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RFIDで位置を自動取得する新たな在庫・物品管理システム「Locus Mapping」

RFルーカス(株)は、在庫・物品の位置を自動取得してデジタルマップ上に表示できる「Locus Mapping」を2020年2月1日に先行リリースした。
アステラス製薬(株)、(株)ジップなど大手企業3社に先行導入を開始するという。また、JR東日本スタートアップ(株)のスタートアッププログラムにて、東日本旅客鉄道株式会社の横浜支社内での実証実験も開始しているとのこと(注1)。

■Locus Mappingに搭載される機能の詳細
・入出庫機能:入出庫する在庫・物品を一瞬で読み取り、在庫リストに反映します。入出庫予定リストと照らし合わせた検品作業も可能。

・棚卸機能:RFIDタグが貼付された在庫・物品の種類と数を瞬時に把握でき、棚卸リストとの照合可能。

・マッピング機能:在庫・物品が置かれている場所(棚や床など)にRFIDタグ(以下、位置参照タグ)を貼り付け、ハンディリーダーで一括読み取りし、各々の在庫・物品を最も近い位置参照タグにシステム上で紐付けます。この仕組みによって、あらゆるモノの位置を自動取得して、デジタルマップ上に表示可能。

・その他機能:レーダー探索機能や、デジタルマップ上に棚や位置参照タグを簡単に配置できるツールを含む。

RFルーカスは安価なRFIDタグと同社の位置特定技術を組み合わせることで、これまで見えなかった実世界のモノの情報を、ロケーションまで含めて可視化した。今後は、ロケーションデータを活かした付加価値の高いサービスや、自動走行ロボットと組み合わせた無人読み取りなど更なる効率化、省人化に取り組んでいくとしている。

(注1)「JR東日本スタートアッププログラム2019に採択、倉庫での備蓄品・保管書類の管理効率化に向けた実証実験を開始」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000027569.html

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000027569.html

ナノシード「イベントカメラ DAVIS346」の取扱い開始

(株)ナノシードは「イベントカメラ DAVIS346」の取扱いを開始した。
イベントカメラ「DAVIS346」は、従来のカメラとは根本的に異なるバイオにヒントを得たセンサ。
従来のマシンビジョンシステムに比べて前例のないメリットを持つ。

画像をキャプチャする代わりに固定レートで、ピクセルごとの輝度の変化を非同期的に測定する。 これにより、時間、輝度変化、場所をエンコードされた「イベント」というデータが生成される。
このイベントカメラは、従来のカメラと比較して優れた特性を備えており、特徴としてダイナミックレンジ(140dB)、高時間分解能、低消費電力、被写体ブレがないことなどが挙げられる。

製品サイト(nanoxeed):https://nanoxeed.co.jp/product/eventcamera/

LPWAと3次元センシングによる 看護・介護業務の負荷軽減の実証実験

凸版印刷は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「データ連携・利活用による地域課題解決のための実証型研究開発(第2回)」(2019年度から2020年度の2年間)を受託している。
同社は奈良県立医科大学の協力の下、LPWA規格ZETA(ゼタ)(※1)とベッドにかかる荷重の度合いから患者の状態を把握できる3次元センシングを活用し、奈良医大がこれまで培ってきた褥瘡(じょくそう)(※2)予防のノウハウを可視化。これにより医療・介護現場における看護・介護者の負荷軽減や人手不足を解消することを目指す実証実験を2020年2月21日より奈良医大にて開始すると発表した。

この実証実験では、ベッドの脚に設置したセンサで、ベッド上の力のかかり具合や寝ている方向などを把握する3次元センシングにより患者の姿勢推定や荷重検知を行い、褥瘡予防との相関関係をAIで論理的に推定することを目指す。また、他の医療機器への影響が少なく低価格で導入できるため、病院や施設内に容易に設置可能なZETAを使用することで、センシングした情報を集約し、遠隔からリアルタイムで見守りを行うという。

■本実証実験の概要
・場所:奈良県立医科大学附属病院
・実証期間:2020年2月21日から開始
・内容:
① 3次元センシングで取得したデータと褥瘡予防との相関関係を検証
 カメラやマット型の圧力センサではなく、荷重センサをベッドの脚に設置。これにより、患者の体に力がかかっている部位やベッド上でどの位置に力がかかっているかなど、荷重データをセンシングし、そのデータと褥瘡予防との相関関係を検証。

② 奈良医大がこれまで培ってきた褥瘡予防のノウハウを可視化
 医療現場で行われる褥瘡予防に必要な体位変換や巡回の頻度など、これまで経験に頼っていた部分をZETAと3次元センシングで可視化。奈良医大のノウハウを水平展開することを目指し、褥瘡予防を論理的に推定することを検証。

※1 ZETA
ZiFiSenseが開発した、超狭域帯(UNB: Ultra Narrow Band)による多チャンネルでの通信、メッシュネットワークによる広域の分散アクセス、双方向での低消費電力通信が可能といった特徴を持つ、IoTに適した最新のLPWAネットワーク通信規格。

※2 褥瘡
患者が、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと。一般的に「床ずれ」とも言われる。

ニュースリリースサイト(toppan):
https://www.toppan.co.jp/news/2020/02/newsrelease200221_1_.html

脳を計りながらストレス軽減をサポートするアプリを開発

(株)NeUは、脳科学とマインドフルネスの知見をもとに、小型センサで脳を計りながらストレス軽減をサポートするスマートフォン用アプリ「ストレスマネージャー」を開発した。本アプリのユーザーは個人と法人の両方を想定しており、2020年3月下旬よりサービス受付を開始する予定とのこと。

情報社会の高度化に伴い、情報の増大やコミュニケーションの複雑化などからストレスの多い時代と言われており、メンタル疾患による休職者の増加(注2)など、さまざまな社会問題にも繋がっている。ストレスを軽減する試みとして、働き方改革などの取り組みがされている一方、マインドフルネスなど内面からストレスに対処する取り組みも注目されている。これらの背景より、NeUでは脳科学の知見と日常環境で脳の活動状態を計ることができるセンサ技術を応用して、ストレス軽減とストレス耐性の向上を目的としたスマートフォン用アプリ「ストレスマネージャー」を開発したという。

マインドフルネスとは、「今この瞬間、心の内面に意識を集中」することを指し、ストレス軽減などの効果が様々な研究(注3)によって確認されており、脳科学では、デフォルトモード・ネットワーク(注1 以降DMN)と呼ばれる脳機能の沈静化が関わっていると考えられているとのこと。
今回、NeUが既に開発している小型脳活動センサ(XB-01)を額中央に装着することでDMNの活動状態を計測できることを確認しDMNをモニタリングしながら瞑想をサポートするアプリを開発した。これによって瞑想の習得と習慣化が行え、ストレス軽減をサポートするとしている。

もう一つ注目し取り入れたのが、バイオフィードバック法を用いたストレス耐性の向上に関する知見。バイオフィードバック法には従来から、心拍数を見ながら自分の意思で上げ下げするといったトレーニングがあるが、NeUでは超小型脳活動センサによって、心拍と脳活動それぞれを計りコントロールするトレーニングを新たに開発し、今回のアプリに取り入れた。このトレーニングを繰り返し行い習慣化することによって、ストレス度やストレスホルモンレベルが低下することが東北大学の研究(注4)によって確認されているとのこと。

注1)意識的な活動をしていない時に活発になる神経ネットワークで、様々な考えが自然に浮かんでくる状態。DMNの過活動は脳の疲労やうつ状態との関連も報告されている
注2)厚生労働省労働安全衛生調査(実態調査)の例では、メンタル不調により連続1カ月以上休職または退職した労働者がいた事業所の割合が、平成24年の8.1%から平成30年の12.5%に増加
注3)感情制御・不安傾向の改善に関するMenezes C.B. et al., 2013の研究や、マインドワンダリングの低下に関するMrazek M.D. et al., 2013の研究など
注4)Kotozaki, Y., Kawashima, R. et al. 2014. Biofeelback-Based Intervention for Daily Hassles. Brain and Behavior 566-579.

プレスリリースサイト(NeU):https://neu-brains.co.jp/information/press/2020/02/20/1178.html

センサリングサービスとの連携第一弾。予め収入を予測できるデータドリブン農業を構築。

『食べチョク』を運営する(株)ビビッドガーデンは、一気通貫型のIoTサービスを提供する(株)Momoの農業向けIoTキット「Agri Palette(アグリパレット)」とデータマーケティング第一弾として連携したと発表した。
農作物ごとの顧客からの評価と栽培データの統合を通して予め収入を予測できるデータドリブン農業の構築を目指すとのこと。今回の取り組みを先駆けとして、今後は他センサリングサービスをはじめ、様々な企業とのデータ連携を進めていく予定としている。

昨今、農業IoTは、圃場(ほじょう:畑や菜園、田畑)の見える化によって、農法や作業における効率化と改善をもたらす技術として注目を集めているが、サーバにデータを送り保存できるような農業IoTデバイスは一般農家に普及しておらず、農作物の栽培は勘と経験に依存している。作物は収穫より早い段階で品質を見極めることが難しく、収穫の最終段階まで収入が不確定となることが農業事業者の課題となってきたという。

『食べチョク』は、こだわり生産者から直接食材を買うことができるオンラインマルシェとして運営している。登録生産者は750軒を超え、生産者/食材ごとの顧客評価をデータ化してきたとのこと。
『Agri Palette』は、農作物に必須の土壌(土壌水分量・土壌温度・土壌EC・土壌Ph)と空気(気温・湿度・二酸化炭素濃度)と日照量のデータを畑から取得し、受信機を通じてウェブ(データベース)に記録、アプリで可視化するセンサシステム。これにより品質・収量・収穫時期のコントロールが可能になるという。

今回の連携は、『食べチョク』で高評価を得ている農家に『Agri Palette』を導入することで、顧客からの評価と栽培データ(土壌EC・温度・水分・土壌Ph・CO2・日照量・温湿度・位置情報)を統合し、あらかじめ評価を想定できるシステムの構築を目指す。 そして、新規就農・新規作付けのリスクを減らし、農業事業者の経済的安定を目指す今回の試みにより、数年後には農業事業者は栽培しながらデータを参照することによって、収穫前に収入の予測がつく農業を実現するのが狙いだとしている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000025043.html

panasonic 長距離で高い測距精度を有するTOF方式長距離画像センサを開発

パナソニック株式会社 インダストリアルソリューションズ社は、近方から遠方250 m先にある物体位置に合わせた高精度な三次元情報を取得する、アバランシェフォトダイオード(APD)画素を用いたTime-of-Flight(TOF)方式距離画像センサを開発したと発表した。
このセンサは、車載用距離測定や広域の監視など、さまざまな分野への展開が可能とのこと。

今回開発した新TOF方式距離画像センサは、2018年6月に同社が発表したAPD画素を用いたTOF方式距離画像センサの技術をもとに、電子増倍部と電子蓄積部とを縦積構成にすることでAPD画素の小面積化をはかり、世界最高となる100万画素の集積化を実現※1。また、これまで同社が開発してきた三次元距離画像の長距離計測と高解像度化に加え、一般のTOFセンサやLiDARでは困難であった高測距精度化との両立にも成功した。これにより遠方での人・モノの重なりを精度よく検出することが可能となったという。

※1 学会発表などで公表されている増倍画素を搭載し、画撮像動作時の距離画像センサの比較 (2020年2月18日時点。panasonic調べ)

この開発で、以下の特長を有するとのこと。
・APD画素を用いた従来比4倍※2となる100万画素の高解像度かつ高感度な距離画像センサ
・TOF方式で10 mから100 mの長距離でも10 cm間隔(従来比15倍※2)でセンシング可能な高測距精度の三次元距離画像を取得

※2 2018年6月に発表した同社TOF方式長距離画像センサとの比較

用途としては、産業/監視用/車載センシングカメラなどに活用できる見込みとしている。

ニュースリリースサイト(panasonic):
https://news.panasonic.com/jp/press/data/2020/02/jn200218-1/jn200218-1.html

エマルションからの香気放散挙動(2)

九州大学 大学院 教授
井倉 則之

4.異なる油相含有率のエマルションからの香気放散挙動

O/Wエマルションは前述のように、水相に油滴を分散させた系である。このとき、連続相である水相の粘度はそのエマルションの物性に大きく影響を及ぼすことは容易に想像できるが、分散相としての油滴の含有率や粘度、さらには液滴径もエマルションの物性や流動特性に大きな影響を与える。例えば、水や油はそれ単体では、多くの場合ニュートン流体としての挙動を示すが、それらがエマルションとなると、非ニュートン流体として挙動する。油相含有率や液滴径はこの非ニュートン流体としての流動特性を変化させることが知られている7)。さらに液滴径は、その大小だけでなく、粒度の均一性もエマルションの安定性に大きく影響する。このように、油相含有率や液滴径はエマルションの物性に大きく影響を及ぼすが、香気化合物の放散挙動にも影響を及ぼすと考えられる。なぜなら、油相含有率が高ければ、疎水性化合物の溶け込みが増加し、親水性化合物の溶存割合は減少するからである。そこでTamaruらは異なる油相含有率を持つO/Wエマルションからの香気化合物の放散挙動を調べている8, 9)。その結果、疎水性香気化合物の香気放散量は、O/Wエマルションの油相含有率の増加に伴い減少するのに対して、親水性香気化合物の香気放散量は、全ての油相含有率で一定の値を有することを示している。

さらに、彼らは前述の3つの分配係数と香気化合物放散挙動との相関についても論じており、香気化合物のlog Pow値と香気放散量の対数値との間にはいずれの油相含有率においても相関は認められなかったのに対して、log Pwa値およびlog Poa値は香気化合物の放散量の対数値との間に、いずれの油相含有率においても高い相関を示すことを報告している8, 9)。また、最近の研究では油滴の液滴径が小さいほど、油−水界面の界面面積が大きくなることから、香気化合物の放散速度も速くなることなども明らかにしている。このように、エマルション中の油相は香気化合物の放散挙動に大きく影響を及ぼすこと、またその放散挙動は香気化合物の疎水性よりも、各相と気相間の分配係数に依存することなどが明らかになりつつある。すなわち、log Pwa値およびlog Poaを用いることでエマルションからの香気化合物の放散挙動の予測が可能となることが示されている。

5.エマルション温度が香気放散挙動に及ぼす影響

香気化合物の放散には一般的に温度が大きな影響を与えるが、エマルションからの香気化合物の放散挙動にもエマルション温度は影響を与える。実際に異なる温度(15℃、25℃、36℃)に保持したエマルションからの香気化合物の放散量を調べたところ、エマルション温度の増加に伴い、いずれの香気化合物においてもその放散量は直線的に増加する傾向が認められた(図4)。すなわち、エマルションからの香気化合物放散量にも温度依存性があることが改めて示された。また、放散量が直線的に増加していたことから、15℃、25℃、36℃における香気化合物の放散量とlog Pow値、log Pwa値、log Poa値との関係を調べたところ、やはりlog Pow値と香気放散量の間には、いずれの温度においても相関は認められなかった。しかし図5に示したように、log Pwa値およびlog Poa値と香気放散量の対数値との間にはいずれの温度においても高い相関が認められた(結果は25℃における放散量と各分配係数の関係)。

図4 エマルション温度と香気放散量の関係
図5 各香気化合物のLog Pwa値およびLog Poa値と香気放散量の関係

そこで、温度変化に伴う香気化合物放散量の増加率を調べたところ、その増加率は、log Pwa値およびlog Poa値と高い相関を示していた。このことは、温度変化によらずlog Pwa値およびlog Poa値を用いることで、O/Wエマルションからの香気放出量を予測できる可能性を示している。しかし、現在確認している香気化合物の種類はまだ少なく、今後さらに香気化合物の種類を増やし、エマルション温度の変化が香気化合物放散量に及ぼす影響を解析する必要があると思われる。

6.おわりに

エマルションの性質を左右する物性値がエマルションマトリックスからの香気化合物の放散挙動に及ぼす影響と、その放散挙動と香気化合物の油−水および気−液間における分配係数との関係について述べてきた。ここでは、香気化合物のエマルションからの放散量は、各香気化合物の気−液間分配係数と高い相関を示し、その放散挙動を香気化合物の分配係数から予測可能となることを示している。しかしエマルションは、今回のような単純な油と水(界面活性剤を含んではいるが)のみで構成されているというわけでは無い。実際の製品では、タンパク質や炭水化物さらにはミネラルやビタミンなど多様な微量成分のような、非常に多くの成分によってエマルションマトリックスは構成されている。香気化合物の放散挙動をより正確に把握するためには、マトリックス構成成分がどのような影響を及ぼすのか、さらにはエマルション自身のレオロジー的性質が香気化合物の放散挙動にどのような影響を及ぼすのかについても論じる必要がある。今後、益々の研究の発展が期待される。

参考文献
7) 鈴木寛一, New Food Industry, 38, 49-57 (1996)
8) S. Tamaru, et.al., Food Chemistry, 239, 712-717 (2018)
9) S. Tamaru, et.al., Food Research International, 116, 883-887 (2019)

【著者略歴】
井倉 則之(いぐら のりゆき)
九州大学大学院農学研究院 教授 農学博士
九州大学五感応用デバイス研究開発センター協力教員
九州大学生物環境利用推進センター複担教員

■略歴
平成5年3月  九州大学大学院修士課程修了
平成5年10月  九州大学農学部助手
平成16年11月 九州大学助教授(平成20年に同大学院准教授)
令和元年10月 九州大学大学院農学研究院教授

■受賞
平成30年11月  Best Papers Award of ICNFE 2018
平成31年2月  Food Science and Technology Research Award Vol.24

これまで、食品の美味しさに関わる研究(非加熱殺菌、食品物性、香り)を続けてきている。

嗅覚センサとロボット(2)

東京農工大学
生物システム応用科学府
教授 石田 寛

3.匂い・ガス源を探索するロボットの研究動向

匂いやガスの発生源を探索するロボットの開発は、1990年頃に始まった。理論的にはガス濃度勾配をたどれば、ガス濃度が最大となるガス源の位置に到達できるはずである。そのため初期の研究では、複数のガスセンサをロボットに搭載して応答を比較し、ガス濃度が高くなる方向へロボットを誘導することを試みた例が多い。しかし、実際に実験をしてみると、ロボットがガス源に到達できないことが多い。ガス源から風下に帯状に延びるプルームの中心軸上では、ガス濃度がガス源からの距離におおよそ反比例する6)。ガス源の近傍では距離の増加と共に急激にガス濃度が低下するが、ガス源から離れるとガス濃度はゼロに漸近し、ロボットの前後や左右に取り付けたガスセンサの応答差は非常に小さくなる。その上、プルームが不規則に蛇行するため、ガス源に近い側にあるセンサが常に大きな応答を示すとは限らない。

そこで、前節の図2に示したように、ガスセンサに加えて風向風速計をロボットに搭載する。図4に示すように、ガスや匂いのプルームを風上にたどるようにロボットを動かして発生源位置を突き止めるアルゴリズムが提案された2,7)。この手法は、性フェロモンのプルームをたどるオスの蛾の行動8)を模倣している。オス蛾は、メスの蛾が空気中に放出した性フェロモンの分布をたどって飛行し、メスの場所を突き止める。まず、性フェロモンを感知すると、オス蛾は風上に向かう。フェロモンは風に運ばれて広がるため、風上に向かえばフェロモンの発生源であるメス蛾へと近づくことができる。そこでロボットも、図4に示すようにガスを検知したら風上の方向に移動するようにプログラムする。この時に、ガスの濃度勾配も検出し、なるべくプルームの中心軸付近をたどるように、風上から少し斜めに傾いた方向に移動するようにする。しかし、風向が変動してフェロモンのプルームが蛇行すると、たどっていたプルームが別の場所に移動してしまうことがある。このような場合にオス蛾は、風を横切る方向に振幅を広げながら左右を行き来し、プルームを探す。この行動は、キャスティングと呼ばれる8)。ロボットも、ガスが検出されなくなったら、風を横切る方向に左右を行き来するようにする。プルームに入ってガスが検出されたら、再び風上に移動する。

図4 ガスのプルームを風上にたどるロボットの移動アルゴリズム
(IEEEの許諾を得て文献7)より転載)

ガス源の探索結果の一例を図5に示す。屋内のホールに4 m四方の実験領域を用意し、その中央にガス源を設置して、エタノール飽和蒸気を500 mL/minの流量で放出した。図中の太い線はロボットが風上に向かっていた際の移動軌跡を表し、細い線はキャスティングを行っていた際の軌跡を表す。この実験環境における気流の速度は5 cm/s程度であり、人間には感じられないほど微弱であるが、超音波風向風速計を用いれば気流の方向を正確に計測することができる。図5に示したロボットの移動軌跡を見ると、ロボットがプルームをたどっている際に何度か風向が変わっていたことが分かる。ロボットがキャスティングを行った結果、風向の変動によって移動したプルームの新たな位置を探し出すことができ、再びプルームをたどってガス源に到達することに成功した。

図5 ガス源を探索するロボットの移動軌跡(IEEEの許諾を得て文献7)より転載)

しかし、風向が大きく変化してしまうと、キャスティングを行ってもプルームを探し出すことができず、ガス源の探索に失敗してしまう。風向が安定した環境では100%近い探索成功率が得られるが、図5の実験を繰り返した際の探索成功率は50%ほどの低い値となった。ロボットは、蛾のように機敏にキャスティングを行うことができない。そこで最近では、ガスの空間分布をたどってロボットを実際に移動させるのではなく、ロボットが得たセンサデータを使い、離れた位置から信号処理によりガス源位置を推定する試みが行われている。例えば、ロボット上のガスセンサが反応を示した際に、風速計の時系列応答を用いれば、ガスがどのような経路をたどってロボットの位置まで運ばれてきたか、その軌跡を逆算することができる。ロボットを移動して、別の場所でガスが検出されたら、その位置から再び、ガスが運ばれてきた経路を逆算する。複数の地点から逆算した経路はどこか1点で交わるはずであり、その場所がガス源であると推定することができる。この手法により、Liらは、屋外環境に用意した10 m四方の領域において、79%の成功率でガス源を探索することに成功した9)。Neumannらは同様のアルゴリズムをドローンに搭載し、ガス源の17 m風下から飛行させ、83.3%の確率でガス源位置を推定することに成功した10)

筆者らは、機械学習を用いてガス源位置を推定することを試みている11)。図6では、緑色の紐の交点の位置に合計30個のガスセンサを並べ、その領域の中央に超音波風向風速計を設置している。ガスセンサと風向風速計の時系列応答を使い、どのガスセンサの近くにガス源があるか、深層学習ニューラルネットワークを使って判定した。前節の図3に示したように、ガス源に最も近いガスセンサが最も大きな応答を示すとは限らない。ガス源の位置を様々に変えて実験を行った結果、応答が最大のガスセンサの位置にガス源があると単純に判定した場合は、45.6%の正解率しか得られなかった。しかし、センサの応答パターンを深層学習ニューラルネットワークに学習させると、95%の正解率でガス源の位置を判定することができた。今回は多数のガスセンサをフィールドに配置した。ガスセンサを搭載したロボットを動かしてセンサデータを収集した場合にも、同様の手法を適用できるものと期待される。

図6 ガスセンサを屋外に並べてガス濃度分布を計測した様子(文献11)より転載)

4.おわりに

嗅覚を備えたロボットの研究開発は、その実現可能性を探る基礎的な段階から、具体的な応用先を見据え、現実に近い環境で実験が行う段階へと移行しつつある。情報工学や信号処理工学の各種技法を駆使し、現実の複雑な環境でも確実に匂い・ガスの発生源を探索できるアルゴリズムの開発が模索されている。地雷探知犬の代わりとなるロボットを実現するためには、爆薬の匂いを高感度に検知するセンサの開発を待つ必要がある。ガス源探知ロボットの現実的な応用先として、埋立地においてゴミの生物分解により発生するメタンの計測が注目されている12)。メタンは強い温室効果を持ち、埋立地を適切に管理するためにもメタンの発生量をモニタリングすることが求められているが、広大な埋立地のどこかでメタンが発生しているか分からない。メタンであれば既存のセンサで高感度に検出できるので、ロボットを使いメタン発生箇所を特定することができると期待されている。他にも工場において一酸化炭素濃度の分布を測定するなど、作業環境測定への応用も試みられており、近い将来の実用化が期待されている。

参考文献
6) 日野幹雄, 流体力学, 朝倉書店 (1992)
7) A. Murai, K. Yoshimoto, R. Takemura, H. Matsukura, and H. Ishida, Proc. IEEE Sensors, 1746–1749 (2015)
8) A. Mafra-Neto and R. T. Cardé, Nature, 369, 142–144 (1994)
9) J. G. Li, Q. H. Meng, Y. Wang, and M. Zeng, Auton. Robot., 30, 281–292 (2011)
10) P. P. Neumann, V. Hernandez Bennetts, A. J. Lilienthal, M. Bartholmai, and J. H. Schiller, Adv. Robot., 27, 725–738 (2013)
11) C. Bilgera, A. Yamamoto, M. Sawano, H. Matsukura, and H. Ishida, Sensors, 18, 4484 (2018)
12) V. Hernandez Bennetts, A. J. Lilienthal, P. P. Neumann, and M. Trincavelli, Front. Neuroeng., 4, 20 (2012)

【著者略歴】
石田 寛(いしだ ひろし)
東京農工大学/生物システム応用科学府
教授 博士(工学)

■略歴
1997年 東京工業大学大学院理工学研究科 博士後期課程修了
   同年 東京工業大学 工学部電気・電子工学科 助手
1998年 ジョージア工科大学 ポスドク
2000年 東京工業大学 大学院理工学研究科電子物理工学専攻 助手
2004年 東京農工大学 大学院工学教育部機械システム工学専攻 助教授
2017年 東京農工大学 大学院生物システム応用科学府 教授 現在に至る

においセンシングシステムの研究動向(2)

東京工業大学 科学技術創成研究院
教授 中本 高道

4.深層学習によるにおい印象予測

香りがどのような印象を持つかは、”甘い”、”さわやかな”のような記述子で表現され、各記述子のスコアでもって表される。ここでは質量分析器と深層学習を用いて匂い印象を予測する手法を説明する。
図7に示すように質量分析器の出力を深層学習により学習させたニューラルネットワークで匂いの印象空間に写像させる11)。ニューラルネットワークは従来から使用しているが、近年は大規模なニューラルネットワークを比較的簡単に用いることが可能である。

図7.匂い印象予測を行うニューラルネットワークの構成

匂いの印象はDravnieksが作成したデータベースから、121の匂い物質について144の記述子を使用し0-5のスコアで評価したデータを使用した12)。その際、多次元空間から多次元空間への写像を行うので、写像の精度を上げるためには各空間で特徴抽出をすることが有効である。そこで、マススペクトル空間(212次元)と匂いの印象空間(144次元)それぞれに対してオートエンコーダ(5層の多層パーセプトロン)により特徴抽出を行った。
オートエンコーダは砂時計型ニューラルネットワークとも言われ、中間層の中央の層のニューロン数を絞って、そこにデータの特徴が現れるようにする手法である。入力層のデータと同じものを出力層の目標値として与えてニューラルネットワークに与えて学習させる。その結果、教師有り学習にも関わらず、あたかも教師無し学習のように動作して、隠れ中央層のニューロン数を絞ったところに次元圧縮されたデータの特徴が現れるのである。
抽出した特徴の次元はマススペクトル空間は45次元、匂い印象空間は30次元である。そして、抽出した特徴空間の間の写像を5層の多層パーセプトロンで行った。匂い印象の予測ではこれらのニューラルネットワークで必要なところのみを使用するので、9層の多層パーセプトロンを使用することになる。匂い印象の予測を行い、従来の代表的手法であるPLS(Partial Least Squares)法13) と本手法を比較した。PLS法は線形手法であるが、重回帰分析よりも多重共線性に優れた手法として知られている。PLS法における潜在変数の数は45個である。その潜在変数の場合が、最もテストデータに対する誤差が小さかった。

100個のデータを学習に使用し、21個のデータをテストデータに使用した。交差検定の結果を図8に示す。図8には3024(144記述子x21サンプル)のデータがプロットされている。交差検定の結果、本手法を用いた場合の真値と予測値の相関係数が0.76に対してPLS法の場合が0.61となり、本手法の有効性を確認することができた。交差検定とは、学習時に使用したデータとは別のデータを評価時に使用する検定方法で、パターン認識ではよく用いられる方法である。

図8.匂い印象予測結果 11).
(a) 本手法、(b) PLS法 11)

5.におい再現

筆者のグループはいくつかの要素臭の比率を変えることにより多数の香りを近似的に表す手法を開発した。色の場合は3原色だが、香りの場合はいくつの要素臭があれば任意の香りを作成できるのであろうか。かつてAmooreは7原臭説を唱えたが14)、実際はもっと多くの要素臭が必要と考えられる。
人の嗅覚受容体の種類は350-400種類程度と言われている。それと同数程度の要素臭を準備するのは大変であるが、まったく同じ匂いでなくてもある程度類似している匂いでも可とすると要素臭の数は減らせる可能性がある。このように、少ない要素臭で類似した香りを作ることを香りの近似と呼ぶ、香り近似により香りを再現することを考える。映画に香りをつける時は香りの種類を大きく変えないと体験者はなかなか変化がわからないことを考えると、実際にはもっと減らせる余地がある。
この要素臭を探索するには、人間の官能検査から得られた空間上で探索するのが最適であるが、人の嗅覚は順応があるうえにたくさんの香りのデータを得るのには多大な時間がかかる。さらに個人差もあるために信頼性のあるデータをたくさん集めるのは容易ではない。

そこで、ここでは質量分析器によりデータを測定して集めることにした。質量分析器を用いると大量のデータを安定に測定することが可能である。また、データの次元数は200次元以上あり、調合比を求める時に問題となる多重共線性(要素臭の数が増加するにつれてその構成比が安定に求まらなくなる問題)がほとんど問題とならない。さらに質量分析器ではマススペクトルに関して線形重ね合わせが成り立つので数学的取扱いが容易である。
要素臭を求めて、要素臭により近似的に香りを再構成する方法を図9に示す。質量分析器データからは非負値行列因子分解法(Nonnegative Matrix Factorization、以下NMFと略)法で基底ベクトルを抽出する。そして、現存する香りのマススペクトルと非負拘束最小二乗法を用いて基底ベクトルを近似し、その時の基底ベクトルの構成比より要素臭を作成する15)。対象臭を要素臭で近似する時は、要素臭のマススペクトル(近似された基底ベクトル)を用いて対象臭のマススペクトルに対して再度非負拘束最小二乗法を適用し、要素臭の構成比を得る。
特徴的なベクトルを抽出する最もよく知られている方法は、主成分分析法である。しかし、主成分分析法は、各主成分ベクトルに負の要素が含まれたり、主成分ベクトルにかかる係数が負になったりするために、マススペクトルや香りの構成比を表現するのに適していない。そこで、本研究ではNMF法を用いることにした。

図9.香り再現の原理

NMF法を用いるとマススペクトルはほぼ再現できる。しかし、さらに人が匂いを嗅いで評価する官能検査が必要である。そこで、13のブレンド精油に関して、マススペクトルの残差及び対象臭と近似臭の類似性を3点識別法で調べた(表2)。3点識別法とは2つ同じで一つだけ異なる3つのサンプルを被験者に提示して、その異なるサンプルがどれかを被験者にあててもらう方法である。12要素臭の場合、識別率が44-89%なのに対して、30要素臭は33-63%であった。3点識別法では識別率33%で違いが区別できなくなるので、本手法によりある程度本物に近い匂いが近似的に作成できたと言うことができる。

表2.3点識別法による香り再現の評価

6.まとめ

本稿では、最近の匂いセンシングの動向、香り印象予測、香り再現について紹介した。香りに関しては、まだITの中に取り込まれることはなく主観的な要素が強いものと思われているが、今後ITで用いられるようなディジタル嗅覚の研究が盛んになっていくものと考えられる。

謝辞
本研究の一部は日本学術振興会科学研究費JP18H03773の支援を受けた。

参考文献
11) Y.Nozaki,T.Nakamoto, Odor Impression Prediction from Mass Spectra,.PLoS ONE 11(6):e0157030.doi:10.1371/journal.pone.0157030 (オープンアクセス).
12) Dravnieks A. Atlas of odor character profiles. Philadelphia. ASTM. 1985.
13) Geladi P, Kowalski BR. Partial least-squares regression: a tutorial. Analytica Chimica Acta. 1986; 185:1–17.
14) E.アムーア著、原訳、匂い -その分子構造、恒星社厚生閣版、1972.
15) T.Nakamoto, M.Ohno, Y.Nihei, Study of odor approximation by using mass spectrometer, IEEE Sensors Journal, 12 (2012) 3225 – 3231.

【著者略歴】
中本 高道(なかもと たかみち)
東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

■略歴
1984年 東京工業大学電気電子工学専攻修士課程了。同年日立製作所(株)入社。
1987年 東京工業大学助手
1993年 同大准教授
2013年 同大精密工学研究所教授、2016年科学技術創成研究院教授、現在に至る。工学博士。
1996-1997年、 米国パシフィックノースウェスト研究所客員研究員。ヒューマン嗅覚インタフェース、知覚情報処理、センサ情報処理の研究に従事。

■著書
電気電子計測入門(実教出版)
においと味を可視化する(共著、フレグランスジャーナル社)
Essentials of machine olfaction and taste (編著書, Wiley)
Human olfactory displays and interfaces (編著書、IGI-Global)
嗅覚ディスプレイ(編著書、フレグランスジャーナル社)
センサ工学(共著、昭晃堂)

表面プラズモン共鳴センサを用いた超高感度匂い物質検知(2)

九州大学 大学院
准教授 小野寺 武

3.抗体

生物の免疫システムは自己と非自己を厳密に識別して異物を排除し、病気に対する抵抗力となっている。この生物の免疫システムの一部を担うのが抗体であり、分子量約15万のタンパク質である。Y字形の構造をしており、2本のポリペプチド鎖(重鎖、軽鎖)で構成されている。抗原(異物)と結合する認識部位は、Y字の両手部分の先端にある。この部分は、相補性決定領域と呼ばれ、多様な抗原に対応するために、アミノ酸配列が組み換えられる部分である。抗原との結合は、水素結合、ファンデルワールス力、静電的相互作用などの非共有結合で結合する。抗体は、ウイルスや細菌などの異物に結合し、その活動を阻止している。

センサに利用する抗体を人工的に得る場合は、抗原となる物質を動物に注射し、マウスやウサギ、ラットなど動物の体内で産生される抗体を用いる。生物は低分子量の物質に対しては、抗体を産生することができない。そのため、匂い分子のような低分子量の物質に対する抗体を得る場合には、ウシ血清アルブミン(BSA)やロコガイヘモシアニン(CCH)のような分子量の大きいタンパク質と、ターゲットによく似た構造で、タンパク質との結合に利用可能な官能基を有する化学物質を結合し、これを動物に注射(免疫)する方法がとられる。抗体の作製過程を図3に示す(2)。数回の抗原の注射後、全採血を行い得られる抗体は、ポリクローナル抗体と呼ばれる。これらは精製によりイムノグロブリンGと呼ばれるタイプの抗体のみを回収することができるが、様々な免疫原に対する抗体が混在する抗体である。図4に示すように、免疫原性はないが抗体が結合できる低分子はハプテンと呼ばれ、ハプテン部分を認識する抗体、タンパク質部分を認識するものやハプテンとタンパク質部分を認識する抗体の得られる可能性がある。

図3 低分子抗体の作製方法(2)
図4 低分子化合物に対する抗体

ポリクローナル抗体は、得られた分を使い切ってしまうと、その抗体と全く同じ性質の抗体を得ることは通常不可能である。これは、得られる抗体の性質が、免疫される動物の種類だけでなく、個体差にも依存するためである。そこで、細胞の継体培養によって抗体を得る方法が確立されている。抗体を産生するB細胞は培養によって増やすことができず、骨髄腫細胞は抗体を産生できないが継体培養で増やすことができる。これらの細胞を融合することで、培養できかつ抗体を産生するハイブリドーマ細胞ができる。いくつか融合された細胞の中から、目的に合った性能を持つ抗体を産生する細胞を決定するが、候補の細胞から産生された抗体を酵素免疫測定法(ELISA)やSPRセンサで評価した上で、選択する。決定した細胞を継体培養で増殖を行い、細胞から産出される抗体を回収することで、目的の性能を持った抗体が得られる。この抗体はモノクローナル抗体と呼ばれ、ポリクローナル抗体とは異なり単一の種類の抗体であり、ハイブリドーマ細胞を培養することで、その細胞から産生される抗体が半永久的に入手できる。著者らのグループでは、トリニトロトルエン(TNT)やヘキソーゲン(RDX)などの爆薬に対する抗体やベンズアルデヒド、フルフラールなどの香料に対するモノクローナル抗体、ホモバニリン酸に対するポリクローナル抗体等を獲得している。

4.測定方法と検出

SPRセンサは、タンパク質などの分子量の大きいものは、図5に示す直接法に示すように、抗体をセンサチップ上に固定化し、測定することができる。しかしながら、低分子物質に対しては、大きな屈折率変化を得ることが困難である。したがって、SPRセンサの表面に抗体を結合して、匂い分子を検出しようとする場合、図5に示す置換法や間接競合法などを用いる。

図5 抗体を用いた測定方法

間接競合法は、ターゲット物質に対する抗体、ターゲット、ターゲット類似物質の3者の競合関係を利用する。図6にその原理を示す(3)。TNTに結合するモノクローナル抗体をSPRセンサの表面に流すと、抗体がTNT類似物質と結合し、それに応じて応答が増加する。抗体とTNT類似物質の結合は、pHの変化や界面活性剤を流すと解離でき、ベースラインに復帰できる。次に、TNT抗体溶液にTNTを混ぜた場合、TNT抗体はTNTと結合する。この溶液を同様に流すと、TNTと結合していないフリーの抗体の数が減少しているため、抗体のみを流したときよりも低い応答が得られる。既知濃度の溶液に対して、この時の比を求めることで検量線が得られる。抗体を金表面に固定してTNTを直接検出するよりも、高感度に検出できるようになる。抗体とTNTの分子量が2桁異なるため、屈折率変化が大きくなるためである。

図6 間接競合法の原理(3)
図7 TNTに対する応答特性(4)

間接競合法によるTNTに対する検出限界は表面開始原子移動ラジカル重合を用いてセンサ表面の非特異吸着抑制や抗体とセンサ表面との親和性を最適化し、5.7 ppt (parts per trillion)を実現している(4)。TNTの他、軍用爆薬であるRDXには40 pptの検出限界が得られている(5)。フルーツ飲料に香料として用いられるベンズアルデヒドやフルフラールに対しては、それぞれ、5 ppb、190 ppbの検出限界が得られている(6) (7)。ベンズアルデヒドやフルフラールについては人の嗅覚閾値より低濃度で検出することが可能である。
置換法は、センサ表面の類似物質に結合した抗体を、ターゲットの物質により、解離させる方法である(3)。この場合、間接競合法のように溶液を混合する必要はなく、順次溶液を送ることになる。図8にTNTを置換法で測定した例を示す(8)。抗体溶液を流通している間は、センサ応答が上昇し、キャリアバッファに切り替わると、抗体が自然に解離し始める。この時に、TNT溶液を流通すると、センサ表面上の抗体は、TNTと結合し、センサ表面から離脱することになり、センサ応答が減少する。したがって、置換法は、親和性の少し弱い類似物質と抗体の組み合わせを用いる必要がある。また、サンプル流入から、濃度に応じてセンサ応答減少時の傾きが異なり、10 s程度で傾きでもTNTの検出が可能である。

図8 置換法によるTNTの検出(8)

図9は、ポータブルSPRセンサの試作器による、TNT実証実験の様子である(9)。予めスーツケースに付着させたTNTをワイパーで拭き取り、シリンジ中のバッファに抽出し、置換法により測定する。プログラムは、あらかじめ設定した閾値を超える傾きを検出したら、赤を表示し、TNTの有無を表示する。本実験では、拭き取りから検出まで1分で行えることを実証した。なお、試作装置を元に開発したポータブルなSPRセンサが九州計測器(株)より販売されている(10)

図9 TNT検出の実証実験の様子(9)

5.おわりに

本稿では、SPRセンサをトランスデューサとして、抗体を受容体として、匂い物質を超高感度に検出する手法について述べた。匂いの中で、検出したいターゲットが絞り込まれている場合、抗体を作製すれば、高感度に検出できる。最近は、匂い物質以外の植物や生体関連の低分子化合物の検出にも応用を進めている。

参考文献
2) 小野寺武,三浦則雄,松本清,都甲潔, 計測と制御, 45, 552 (2006).
3) T. Onodera and K. Toko, Sensors , 14, 16586 (2014).
4) R. Yatabe, T. Onodera and K. Toko, Sensors , 13, 9294 (2013).
5) Y. Tanaka, R. Yatabe, K. Nagatomo, T. Onodera, K. Matsumoto and K. Toko, IEEE Sensors Journal, 13, 4452 (2013).
6) T. Onodera, T. Shimizu, N. Miura, K. Matsumoto and K. Toko, IEEJ Transactions on Sensors and Micromachines, 130, 269 (2010).
7) 小野寺武,羅浩宇,馬苗苗,矢田部塁,都甲潔,電気学会論文誌E,137, 121 (2019).
8) T. Onodera, Y. Mizuta, K. Horikawa, P. Singh, K. Matsumoto, N. Miura and K. Toko, Sens. Mater., 23, 39 (2011).
9) 都甲潔, 応用物理, 80, 51 (2011).
10) 小野寺武, 電気学会論文誌E, 135, NL9_2 (2015).

【著者略歴】
小野寺 武(おのでら たけし)
九州大学 大学院システム情報科学研究院
情報エレクトロニクス部門 准教授

■略歴
1996年3月 富山国際大学人文学部卒業。
1998年3月 金沢大学大学院教育学研究科修了。
2001年3月 金沢大学大学院自然科学研究科修了。博士(工学)。
2001年4月 九州大学大学院システム情報科学研究院助手。
2007年4月 同助教。2014年1月九州大学味覚・嗅覚センサ研究開発センター准教授。
2017年4月 九州大学大学院システム情報科学研究院准教授。