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AIを用いた掘削現場でのトラブル回避技術の開発(4)

(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構
草薙 和也

3.4. 実施内容(結果と考察)
機械学習には多種多様な手法が提案されており、我々も有望と期待される複数の手法を試しているところである。ここでは近年のAIブームの火付け役となったニューラルネットワークに着目し、ニューラルネットワークをベースとした各手法とその結果を略述する。

① 1D-CNN
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は画像認識の分野でよく使われる教師あり学習の手法で、入力データに対してカーネルと呼ばれる行列を用いた畳み込みの計算を行うことによって特徴量を圧縮することができる。マッドロギングデータのような時系列データに対して時系列方向にカーネルを当てはめることで、時系列方向にデータを圧縮することができる。圧縮したデータを入力層、ラベルを出力層として学習を行い、生成された学習済みモデルにラベルを隠した未知のデータセットを入力して出力されるラベルの精度を評価する。

スタディでは現在のデータに基づいて将来の状態を分類する「予兆検知」ではなく、現在のデータに基づいて現在の状態を分類する「現象識別」から始めた。現在からΔt後に発生するイベントの予兆を検知するためにはt=Tのデータに対してt=T+Δtのラベルを対応させて学習・判断させるが、現象の識別はt=Tのデータに対してt=Tのラベルを対応させて学習・判断させる。理論的には予兆検知よりも現象識別のほうが難易度は低いと考えられ、1D-CNNの適用可能性評価のために現象識別を実施した。

計算実行の結果、学習段階において損失関数の減少が確認され、掘削データから抑留状態を表すパターンを学習していることが確認された。しかし未知のデータに対しての識別精度は表2の通りであり、ランダムにラベルを判断したケースと比較しても有意な識別精度の向上は見られなかった。これは使用したデータのうち離脱作業を含むデータ数が十分でないことが原因であると考えられる。そこで離脱作業を行っている区間のデータに対してData Augmentation(データ拡張)手法の一つであるOversamplingを適用することにより、学習データにおけるラベル1のデータ数を増やして計算を実行したところ、識別精度の向上が確認された。

表2. 1D-CNNを用いた場合の混合行列

② Auto Encoder
教師なし学習の例として、Auto-Encoderを用いた。Auto Encoderは中間層の次元を入出力層の次元より小さく設定し、入力と出力を同じデータにすることで、入力データから出力データをより少ない情報量で再現するモデルを生み出す手法である。今回のケースでは入力層と出力層を正常掘削区間のデータとして学習させ、評価では未知データに対する学習済みモデルからの出力値と実測値の差から復元誤差を算出した。この手法では、学習済みモデルに抑留状態区間のデータを入力すると、復元誤差が大きくなることが期待される。

計算実行の結果、ラベル0のデータと比較してラベル1のデータに対する復元誤差(平均値)が約3倍大きくなる結果が得られた。これはそれぞれのラベルが付されたデータにおいて異なるパターンが表れていることを示しており、実際にラベルが0から1に変化する直前に復元誤差が立ち上がり、ラベルが変化した後では復元誤差が増加している様子が見て取れる。

③ ニューラルネットワーク
ニューラルネットワークは上で述べたCNNやAuto Encoderのベースとなる手法であり、ここでは①②と異なり時系列データを区間特徴量(周波数応答/統計量)に変換して入力データに用いた例を紹介する。掘削作業には鋼管の回転やポンプのストロークのように周期的な運動が含まれ、抑留の予兆は周波数領域にも現れることが予想される。また瞬間的なデータの変動を逐一追うのではなく、ある程度の時間幅の中での挙動に注目して分析するために平均や分散などの統計量を作成して入力データとした。本スタディでは中間層の数を1、2、3層と変化させて識別精度がどのように変化するかを評価した。

計算実行の結果を表3に示す。上から中間層が1層、2層、3層のケースとなっている。F1値*3での評価結果では層数に対して有意な差が認められないが、PrecisionやRecallにはある程度の差がみられた。本スタディでは識別するべきラベルが0か1の2通りしかないため、ニューラルネットワークの複雑さによって識別精度が大きく影響されなかったと考えられる。混合行列においてPrecisionやRecallに注目することは、実際の現場での運用を考えるうえで重要である。今回の例では、小さな抑留でも見逃すことなく検知するのか、それとも誤検知はできるだけ減らして重大な抑留のみ検知できれば良いとするのか、運用上での要求を考慮する必要がある。

*3混合行列を用いた予測結果の評価尺度の一つで、精度(Accuracy)と再現率(Recall)の調和平均で表される。

表3. 区間特徴量をNeural Networkに入力した場合の混合行列(上から1層、2層、3層)

4. 終わりに

掘削データに機械学習を適用することによりトラブルの予兆検知を試みたが、現時点での成果は、すぐに現場への適用が検討される段階にはない。より良い学習済みモデルを作るために必要なのは、より多くの、より正確にラベル付けされたデータであることを再認識した。世界の石油開発業界では各社が保有する掘削データを共有しようとする動きもみられ、またリグの各所に追加のセンサーを設置してトラブルや機器の故障状態を分析する研究も多数報告されている。
掘削現場への適用を見据え、本研究の成果を実用化するにあたり、現場における運用方法に関する考察も必要である。デジタルトランスフォーメーションが叫ばれる中、石油開発に関してもまだまだデジタル技術適用による技術開発の余地があり、産業としての発展が期待される。

【著者略歴】
草薙 和也(くさなぎかずや)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 デジタル推進グループ デジタル技術チーム

■略歴
1992年1月16日生
2016年3月 京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 修士課程 修了
同年4月 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 入構

■専門分野
Drilling Engineering(石油掘削)

ハイスピードカメラ、コンピュータビジョン、データレコーダが融合:ハイスピード監視システム「PhotoCam Detector」新発売

(株)フォトロンは、ハイスピードカメラにコンピュータビジョンを搭載したハイスピード監視システム「PhotoCam Detector」を2019年11月22日より発売すると発表した。

◆製品化の背景
近年、製造プロセスや、性能評価試験、各種実験でハイスピードカメラを用いた“ 見える化 ”が広く浸透してきたが、ユーザーの求める「異常発生の瞬間」や「破壊の瞬間」など、いつ発生するか分からないイベントをスーパースローで撮影するのは難しい状況であった。
 フォトロンではこのようなニーズに応えるために、当社の持つ“ ハイスピードカメラ ”に新たな要素である“ コンピュータビジョン ”と、映像には映らない電圧や電流、音などを検知するセンサデータを収集する“ データレコーダ ”を組み合わせることで、いつ起こるか分からないイベントを検知し、発生の瞬間前後をスーパースロー撮影できる、ハイスピード監視システム『 PhotoCam Detector 』を開発したという。

◆PhotoCam Detectorの主な特長
・映像からのイベント検出の原理
イメージセンサが取得する明るさ情報を用いて、各種演算を行うことで、物体が動いた瞬間や、異常動作した瞬間を映像から検出し、発生の瞬間を撮影することができる。
・データレコーダからのイベント検知
データレコーダは、電圧や電流、音や力などを計測するためのセンサの値を閾値としてイベント発生を検出し、発生の瞬間を撮影することができます。オプションの再生ソフトを使えば、映像と波形を同期して再生することができる。
・外部機器、設備からのイベント検知
外部信号の入出力機構を有し、各種設備やPLCなどの制御機器が異常を検知した瞬間を起点として、 発生の瞬間を撮影することができる。

ニュースリリースサイト(Photoron): https://www.photron.co.jp/news/20191121.html

コネクテッドワーカー創出による現場業務の革新を実現

フェアリーデバイセズ(株)とダイキン工業(株)は、空調機の保守点検やメンテナンスなどのサービス業務におけるコネクテッドワーカー※1の創出を通じて、作業効率と作業品質を向上させる取り組みを共同で開始すると発表した。

社会を支える重要なインフラとなっている空調において、性能、品質を保つためには、機器の性能だけでなく、保守点検やメンテナンスなどのサービス業務の品質も重要である。近年、空調市場が新興国を中心に急激に拡大する中、ダイキン工業では、現場業務に携わるサービスエンジニアの人手不足が大きな課題となっている。また、グローバル全体におけるサービス業務の品質向上のため、世界各国でのサービスエンジニアの早期育成も急務となっているとのこと。

今回の連携は、フェアリーデバイセズが持つ音声認識やエッジAI、データ解析などのデジタルテクノロジーと、ダイキン工業がグローバル規模で培ってきた現場の知見を結び付け、ダイキン工業のサービス業務における課題を共同で解決する取り組み。具体的には、フェアリーデバイセズが開発したスマートウェアラブルデバイス『THINKLET™(シンクレット)』およびテクノロジースタック※2と、ダイキン工業が開発した業務支援Webアプリを組み合わせ、熟練したサービスエンジニアが遠隔地の作業者をサポートし教育できる遠隔作業支援ソリューションを開発。このソリューションにより、日本国内だけでなく、世界の作業者一人ひとりの技術力や判断力を向上させ、高効率で手戻りのない高品質な現場業務の実現と同時に、優れたサービスエンジニアの早期育成をめざすという。(画像:『THINKLET™』)

※1 通信機能を有する高性能ウェアラブルデバイスやセンサ等を身に着けた次世代の現場作業者のこと。コネクテッドワーカーの映像や音声、センサデータはリアルタイムに収集され、作業が可視化・記録・解析されることで、現場業務に対する様々な支援を受けることができる。これにより、誰もがあらゆる場所において、より効率的に、より安全に、より質の高い作業を行うことが可能となる。
※2 様々なテクノロジーを集積し、個別的・統合的に機能させることができるAPIやAIエンジン等のプラットフォーム。

ニュースリリースサイト(フェアリーデバイセズ):
https://www.fairydevices.jp/blog/2019/11/21/43

水管理ソリューション J-WeLLをインドで展開を開始

(株)ジェイテクトは、2017年4月に新規事業推進部を組織し、既存事業とは異なる新たな領域の開拓を行っている。少子高齢化・環境・エネルギー問題といった将来の社会課題に対するニーズと当社の既存事業で培った技術やノウハウといったシーズを掛け合わせ、新規事業の立ち上げを推進。これまでにパワーアシストスーツJ-PAS、製造業マッチングサイトFACTORY AGENT、介護歩行器J-Walkerテクテックなどについて発表してきた。 此度は、複数の既存事業の技術とグローバルに展開する海外拠点網を掛け合わせ実現した、水管理ソリューションに関する発表となる。

世界各国では地下水の枯渇エリアが広がり、貴重な天然資源である地下水の確保が困難になっている。一方でジェイテクトでは前身企業の豊田工機が1986年より河川やダムの水位管理に貢献する水位計センサを開発・販売しており、IoE技術と制御技術を既存事業で展開している。これらの技術を掛け合わせることで、世界中の水危機の解決に貢献できる、水管理ソリューションが実現できると考え新規事業として展開を開始したとのこと。(画像:システム構成)

◆事業概要について
事業名称 J-WeLL(ジェイウェル)

背景
南アジア、西アジア、北アフリカを中心に世界各国で地下水の枯渇エリアが拡大 これらの地域では井戸の使用に対して管理するノウハウがなく、井戸寿命が数年と非常に短く継続的に使用できる水資源不足に直面

システム構成
水位計により井戸への流入量を検知、流入量に応じて揚水可能な水量を算出し、揚水するポンプを制御
日々の流入量・揚水量は、IoTシステム通じて見える化し、井戸の使用状態を検知 これらにより井戸水の使い過ぎを抑制し井戸の長寿命化を実現

展開地域・用途
インド国内の製造業の工業用水や生活用水

展開開始時期
2019年7月よりインド Haryana州 Banipur村 飲料水用給水システムに採用

販路
システムはジェイテクトで構築
インド国内での販売は工作機械販売拠点 TOYODA MICROMATIC INDIA(TMI)にて実施

◆今後の展望
インドでの事業展開をまずは推進。将来的には地下水の枯渇など水危機を抱える世界各国に事業展開。
SDGs(持続可能な開発目標)でも掲げられています目標6-4 「2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。」にも貢献できるプロジェクトとして事業推進をしていくとしている。

ニュースリリースサイト:https://www.jtekt.co.jp/news/191119_3.html

エアロネクスト、中国深圳市に南方科技大学と共同で研究開発ラボを設立

(株)エアロネクストは、この度中国深圳市に、産業用ドローンの次世代コンセプト「空飛ぶロボット(Flying Robots)」の社会実装を加速させるため、研究開発の一つの重要な拠点を中国深圳市に置き、産学連携を積極的に推進し、深圳市およびベイエリア圏を担う研究型大学として急成長中の南方科技大学と共同で研究開発ラボ “SUSTECH(SIR)-AERONEXT Flying Robots Technology Shenzhen Lab”を設立することを決定したと発表した。

具体的には南方科技大学の最新のロボティクス研究を行うロボティクス研究院(SIR:SUSTECH Institute of Robotics)と連携し、その優秀な教授陣、生徒と共に、広大で恵まれたキャンパスや関連施設、大学間ネットワークを活用し、先行する中国ドローン産業の潜在ユースケースを発掘し、数多くの実証実験を実施しながら、次世代ドローンの基盤となる要素技術の研究開発、安全基準を満たすための実証実験のデータ獲得、「空飛ぶロボット」の具体的な用途開発、将来のドローン産業を担う優秀なエンジニアの獲得や育成を目的として、5年間の間、共同で研究開発を推進していくとのこと。同大学との共同ラボの設立は日本企業としては初の事例という。

エアロネクストの独自の重心制御技術「4D GRAVITY®」は、無人航空機(UAV)における機体の構造を根本的に見直し開発したもので、従来のドローンでは実現できなかったその安定性、信頼性で産業ドローンの用途範囲を大きく拡大する。既に様々な用途を想定した、4D GRAVITY®搭載の産業用ドローン 『Next』シリーズの原理試作を複数種類発表し、国内においては今後年内の量産体制の整備を視野に入れている。中国市場においては、2019年5月の中国深圳市に現地法人「天次科技(深圳)有限公司 (英文名 Aeronext Shenzhen Ltd.)」を設立後、6月には中国産業ドローンメーカー大手のMMCおよびSMDと戦略的提携を発表し、重心制御技術「4D GRAVITY®」の市場投入を着々と進めているとのこと。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000046.000032193.html  

「埼玉県AI・IoTプラットフォーム」が完成。-令和元年11月20日OPEN

埼玉県では、県内企業のAIやIoTの導入・活用を促進するため、この度「埼玉県AI・IoTプラットフォーム」(WEBサイト)を令和元年11月20日(水曜日)よりOPENする。
併せて、「第2回埼玉県AIコンソーシアム総会」を同日に開催し、本プラットフォームのデモンストレーションを実施するとのこと。
(画像は富士通総研資料より)


■AI・IoTプラットフォームの概要

1 内容
AI・IoTプラットフォームは、「埼玉県AIポータルサイト」と「埼玉県IoT/LPWAポータルサイト」の2つのサイトで構成されている。
(1)埼玉県AIポータルサイト 埼玉県AIコンソーシアムやAIの導入事例の紹介のほか、埼玉県AIコンソーシアムの会員専用コンテンツとして、AIの活用を支援する以下の機能を提供するという。
 体験版画像認識AI
 プログラミング不要のAIソフトウェア
 AIに関するe-ラーニング
 AIライブラリ利用手引書
 AIに関する情報発信

(2)埼玉県IoT/LPWAポータルサイト
県が実施しているLPWAを活用した実証実験の取組や実証実験で得られたデータを提供する。

2 AI・IoTプラットフォーム公開日
令和元年11月20日(水曜日)から以下のURLより利用可能。
https://www.ai-lpwa.saitama.jp/

【参考】
第2回埼玉県AIコンソーシアム総会: http://www.pref.saitama.lg.jp/a0812/aiconsortium.html

ニュースリリースサイト(埼玉県):
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/2019/1118-03.html

日本財団オーシャンイノベーションプロジェクトの取組み(3)

日本財団 海洋事業部
辰野 誠哉

3.「海外との連携技術開発プログラム」について

「1.はじめに」で述べたように、日本財団は、「2030年に向けた海洋開発技術イノベーション戦略」の提言に基づき、海洋石油・ガス市場を持つアメリカ、スコットランド、ノルウェーと連携して、技術開発に対し支援を実施している(図3(太字参照))。
まず、アメリカとの連携技術開発プログラムに関しては、日本財団は2018年5月、主要エネルギー会社が主導する技術プラットフォーム「DeepStar」1)とMOUを締結し、共同技術開発プログラムの立ち上げに合意した。日本財団は同プログラムの実施に際し、最大で10億円を拠出することとしている。本プログラムは、海洋石油ガス分野のニーズに沿った、かつ日本の強みを活かしたイノベーティブな新技術を石油メジャーと連携して開発するという日本初の取り組みである。

図3 海外との連携事業

第1弾では、日本企業からの案件応募、DeepStarや石油メジャー等との検討を経た結果、海底での光通信無線技術の開発(島津製作所)、水中での非接触型給電システムの開発(NEC)、海洋石油開発にかかるパイプラインのつまりや腐食を防止するための添加剤注入新技術の開発(横河電機)など、10件の海洋石油・ガス技術開発プロジェクトを採択し、現在、技術開発を進めている。第2弾の公募も、本年10月4日から開始しており(12月9日〆切)、日本財団は、海洋石油・天然ガス開発分野の参入を目指す日本企業を引き続きサポートしていく。

次に、スコットランドとの連携技術開発プロジェクトに関しては、日本財団とスコットランド開発公社は、お互いの強みを活かして2030年に海洋開発分野をリードするために、2017年9月にMOUを締結し、共同技術開発プログラムを開始した。本MOUに基づき、日本財団とスコットランド開発公社は双方10億円ずつを拠出して技術開発を促進していくこととしている。
第1弾では、「海洋石油・ガス」をテーマに日本、スコットランド企業からの案件応募を昨年度行い、日本財団とスコットランド開発公社、別途設置した有識者委員会(第3者委員会)で検討を経た結果、効率的な海底機器検査技術システムの開発(三菱重工業)、光通信の導入による海底での環境モニタリングシステムの開発(NECネッツエスアイ)、産業用ロボットアームを活用した自律型メンテナンス技術の開発(川崎重工業)など、5件の海洋石油・ガス技術開発プロジェクトを採択し、現在、技術開発を進めている。

第2弾では、海洋資源を生かし経済成長を目的とする「ブルーエコノミー」をテーマに日本企業とスコットランド企業から海洋開発における環境保全や地球温暖化対策(例: 洋上風力発電、二酸化炭素海底貯留、石油・ ガス開発における環境モニタリング等)に関する技術開発に係るプロジェクトを今年度公募し、浮体式洋上風力発電の係留の寿命予測手法と新係留材料の実用化(戸田建設)、浮体式海洋構造物の船体寿命予測モデルの開発(三菱造船)、ドローンを活用した遠隔操業・保守役務システムの開発(横河電機)など、5件の共同技術開発プロジェクトを採択し、本年10月に横浜市で発表を行った(表1)。

案件概要 日本企業 スコットランド企業
大型海洋発電設備の係留システムの開発 ㈱IHI Sustainable Marine Energy Ltd.
浮体式洋上風力発電の係留の寿命予測手法と新係留材料の実用化 戸田建設㈱ Bridon-Bekaerto、TTI Marine Renewables Ltd.
浮体式海洋構造物の船体寿命予測モデルの開発 三菱造船㈱ SMS Oilfield
ドローンを活用した遠隔操業・保守役務システムの開発 横河電機㈱ TEXO, Sensor -Works, Tritech International Limited, EC-OG, Precision Impulse Production Seismic Limited, Sustainable Marine Energy Lid.
洋上風車設置船の開発 ジャパン マリンユナイテッド㈱ Ecosse IP Limited (EIP)

表1 第2弾「テーマ:ブルーエコノミー」採択案件一覧

最後に、ノルウェーとの連携技術開発プロジェクトに関しては、2018年8月にノルウェーの産業クラスターであるGCENODE2)と公的機関であるNORCE3)とにおいてMOUを締結し、共同技術開発プログラムを設立した。本MOUに基づき、日本財団とGCENODE、NORCEは双方6億円ずつを拠出して洋上風力発電をはじめとする海洋エネルギーに関する技術開発を促進していくこととしている。現在、GCENODE、NORCEと公募を開始すべく準備をしているところである。

4.おわりに

本解説では、日本財団が進める「日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム」と「海外との連携技術開発プログラム」について紹介した。日本財団は、日本が将来の海洋開発をリードしていくことができるよう、引き続き、人材育成と技術イノベーションとを車の両輪として進めていく。

参考文献

1) DeepStarコアメンバー:Chevron, Anadarko, CNOOC Limited, Equinor, JX Nippon Oil & Gas Exploration, Petrobras, Shell, Total, Woodside Group, Exxon Mobil

2) ノルウェーの海洋開発企業、大学、研究機関が集積して結成した業界団体

3) スタバンゲル大学が出資する研究機関であるIRIS、ノルウェーの海洋開発業界が設立した研究機関であるTeknova等が統合して設立された公的研究機関

【著者略歴】
辰野 誠哉(たつの せいや)
日本財団 海洋事業部 海洋開発人材育成推進室 アドバイザー

2015年 東京理科大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻修了。
2016年 国土交通省 入省
2016年-2018年 国土交通省 海事局 海洋環境政策課
内航船の省エネ化、次世代船舶(LNG燃料船、自動運航船)の推進等に従事
2018年 現職

ロボットによる海洋計測(3)

長崎大学副学長・教授
山本 郁夫

他にも、筆者らは、海中の生物の生活環境を乱さず観測できる魚ロボット(図10-図15等)を開発している。本物そっくりに泳ぎ、カメラを搭載すれば海中生物の自然体な生息状況を観測できる。

図10 鯛ロボット
図11 鯉ロボット SHOGUN
図12 鯉ロボット
図13 イルカロボット
図14 鮪ロボット
図15 東雲坂田鮫ロボット

ロボットによる海洋観測は、観測の総合効率化を鑑み、将来的には図16に示すような海中から海上、空、宇宙まで、それぞれのロボットがネットワークで統合されてロボット群として海洋探査ができるものを目指していきたいと考える。2)3)

図16 ロボット群による海洋探査

次週に続く-

参考文献

2) Ikuo Yamamoto, Research and Development of Past, Present, and Future AUV Technologies Masterclass in AUV Technology for Polar Science, University of Southampton and Natural Environment Research Council, published by the Society for Underwater Technology, ISBN0906940486, the British Library,(2007)

3) 山本郁夫,ロボット開発と海洋エネルギー利用促進,ながさき経済,No.307(2015),pp.1-7

【著者略歴】
山本郁夫(やまもと いくお)
長崎大学副学長・教授

1983年3月 九州大学工学部航空工学科卒、同大学院工学研究科修了、博士(工学)。
1985年4月 三菱重工本社技術本部、
2004年4月 海洋研究開発機構、
2005年4月 九州大学大学院総合理工学府教授、
2007年4月 北九州市立大学教授、
2013年4月 長崎大学教授、
2019年4月 同大学副学長。

GlobalScot(スコットランド名誉市民)、フランス国際賞受賞。
専門はロボット工学。実用的なロボットを世界に先駆けて開発することで定評がある。三菱重工業株式会社で10000m(10900m)無人潜水ロボットやB787主翼、JAMSTECで300km(317km)以上を自律で航走する水中ロボットを開発してきた。大学では小型飛行体や小型水中ロボット、本物そっくりにおよぐ魚ロボットを世界に先駆けて開発している。宇宙遊泳する魚ロボットも開発した。30年以上のロボット研究歴の中で英国、フランス、日本などでPractical Roboticsの創出法に関する本など多く執筆している。

水中ロボットの測位用センサ(3)

東京大学生産技術研究所
海中観測実装工学研究センター
特任助教 松田 匠未
東京大学生産技術研究所
海中観測実装工学研究センター
准教授 巻 俊宏

3.研究事例紹介

ここまで水中ロボットの測位センサを紹介してきた。水中での測位は難しく、手軽に水中調査を行うことは難しいのが現状である。そこで低コストかつ高性能な水中測位を実現することが私たちの研究テーマの一つである。これまで複数のセンサを組み合わせる、「センサフュージョン」という技術を取り入れた測位方法を開発してきた。音響、光、慣性、それぞれを組み合わせることでそれぞれの弱点を補う。人が目だけでなく、耳や足など様々な情報を組み合わせて自分の位置を推定することと同様である。この方法を応用することで、これまで防波堤や岸壁等の人工構造物の周辺での高精度な測位手法を開発した3)

図5 慣性航法装置の例2)

さらに複数のロボットや海底ステーションの協調による測位手法の開発にも取り組んでいる。例えば図6のように海底に設置したステーション(固定局)と相互に音響信号をやりとりして相対位置を求め、さらに自分の持つセンサと組み合わせることで、固定局の周囲での高精度な測位や海底画像マッピングを行う手法を開発した4)。また固定局ではなく、移動するロボット同士に応用することで、複数のロボットが協調して広い範囲の海底を観測することができるようになる。このような運用方法をマルチビークルといい、海中ロボティクスにおいて現在ホットな研究テーマになっている。例えば図7のようにINSやDVLなどを組み合わせて高性能な測位性能を有するAUV(親機)が移動式音響ランドマークとなることで、シンプルな測位センサしか搭載されていないAUV群(子機群)も親機と同程度の測位性能を実現することができる5)。親機のコストはかかるものの、1台の親機を核として低コストな子機群を高精度に運用できるようになるため、システム全体のコストを抑えられる。このように複数のロボットを用いることで観測効率だけでなく、測位精度も向上できる。

図6 海底ステーションを基準とする相互音響測位手法4)
図7 高性能なAUVを核としたAUV群による協調ナビゲーション手法5)

次週に続く-

参考文献

2) iXblue, https://www.ixblue.com/

3) 巻俊宏, 近藤逸人, 浦環, 能勢義昭, 坂巻隆, “自律型水中ロボットによる人工構造物の観測,” 日本船舶海洋工学会論文集, 1, pp. 17-26, 2005

4) T. Maki, T. Matsuda, T. Sakamaki, T. Ura, J. Kojima, “Navigation Method for Underwater Vehicles Based on Mutual Acoustical Positioning With a Single Seafloor Station,” IEEE Journal of Oceanic Engineering, 38(1), pp.167-177, 2013

5) T. Matsuda, T. Maki, T. Sakamaki, “Accurate and Efficient Seafloor Observations with Multiple Autonomous Underwater Vehicles: Theory and Experiments in a Hydrothermal Vent Field,” IEEE Robotics and Automation Letters (RA-L), 4(3), pp. 2333-2339, 2019

【著者略歴】
松田 匠未(まつだ たくみ)
2012年3月 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 修士課程修了 修士(環境学)
2012年4月~2015年3月 日本学術振興会 特別研究員
2015年3月 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 博士課程修了 博士(環境学)
2015年4月~2019年3月 東京大学生産技術研究所 特任研究員
2019年4月 東京大学生産技術研究所 特任助教
現在に至る

・所属学会
IEEE,日本船舶海洋工学会,海洋調査技術学会,日本ロボット学会
・受賞歴
2011年 MTS/IEEE OCEANS 2011 KONA Student Poster Program Second Place Awards
2014年 IEEE OES Japan Chapter Young Researcher Award 2014
・専門分野
知能ロボティクス,フィールドロボティクス,自律型海中ロボット(AUV),マルチロボットシステム,確率ロボティクス



巻 俊宏(まき としひろ)
東京大学生産技術研究所 准教授。

2003年東京大学工学部システム創成学科卒業。
2005年東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学専攻修士課程修了、修士(工学)。
2008年東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学専攻博士課程修了、博士(工学)。
同年4月東京大学生産技術研究所助教、同年10月〜12月ウッズホール海洋研究所(米国)客員研究員を経て、2010年4月より現職。
専門は海中プラットフォームシステム学。海のフロンティアを拓く岡村健二賞等を受賞。
IEEE, 船舶海洋工学会等の会員。

Blue Economyと日本・スコットランドの協業(3)

英国大使館・スコットランド国際開発庁
松枝 晃

2. スコットランドと日本の技術開発協力

スコットランド政府経済開発機関のScottish Enterprise(SE)とScottish Development International(SDI)は、2012年頃から、両国企業間の技術の強みを持ち寄り共同開発を通して共に市場に参入すると言う戦略発想持って活動を続けてきた。エレクトロニクス、ロボット技術、製造・品質管理技術など基礎技術に優れる日本企業と、海洋産業の現場で培った技術・経験を持つスコットランド企業は補完的な関係になり良いパートナーになり得る。この発想に賛同を頂き、次世代センサ協議会、JAPIC、エンジアリング協会、日本舶用工業会とともに協業機会を探った。またサンケイビジネスアイのご理解を頂きSensorExpoに併設する形で、Subsea Tech Japanを開催する事となった。

図8

2017年に、(公益財団法人)日本財団とSEで合計20億円の助成金を用意して、海洋開発に関して技術開発助成事業を行う事となった。同年9月にAberdeenにおいて調印式が行われた。日本企業とスコットランド企業が共同開発グループを組んで(1対1に限定されない)、その内容を審査して助成金を提供する仕組みである。その際、外部有識者委員会JAC(Joint Advisory Committee、両国から各3名)を作り提案プロジェクトへのアドバイスや評価をおこなっている。最終的に日本側企業は日本財団が、スコットランド側企業はSEから判断をしてそれぞれ助成金を付ける仕組みとなっている。ここでの採択の重要なポイントは、市場性があるかどうかと言う点にある。

第一回目の募集は、2017年末から開始した。テーマは、石油ガス生産に関するデジタル化(Digital Oil Field)とその他技術とした。https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2017/20171120-22783.html
2018年9月に最終的に以下の5つのプロジェクトを採択した。

図9

パートナーを見つける作業は各企業の努力とSE/SDIのサポートの2本立てであったが、採択に至ったすべての日本企業はAberdeen・Scotlandを訪問しており、その結果パートナーが見つかっている。
プロジェクトは、いずれも日本側がSystemでスコットランド側がその為のキーソリューションの組み合わせになっている。当初予想した日本側の強みであるエレクトロニクス、ロボット、製造・品質管理技術などが生かされた内容となっている。

次週に続く-

【著者略歴】
松枝 晃(まつえだ あきら)
英国大使館・スコットランド国際開発庁 上席投資担当官
金沢大学 工学部 電気工学科卒、
1981年オリンパス光学株式会社(当時)。研究開発部門で回路設計、新規事業開拓、オープンイノベーション等経験。
2010年スコットランド国際開発庁。センシング技術を中心に日本スコットランド間の技術案件を担当。2012年から海洋関係。北海のSubsea技術と日本の海洋関連技術のコラボレーションを促進。