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IoT見守りセンサ、ひとり暮らし高齢者の生活をより安全・確実に。感染症リスク管理にも。

インフィック(株)は東日本電信電話(株)〔NTT東日本〕協力のもと、IoT見守りセンサ「LASHIC(ラシク)」を用いた高齢者の新たな見守りソリューションの実証実験を開始した。

見守りセンサ「LASHIC(ラシク)」が感知する部屋の環境(温度・湿度が適切であり、感染症リスクなどがないか等)、体調(ベッド上での体調に異常がないか等)、行動(昼夜逆転傾向や日中の動きが少なくなる等)をリアルタイムにケア担当者が把握する体制をしき、より適切で確実な、センサーと巡回による介護手法のノウハウを構築していくことを目指すとしている。
(画像はLASHIC-room)

対象者の自宅に設置する見守りセンサは「LASHIC(ラシク)」シリーズの3機種。
カメラはついておらず、人感センサにより行動をモニターする設計なので、対象者の方のプライバシーや自尊心を尊重できることも大きな特徴。初期費用room・call:19,800円(税別)、sleep:29,800円(税別)のほか、月額980円(税別)での導入が可能で、見守りIoTセンサの中でも廉価に導入できる価格設定となっている。(価格はセンサ1種につき)

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000052188.html

ST、産業・コンスーマ機器向けに機械学習コア搭載のモーション・センサを発表

STマイクロエレクトロニクスは、慣性計測ユニット(IMU)のiNEMO™に機械学習コア搭載モーション・センサであるISM330DHCXとLSM6DSRXの2製品を追加したと発表した。
これらの製品を通じて、産業機器やハイエンドのコンスーマ機器において、モーション検知向け機械学習技術を活用することができるとのこと。

機械学習コアは、モーション・データの基本的な前処理をAIによって実行し、標準的なマイクロコントローラ(マイコン)を使った処理と比べ、消費電力を1000分の1に削減することができるという。そのため、機械学習コアを搭載したモーション・センサは、コンテキスト認識やモーション検知を搭載した機器においてホスト・マイコンの負荷を軽減し、バッテリ駆動時間の延長、メンテナンスの軽減、および小型・軽量化を実現するとのこと。

昨年発表された最初の機械学習コア搭載モーション・センサに続くLSM6DSRXおよびISM330DHCXは、拡張 / 仮想現実、ドローンの飛行制御、推測航法ナビゲーション・システム、パラボラ・アンテナの位置制御システム、車両管理、コンテナ追跡装置、産業車両向けの動的傾斜計など、ハイエンドのコンスーマ機器ならびに産業機器向けの製品。コンスーマ機器に対応するLSM6DSRXには、3軸加速度センサと3軸デジタル・ジャイロ・センサが搭載されており、最大±4000dpsの角速度検出範囲とトップクラスの対温度・対時間安定性を特徴としている。産業グレードのISM330DHCXは、-40°C~105°Cの動作温度範囲を備え、温度補正機能を内蔵しているため優れた安定性が得られる。また、10年間の長期製造保証プログラムの対象になっているという。

両製品は、機械学習コアが内蔵のステート・マシン(FSM:Finite State Machine)と共に動作することで、歩数や衝突回数、回転数の計測といった単純な反復アルゴリズムをマイコンよりも低い消費電力で実行できます。FSMは、あらかじめ設定されたイベントの検出回数に達するか、設定された時間が経過すると、メイン・コントローラに信号を送る。

LSM6DSRXおよびISM330DHCXは現在量産中。ISM330DHCXは、14ピンのプラスチック製LGAパッケージで提供され、1000個購入時の単価は約4.00ドル。コンスーマ・グレードのLSM6DSRXの単価は約3.50ドルとしている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001043.000001337.html

WISE-2410LoRaWANワイヤレス振動センサを発売

アドバンテック(株)は、モーターやファンなどの回転機械に置くだけで振動、温度データをLoRa*無線で送信するWISE-2410 LoRaWANワイヤレス振動センサを2020年3月18日に販売を開始すると発表した。
WISE-2410は手軽に回転機械の振動監視を実現できるIoTセンサで、保全作業と機械の健全性把握の効率性を飛躍的に向上することができるという。

<背景>
回転機械を使う現場では異常の兆候をとらえ故障を防ぐために振動測定が重要な手段となっている。そのため定期的に全ての回転機械を巡回して振動測定を行うことが一般的だが、巡回せずに異常の兆候をとらえることができる振動の常時監視は多くのお客様で望まれている。しかし、現状では振動監視システムは専門的で高価で、センサ設置に配線工事が伴い簡単に導入できないという課題がある。

<WISE-2410 主な特徴>
・LoRa(WAN)通信で干渉も少なく長距離エリアをカバー
・IP66の小型の筐体に3軸加速度センサ、温度センサを内蔵
・バッテリー駆動で配線が不要の置くだけの簡単設置
・稼働時間:約3年間(1時間1回の送信の場合)

<WISE-2410 概要概要>
製品名: WISE-2410 ワイヤレス振動センサ測定・演算  : 振動速度RMS、加速度(RMS、ピーク)、クレストファクタ、尖度、歪度、標準偏差
加速度レンジ: ±19/39/78/156m/s2
無線通信: LoRa(WAN) (技術適合認証取得済)
取付: ねじ(UNF 1/4-28)、マグネットベース(別売)
サイズ: 84.7×48.3mm
発売日: 2020年3月18日
標準価格 : 50,000円(税別)

ニュースリリースサイト(ADVANTECH):https://www.advantech.co.jp/about/corporate-news/

自動運転車両による「住宅地における路車間通信」の実証実験について

 (株)IHI、あいおいニッセイ同和損害保険(株)、沖電気工業(株)、名古屋大学、(一財)日本自動車研究所、(株)日本総合研究所は、「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」が取り組んでいる、住宅地での移動サービス向けの運行設計領域(※注、以下「ODD」)の検討・定義の一環として、3月16日から3月25日まで、神戸市北区筑紫が丘において、自動運転車両を用いた路車間通信の実証実験(以下「本実証実験」)を実施すると発表した。

本実証実験の目的は、自動運転車両が交差点での右折や合流をする際に、死角からの飛び出しなどに備えたり、発進・停止や加減速のタイミングを最適化させたりするための、車載センサと道路側センサの協調による仕組みの検証。

具体的には、自動運転車両の死角領域を含めた道路側センサのセンシング状況や精度を評価すると共に、他の車両に不快感を与えない、安全で円滑な自動運転車両の挙動のあり方を検証する。また、これらの評価を条件の異なる複数の交差点で実施することにより、交差点の違いによるリスクの違いも可視化する。

本実証実験の結果を踏まえながら、各参加団体はODDの精緻化を進めると共に、最適な自動運転車両の走行方法と道路側センサーのあり方について、さらに検討していくとしている。

◇実施概要
実施地区:神戸市北区筑紫が丘、広陵町、小倉台および桜森町
実施場所:優先道路と非優先道路による交差点(十字路2カ所、T字路1カ所の計3カ所)
実施期間:2020年3月16日(月)~2020年3月25日(水)
実施主体:まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム
実証車両:
・自動運転車両(ヤマハ製ゴルフカーをベース車体として、名古屋大学が自動運転システムを開発)
・車載センサーおよび道路側センサーから取得した交差点付近の交通参加者の移動情報に基づき、発停車、加減速を判断する。
・運転席および助手席には名古屋大学関係者が座り、万一の事態に備える。
通過車両:手動運転車両(名古屋大学関係者が運転)
 (A)自動運転車両が交差点を右折する際、対向車線を通過する。
 (B)非優先道路を走行する自動運転車両が優先道路である対角車線に合流する際、対角車線を通過する。
一般車両、歩行者等:本実証実験では特に用意しない。ただし、一般車両および歩行者等についても道路側センサーおよび車載センサーでは感知し、実証車両の挙動に反映させる。
道路側センサ:
・交差点付近の電柱あるいは信号柱に、レーザセンサ(LiDAR)を設置
・レーザセンサが取得した交差点付近の交通参加者情報は、通信機器を通じて実証車両に送信される。
車載センサ:写真参照

※注:運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)自動運転システムが正常に作動する前提となる設計上の走行環境に係る特有の条件のこと

ニュースリリースサイト(oki):https://www.oki.com/jp/press/2020/03/z19092.html

電源開発向け「省電力無線IoTソリューション(LPIS™)」が運用を開始

東芝エネルギーシステムズ(株)が電源開発(株)向けに納入した「省電力無線IoTソリューション(LPIS™)」が2月下旬に、紀伊半島にある同社の4か所の水位・雨量観測局において運用を開始したと発表した。
この「省電力無線IoTソリューション」は小型で、設置や取り扱いが容易であり、気象条件などの影響をあまり受けずに安定してデータを送信できることが特長という。

今回運用を開始した「省電力無線IoTソリューション」は、センサノードと呼ばれる無線機と、センサノードからLPWA省電力マルチホップ無線技術を用いて送信した信号(920MHz)を受信してWAN回線に送信するコンセントレータで構成されている。

「省電力無線IoTソリューション」を設置する観測局では、水力発電設備として超短波(70MHz帯)の「テレメータシステム」を設置しているが、異常電波伝搬現象(スポラディックE層〔注1〕等)の影響や、機器故障、メンテナンスなどによって、一時的に水位計や雨量計からのデータが受信できないことがあった。今回採用したLPWA方式の 「省電力無線IoTソリューション」は、汎用の技術も取り入れ簡単なシステム構成でデータ取得が可能であり、コストを抑えたバックアップとしての活用が期待できるとのこと。

同社はLPWA技術を用いた渓流設備水位監視の実用化に向けた実証実験を北海道で2018年から2019年にかけて行い、良好な結果を得て、同技術を用いたソリューションの商品化を進めてきたところ、今回初の「省電力無線IoTソリューション」の納入となった。

コンセントレータには、避雷器および無停電電源装置(UPS)を付帯し、またセンサノードも乾電池で動作する仕様のため、計測現場で頻繁に発生する停電時にも動作する 。コンセントレータに集約されたデータはLTE基地局を通じ、紀伊半島にある電源開発のサーバーへ送られる。

国内では、水力発電所が1500カ所以上あり、山岳地などでの計測値取得に関してのニーズは多く存在しており、安価に安定的にデータ取得できる本構成は自然エネルギーの有効利用の観点からも期待されているとのこと。同社は今後も世界有数のCPS〔注2〕テクノロジー企業を目指し、「省電力無線IoTソリューション」をはじめとした各種のIoTサービスを提供していくとしている。

〔注1〕極度に電子密度の高くなった特殊な電離層のこと。通常は遠距離へは伝播しない性質を持つVHF帯の電波も反射してしまうため遠方まで電波が飛びすぎてしまうためデータが受信できなくなることがある。
〔注2〕CPS(サイバー・フィジカル・システム):実世界(フィジカル)におけるデータを収集し、サイバー世界でデジタル技術などを用いて分析したり、活用しやすい情報や知識とし、それをフィジカル側にフィードバックすることで、付加価値を創造する仕組み。

ニュースリリースサイト(東芝エネルギーシステムズ):
https://www.toshiba-energy.com/info/info2020_0316.htm

量子型赤外線センサの基礎と最近のトピックス(2)

(株) 富士通システム統合研究所
研究企画部 中里 英明

2. 量子型赤外線センサの最近のトピックス

量子型赤外線センサの最近のトピックスを以下に記す。

2.1. マルチスペクトル化
複数波長の赤外線を検知できるセンサにするマルチスペクトル化は、分光的な情報種が増えることで、取得可能な情報量の質・量両面での増大が期待されるため、古くから取り組まれて来たが、同一面に特性の異なる検知素子を形成する技術の進展により、時空アラインメントが取れた検知が可能なセンサが登場している。
特にMWIRとLWIRのデュアル・バンドは、前者が高温目標に対する適性が高く、散乱減衰に弱いが水蒸気吸収に強いのに対して、後者が低温目標対する適性が高く、水蒸気吸収に弱いが散乱減衰に強いことから運用条件を拡大する補完性や、両者の放射輝度比を取ることで絶対温度が分かることから温度情報に基づく物体識別能力の獲得が追求されている(図18)。

図18. 絶対温度放射計測

構造的には入射方向に積層するものと同一面内にモザイク配置するものがある。検知素子材料としては、組成や積層厚みで検知波長を制御できるHgCdTeや超格子(タイプⅠ、Ⅱ共に)での取組みが盛んである。

2.2. SWIR検知の進展/3-Dイメージング化
SWIRを検知するための検知素子材料としてはInGaAsが最も代表的なものだが、画素当たりコストが赤外線波長帯の中で最も高かったことが普及を抑制していた。近年、暗視能力の増強を追求している米軍の精力的な低コスト化への投資(図19)5)等により、広く使われ出している。一つ短所を挙げるとすれば、通常、カットオフ波長が1.7μmまでとなり、SWIRの大気の窓長波長端である2.4μmまでが利用できない点がある。これにはHgCdTeと超格子が対処可能であるが(図20)11)-14)、コストや3-Dイメージングに用いるアイセーフ・レーザとの整合等も含めて暫く模索が続きそうである(図21)15)

図19. 米軍のSWIR検知器開発プログラム5)
図20. SWIR検知波長延伸の取組み11)-14)
図21. SWIRレーザを用いた3-Dイメージング15)

2.3. 多画素・小画素ピッチ化
同じ角度分解能に対して視野角を広げる、あるいは同じ視野角に対して角度分解能を高めるのに画素数を増やすことが求められている。その際、検知素子サイズがそのままでは検知素子アレイ・チップが大きくなり、クーラへの負荷が増えたり、起動前の常温と動作時の極低温の間の冷却サイクルに伴う応力が大きくなったりするので、検知素子サイズを小さくする小画素ピッチ化が同時に取組まれる。
この時、回折限界分解能を考慮すると、波長10μmの赤外線の最小集光スポット径~λ/Fno、λ: 使用波長、Fno: 光学系F値、で光学系の明るさがF値>~1であることを踏まえて検知素子サイズ下限を10μmとして来た。これは検知素子サンプリング制限設計と呼ばれ、光学的な情報変化(明暗)に対して1サンプルしか配分されておらず、フェージング(信号の強弱とサンプリングの位相関係によって検出信号強度が変動する。強い部分と弱い部分を半分ずつ取り込む位相関係では信号強度が0になる)が起こる。この問題は古くは欧州で重視され、光学的に縦横半画素シーケンシャルにずらしながら繰返し撮像するマイクロスキャニング等が行われたりしたが、近年、米国でも回折限界設計と呼ぶ、光学系の最小スポット径に対して2サンプル、検知素子2つを配する設計を推奨し、LWIRで5μmピッチを目指す動きがある(図22)16)

図22. 米軍の多画素・小画素ピッチ化の目標16)

2.4. 変換効率/特性一様性 向上
センシング性能を高めるには、より短時間で多数の光励起電子を集め時間的ノイズを低減する変換効率の向上と、目標と背景の弁別性を高める(空間的ノイズ低減)検知素子間の一様性向上の両方が重要であるが、得てして両者は背反する傾向にある。
例えば変換効率の高いHgCdTeはⅡ-Ⅵ続化合物半導体の精密な組成制御が難しいために素子間の特性一様性を高めるのが難しく、軟らかく脆いためハイブリッド接続されるSi製ROIC(Read-Out Integrated Circuit、読出し集積回路)との熱膨張差応力で特性変動も起こし易い。他方QWIP(タイプⅠ超格子)は半導体製造技術の成熟度が高いⅢ-Ⅴ族化合物半導体を用いているため特性安定性が高いが、検知可能な赤外線の方向制約や基底状態電子供給経路の制約で変換効率が上げ難い。
これらを克服するためにMBE(Molecular Beam Epitaxy、分子線エピタキシ)等の製造技術改善、C-QWIP(Corrugated Quantum Well Infrared Photodetector、皴状量子井戸型赤外線検知器)やR-QWIP(Resonator Quantum Well Infrared Photodetector、共鳴体量子井戸型赤外線検知器)等の検知素子構造の工夫による変換効率改善が取り組まれて来ている(図23)17),18)

図23. C-QWIPとR-QWIP17),18)

現在、最も期待されている取組みの一つが、Ⅲ-Ⅴ族半導体の製造技術成熟度と基底状態電子供給経路の制約を排除した検知素子構造を併せ持つT2SL(Type II Super-Lattice、タイプⅡ超格子)である。

2.5. ROICの3次元化
センサの感度制約因子の一つに蓄積容量リミットがある。通常は、赤外線のフォトン・エネルギーを受け取って励起した光電子を蓄積すると、その一定割合が目標と背景のコントラストに対応する信号で、平方根が量子揺らぎに起因する理論的な時間的ノイズとなる。したがってS/Nは蓄積電子数の平方根に比例するので、なるべく多数の光電子を蓄積できることが望ましい。ところが一般的な検知素子アレイ・センサでは、各素子に対応する面積の一部しか蓄積容量に割り振れず、特に常温シーンからの赤外線フォトン・レートが大きいLWIRでは、例えば一般的なテレビのフレーム・レートに対応する33 msに対して1 ms程度以下で蓄積容量が光電子で一杯になってしまう。これを蓄積容量リミットといい、露光時間的には未だ感度を上げられるのに、ROICにおける制約でリミットがかかる状態が起こる。
これを解消する取組みの一つとして、蓄積容量形成を面内に止めず、それと垂直な方向にもMEMS技術を活用して形成するというものがある(図24)19)

図24. MEMS活用によるROICの3次元化19)

さらに最近では、パラレルA/Dの集積は困難だが、最少電子が蓄積する毎にカウント・アップして蓄積容量をリセットするタイプのA/D+カウンタを集積することでディジタル的に蓄積容量制限を解除したDROIC(Digital Read-Out Integrated Circuit、ディジタル読出し集積回路)の開発が進められている(図25)20)

図25. DROIC20)

2.6. HOT化
量子型の一般への普及を妨げる要因の一つとして極低温への冷却の必要性がある。クーラ分のSWaP(Size, Weight and Power、サイズ・重量・電力)の増大と、クーラMTTFに起因する保守とそれに伴うLCC(Life-Cycle Cost、ライフサイクル・コスト)の増大がネックとなる。
これを緩和する手段の一つとしてHOT(High Operating Temperature、高動作温度)化がある。検知素子温度を下げなければならない理由は検知素子自体の温度に応じて生ずる熱電子を抑圧する必要があるからであるが、それを検知素子構造で抑圧することが取り組まれている。熱電子が流れることを阻止する障壁層を組込む取組みである(図26)21)
液体窒素温度に冷却するもののMTTF(Mean Time To Failure、平均故障時間)が数千時間だったのが、クーラ自体の長寿命化と相俟って数万時間が比較的広く見られ、現在、25万時間を目指すプロジェクトが進められている。

図26. HOT化センサによって撮像した画像例21)

2.7. 低コスト化技術
最後に劇的な低コスト化を目指す取組みを紹介したい。此処で紹介するのは2つあり、化学的な製法で高額な設備や管理・操作人員を不要とするCQD(Colloidal Quantum Dots、コロイド状量子ドット)と、古のPbs、PbSeを復活させる取組みである。
CQDは溶液をSi-ROIC基板上に塗布、乾燥させることによってFPAが作れてしまう技術で、未だ初期段階であるが、爆発的な広がりにつながり得る技術である(図27)22)

図27. CQD22)

PbSやPbSeは赤外線センサ黎明期に肩撃ち式ミサイルのシーカに使われていた検知素子材料である。当時は単素子センサに光学的な目標方向検出手段を組合せて使っていたが、高性能の凝視型センサとして復活させようというものである。PbSやPbSeは極低温冷却が不要という大きな利点を持っており、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency、国防高等研究計画局)のWIREDプログラムの下で開発が進められている(図28)23)

図28. WIREDプログラムの下で開発されたPbSe23)

3. まとめ

以上、量子型赤外線センサの基礎と最近のトピックスを紹介した。近年、非冷却(熱型)センサが一般にも宣伝されるようになり、赤外線画像に対する認知が高まって来ているように思う。そうした赤外線イメージング・センサ技術の最先端は量子型が牽引しており、様々な信号処理による有用情報取得の進化が大いに期待されると共に、新規アルゴリズムに必要とされる撮像レート、ダイナミック・レンジ、波長選択性、レーザ等とのマルチモード動作等に応えられるセンサの高機能化、高性能化の重要性の一端を感じ取っていただければ幸いである。

参考文献
5) D. Acton et al., “Large Format Short Wave Infrared (SWIR) Focal Plane Array (FPA) With Extremely Low Noise and High Dynamic Range,” Proc. of SPIE Vol. 72983E (2009)
11) https://axiomoptics.com/llc/c-red-2-high-speed-cooled-swir-ingaas-camera/
12) https://www.aim-ir.com/en/applications-products/security/modules/eswir-idca/eswir-64015.html
13) http://phasicscorp.com/product/lens-testing-sid4-eswir/
14) https://www.xenics.com/products/xeva-eswir-series/
15) Y. Reibel et al., “Small pixel pitch solutions for active and passive imaging,” Proc. of SPIE Vol. 83532G (2012)
16) R. Driggers et al., “Infrared Detector Size – How Low Should You Go?” Proc. of SPIE Vol. 83550O (2012)
17) D.P. Forrai et al., “Corrugated QWIP Developments for Tactical Infrared Imaging,” Proc. of SPIE Vol. 666010 (2007)
18) J.N. Sun & K-K. Choi, “Fabrication of resonator-quantum well infrared photodetector focal plane array by inductively coupled plasma etching,” Opt. Eng. 55 (2), 026119 (2017)
19) N.K. Dhar & R. Dat, “Advanced Imaging Research and Development at DARPA,” Proc of SPIE Vol. 835302 (2012)
20) M. Balckwell et al., “Digital ROIC developments,” Proc. of SPIE Vol. 10170Z (2017)
21) M. Razeghi & S.A. Pour, “Revolutionary development of Type-II GaSb/InAs superlattices for third generation of IR imaging,” Proc. of SPIE Vol. 835310 (2012)
22) A.J. Ciani et al., “Colloidal quantum dots for low-cost MWIR imaging,” Proc. of SPIE Vol. 981919 (2016)
23) T. Pace, “Overview of ICAMR – International Consortium for Advanced Manufacturing Research,” Florida Photonics Cluster Meeting, Dec. 8, 2016

【著者紹介】
中里 英明(なかざと ひであき)
株式会社 富士通システム統合研究所 研究企画部

■略歴
1980年03月 東北大学理学部天文および地球物理学科第1(天文)卒
1980年04月 富士通(株)入社。無線事業部・特機技術部に配属。宇宙・防衛用赤外線機器開発に従事
1981年01月 (株)富士通システム統合研究所に出向。防衛用赤外機器研究・開発に特化。以来、防衛用光波システムの研究・開発に従事。
2011年度~ 防衛装備庁電子装備研究所研究試作「遠距離探知センサシステム」に参画。
2012年度~ 「戦闘機の概念設計および3次元デジタル・モックアップ」等将来戦闘機関連事業に参画。
2004年06月~(一財)防衛技術協会「防衛用赤外・ミリ波技術研究部会」および後継の「赤外・ミリ波センシング研究部会」幹事。
2016年06月~(一社)日本赤外線学会執行役員。
2016年12月 富士通(株)退職、(株)富士通システム統合研究所に再雇用。継続して光波センシング・システムの研究・開発に従事。
2019年05月 (一社)日本赤外線学会理事副会長。

ダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサ(2)

三菱電機(株)
先端技術総合研究所
藤澤 大介

3. 320 × 240画素非冷却赤外線イメージセンサ

320 × 240画素非冷却赤外線イメージセンサチップ写真を図5(a)に示す。画素アレイ部において、1本の水平駆動線が垂直シフトレジスタと垂直選択スイッチにより選択され、各画素にバイアス電圧が供給され、行単位で動作状態となる 6,7)。バイアスされないその他の画素はSOIダイオードが逆方向バイアスになる為に非導通状態となる。すなわち、SOIダイオードは温度センサと画素選択スイッチを兼ねる。SOIダイオードは垂直シフトレジスタにより行単位で定電流駆動され、画素列毎に設けた積分回路にて1水平走査期間積分される。積分後の出力はS/H(サンプルアンドホールド)回路を経て、水平シフトレジスタを使って順次読み出される。このチップをセラミックパッケージにより真空封止した写真が図5(b)である。また、図5(c)に、17 μm 角画素の電子顕微鏡写真を示す。17 µm角画素において、正常な中空構造を形成できていることを確認できる。1画素あたりの温度変化係数dVf/dTは、15.3 mV/Kで、従来の25 μm角画素 6)で用いられている従来ダイオードの温度変化係数dVf/dTと同等の値が得られている。また、8インチウエハ内でも、SOIダイオードの温度変化係数dVf/dTのばらつき(平均値に対する標準偏差の割合)は、1%以下であり、高い均一性を実現している。

図5 SOIダイオード方式320 × 240画素非冷却赤外線イメージセンサ

非冷却赤外線イメージセンサは、断熱構造を有する画素部において赤外線の入射により発生する微小な温度変化を検知するものである。環境温度が変化した際のイメージセンサ温度変化は、この検知すべき微小温度変化に比べ、はるかに大きい為、非冷却赤外線イメージセンサでは、環境温度が変化してもイメージセンサ温度を一定化するTEC(Thermo-Electric Cooler, ペルチェ)を一般に使用している。このTECの使用はカメラのサイズ、消費電力ならびにコストの増大を引き起こすものであり、TECを不要化の要望がある。TECレス化を実現する回路構成例を図6に示す。本回路では、画素領域の端部に、参照画素を図6のように形成する。この参照画素は、通常の感応画素を形成するプロセスフローに大幅なフローの追加無く形成でき、製造コストの増大も無い。この参照画素からの出力DCレベルを、イメージセンサの出力ノードに接続したサンプルホールド回路により抽出する。抽出された参照画素からの出力DCレベルは、オペアンプにより定電圧と比較される。オペアンプの出力は、イメージセンサチップ外に設けられたバッファ回路に入力される。バッファ回路の出力は、イメージセンサのダミー水平駆動線に印加され、各列の差動積分回路の非反転入力ノードに入力される。これにより、負帰還制御ループが形成され、参照画素からの出力DCレベルが一定電圧となるようにフィードバック動作が行われる。よって、TECレス動作において、環境温度(=イメージセンサ温度)が変化しても、赤外線に対して感度を持たず、イメージセンサ温度のみの影響を受ける参照画素からの出力DCレベルが一定電圧となるよう動作する為、TECレス動作における環境温度変化に伴う出力DCレベルの変動の問題を解決できることとなる。

図6 回路構成例

次に、シャッターレス動作について述べる。非冷却赤外線イメージセンサは、図7に示すように、各画素出力のオフセット、光量に対する感度および、それらの温度特性によってセンサ出力が変動する。その為、一定期間ごとにシャッターを閉じ、一様温度の被写体(シャッター)を見せ、各画素の特性を補正する処理が必要である。しかしながら、シャッターが作動中は、画像を取得できないなどの課題がある。ここで、320 × 240画素非冷却赤外線イメージセンサを使用したプロトタイプ赤外線カメラの環境温度Taに対する出力の被写体温度Tbb依存性を図8に示す。シャッターレス動作を実現にするには、このようなセンサの温度特性などを基に、補正用データを作成する。そして、図9に示すように、赤外線カメラのメモリに補正用データを保持し、環境温度に合わせてリアルタイムで補正することにより、シャッターレス動作を実現することができる11)。このように非冷却赤外線カメラのシャッターレス動作においては、任意の環境温度での補正用データと撮像データにより、補正処理が行われる。

図7 非冷却赤外線センサ出力補正
図8 環境温度Taに対する出力の被写体温度Tbb依存性
図9 赤外線カメラ構成例

次に、TECレスおよびシャッターレス動作を適用したSOIダイオード方式320 × 240画素非冷却赤外線イメージセンサにより得られた赤外線撮像画像を図10に示す。TECレスおよびシャッターレス動作においても高精細な画像が得られていることがわかる。

図10 赤外線画像

4. まとめ

今回、ダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサについて報告した。SOIダイオード方式非冷却型赤外線イメージセンサは、温度センサがSi – LSI工程で製造できるため、低価格化、量産化に適した方式といえる。今後、安価な赤外線カメラは、民生分野でも益々重要になってくると思われる。SOIダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサが赤外線カメラの新たな用途を作り出すキーデバイスになることが期待される。

参考文献
6) Y. Kosasayama, T. Sugino, Y. Nakaki, M. Ueno, and K. Kama : The Japan Society of Infrared Science and Technology, The 49th meeting, Feb., 2008.
7) T. Ohnakado, M. Ueno, Y. Ohta, Y. Kosasayama, H. Hata, T. Sugino, T. Ohno, K. Kama, M. Tsugai, and H. Fukumoto : Proc. SPIE Vol. 7298, 72980V, 2009.
11) D. Fujisawa, Y. Kosasayama, T. Takikawa, H. Hata, T. Takenaga, T. Satake, K. Yamashita and D. Suzuki : Proc. SPIE, Vol. 10624, 1062421, 2018.

【著者紹介】
藤澤 大介(ふじさわ だいすけ)
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 主席研究員

■略歴
2002年,豊橋技術科学大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 修士課程修了.
2005年,同大学院工学研究科電子情報工学専攻 博士後期課程修了.
同年,三菱電機株式会社に入社.
同年より赤外線固体撮像素子の研究開発に従事し,現在に至る.
博士(工学).

近赤外蛍光樹脂による患部可視化(2)

高知大学医学部循環制御学
教授 佐藤 隆幸

4 近赤外蛍光色素の目標仕様

(1)波長
筆者が開発した近赤外蛍光カラーイメージング装置の強みを生かそうとすると、700~800 nmの近赤外光で励起して、800~900 nmの近赤外蛍光を発する色素であることが望ましい。

(2)発光量子収率
ICGの発光量子収率の20倍以上の明るい近赤外蛍光色素の開発を目指している。

(3)耐熱性
医療用インプラントに用いられているポリウレタン、ポリプロピレン、およびポリエチレンに溶融混練し成形する過程では、300℃に対する耐熱性が要求される。

(4)褪光性
近赤外蛍光インプラントを室内で遮光することなく保存し、1000ルクスの蛍光灯下に1年間放置した場合でも蛍光活性の低下が5%未満であることを目標としている。

5 試作品を用いた患部可視化実験

目標仕様を満足する近赤外蛍光色素の開発に成功したので、その色素を溶融混練した樹脂製チューブを試作し、動物実験で評価した。

(1)近赤外蛍光樹脂の量子収率
図1には、ICG水溶液と樹脂製チューブの蛍光輝度の比較を示している。ICGを蒸留水に希釈して濃度消光現象を観察すると、概ね5-8ppmで蛍光輝度が最大になるが、非常に弱い。一方、樹脂製チューブの蛍光輝度は非常に高く、ICG蛍光輝度の40倍以上である。

図1 ICG水溶液と近赤外蛍光(NIRF)樹脂製チューブの蛍光輝度の比較
Aは明視野像、Bは暗視野像で励起光のみを照射している。数値はICGの濃度を示している。

(2)蛍光クリップ
消化管粘膜の止血用クリップのカシメリングの部分に、樹脂製チューブを用いた蛍光クリップを試作し、ブタの食道、胃、大腸の粘膜に軟性消化管内視鏡を用いて留置し(図2)、開発中の近赤外蛍光カラーラパロシステムで漿膜面から観察した。図3に示すとおり、粘膜に留置したクリップの位置を漿膜面から特定することが可能であった。

図2 蛍光クリップ全景(A、B)とブタ胃粘膜への留置像(C、D)
図3 ブタの食道(A、B)、胃(C、D)、大腸(E、F)粘膜に留置した蛍光クリップの漿膜面像
A,C,Eは、白色光のみの照射。B、D、Fは、白色光と励起光を照射。近赤外蛍光には、ライムグリーンを割り付けて映像化している。

(3)尿管カテーテル
ブタ尿管に樹脂製カテーテルを留置し、後腹膜脂肪組織に埋没している尿管の可視化が十分に可能であった(図4)。

図4 近赤外蛍光カテーテルをブタ尿管に留置し、後腹膜脂肪組織表面から観察した映像
Aは、白色光のみの照射。Bは、白色光と励起光を照射。近赤外蛍光には、ライムグリーンを割り付けて映像化している。

6 おわりに

筆者は、近赤外光および近赤外蛍光は、いわば医療応用のために存在している光であると認識している。今後は、高知大学発ベンチャー ニレック株式会社と連携して近赤外蛍光樹脂製標識具の製品化研究を本格化したい。

【著者紹介】
佐藤 隆幸(さとう たかゆき)
高知大学医学部循環制御学 教授

■略歴
1985年 高知医科大学 卒業
1985年 東京女子医科大学 循環器内科    研修医・レジデント
1994年 国立循環器病センター研究所     研究員
2000年 高知医科大学医学部循環制御学    教授
2003年 高知大学医学部循環制御学      教授(大学統合による転任)
2019年 大学発ベンチャー ニレック株式会社 代表取締役

大学における研究成果を活用して,動脈可視化や蛍光ガイド技術の製品化研究に従事している。

赤外線で脳を観る fNIRSを使える研究ツールにするために(2)

中央大学理工学部人間総合理工学科
教授 檀 一平太

6.fNIRSで脳のどこを測っているか

fNIRSは頭皮の上から脳を測る。なので,そのままでは脳のどこを測っているかが分からない。この点を軽視しているユーザーは多く,計測位置の記載が不適切であるためにお蔵入りするという研究が後を絶たない。鉄則としては,「送受光器の配置に再現性があること」,これによって,「脳の解剖学的構造,もしくは,標準脳座標系への対応がつくこと」が満たされていなければならない。最終的には,fNIRS計測で得られた脳機能データは脳の解剖学的構造または標準脳座標系にレジストレーション(対応化)されなければならない(図6)18)

図6 限局された脳活動の例。
定型発達児がGo/Nogo課題を遂行している際の脳活動を示している。左は,標準脳座標系上での脳活動情報。右下前頭回(IFG)と右中前頭回(MFG)の間に位置しているチャネル(CH)10のみに有意な脳活動が見られる。右図は同じCH10の時系列データ。OxyHb信号の有意な上昇が,課題遂行時に観察できる。

実際の作業としては,送受後期を脳波の電極設置に用いられる,国際10-20法やその拡張法に準拠して設置すればよい18)。国際10-20法とは頭の上にある特徴的な構造である鼻根,後頭結節,左右の前耳介点の間の距離を10%,20%というように相対的に分割して,ランドマークを設置する方法である。国際10-20法は約20点,その倍密度の10-10法は約70点のランドマークを頭表上に設置することが可能である。われわれは,これらの直下にある脳回レベルの解剖学的構造(マクロアナトミー)を確率的に導き出し,頭表と脳表の対応化をおこなっている。これによって,頭の上からでもfNIRSで脳のどこを計測しているかが予測できる。
さらに,送受光器の位置を3次元の磁気センサーで測って計測し,その対応点を標準脳座標系に予測できる確率的レジストレーション法を開発している。また,デジタイザー計測の代わりにコンピュータ上でシミュレーションするバーチャルレジストレーション法も用いることができる。このときに用いる標準脳座標系はfMRIやPET(陽電子放出断層撮像法)の研究で一般的に用いられるもので,x,y,zの3つの座標点で脳の位置を表す座標系である。いくつかのバリエーションはあるが,それぞれの対応はできており,マクロアナトミーとの対応化も可能である。fNIRS研究に標準脳座標系を用いるなによりのメリットは,fNIRSの研究結果を過去のfMRIやPET研究の結果と相互参照できることである。上述したニューロマーカーの探索において,他のイメージング法との相互参照は必要不可欠である18)
これらの手法はfNIRSデータの標準的な解析ソフトウェアであるPOTATo19),HoMER20),NIRS-SPM21)に組み込まれている。すでに一般的な手法として,もはや開発者の手を離れている状態ではある。いずれの方法を用いるにせよ,fNIRSの計測データを国際10-20法,標準脳座標系,マクロアナトミーなどを介して表現することが必須であるという点は留意する必要がある。

7.この先の展開

これまで述べた解説は標準的なfNIRSの利用に関するものであった。現在,日本で流通しているfNIRSは技術的にはこなれており,基本構造は2000年代後半からあまり変化していない。実際に,2002年に導入した機器を,筆者は特に問題なく使用している。この先も,大きな変化はなく,現状の機器を用いたトランスレーショナルな研究は進んでいくのではないかと予想している。
一方で,fNIRS研究の技術研究は世界では大きく展開しており,現在の世界の技術開発の潮流は,送受光器の距離を変えた超多チャンネルの計測から3次元の信号源推定をおこない,3次元イメージを作るという拡散光トモグラフィ(Diffuse Optical Tomography: DOT)となっている1)。しかし,日本のメーカーはほぼ関心を示していない。その主な理由は,3次元の信号源推定をおこなったところで深さ情報は表層しか得られないため,2次元でいいのではないか,ならば,現行技術の応用を考えた方がいいのではないかというものである。これが吉と出るか凶と出るかは,今後,歴史が検証していくことになるだろう。

なお,国産のfNIRSでDOTができないというわけではなく,TDMA(時間分割多元接続)方式を採る島津製作所製fNIRSの機器設定を変えれば簡易的なDOT計測は可能である。CDMA(符号分割多元接続)方式を採るスペクトラテック社製のfNIRSに関しては,さらに積極的にDOTモードを組むことも原理的に可能である。 現状のfNIRSを用いたトランスレーショナル研究としては,かつてはBrain-Machine Interface(BMI)の研究が盛んであったが,fNIRSが対象とする脳血流動態反応は10秒程度の時間的オーダーなのでリアルタイムの高速な処理には向いていない。一方で,fNIRSは外部機器との接続や制御が比較的容易であるという特徴もあり,人とのインターフェースについては,十秒以上の制御が主体となるニューロフィードバック22)の利用へとシフトしていくと予想している。

本稿ではブロックデザインや事象関連デザインを用いたクラシカルな実験デザインについて言及したが,fNIRSの機能研究は脳領域間のネットワークに着目した機能的結合の研究にシフトしつつある。基本的には,数分といったオーダーの比較的長時間にわたって異なる脳領域の活動を計測し,その相関から時間的な同期性を導き出すという研究である。fMRIのように,全脳を仮説無しに探索的に検討するわけには行かないが,過去のfMRI研究を参照して,DMN(Default Mode Network),DAN(Dorsal Attentional Network),CEN(Central Executive Network)など23),主要な機能的ネットワークの活動の一部をfNIRSで観察することは可能である。一方で,乳幼児の機能的結合研究については,都立大の保前らが世界に先陣を切って導入をおこなったが24),むしろfNIRSが主導となって研究が進んで行くであろう。
fNIRSの基本的設計はあまり変化していないと述べたが,そのフレームワークと踏襲した上で,2方面の応用が進んでいる。一つは,複数の脳を同時に計測するハイパースキャニング研究である25)。fNIRSは基本的に受光器の数だけアンプが存在するという構造であるため,チャネルの拡張はしやすい。また,2台以上の機器をつないで同期させることも容易である。このため,原理的にハイパースキャニング研究への相性はよい。母子間のコミュニケーション研究25)や,応援時の脳の同期性といった社会的インタラクションの研究26)など,他の脳機能イメージングでは実現しがたい応用研究が増えつつある。
一方で,機械のサイズを小さくして,ウェアラブル化するという流れも盛んである27)。ただし,期待するほど有用な応用例はまだ少ないというのが現状ではある。一つには,ハイスペックの多チャンネル機でさえも可動性は高く,あまりウェアラブル機の必要性を感じないという理由が挙げられる。また,計測領域を絞ると,研究に必要な作業仮説を絞るという必要が生じ,課題設定が困難になるという問題もある。このような問題をクリアすれば,ウェアラブル型デバイスの普及も期待できそうである。

図7ウェアラブルfNIRSによる計測風景。図1に示したfNIRSよりもさらに自由度の高い計測が可能である。

8.fNIRSの国際展開

2013年にオバマ政権が立ち上げたBrain Initiativeという大型研究プロジェクトの後押しを受け,2010年代からfNIRS研究は全世界規模で加速している。2010年にはfNIRS関連の論文発表は週1報ペースであったが,2020年は日に1報のペースとなっている。”Society for fNIRS(SfNIRS)”という国際学会も定着し,その公式ジャーナルであるNeurophotonicsのインパクトファクターは4を超えている。SfNIRSはソーシャルメディアの活用が進んだ比較的オープンな学会である。なお,2020年度の大会は10月にボストンで開催される。筆者は共同大会長としてプログラムの選定にあたっているが,すべての講演を1会場で聞け,見逃したポスターも電子閲覧できるという工夫を凝らしている。fNIRSの今を知るための最も効率のよい手段として,活用してみてはいかがであろうか。

1) M. Ferrari, V. Quaresima, A brief review on the history of human functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) development and fields of application, Neuroimage 63, 921-35 (2012)
18) D. Tsuzuki, I. Dan, Spatial registration for functional near-infrared spectroscopy: from channel position on the scalp to cortical location in individual and group analyses, Neuroimage, 85, 92-103 (2014)
19) S. Sutoko et al. Tutorial on platform for optical topography analysis tools, Neurophotonics, 3, 010801 (2016)
20) C.M. Aasted et al., Anatomical guidance for functional near-infrared spectroscopy: AtlasViewer tutorial, Neurophotonics, 2, 020801(2015)
21) S. Tak et al., Sensor space group analysis for fNIRS data, J. Neurosci. Methods, 264, 103-112 (2016)
22) J. Hudak et al., Near-infrared spectroscopy-based frontal lobe neurofeedback integrated in virtual reality modulates brain and behavior in highly impulsive adults, Front. Hum. Neurosci., 11, 425 (2017)
23) Network review. L. Heine et al., Resting state networks and consciousness, Front. Psychol., 27, 00295 (2012)
24) F. Homae et al., Development of global cortical networks in early infancy, J. Neurosci., 30, 4877-82 (2010)
25) Y. Minagawa et al., Toward interactive social neuroscience: Neuroimaging real‐world interactions in various populations, Jap. Psychol. Res., 60, 196–224 (2018)
26) T. Koide and S. Shimada, Cheering enhances inter‐brain synchronization between sensorimotor areas of player and observer, Jap. Psychol. Res., 60, 265–275 (2018)
27) P. Pinti et al., A review on the use of wearable functional near‐infrared spectroscopy in naturalistic environments, Jap. Psychol. Res., 60, 347–373 (2018)
28) 国立研究開発法人情報通信研究機構. 米国における脳情報関連技術に関する研究開発動向, https://www.nict.go.jp/global/lde9n2000000bmum-att/a1525652348170.pdf (2020年2月24日閲覧)

Functional neuroimaging using fNIRS: from “spectroscopy” to “imaging”
Ippeita Dan
Professor, Applied Cognitive Neuroscience Laboratory, Faculty of Science and Engineering, Chuo University

【著者紹介】
檀 一平太(だん いっぺいた)
中央大学理工学部人間総合理工学科 教授

■略歴
1969年生まれ。国際基督教大学教養学部理学科生物学専攻卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。日本学術振興会特別研究員,科学技術振興事業団研究員,健康食品会社営業員等を経て,食品総合研究所に入所。PD,研究員,主任研究員,自治医科大学医学部先端医療技術開発センター脳機能研究部門准教授を歴任。
2013年より,中央大学理工学部人間総合理工学科教授。学術博士。キャリア初期の専門分野は分子生物学。その後,脳科学と食品科学の融合分野の開拓に従事し,fNIRS(近赤外分光分析法)の空間解析手法の確立,fNIRSによる味覚記憶に関する研究などの成果を挙げるとともに,ヒトの脳における認知構造を活用した食品開発法の探索を行った。現在の主な研究テーマは,fNIRSによる脳機能イメージング法の医療応用,fNIRSの空間解析手法の開発,および,サイコメトリクスによる食生活QoLの解析,マーケティング応用等。 2007年に味覚記憶の脳機能イメージング研究により安藤百福賞・発明発見奨励賞受賞。NEDO産業技術研究助成事業,生研センター新技術新分野創出のための基礎研究推進事業,JST-RISTEX等のプロジェクトリーダーに従事。
現在は,Neurophotonicsの創設エディター,SfNIRS理事,2020年fNIRS Conference共同大会長。また,中央大学研究開発機構にて,サイゼリヤ食認知科学研究ユニット長。英文有査読論文発表数100,被引用総数7400,h指数37。研究の傍ら,筑波山麓の里山にて菜園生活を営んでいる。趣味はロングボードサーフィン。

三菱電機、「MEMS式車載LiDAR(ライダー)」を開発

三菱電機(株)は、水平・垂直の2軸で走査する電磁駆動式MEMSミラーを搭載した、小型で広い水平視野角を持つ「MEMS式車載LiDAR(ライダー)」を開発したと発表した。
自動運転に不可欠なセンサであり、先行車両や歩行者などの距離や形状を高精度に検知し、高精細な3次元画像を広範囲に取得することができる。小型化・低コスト化による普及を進めることで、安心・安全な自動運転社会の実現に貢献するという。


開発の特長

1.独自の構造と2軸走査の電磁駆動により、広い振れ角を持つ業界最大級の軽量ミラーを実現
・車載搭載向けに水平・垂直の2軸で走査する電磁駆動式MEMSミラーを開発
・同社独自のミラー構造採用により面ひずみを抑制し、業界最大級(7mm×5mm)の軽量ミラーでの広い振れ角(水平:±15°、垂直:±3.4°)を実現

2.主要部品の最適配置により、広範囲での3次元画像取得と小型化を実現
・開発した2軸電磁駆動式MEMSミラーと、複数のレーザー光源の高密度実装と最適配置により、広い水平視野角(120°)を実現することで、先行車両や歩行者などの高精細な3次元画像を広範囲に取得することが可能
・信号処理回路基板と光学系部品の最適配置により、ライダー本体を900cc(108mm×105mm×96
mm)に小型化

今後の展開としては、さらなる小型化や垂直視野角の拡大を進め、2025年以降の実用化を目指すとしている。

ニュースリリースサイト(三菱電機):https://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2020/0312.html