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千葉大ほか、光渦の照射による金ナノインクの超精細パターニングに成功

 千葉大学分子キラリティー研究センターの尾松孝茂教授、宮本克彦准教授、青木伸之教授、千葉大学大学院融合理工学府の魏榕さん、川口晴生さん、佐藤魁哉さん、甲斐清香さん、北海道大学大学院工学研究院の森田隆二教授、山根啓作准教授、大阪公立大学大学院理学研究科の柚山健一講師、大阪大学大学院基礎工学研究科の川野聡恭教授らの共同研究グループは、金ナノ微粒子が分散する懸濁液(金ナノインク)に光渦(注1)を照射することで、従来のインクジェット技術の限界を凌駕する微小なドットが印刷できることを実証した。さらに印刷されたドットの内部は金ナノ微粒子が高濃度に充填されていることを発見した。この結果は熱処理しなくても高い電気伝導を示す高精細な金ナノインク印刷が可能であることを示唆するとのこと。

 この印刷技術は、半導体インク材料や他の金属インク材料にも適応できるため、次世代プリンタブルエレクトロニクス技術の基盤技術としてフレキシブル回路の量産技術などへ発展することが期待される。
本研究成果は、2024年3月11日(現地時間)に学術誌APL photonicsにてオンライン掲載された。

●研究の背景
 近年、電子デバイスのフレキシブル化や製造のオンデマンド化の需要の高まりに伴い、半導体・電子製品などを印刷(プリンティング)して製造するプリンタブルエレクトロニクス技術に注目が集まっている。

 しかし、従来のインクジェット印刷技術ではノズルが目詰まりを起こすため、高粘度材料の印刷が困難であった。それを可能にしたのが、レーザー誘起前方転写法(注2) (Laser-Induced Forward-Transfer: LIFT)である。LIFTは、パルスレーザー加熱によってドナー膜(転写したい材料)に形成されたキャビテーションバブル(液体中で圧力の急激な変化によって発生する微小な気泡)の膨張・収縮によってドナーの液滴が吐き出されてレシーバー基板に転写される現象で、次世代プリンタブルエレクトロニクスの印刷手法として期待されている。

 しかし、LIFTはドナー物質の液滴が吐出される方向を制御することは原理的に不可能だった。この課題を克服するため、研究チームは光渦と呼ばれる特殊なレーザー光を用いた光渦レーザー誘起前方転写法(光渦LIFT)を考案した(図1)。光渦はらせん状の波面を持つ光波の総称であり、照射した物質にトルク(軌道角運動量)を与えることが知られています。光渦の軌道角運動量がLIFT現象によって吐出された液滴を自転させる。その結果、液滴が安定して直進飛翔するため、より精密にプリントすることが可能になるという。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000818.000015177.html

SAR衛星(Xバンド)による地表面沈下計測システムの開発と現場適用について 
Development of a Land Surface Subsidence Measurement System Using SAR Satellite (X-Band) and Its Application in the Field(2)

五十嵐 善一(いがらし ぜんいち)
株式会社パスコ
新空間情報事業部
五十嵐 善一

3.シールド工事の適用内容

 本研究は、京都市上下水道局発注のシールド工事(シールド機外径:φ2,890mm、掘進距離:1,176m)を対象とした。当該地区は、駅周辺の戸建住宅及び集合住宅が密集するエリアである。工事内容を図-6に示す。シールド掘進のルートを図―7に示す。道路線形に合わせたルートとなっており、途中に急曲線箇所があり、地表面沈下が懸念される。
 SAR衛星は、2015年10月27日から2016年12月29日までの1年2か月の期間で計画線全長を幅100mにわたり30回撮像を用いて解析を行った。

図―6 適用工事の内容
図―6 適用工事の内容
図―7 シールド工事の掘進線形図
図―7 シールド工事の掘進線形図

4.SAR衛星の沈下計測の精度確認方法と結果

 SAR衛星による沈下計測結果と現場のレベル測量した結果を図-8、図-9および図-10に示す。本工事の完成時点における沈下状況は、現地のレベル測量において平均-0.73mm(標準偏差1.37mm)、SAR衛星による沈下測量において平均-0.7mm(標準偏差1.58mm)であり、工事に伴う沈下は軽微であった。SAR衛星による沈下測量の精度は、現地レベル測量結果を真値とした場合、平均二乗誤差(以下、RMSE)において、1.81mmの結果であり、mm単位の精度であることを確認した。シールド機の掘進に合わせて3-4mm程度の地表面沈下が確認できた。2)

図―8 沈下計測結果
図―8 沈下計測結果
図―9 精度検証結果(N=154)
図―9 精度検証結果(N=154)
図―10 シールド掘進に伴うSAR衛星による沈下計測結果
図―10 シールド掘進に伴うSAR衛星による沈下計測結果

5.まとめ

 本研究では、新川第6排水区新川6号幹線(雨水)(その1)公共下水道工事において、SAR衛星による地表面沈下計測を試みた。
 その結果、現場のレベル測量と同程度(RMSE1.81mm、最大誤差4.98mm)の良い精度で沈下傾向を面的に捉えることができた。シールド機の掘進に合わせて、到達前は、沈下傾向はみられず、到達とともにmm単位の沈下傾向を捉えることができた。
 課題としては、現場沈下計測を開始する前に、15-20枚以上のSAR画像が必要であることと、SAR衛星による沈下計測は、短くても11日周期となることから、リアルタイムでの計測はできないので、日単位で測量する現地沈下測量を補完するという位置づけとなることである。本研究後に、TerraSAR-Xの3号機が打ち上げられ、2023年12月現在においては、11日周期が、7日及び4日周期での観測が可能となったものの、毎日の観測や、24時間の連続観測ができるまでには至っていない。
 従来道路上で行われていたレベル測量に加え、SAR衛星を利用し、住宅地や商業地等を衛星で監視することにより、安全・安心に配慮した施工管理へ繋がることと考える。
 なお、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に「SAR衛星による時系列地盤変動モニタリング」(KT-230006-A、開発2012年、登録2023年)として登録して、最新情報を提供している。



参考文献:

  1. 報道資料:シールドトンネル工事における地表面変位測量に人工衛星を活用:
    株式会社奥村組、株式会社パスコ:平成29年9月14日:
    https://www.pasco.co.jp/press/ から検索表示


【著者紹介】
五十嵐 善一(いがらし ぜんいち)
株式会社パスコ 新空間情報事業部 事業推進部 顧問

■略歴

  • 1979年大阪大学工学部土木工学科卒業
  • 1979年株式会社奥村組入社
  • 2016年株式会社奥村組入社定年退職
  • 2016年株式会社パスコ入社
  • 2020年株式会社レンタルのニッケン顧問職にて入社
  • 2022年株式会社オリンポスの顧問職にて入社
  • 現在、株式会社パスコ、株式会社レンタルのニッケン、株式会社オリンポスの3社の顧問職を担当

3,000m 対応 AUV「Deep1」10 年間の活用(2)

高橋 裕和(たかはし ひろかず)
深田サルベージ建設株式会社
東京支社 海洋開発部
高橋 裕和

4. 巡航式フォトサーベイの海域試験(2021年)3)

 海底資源調査において、写真情報は音響的イメージより情報量が多く、サイドスキャンソナー(SSS)イメージの「癖」を知らない者でも海底状況を直感的に理解しやすい。しかしながら、I.S.EエンジニアからこのCathx Ocean社製の光学式カメラシステムを紹介されたとき、「複数の画像を繋ぐことでツギハギ跡が残って見づらい結果にならないか?」、「さほど鮮明な画像にはならないのではないか?」といった疑問を投げつけた。彼らは「空中ドローンの画像解析を応用するのでツギハギは気にならない」、「2方向から光を当てるので、レンズ直下の浮遊物をある程度は写らなくできる」と回答してきた。にわかに信じづらかったが、実際にバンクーバーのフィヨルド「Indian Arms」の撮影テストに立ち会った際には、岩場に潜むカニやヒトデまで正確に写った画像を見せられて大変驚いた。
 弊社は、巡航型AUVに光学式カメラを搭載したこの撮影手法を「巡航式フォトサーベイ」と名付けた。
 カナダI.S.E社で本システムを搭載後、巡航速力1.5m/sによる効率的な潜航条件を知るため、駿河湾三保沖の沈船撮影(水深130~140m)の海域試験を行った。衝突回避のためAUV高度8mとし、重複率確保のため測線間隔1m、重複率:縦方向64%・横方向86%(使用画像723枚)で潜航、撮影を行った。
 撮影効率を上げるためには測線間隔を広げ、取得画像の横方法の重複率を下げたい。この解答を得るため、取得したデータをもとに、測線間隔2m/重複率73%、3m/60%、4m/46%の設定でオルソモザイク図の比較を行った。搭載されたシステムの機材配置及び測線間隔を図3に示す。

図3 光学式カメラシステムの機材配置及び測線間隔
図3 光学式カメラシステムの機材配置及び測線間隔

 本海域試験の結果、AUV飛行高度8m、速力1.5m/sの場合、測線間隔3m、横方向の重複率60%以上が最適との結果を得ることができた。この結果から、AUV「Deep1」が18時間の潜航を行った場合、291,600m2の面積、分かりやすく換言すると「東京ドーム球場、約6個分」の海底撮影が可能であることがわかった。沈船の撮影結果を図4に示す。(取得画像からモザイク図作成までの解析・処理は川崎地質会社の協力による)

図4 沈船の撮影結果(MBES及びSSSとの比較)
図4 沈船の撮影結果(MBES及びSSSとの比較)

 このような巡航式フォトサーベイによる写真撮影と、MBESやSSSの計測結果を組み合わせることで、海底資源量評価の確度が更に向上することが期待できる。

5. 維持管理の苦労(2023年)

 センサ関連のジャーナルでは蛇足かもしれないが、最後にAUVをはじめとする深海機器の維持管理についてお話ししたい。
 AUVやROVといった深海機器は「1ダイブ・1トラブル」と言われるくらい、警報アラームが鳴る。潜航時に発生した警報、機器不具合に関する情報も、この10年間でそれなりに蓄積された。品質管理の視点から、約40の不適合・不具合記録をもとに、「業務中の不適合発生ゼロ(メカダウン・ゼロ)」を検討した。
 故障しない機械(AUV)など存在しないし、緊急時のために2機目のAUVを常時待機させるわけでもない。AUV運用チームの目標は、「業務中」の機器トラブルによる客先の仕様の未達成を回避するため、「業務外」の時間にやっておくべきことを整理・シナリオ化・実行することである。
 これは「機器の不具合」と「業務の不適合(弊社ISO9001マニュアルの定義)」とは異なることを意味している。機器に不具合が発生にても、予備品を準備して短時間で交換し、調査潜航が再開できれば、それは「予備品の準備・交換作業の習得」という予防処置が機能したことを意味する。よって「業務中の不適合」ではない。このシナリオ化の概略図を図5示す。

図5 AUV維持管理のためのシナリオ化(概略図)
図5 AUV維持管理のためのシナリオ化(概略図)

 過去の約40の不適合・不具合情報を整理すると、その対策は(1) 予備品管理、(2) 教育訓練及び力量アップ、(3) 協力要員の選定、(4) 運用記録・不適合等報告書の活用の4項目に分類された。これら4項目を達成するためのアクション(是正策)をシナリオ化し、最終的には唯一つの目標「業務中の不適合発生ゼロ(メカダウン・ゼロ)」達成の確度を上げていく。すなわち、これは弊社の安定したAUVオペレーションの提供が「客先の仕様書の達成」と完全にシンクロすることを意味している。
 これからも事前のシナリオ化を充実させることにより、弊社は引き続きAUV1機体制で安定したオペレーションを継続していくだろう。

6. おわりに~2024年、これからの活用

 本稿では、弊社所有AUV「Deep1」の導入からアップグレードの歴史、新たに提案している巡航式フォトサーベイとAUVの維持管理についてお話しした。
 近年の海洋環境に関する課題は、海洋ゴミ・マイクロプラスチック、生物資源量把握、海底構造物の保守等、多く存在する。海中に適用できるセンサは無数に存在する。これまでの海底資源調査の域にとどまらず、新たな目標に適合したセンサをDeep1のペイロードに搭載することで、この機体は更に変化して海洋環境問題に挑んでいくだろう。本稿を読まれたセンサイト協議会関係者の方々との出会いに大いに期待しながら、ペンを置かせて頂く。



参考文献

  1. 浅野由香 他:AUV「Deep1」による巡航式 Photo Survey, 第 29 回海洋工学シンポジウム, 2022


【著者紹介】
高橋 裕和(たかはし ひろかず)
深田サルベージ建設株式会社 東京支社 海洋開発部 部長代理

■略歴

  • 1991年東海大学大学院海洋学研究科海洋工学専攻修士課程修了
  • 2004年新日本海事株式会社
  • 2005年深田サルベージ建設株式会社、現在に至る

ドップラ速度ログDVLの最近の動向:Nortek社の場合(2)

國分 祐作(こくぶ ゆうさく)
Nortekジャパン合同会社
國分 祐作

6 小型水中ビークルをめぐる近年の動向

 海中ロボット産業において、最近では小型・超小型(マイクロ)水中ビークルが受け入れられる動きが出てきた。初期においては、Blue Robotics社の製品が小型ROV市場に登場した。現在では、より小型なマイクロAUVと呼ばれる機体や、小型の無人水上艇USV(Unmanned Surface Vehicle)が登場し、これらの市場が急速に成長している様子がうかがえる。

 こうした背景には、遠隔操作または自律操作システムによって遂行される海上・水中作業の範囲を拡大したいという要求があると考えられる。各種海上・水中作業に対応できるような大型の水中ビークルには、十分な搭載能力、推進力、電源が確保されているため、様々な作業に対応できるメリットがある反面、運搬・動作にかかるコストやビークルサイズによる取り回し性能においてデメリットもある。油田・ガス開発といった業界を例に取ると、特定のタスクに特化した高性能な大型水中ビークルが依然として採用され続けている。しかし、小型、安価、遠隔操作や自律航行が可能、作業に特化した機能を持つといったような新しい小型水中ビークルは、一度に大量に水中へ投入して運用することができ、作業員の安全性確保や負荷の軽減にも役立つため、新規市場として注目されてきている。

 また、小型水中ビークルの市場が注目されてきた一つの要因として、ここ数年における技術の革新によって高性能な機体の開発と製造が可能となってきたことも無視できない。例として、処理能力が向上した制御部(PC等)の出現、バッテリ技術の向上、3Dプリンティングを用いた製造プロセスによる部品の低コスト化などが挙げられる。これらの技術革新が起こる以前において開発された小型水中ビークルでは、要求される海上・水中作業に対し機能・性能が十分ではないと受け止められてきた。

7 小型水中ビークルを対象とした水中ナビゲーションの高精度化

 小型水中ビークルを海上・水中作業において有効活用するためには、精度のよい水中ナビゲーションシステムを水中ビークルに搭載する必要がある。しかしながら、従来の測量等の用途で用いられるDVLは、慣性センサ類を内蔵していない種類のものが多く、単体では十分なナビゲーションシステムとして使用が難しい場合がある。また、寸法や重量が大型の水中ビークルを対象として設計されていることもあり、小型水中ビークル内に十分な搭載区画を確保できないケースもある。

 市場ニーズの高まりを受け、Nortek社では、小型水中ビークルによる高精度水中ナビゲーションの実現を目指し、同社のDVL技術をもとに慣性センサ類とDVLの一体化とその小型化を行った、「DVLセンサパッケージ」となるNucleus1000(ニュークリアス1000)を開発した。このセンサパッケージの内部には、従来のDVLが持つセンサ類(対地・対水速度計測用の音響センサ、水温センサ、圧力センサ)のほか、新たに水中ナビゲーションで必要となる姿勢方位基準装置AHRS(Attitude and Heading Reference System、方位・ピッチ・ロールを検知)に加え、超音波式の高度計を搭載している(図4)。水中重量300g以下を実現した直径9cmのNucleus1000は、測定レンジ0.1m~50m、耐圧300m水深相当の仕様を持ち、沿岸域での小型水中ビークルの活用機会の増大に貢献する。また、専用のINS演算処理機能の開発が2023年末に完了したため、本機がDVLとINSを一体とした水中ナビゲーションユニットとして使用できるようになった。つまり、Nucleus1000は単体でマイクロAUV、ROV、USV等の水中ナビゲーションユニットとして使用することができる。

図4 左)Nortek社製Nucleus1000の外観、右)Nucleus1000が搭載する各種センサ類と仕様抜粋
図4 左)Nortek社製Nucleus1000の外観、右)Nucleus1000が搭載する各種センサ類と仕様抜粋

 Nucleus1000の特徴はインターフェースの簡略化、性能を犠牲にしない小型化、高性能DVLと同等の機能・性能の保持に重点を置いて設計されている点である。通信・電源ケーブル1本で水中ビークルと接続するインターフェースデザインは、接続の際に要求される調整作業を軽減することとなり、時間とコストの両方から小型水中ビークルの量産化を支援する。また、小型化されたNucleus1000は、従来のDVLと同レベルの高精度な速度計測が実現できる設計となっている(長期精度0.3%を実現)。この精度は、他の同社DVLと同様に実海域における試験と改良・開発を数多く繰り返すことで達成している。

 その他、基準面を使用した速度(対地速度)が深度の急激な変化などの要因により取得できなくなった際には、対水速力を自動で算出する機能も、同社の他のDVLシリーズと同様に標準で搭載している。Nucleus1000は従来品を小型化したDVLではなく、小型水中ビークルに求められる高度な海上・水中作業に対応しつつ、水中ビークル開発者による作業負荷の軽減も視野に入れて独自開発されたDVLという点でユニークな製品である。

8 Nortek社製DVLおよびNucleus1000を搭載した小型水中ビークルの事例

 小型水中ビークルを採用するケースには、水産養殖における魚群の目視検査から、海底の広範囲を探査するために協働するマイクロAUVのロボット群(swarm)といったものまで、多岐にわたる。これらの小型水中ビークルに共通する点は、無人航空機UAV(Unmanned Aerial Vehicle)市場と同様に、拡張性と利便性がありながら比較的低コストで大量生産が可能なことである。

 小型ROVでは、潜水士にとって危険を伴うような水中インフラの点検や捜索・救助活動において、代わりに水中ビークルがその作業を実行する例も出てきている(図5)。小型ROVは1~2人で水中投入を可能とする設計であるため、専用の発進・回収設備LARS(Launch And Recovery System)を持たない小型の船舶等による運用が容易となっている。

図5 左上)Tethys Robotics社製小型ROV外観、左下)下向きに搭載されているDVL500 Compact、右上)潜水士に代わり、水中構造物内を調査している様子、右下)ROVの開発当初はスイス連邦の地方自治体と協力(courtesy Tethys Robotics)
図5 左上)Tethys Robotics社製小型ROV外観、左下)下向きに搭載されているDVL500 Compact、右上)潜水士に代わり、水中構造物内を調査している様子、右下)ROVの開発当初はスイス連邦の地方自治体と協力(courtesy Tethys Robotics)

 小型のAUVおよびUSVは、海上の再生可能エネルギー分野においても注目されている。海上の再生可能エネルギー生産は、石油・ガス開発と異なり、送電線が陸地と接続する地点の数が多い。これらの地点、特に浅瀬付近では、送電線の設置や保守に関する現地調査と検査作業の両方が必要とされる。高い作業効率と低コストを多数の作業地点において達成するためには、新しく調査・検査用のプラットフォームが必要となる。沿岸域の多様な水深に柔軟に対応しつつ、遠隔・自動で動作するような拡張性と利便性に優れた小型で安価なAUVやUSVが求められている。

 そこで小型のAUVを環境調査に用いた例として、洋上の定常監視プラットフォームの間にある、データを取得することが困難な領域を対象に、自動航走する水中ビークルを用いて定期的にデータ採取を行う試みがある。例として、DVLと多層流向流速計測機能ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler機能)を持つ「ハイブリッド」センサと濁度センサを搭載した小型AUV、RTsys社のNEMOSENS μAUVがある(図6)。この小型のAUVにはNortek社製のNucleus1000が搭載され、水面に設置されたブイの間を自動で往復しながら浚渫プルームの追跡に必要な流速情報と水中濁度データを取得することに成功している。

図6 RTsys社製の小型AUVである NEMOSENS® μAUVにNucleus1000が搭載された事例(courtesy RTsys)
図6 RTsys社製の小型AUVである NEMOSENS® μAUVにNucleus1000が搭載された事例(courtesy RTsys)

9 さいごに

 水中の無人ロボットや自律型ロボットを大規模に展開するための現実的な選択肢を海中産業に提示する方向で、小型水中ビークル市場は急速に拡大している。

 このロボット技術を有効にする鍵は、最適なサイズとコストと同時に、最適な性能を持つ水中ナビゲーションセンサと測量センサを開発することと考えられる。また、効率的な航行を実現し、高品質の調査・検査データを収集できるような小型水中ビークルを実現するためには、高い水中ナビゲーション性能が不可欠である。

 Nucleus1000のようなDVLとINSが統合された水中ナビゲーションシステムは、性能向上のみならずセンサ間の統合と連携作業を行う技術者の負担を軽減することにも貢献する。小型水中ビークルの開発者やユーザは、このような一体型のセンサパッケージを使用することで、センサの統合や連携作業よりもビークル本体の開発に注力することが可能になり、ビークルの開発速度の向上に繋がるのではと考える。

 今後さらに多様化・複雑化する小型水中ビークルのニーズに対し、拡張性と利便性を実現したセンサの開発を通じて、水中産業における小型水中ビークルの開発効率の向上や高性能化に貢献できることに繋がれば幸いである。



【著者紹介】
國分 祐作(こくぶ ゆうさく)
Nortekジャパン合同会社 代表

■略歴

  • 2011年独Leibnitz Institute for Baltic Sea Research 招聘研究員
  • 2012年JFEアドバンテック株式会社 入社
  • 2014年東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科 修了 博士(海洋科学)
  • 2017年Nortekジャパン合同会社 入社

2018年より現職

■執筆歴
センサイトWEBジャーナル:
「超音波ドップラー式流向流速プロファイラー(ADCP)の技術とその応用」
(1) https://sensait.jp/12234/
(2) https://sensait.jp/12235/

東京理科大、柔軟性に富む紙ベースの人工光電子シナプスを開発

研究の要旨とポイント
●エッジ人工知能(AI)センサの基盤技術として、低消費電力で高速リアルタイム情報処理が可能な物理リザバコンピューティング(PRC)が注目されている。しかし、生体モニタリングに適した特性を有するPRCの実現は困難だった。
●今回、生体信号の処理に適したサブ秒オーダーの応答時間で光信号を処理できる、人工光電子シナプスデバイスを設計した。
●このデバイスはナノセルロースと酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子から構成されるため、通常の紙のように柔軟かつ焼却処分可能。
●フレキシブルかつ使い捨て可能な生体情報モニタリング用のウェアラブルエッジAIセンサの実現につながると期待される。

研究の概要
 東京理科大学先進工学部電子システム工学科の生野 孝准教授らの研究グループは、ナノセルロースと酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子から構成される、使い捨て可能で柔軟な紙ベースの人工光電子シナプスデバイスを設計・創製した。このデバイスはサブ秒オーダーの応答時間で光信号を処理できることから、生体信号の処理に適した物理リザバコンピューティング(PRC)に応用でき、柔軟かつ使い捨て可能なウェアラブルエッジAIセンサ実現に向けた基盤技術として期待される。

 近年、ヘルスケア分野で生体情報モニタリングが大きな注目を集めており、市場の拡大が期待されている。その基盤技術として、人間の視覚システムを模した光センシング機能と認知機能を兼ね備えた低消費電力で動作する自己完結型のエッジAIセンサの開発が求められている。

 現在、そうしたセンサを実現する有望な手法としてPRCが脚光を浴びている。PRCは、物理系のダイナミクスを計算資源として利用することで、時系列信号を低消費電力でリアルタイムに処理できる。PRCの応答時間は利用する物理系の反応特性に左右されるが、生体信号の処理に適したサブ秒オーダーの応答時間で情報処理できるPRCはまだ十分に研究が進んでいない。また、生体情報モニタリングにPRCを活用するためには、応答時間の最適化に加え、生体表面に接着できる柔軟性と、衛生上の観点から使い捨て可能であることが求められる。

 そこで本研究では、サブ秒オーダーの時系列光入力に応答可能かつ、柔軟性をもつナノセルロースとZnOナノ粒子から構成される人工光電子シナプスデバイスを設計した。本デバイスは短期記憶タスクおよび手書き文字認識タスクにおいて十分な性能を示し、1000回の曲げ試験実施後も精度に影響は無かった。また、このデバイスは通常のコピー用紙と同じように数秒で焼却処分でき、使い捨て可能。本デバイスはヘルスモニタリングに利用できるPRCとして有望であると期待されるという。

本研究成果は、2024年2月22日に国際学術誌「Advanced Electronic Materials」にオンライン掲載された。

プレスリリースサイト:https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240311_8132.html

産総研、「リアルな触覚再現技術」で触覚を「共有」へ

ポイント
●新しいハプティック技術で体感を手軽に共有
●ヒトが感じる全ての振動から伝えたい周波数帯域の振動を抽出・強調し、体感をよりリアルに再現
●エンタメ体験やスキル習得の新しい手法を提案

概要
 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)センシングシステム研究センター ハイブリッドセンシングデバイス研究チーム 竹井 裕介 研究チーム長、竹下 俊弘 主任研究員、東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻・人間-ロボット情報学 昆陽 雅司 筑波大学(以下「筑波大」という) システム情報系 応用触覚研究室 蜂須 拓 助教、株式会社Adansons(以下「Adansons」という) 中屋 悠資 取締役CTO、は、極薄ハプティックMEMSによるハプティックデバイスを活用した「双方向リモート触覚伝達システム」を開発した。

 同システムは、触覚デバイスと触覚信号編集技術を組み合わせることで、幅広い周波数帯域の触覚信号を体験できるため、指先で触れる操作や握手などの触覚情報を手首で計測し、相手側に伝えることができる特徴がある。エンターテインメント領域でのよりリアルな振動配信の創出、遠隔地での振動体験の共有などの使用例を想定しているとのこと。

なお、この技術の詳細は、2024年3月8日~16日に米国テキサス州オースティンで開催されるSXSW Conference & Festivals 2024で発表される。

プレスリリースサイト(aist):
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240308/pr20240308.html

直下型地震と地下水位変動の関係の解明 ―地下水位は地殻歪みを感知するセンサとして機能―

 京都大学大学院総合生存学館 山本駿 大学院生、工学研究科 小池克明 教授、総合生存学館 山敷庸亮 教授、熊本大学理学部 嶋田純 名誉教授の共同研究により、2016年4月に発生した熊本地震前後の長期にわたる多地点での地下水位観測データを詳細に分析した結果、地下水位は地殻歪みを感知するセンサとして機能し、特に主要な帯水層である砥川溶岩での変動が地殻歪みと関連することがわかった。
 地下水位データから降水量、気圧、地球潮汐の影響を統計学的に除いた残差成分は、2011年3月東北地方太平洋沖地震後は低下したが、2014年頃から上昇に転じたという傾向の変化が見出され、この低下は応力解放、増加は地殻歪みの増大によると解釈した。熊本地域でのその後の2つの地震でも、衛星測位システム(GNSS)による地殻変動と地下水位残差成分変動のパターンが変化する時期が整合した。帯水層の3次元数値モデルに観測井の分布を重ね合わせたところ、地震発生源になった布田川断層帯に連続する砥川溶岩の地下水位ほど地殻歪みに敏感であることを明らかにできたとのこと。

本研究の成果は、2023年12月21日に英国Nature Research社が刊行するオンラインジャーナル「Scientific Reports」誌で公開された。

【今後の展開】
 地下水位と地殻歪みの関係をより詳細に明らかにするためには、水質や地殻深部由来ガスなどの地球化学的観測および衛星測位システム(GNSS)や微小地震活動などの地球物理学的観測による結果と併せた総合的な解釈が必要である。また、本研究で見出された特徴が、他の地域での多孔質で透水性の高い帯水層における地下水位変動でも見られるかを確かめるために、観測データの蓄積や残差成分の解析を含むデータの解釈を深め、地下水位-地殻歪み関係の普遍性と精度を高める今後の研究発展を期待するとしている。

プレスリリースサイト(kumamoto-u):https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/sizen/20240307

水龍堂、大田区産業振興協会の新製品・新技術コンクールで「奨励賞」

ROV(水中ドローン)メーカーである(株)水龍堂はこの度、公益財団法人 大田区産業振興協会主催の第35回新製品・新技術コンクールにて奨励賞を受賞した。

■受賞製品 汎用ROV「龍頭」
 ROV(Remotely Operated Vehicle、遠隔操作型無人潜水機)をプラットフォームとした水中可視化システム。

 従来のビデオカメラでは水中の濁りや暗闇などで十分な視野を確保できず、計測や作業などは困難を極めていた。本システムではROVにユーザの用途に応じたセンサを組み込むことにより、水中の可視化を実現した。これによりダムや港、河川などの水中インフラの点検を効率的に実施することができる。

 近年、高度経済成長期に建設したダム、や港などの港湾設備、橋梁、水道設備などの老朽化が深刻な問題となっている。また、少子高齢化により点検する技術者が不足しており、それを担うため「龍頭」が提供されている。  同社ではそれに加え、ROVのオペレータを育成する講習も実施している。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000096677.html

ST、3D深度センシングを強化する最新のToF測距センサ

STマイクロエレクトロニクスは、オール・イン・ワンのdToF測距センサ「VL53L9」およびiToF測距センサ「VD55H1」を発表した。

VL53L9は、業界をリードする2.3kの解像度を備えた3D LiDARモジュール。VD55H1は、500kピクセルの世界最小iToF測距センサで、Lanxin Technology社でデザイン・ウィンを獲得した。

VL53L9は、最大2.3kゾーンの解像度を実現する新しいdToF 3D LiDARセンサである。デュアル・スキャン投光イルミネータを組み込んだユニークな製品で、小さな物体やエッジを検出し、2D赤外線(IR)画像および3D深度マップ情報の両方を取得することができる。すぐに使用できる低消費電力モジュールとして提供され、dToF処理機能がチップ上に集積されているため、外付け部品やキャリブレーションが不要。さらに、5cm~10mに対応する最先端の測距性能を備えている。

また、カメラ・アシスト性能の向上に貢献する機能を豊富に搭載しており、クローズアップ撮影や望遠撮影に対応する。静止画および60フレーム/秒(fps)の高速動画において、レーザー・オートフォーカスやボケ効果、シネマ効果などの機能を使用できる。VR(仮想現実)システムでは、高精度の深度および2D画像を利用して空間マッピングを強化することで、ゲームなどのVR体験(バーチャル・ビジットや3Dアバターなど)の没入感を高めることができる。さらに、短距離から超長距離まで、小さな物体の境界を検出できるため、仮想現実やSLAM(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)といったアプリケーションに最適である。

iToF測距センサ「VD55H1」は、モバイル・ロボットのディープ・ビジョン・システムを手がける中国のメーカーであるLanxin Technology社のデザイン・ウィンを獲得し、量産が開始されている。Lanxin Technology社の子会社であるMRDVS社が、3Dカメラに搭載する高精度の深度センサとして、同製品を採用した。VD55H1を搭載した高性能超小型カメラに3DビジョンとエッジAIを組み合わせることで、モバイル・ロボットにインテリジェントな障害物回避機能と高精度のドッキング機能を提供している。

VD55H1は、マシン・ビジョン以外にも、3DウェブカメラやPC周辺機器、VRヘッドセットの3D復元、人数カウント、スマート・ホームやスマート・ビルディングにおけるアクティビティ検知などに最適である。小型チップに672 x 804センサ・ピクセルを搭載しており、50万ポイント以上の測距によって3次元表面を正確にマッピングできる。STの積層ウェハ製造プロセスと裏面照射技術により、その他のiToFセンサよりも小型・低消費電力でありながら、これまでにない高解像度を実現している。そのため、ウェブカメラやVRアプリケーション(バーチャル・アバター、手のモデリング、ゲーミングなど)の3Dコンテンツ制作において高い信頼性を提供する。

VL53L9は、主要顧客向けに初回サンプルが提供され、2025年前半に量産が開始される予定。
VD55H1は、現在量産中である。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001362.000001337.html

トーヨーカラー、千葉大学との共同研究成果を日本化学会第104春季年会で発表

 artienceグループのトーヨーカラー(株)は、千葉大学との「キノフタロン黄色色材の結晶構造解析」に関する共同研究成果を日本化学会第104春季年会(2024)で発表する。
 本研究成果により、要求される分光スペクトルを発現する顔料の分子構造を高い精度で設計することができ、イメージセンサの高感度化を実現するカラーフィルタの設計が可能になるという。

 キノフタロン化合物は、鮮明な黄色を呈するため古くから染料や顔料として利用されており、印刷インキをはじめ液晶ディスプレイ、センサなどさまざまな用途に使われている。しかしながら、その発色の起源となる結晶構造はこれまでほとんど解明されていなかった。
 この度トーヨーカラーと千葉大学は、モデル化合物を用いて単結晶構造解析を行うことにより、結晶構造の観点から顔料の発色のメカニズムを明らかにした。
 これにより、要求される分光スペクトルを発現する顔料の分子構造を高い精度で設計することが可能になり、印刷インキの色合いや液晶ディスプレイの見え方、イメージセンサの感度をコントロールできる可能性が示された。特に、イメージセンサの感度向上には、カラーフィルタの分光スペクトルの制御は非常に効果的と言えるとのこと。

■日本化学会 第104春季年会(2024)について
 会期  2024年3月18日(月)~21日(木)
 会場  日本大学理工学部 船橋キャンパス(千葉県船橋市)
 主催  公益社団法人 日本化学会
 講演番号
◎E1131-1am-04
 タイトル:8位にアミノ基を有するキノフタロン化合物の結晶構造(口頭)
◎P2-3am-10
 タイトル:8位にエーテル結合を有するキノフタロン化合物の結晶構造(ポスター)

プレスリリースサイト:https://www.artiencegroup.com/ja/news/2024/24030502.html