後の普及に影響するファクターとなるだろう。

個人データの標準化が進む

ITmediaの記事によれば、欧州で始まった「GDPR(General Data Protection Regulation)」を受けて、Google,Facebook,Twitter,Microsoftの各社間で「個人テータの標準化」が進んでいる。なぜかAppleが無いが、検討は進んでいるとのこと。

Androidがなくなり「Fuchsia」になる

AndroidRobot

Copyright(c)2019 Google Inc.,

Bloombergの報道によれば、Googleは現行のスマートフォン/タブレット用OSである「Android」を、新OS「Fuchsia」に置き換える計画とのこと。


ITメディアの記事
によれば、タクシーなどで有名な「日の丸交通」と「ZMP」社は、共同で、「自動運転タクシー」の実証実験を行い、2020年には実用化を目ざす、と発表したとのこと。予約、詳細はこのページにまとめられている。実証実験では万が一の場合を考え、運転者が同乗するとのことだ。

「au HOME」が「Google Home」連携を強化、声だけでメッセージを送信

KDDIと沖縄セルラーは7月18日、ホームIoTサービス「au HOME」とスマートスピーカー「Google Home」の連携を強化し、声だけでメッセージを送信できる新機能を追加すると発表した。8月7日に提供を開始する。

au HOMEは、スマートフォン(スマホ)とセンサやネットワークカメラ、開閉センサなどの「au HOMEデバイス」を活用して、外出先でも専用アプリ「au HOMEアプリ」から自宅のドアの鍵や窓の開閉状況の確認や、自宅にいる家族やペットとのコミュニケーションが可能なIoTサービス。2017年7月31日にローンチし、もうすぐ1周年を迎える。

追加する機能は、Google Homeに呼びかけるだけでスマホが手元になくても、au HOMEアプリに通知を送ることができる。スマホをもたない子どもや非常時の連絡手段などが活用シーンにあげられる。au HOMEアプリから連携させたカメラを起動したり、セコムを要請したりすることもできる。

新機能はGoogle Homeのみの対応となるが、ほかの機能については「Googleアシスタント」「Amazon Alexa」を搭載するスマートスピーカーすべてに対応している。

また、ドアの開閉とエアコンや照明のスイッチが連動するなどセンサによって家電を自動操作できる「シーン設定機能」も新たに追加。au HOMEデバイスは、おしゃれなデバイスが欲しいという要望に応えて、開閉センサ、モーションプラグ、スマートプラグ、ネットワークカメラのラインアップを拡充する。シーン設定機能と新デバイスの提供は、8月下旬以降を予定している。

ニュースサイト:https://www.bcnretail.com/news/detail/20180718_77751.html

IoT時代の光ファイバセンサー(2)

梶岡 博
((株)グローバルファイバオプティックス 代表取締役)

3.光ファイバセンサー

3.1 光ファイバ

光ファイバが登場しておよそ半世紀が過ぎた。光ファイバは図3.1に示すようにコアとクラッドと被覆から構成される。ほとんどの光ファイバはコアの屈折率がクラッドより大きく光はコアとクラッドの界面で全反射を繰り返して伝搬する。コアの大きさとコアとクラッドの屈折率差で伝搬するモード数が決まる。光ファイバの構造上の分類を図3.2に示す。光ファイバはモード数、屈折率分布、材質、機能によって分類できる。

図3.1 光ファイバの構造
図3.2 光ファイバセンサーの分類

光は比較的波長の短い電磁波である。図3.3に電磁波の周波数(波長)と伝送できる材質を示す。現在までに紫外からテラヘルツまでの光ファイバが製品化されている。特殊な機能の光ファイバとしてパワー伝送用ファイバがある。熱によるダメージ閾値はコアが純水石英の場合1GW/cm2である。コア直径が500μm、NA=0.22の場合に1.96MWまで伝送可能である。パワー伝送用ファイバは主に医療用に使われるが近年通信用の光ファイバで10W程度のパワー伝送ができ、カメラを駆動できたという報告がある。
MEMSなど低消費電力のセンサーの駆動は光ファイバによる電力伝送で可能となっている。

図3.3 各種材質ファイバと伝送できる波長

3.2 光ファイバセンサー

光には強さ、周波数(波長)、位相、偏波面の4つの属性がある。光ファイバセンサーの概要を図3.4に示す。光ファイバセンサーは温度や歪などの物理量が変化した場合に上に述べた光ファイバを伝搬する光の属性の変化を種々の効果を利用して計測する。この場合光ファイバ自体がセンサーの場合はintrinsicと呼ばれる。物理量などの変化を検出する部分が光ファイバの外部にあり、光ファイバは単に信号伝送に用いられる場合はextrinsicと呼ばれる。

図3.4 光ファイバセンサーの概要

さて光ファイバセンシング技術の発展は光ファイバ通信の開発経緯と平行するが本格的にR&D成果が国際的に共有されるようになったのは1983年にロンドンで開催された第1回の光ファイバセンサー国際会議(OFS-1)以降である。その後OFSは18か月ごとに各国持ち回りで開催され、昨年4月に韓国済州島で第25回が開催された。本年は9月にスイスで第26回の開催が予定されている。このように光ファイバセンシングに関してはこれまで様々な種類の物理量のセンシングが検討されて来た。また啓蒙的な論文や書籍も多数存在する。参考になる文献を2つ上げると、ひとつはWileyが2002年に発刊した “Handbook of Optical Fibre Sensing Technology”, Jose Miguel Lopez-Higuera (editor) , もう一つは光防災センシング振興協会が2013年に発刊した「光ファイバセンサ入門」である。特に前者は828ページの書籍で光ファイバが登場してから約25年間に開発された光ファイバセンサーが網羅されている。筆者も第28章で”Fiber Optic Gyroscope for Industrial Applications” を執筆している。

さて光ファイバセンサーには本質的に軽量、小型、多重化が可能、電磁誘導を受けない、安全防爆性、センサー部に電源を必要としないなどの多くの特徴がある。特に石英系光ファイバには広帯域・低損失性があるので分布センサーや準分布センサーで広範囲な環境のモニターに適用できる。分布センサーは光ファイバ内のレーリー散乱やラマン散乱、ブリルアン散乱などの非線形散乱やファイバブラッググレーティングなどの後方光を利用する。表3.1に光ファイバ分布型計測方法の比較を示す。

表3.1 光ファイバ分布型計測方法の比較

はじめにBOTDRによる光ファイバの長手方向に分布した歪のセンシングについて説明する。本センサーは図3.4の分類によれば光ファイバ自体の非線形性を利用するのでintrinsicなセンサーであり光ファイバの非線形現象を利用して後方散乱光の信号光に対する周波数シフト(ストークス光)を計測するものである。一般にブリルアン散乱光の強度は微弱なので歪の位置精度を向上させるために解析時間が数分程度かかる。しかし近年東工大の水野洋輔助教と中村健太郎教授らがブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)という 入射光に巧みな周波数変調を施すことで、特定の箇所で生じたブリルアン散乱信号のみを選択的に抽出し、分布測定を実現する手法で計測時間を3桁以上改善したという報告がある。また東工大の中村研究室では光ファイバとしてグレーディッド(GI)型屈折率分布を有するPOF(プラスティックファイバ)を用いて50~100%の伸び歪をBOTDRで測定する研究がおこなわれている。

図3.5 ROTDRを利用した光ファイバ温度レーダ

次にROTDRによる分布温度センシングについて説明する。図3.5に測定系を示す。本センサーも光ファイバ自体の非線形性を利用するのでintrinsicセンサーである。このセンサーの原理はラマン散乱のストークス光とアンチストークス光の強度の比が絶対温度の関数となるというものである。通常は温度の計測精度が±1~2度である。また位置情報は1mおきである。日立金属(旧日立電線)の温度レーダFTRはこの原理による。光ファイバは石英系のマルチモードGIファイバやSMファイバが使われている。次に光ファイバとして図3.3に示したカルコゲナイド系As2S3ファイバを使ったROTDRの例を紹介する。出典はオーストラリアのシドニー大学とDefence Science and Technologyのグループによる論文”Chalcogenide fiber-based distributed temperature sensor with sub-centimeter spatial resolution and enhanced accuracy” Optics Express、Vol. 22,Issue 2,pp. 1560-1568(2014)である。本論文によるとカルコゲナイドファイバの高ラマン非線形係数により、空間分解能は数cmで温度制度は計測時間2分、5秒での温度制度はそれぞれ±0.65度C,0.2度Cであった。同ファイバの伝送損失は石英系に比べてかなり大きいので計測レンジは数mであるがエンジン内部の微細な温度分布のセンシングに適している。

本章の最後に最新の光通信の国際会議における光ファイバセンシングの動向を紹介する。OFC2018では”Optical Fiber Sensors”というカテゴリーで6件、ECOC2017では”Fibre Characterisation and Sensing”というカテゴリーで2件、ECOC2016ではポスターセッションで1件の合計9件の発表があった。
表3.2に9件の発表の要点を示す。3つの国際会議の発表を見ると光ファイバの広帯域低損失性を活用した分布型センシングが多くみられる。またSMD用に開発されたマルチコアファイバやFewモードファイバなどの新規な光ファイバの計測への適用が検討されている。OFC2018のW1K.4は蜘蛛の糸(たんぱく質)をコアとしたいわゆるUnclad(空気コア)ファイバのセンサーへの適用の研究であるが、スイスのローザンヌ工科大、ベルギーのGhent大、英国オックスフォード大とカナダのCCTT-Optechの連名であり精力的な研究がおこなわれている。蜘蛛の糸は可視域から1400nmまで伝送損失が数dB/kmで高い複屈折率(~10-3)を有していることがわかった。口から20cm離れたところの息による湿度変化が計測できている。

表3.2 最近の国際会議のセンサー関連の発表論文

IoT時代のキーデバイスMEMSセンサ(2)

江刺正喜
(東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター)

2. ウェハレベルパッケージングによる圧力センサ (センサ + (回路) + パッケージ)

センサの多くは測定対象に装着して使われるが、圧力センサの場合は圧力以外の影響を受けないようにセンサを外部から保護する必要がある。このためのパッケージングは、センサの安定性だけでなく小形化や低コスト化にも重要な要素で、これをウェハ状態で行うウェハレベルパッケージングが有効である。

シリコンに形成した薄いダイアフラムが両側の圧力差によって変形するのを検出するのに、ダイアフラムに加わる歪を抵抗変化として検出するピエゾ抵抗型と、ダイアフラムと対抗電極との間隔を静電容量変化として検出する静電容量型がある。

図5はウェハレベルパッケージングによるピエゾ抵抗型圧力センサの写真と製作工程である4)。N型のシリコンウェハに、ピエゾ抵抗用のp+型拡散層を形成する。これに穴の開いたガラスを陽極接合するが、これは400℃でガラスに-500V程の電圧を印加すると、静電引力により界面で共有結合する方法である。ガラスの孔に配線取り出し用の金属を堆積させた後、裏面のシリコンをエッチングして薄いダイアフラムを形成する。その後リード線を取り付けた後、1.5mm角の各チップに分割して完成する。図5の左上のようにガラスを通してみるとニュートンリングが見えるが、これは大気圧下で接合した時の温度Tが670Kで、室温(270K)にするとボイル-シャルルの法則(PV=nRT)よって、圧力Pが約0.4気圧と減圧になってダイアフラムが変形していることによる。この圧力センサは補助人工心臓に取り付けて血圧を連続モニタするのに用いられた5)

図5. ウェハレベルパッケージングによるピエゾ抵抗型圧力センサ

このウェハレベルパッケージングを用いると、チップに分割するときにセンサ部が保護されて信頼性が上がる。チップサイズのセンサを封止された状態で得られだけでなく、容器や組み立て装置が不要になり3割ほどのコストで実現できる。このためいろいろなセンサなどに用いられている6)

図6はウェハレベルパッケージングによる集積化容量型圧力センサである7)。この集積化容量型圧力センサでは、圧力によるダイアフラムの変位による微小な静電容量を検出するため、容量検出用のCMOS集積回路を内部に形成してある。図7のような原理で、この容量検出回路によって出力周波数がセンサ容量で変化する。この周波数は、2本の電源線だけでその電流変化として測ることができ、また温度や電源電圧の影響を受けないように作られている。このセンサは微圧用センサとして実用化され、エアコンのフィルタにおける目詰まり検出などに用いられた8)

図6. ウェハレベルパッケージングによる集積化容量型圧力センサ
図7. 集積化容量型圧力センサの回路と特性

文献

4) M. Esashi, Y. Matsumoto and S. Shoji, Absolute pressure sensors by air-tight electrical feedthrough structure, Sensors and Actuators, A21-A23 (1990) 1048-1052

5) S. Nitta, Y. Katahira, T. Yambe, T. Sonobe, H. Hayashi, M. Tanaka, N. Sato, M. Miura, H. Mohri and M. Esashi, Micro-pressure sensor for continuous monitoring of a ventricular assist device, The International Journal of Artificial Organs, 13, 12 (1990) 823-829

6) M. Esashi, Wafer level packaging of MEMS, J. of Micromechanics and Microengineering, 18 (2008) 073001(13pp)

7) 松本佳宣, 江刺正喜, 絶対圧用集積化容量形圧力センサ, 電子情報通信学会論文誌C-II, J75-C-II, 8 (1992) 451-461

8) T. Nagata, H. Terabe, S. Kuwahara, S. Sakurai, O. Tabata, S. Sugiyama and M. Esashi, Digital compensated capacitive pressure sensor using CMOS technology for low pressure measurements, Digest of Technical Papers Transducers’91, San Francisco, USA (1991) 308-311

インテリジェントセンサーの時代と巨大化するソフトウエア(2)

三田典玄(ITコンサルタント、元慶南大学校(韓国)教授)

●マルチプロセッサの時代

そういう意味で言えば、LiDARは「コンピュータつきセンサー」であり、センサーそのものではない、ということがわかるだろう。そして、LiDARの性能を決めるのは、センサーそのものの性能もさることながら、そのセンサーのデータを処理するソフトウエアである、ということになる。こういったコンピュータ付きセンサーのことを「インテリジェント型センサー」と呼び、現在は既に多くの「インテリジェント型センサー」が多くの場所で使われている。たとえば、スマートフォンなどの電池の温度を測る温度センサーは、小さな温度計測のための「熱電対」と、それをデジタルデータ化する「A/D(Analog/Digital)コンバーター」、そして、「コンピュータ」が一体になったものだ。小さなチップから出る温度データは、直接スマートフォンのメインコンピュータにデータを送る仕組みになっている。半導体や熱電対の温度センサーでは、その出力の電圧は温度に比例しないのが普通で、これまではアナログ回路でその特性を温度に対して直線的に電圧を出す「リニアライザ」という電気回路を使って、その電圧を読んだのだが、現在は温度に対して非線形な温度センサーから出るレアなデータをそのままデジタルに変換し、内部のソフトウエアによって、実温度の値を引き出す、という仕組みに変わった。この仕組によって、複雑なアナログ回路であるリニアライザは必要なくなり、温度のキャリブレーションも、ソフトウエアの数値のみを変更すれば良くなり、校正も非常に楽になったことは言うまでもない。こういった「小さなコンピュータ」も含めると、私達が普段使っているスマートフォンの中には「コンピュータ」と呼ばれるものは数十個入っている、ということになる。

●進化するLiDARのキーは「ソフトウエア」だ

2018年5月22日のニュースによれば、ドイツの有名自動車メーカーBMW社の自動運転車製品には、イスラエルのスタートアップ企業である「Innoviz」社のLiDARセンサーが選ばれるとのことだ。「Innoviz」社はスタートアップなので、これまで多くの実績があるわけではない。しかし、BMW社がこの企業を自動運転車の要となる「LiDAR」のメーカーに選んだのは、ひとえに、そのセンサーの内蔵するソフトウエアが非常にインテリジェンシーが高く、メインの航行コンピュータの負担を激減するからだ、とのことだ。つまり、センサーもインテリジェントが当たり前になり、その要となるソフトウエアで評価される時代になったのだ、ということであるのは、時代の流れを感じさせる出来事だ。既にセンサーは単体の時代ではなく、センサー自身が「システム」の時代である、ということでもある。要は「ソフトウエア」だ。考えて見れば当たり前のことだが、時代とともに電子機器が複雑化する流れは止めようもない。この流れでいけば、複雑化した電子機器は、それぞれが複雑な複数の電子機器の集合体となる他はない。「センサーのシステム化」は当たり前の流れであり、センサー個々の性能が十分に検討されると同時に、複数のセンサーを束ねてデータ処理をしてメインのコンピュータにデータを送るコンピュータのソフトウエアが非常に重要なものになるのは、時代の流れと言っていい。

●Uberの事故の原因とOSS(Open Source Software)

複雑な電子機器は、より複雑になるものの、自動車の航行システムなどでは、当然人命が直接関わる重要なものにもなるため、そのセンサーのみならずソフトウエアの重要性が増すのは言うまでもない。今回のUberの事故の調査結果については、続報が各所で出ているが、まとめると、LiDARセンサーから出たデータをメインの航行コンピュータが受け取ったが、航行プログラムがそれを処理しきれず、人の姿を認識できなかった、ということにあったという。つまり、簡単に言えばソフトウエアのバグである。ちなみに、現代のソフトウエアは1行1行のプログラムをしっかりと作る、という作り方はほとんどない。コンピュータの要となるOS(オペレーティングシステム)からして、現在はOSS(Open Source Software)と呼ばれる「無料のソフトウエア」の塊である。OSSはインターネットのどこかにあるものをダウンロードしてきて、それを複数組み合わせて目的のソフトウエアを作る。たとえば、最近話題の家庭などで使われる「スマートスピーカー」も、スマートフォンなども、OSSの組み合わせで出来ていることが普通だ。そして、そのOSSの1つを手に取ってみると、他のOSSのを組み合わせて作っている、というものさえ出てきていて、それが当たり前になっている。したがって、ソフトウエアの検証をする、と言っても、そのプログラムのコードの1行1行を開発者が把握している、ということはほとんどない。つまり、自分が作ったものではないから、そこでバグが発生すると、原因さえわからない。万事休す、ということも往々にして起きることになる。OSSに限らないが、ソフトウエアにはバグがつきものなので、バグはあるもの、と思ってシステムを設計しなければならない。