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コロナ予防対策。公衆衛生・予防対策PJTの要請で消毒薬噴霧散布ロボットを準備

ロボットのスタートアップである(株)Doogは、消毒剤などの噴霧散布に活用できる移動ロボットの提供を開始すると発表した。協働運搬ロボットサウザーを用いることで、より安定した作業品質を確保し、作業の無人化によって現場作業者の感染リスクの軽減を目指すという。

この度の新型コロナウイルスの世界的な大流行を受け、同社のシンガポール子会社(Doog International Pte. Ltd)では、シンガポール行政機関から荷物運搬用途での貸出要請を受けており、現在関係機関と調整を行っているとのこと。また、並行して公衆衛生・予防対策のプロジェクトからの要請で消毒薬噴霧散布ロボットを準備した。このロボットは、様々な使い方がかあるが、以前より同社で展開している協働運搬ロボットのサウザーシリーズを噴霧散布用途としてカスタマイズしたもの。

~メモリトレース機能について~
メモリトレース機能とは、サウザーに対して誰でも簡単に走行経路を記憶させることができ、記憶したルートをサウザーが無人走行する機能である。走行にはラインが不要であり、複雑な地図作成操作が不要であることから、簡単に使えることが最大の特徴。ユーザーをPCやタブレット操作から解放し、経路設定や地図データの確認をはじめ、従来のガイドレスAGVのような複雑なセッティングは不要。
このメモリトレース機能は、現在シンガポール子会社がシンガポール国内で先行し現場実施を進めているという。
日本国内においても当面は当社からの直接の対応を進め、順次、現場インテグレーションの展開が可能な販売事業者を通じた提供を進め、新たな選択肢として機能提供をしていくとしている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000043289.html

次世代コンピュータ・ビジョンを実現するグローバル・シャッター搭載イメージ・センサ

STマイクロエレクトロニクス(以下ST)は、 グローバル・シャッター機能を搭載した高速イメージ・センサであるVD55G0およびVD56G3を発表した。 グローバル・シャッター機能により、 被写体が動いている場合や近赤外照明下において歪みのない画像を撮影することができ、 次世代のスマート・コンピュータ・ビジョンを実現するとしている。

STのイメージ・センサ向けの先進的なプロセス技術により、最小クラスのピクセルで高い感度と低いクロストークを実現。また、革新的なシリコン・プロセスと先進的なピクセル構造により、上部ダイのセンサ・ピクセル・アレイを小型化させると同時に、底部ダイ上のシリコン領域を拡張し、優れたデジタル処理性能と機能を向上させているという。

これらの新しいイメージ・センサのサイズは、VD55G0(640 x 600ピクセル)が2.6 x 2.5mm、VD56G3(1124 x 1364ピクセル)が3.6 x 4.3mmで、いずれも同等の解像度を持つ製品としては最小クラス。また、近赤外を含むすべての波長でピクセル間のクロストークが低いため、高コントラストできわめて鮮明な画像を得ることができる。VD56G3はオプティカル・フロー処理機能を搭載しているため、ホスト・コンピュータによる移動ベクトルの計算処理が不要。両製品とも、拡張・仮想現実(AR/VR)、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)、3Dスキャニングなど、幅広いアプリケーションに最適とのこと。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001047.000001337.html

JSSJ、ミズノ、CARTIVATOR、SkyDrive、4社で『空飛ぶクルマの乗員用座席』を共同開発

 ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(株)(以下 JSSJ)、ミズノ(株)と有志団体 CARTIVATOR 、(株)SkyDriveは、2023年の実用化を目指してCARTIVATORとSkyDriveが開発を進める『空飛ぶクルマ』の乗員用座席の共同開発を進め、性能確認試験を開始したことを発表した。

■共同開発に至った経緯
CARTIVATORとSkyDriveは、『空飛ぶクルマ』の共同開発を進め、2023年の販売開始を目指している。機体開発を進めて行く中で、非常着陸時に乗員を保護する衝撃緩衝機能が備わった乗員用の座席は、『空飛ぶクルマ』の構成品の中で最も重要な部品のひとつだが、航空機レベルの性能を有する既製品が大変希少で入手が困難であるということ、また入手できたとしても、既製品は既存の航空機用に開発されているため『空飛ぶクルマ』と使用状態の想定に違いがあり取扱いが難しいということが、これまでの課題であったという。
そんな中、自動車安全分野のJSSJと、スポーツ品メーカーのミズノがシューズのクッション性と安定性を両立させるためソール部分の基幹機能として用いる独自の波形プレート『ミズノウエーブ』※の技術を応用し、4社で、軽量高性能な「衝撃緩衝装置が内蔵されたシート」の開発を進める事になり、この1年、研究開発を進め、このたび性能確認試験を実施したとのこと。
性能確認試験の概要と結果は以下のとおり。

■性能確認試験概要・結果
日時 : 2020年3月3日(火)
場所 : ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(株) 愛知川製造所
試験内容 : 衝撃緩衝装置(ミズノウエーブ)内蔵の『空飛ぶクルマ』乗員用座席プロトタイプの性能確認を目的とした試験で、自動車のシートベルトやエアバッグの性能確認用に衝突状態の模擬をすることのできるSLED試験機を使用した。試験の結果、ミズノウエーブについては、設計通りの性能を発揮することが確認できたほか、一般的な航空機用の座席よりも乗員の腰椎の負担(荷重レベル)をかなり低く抑えることが出来る可能性があるということも分かったという。

今後も、安全を最優先に4社で『空飛ぶクルマ』の乗員用座席の開発を推進し、新たなモビリティ社会の創造に貢献していくとしている。

※ミズノウエーブ:ミズノ独自の波形プレート。縦方向の衝撃を吸収し、横方向のズレには安定性を発揮することで、シューズに求められるクッション性と安定性を両立させている。

ニュースリリースサイト(SkyDrive):https://skydrive2020.com/archives/1560

自律走行式ひび割れ検査ロボットを開発

(株)イクシスと安藤ハザマとは、「自律走行式ひび割れ検査ロボット」(図1)を開発した。
大空間構造物の床面におけるひび割れ検査において、軽量な走行台車型の検査ロボットが自律走行、自動撮影をおこない、同時にAI(人工知能)により撮影画像からひび割れを検出し、その結果を自動で図面に表示するという。


今回開発した検査ロボットは、検査の自動化および記録書類作成作業の削減により検査業務の大幅な効率化(従来の近接目視と比較して約40%の時間短縮)を実現するもので、特長は以下の通り。

①検査範囲を指定するだけで床全面を一定間隔で撮影し、幅0.1㎜以上のひび割れを0.1mm単位で自動検出。また、検出したひび割れは、CAD図面上に幅ごと色分け表示し、出力することが可能。br> ②検査ロボット専用の撮影装置は遮光カバーに覆われており、カメラと床面の距離やフラッシュライトによる照明の光量・角度が一定に保たれるため、外的要因に左右されず常に同条件での画像取得が可能となり、画像認識によるひび割れ検出が高精度で実施できる。
③SLAM(注1)による自律走行を行うことにより、柱やその他の障害物を回避しながら1,500㎡を約6時間で検査する。これにより大空間構造物における床面の一定範囲(注2)を一度に検査することができる。
④撮影画像は無線LANによりパソコンに随時転送され、AIにてひび割れ検出をタイムリーに行う。撮影画像をサーバーにアップロードして処理を行うといった手間や時間は不要になるため、走行後ただちに検査結果を図面にプロットし、速やかな記録書類の作成が可能。
⑤検査ロボットとパソコンのみで位置情報の取得からひび割れ検出、図面表示まで一連の検査業務を行うことができる。また、検査ロボットは操作が容易であり、全体重量が35㎏と軽量で、さらに撮影装置と走行台車が分離可能なため、容易に持ち運びができるとのこと。

(注1)SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)
レーザーセンサーなどで取得した周辺環境の情報から、自己位置の推定と地図の作成を同時に行うこと。

(注2)大空間構造物における床面の一定範囲
建築基準法施行令第112条 第1項に定められている防火区画(面積区画)。耐火建築物および準耐火建築物は床面積1,500㎡ごとに準耐火構造の床もしくは壁又は特定防火設備で区画しなければならない。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000044685.html

エルテス子会社、「リーフィー」を提供するStroboと包括的な業務提携

(株)エルテスの100%出資子会社である(株)エルテスセキュリティインテリジェンス(以下ESI)は、ホームセキュリティ「リーフィー」を提供する(株)Stroboと業務提携契約を締結したと発表した。

エルテスの100%出資子会社である、AIセキュリティ事業を展開するESIは、アプリとスマート防犯センサを使った、月額980円から始められる格安ホームセキュリティ「leafee (リーフィー)」を提供するStroboと業務提携を締結した。
この提携により、リーフィー利用者はリーフィーアプリからESIにボディーガードを要請できるようになるという。
ESIとStroboは、対応エリアの拡大とともに、スマートホームサービスとAIセキュリティをかけ合わせた新たなセキュリティサービスの開発を目指す。
また、警備業界が抱える課題解決に特化した「警備techハッカソン」等のイベントの企画も推進していくとのこと。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000004487.html

ミリ波応用センシング技術(1)

新潟大学 工学部工学科
  教授 山田 寛喜

1.はじめに

車載ミリ波レーダが広く普及に伴い、様々なシングルチップCMOSミリ波センサの開発が進展している。近年では多送信、多受信(Multiple-Input Multiple-Output, MIMO)での動作が可能であるミリ波MIMOレーダも容易に入手可能となっている。車載センサに関しては、空間分解能が高くデータの理解が容易な光学カメラやLiDARが主流であるが、ミリ波レーダは、ドップラ周波数、すなわち速度の検出に優れており、かつ非金属媒質に対して透過性を有するため、昼夜天候を問わず、前方車両の距離と相対速度を計測する前方監視レーダをしての応用が主なものとなっている。

ミリ波レーダは、その伝搬特性から数mから数百mまでのレーダとしては比較的近距離のターゲット検出が応用範囲となる。様々なレーダ応用においては、距離および角度分解能特性が重要なパラメータといえる。例えば79GHz帯のミリ波MIMOレーダでは76GHz~81GHzをカバーしており、数GHzの帯域幅を利用することにより数cmの距離分解能が容易に実現できる。角度分解能は、使用するレーダ波長に対するアンテナの大きさが問題となる。MIMOレーダでは、複数の送信、受信アンテナを利用することにより、仮想的な大開口アンテナである多素子アレーアンテナを実現し、その受信データに対して電子走査(Digital beamforming, DBF)することにより、アンテナハードウェアの制約を超えた角度分解能を実現している。

広帯域レーダの実現により、距離分解能については、比較的多くのアプリケーションに対応できるものになっているものといえるが、角度分解能に関しては、さらなる高分解能性が求められている。ここでは、筆者らの研究グループで取り組んでいる二つの高分解能レーダイメージング手法とその応用例に関して実験結果を通して概説する。

2.MIMOレーダ

MIMOレーダは、その名から分かるように送信、受信ともに複数のアンテナを用いたレーダシステムである。MIMOレーダの概念は幅広く、レーダ信号の取り扱いにおいてインコヒーレント、コヒーレントのいずれかに分けられる1)。前者は分散レーダシステムにおける検出性能向上、後者は近接した送受信アンテナによる実行開口長(アレー長)増加を目的としたシステムである。最近注目されているMIMOレーダは後者のシステムである。図1はMIMOレーダによるアレー長の増加の概念図である。図1(a)のように等間隔に並べられた3素子のアレーアンテナの両端に2つの送信アンテナが置かれており、それぞれの送信アンテナに対するレーダ応答が得られているものとする。ターゲットが十分に遠方である場合、受信アレーに到来する電波は平面波となり、その平面波近似が成立する範囲において、座標基準(ここでは送信アンテナ)を並行移動することができる。したがって、送受信アンテナ間隔を適切に設定することにより図1(b)のような受信アレーアンテナと等価となる。このようにMIMOレーダでは、送受信アンテナ素子数をそれぞれNt, Ntとして、信号処理によりNt×Nr個のアレーアンテナによる計測と同等の性能を実現することが可能となる。例えば、3送信、4受信のMIMOレーダでは、12素子に相当する角度分解能が実現される。これは分解能改善のみならずハードウェアコストの観点からも有効な処理手法といえる。

図1. MIMOレーダの概念

限られた送受信アンテナ素子数において、さらに仮想アレー素子数を増大する手法としてCo-primeアレー2)、Khatri-Rao積仮想アレー3)と呼ばれるアレー信号処理手法がある。これらは不等間隔に並べられた送受信アンテナにおける受信信号の2次統計量を利用した信号処理手法であり、レーダにおいても各ターゲットからの応答の相関が低い場合には有効となる。レーダ応答自体は高相関信号であるが、ターゲットが異なる速度を有している場合、異なるドップラ周波数を有しているため、観測時間内でのターゲット間の相関が低くなる場合が多い。この手法を用いることにより、飛躍的に仮想アレー数が増加する4), 5)

   

屋内における人物位置推定実験結果を通して、このMIMOレーダの能力を示そう。屋内で3人が並んでレーダ近傍(距離2m)から遠方(6m)程度まで移動した際のレーダイメージング動画とカルマンフィルタによる追尾結果を図2に示した。ここでは中心周波数76.5GHz, 帯域幅500MHzのMIMOレーダを用いており、壁や什器からの不要反射波を抑圧するためMIT (Moving Target Indicator)処理を施している。同図の”ULA-MIMO”が2送信4受信の等間隔配列のMIMOレーダ、”ULA-MIMO with KR”がそのデータに対して上述のKhatri-Rao仮想アレー処理を施したもの、”MRA-MIMO with KR”は受信アレーアンテナを不等間隔とした際の結果である。それぞれ、8素子、15素子、39素子相当のアレーアンテナで角度分離を実現しており、この程度のハードウェア規模でも屋内人物の位置推定、トラッキングは十分実現可能であることがわかる。

図2. MIMOレーダによる屋内⼈物の位置推定結果

このようにMIMOレーダでは、様々な信号処理手法とアンテナ配置を工夫することにより、角度分解能の点においても従来の制約を超えた分解能特性の実現が可能となる。

3.合成開口レーダ

MIMOレーダは、送受信アンテナをアレー化することにより、仮想的な大開口アンテナを実現し、レーダ測定時の欠点である角度分解能特性の改善を図るシステムであった。角度分解能特性の改善手法にはもう一つの有効なアプローチがある。それは合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar, SAR)である6)。合成開口レーダに関しては、すでに人工衛星、航空機による地表観測、海洋観測で実用化されているばかりでなく、近年では地上設置型SAR (Ground-Based SAR, GB-SAR)による崩落危険個所の監視等への応用も進められている。

 

合成開口レーダ信号処理は、単一送信、単一受信(Single-Input Single-Output, SISO)のレーダシステムで実現可能であり、レーダ装置自体を移動させながらデータを取得し、それらを合成することにより、仮想的に大開口アンテナを実現する手法である。その測定原理の性質上、移動するプラットフォームに取り付けられたレーダに対して有効な信号処理であり、またターゲット側からレーダを見込んだ際の素子の軌跡の広がりが実質的なアンテナ開口となる。したがって、プラットフォームの進行方向に対して直交した方向の観測に適している。

 

さて、合成開口レーダは、移動に伴う仮想アレーにより角度分解能を改善するという点においてはMIMOレーダと類似であるが、実現される角度(空間)分解能に関しては大きく異なる利点が存在する。それは、理論上、空間分解能が距離によらず一定となる点である。ここでの空間分解能は、MIMOレーダの角度分解能をΔθとした際のターゲットまでの距離rで規定される弧の長さΔd = rΔθを意味している。MIMOレーダの場合、アンテナ開口によりΔθが決定し、距離rの増加に伴い、実際の空間上の長さΔdは増加する。すなわち、同じ距離間隔であっても遠方ターゲットほど分離が困難となる。しかしながら、合成開口レーダの場合は、遠方に存在するターゲットほど実質的な合成開口長(仮想アレー長)が長くなるという特徴がある。これにより距離に依存しない空間分解能が実現される。なお、仮想的にアレーを形成する点に関しては、先のMIMOレーダと類似であるが、MIMOレーダの場合、1つの送信時のターゲットの反射波が複数の受信アンテナ素子(アレーアンテナ)で受信されるのに対し、合成開口レーダでは、送受信アンテナともに移動しながらデータを収集している点が異なる。このため、虚像を生じない素子間隔(合成開口レーダの場合は、レーダの移動間隔)がMIMOの場合は中心波長の半波長であるのに対し、合成開口レーダでは、その半分の1/4波長となる。ただし、実際には送受ともにある程度の指向性利得を有する素子(ビーム幅の狭い素子)を利用するため、その制約は緩和される。

次回に続く-

参考文献
1) J. Li and P. Stoica, MIMO radar signal processing, Wiley, 2009
2) 例えば、S.Qin, et al, “Generalized Coprime Array Configuration for Direction-of-Arrival Estimation,” IEEE Trans. Signal Process., vol.63, no.6, pp.1377-1390, Mar. 2015.
3) 例えば、W.K.Ma, et al, “DOA Estimation of Quasi-Stationary Signals with Less Sensors than Sources and Unknown Spatial Noise Covariance: A Khatri-Rao Subspace Approach,” IEEE Trans Signal Process., vol.58, no. 4, pp.2168-2180, Apr. 2010.
4) Y. Wakamatsu, H. Yamada, Y. Yamaguchi, “MIMO Doppler Radar Using Khatri-Rao Product Virtual Array for Indoor Human Detection,” IEICE Trans. Communications, Vol.E99-B, No.1, pp.124-133, Jan. 2016.
5) J. Konishi, H. Yamada, Y. Yamaguchi, “Optimum element arrangements in MIMO radar using Khatri-Rao product virtual array processing,” IEICE Communications Express, vol. 7, no.11, p. 407-414, Nov. 2018.
6) 例えば、大内和夫著、リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎、東京電機大学出版局、2004年

【著者紹介】
山田 寛喜(やまだ ひろよし)
新潟大学工学部工学科 知能情報システムプログラム 教授 工学博士

■略歴
1993年3月 北海道大学大学院博士課程修了、新潟大学工学部情報工学科助手、講師、助教授を経て、
2008年1月より情報工学科(現在、工学科知能情報システムプログラム)教授。現在に至る。
その間、2000年6月~2001年3月、NASAジェット推進研究所客員研究員
2001年4月~2008年3月、国際電気通信基礎研究所(ATR)、客員研究員を併任。

乳がん検出のためのマイクロ波イメージング技術(1)

静岡大学 工学部 電気工学科
  教授 桑原 義彦

1. はじめに

乳癌は女性が最もかかりやすい癌で、早期発見・治療が重要である。わが国では40歳以上の女性を対象にX線マンモグラフィによる検診を推奨している。しかし、X線マンモグラフィには、X線被曝、高密度乳腺でのがんの見落とし、検診時の痛みなどの問題がある。代替手段として超音波診断装置が用いられているが、診断の信頼性は検査者の技量に依存、診断画像の再現性がない、検診に時間がかかる等の欠点がある。X線マンモグラフィと超音波診断の有効性について米国で調査したレポートがある(1)。調査対象は171名で、乳がんと確定診断された人は6名であった。MRIは全ての癌を検出することができたが、 X線マンモグラフィと超音波診断は2名の癌だけしか検出できなかった。このようにX線マンモグラフィと超音波による乳がん検診の信頼性は不十分である。MRIやPETは診断の信頼性が高いが、検診コスト、装置規模が大きく、スクリーニング手段として不適切である。このため、新たな診断技術が求められている。

近年、マイクロ波イメージング(Microwave Imaging : MI)によって乳がんを検出する研究が活発に行われている(2)。一般に、癌組織の複素誘電率(比誘電率、導電率)は、周囲(脂肪・乳腺)組織より高く(3)、マイクロ波が通過するときその境界で後方散乱波が発生する。MIでは後方散乱波を検出し、これを基に乳房内の断層像を再構成している。マイクロ波は水中を伝搬しにくく、人体内部のイメージングに適さないが、乳房は脂肪に富み、マイクロ波の通過減衰は比較的小さい。

MIによる撮像法は大きくUWB(Ultra Wide Band)レーダと逆散乱トモグラフィ)に分けられる。パルスレーダでは乳房に短パルスを送信し、同じアンテナや別のアンテナで反射信号を受信する。送受信の多くの組み合わせで得た受信信号を適当に合成することによって、乳房内の3 次元後方散乱波電力分布を求める。逆散乱トモグラフィの信号の収集方法はUWBレーダと同じであるが、逆散乱トモグラフィでは逆問題を解くことによって乳房内の3次元複素誘電率分布を求める。

逆散乱トモグラフィではMRIのように組織構造が再構成できる。複素誘電率は組織に含まれる水分量の多寡で決定されるので、病理診断に有益な情報を与える。しかし、再構成画像の品質はモデル化誤差、測定誤差に大きく影響され、演算量も莫大になるなど、実現のハードルが高い。UWBレーダでは癌などの散乱体の位置は検出できるが、乳腺やがんの組織構造を再現することはできない。UWBレーダの最大の問題は、健康な乳房でも乳腺による無意味な散乱像が現れ、がんの有無の識別が難しいことである。しかし、測定誤差の影響は比較的小さく、演算量も少ないことから、国内外で継続的に研究が行われている。

2. 乳房組織の複素誘電率

生体組織の誘電率や導電率は周波数によって異なり、デバイモデルで近似できる。

εs とε は0Hzと∞Hzにおける誘電率、ε0 は真空の誘電率、σs は導電率、ω とτ は角周波数と緩和時間である。
乳がんの手術で摘出した乳房組織をがん、乳腺、脂肪に切り分け、誘電体プローブを使って各組織の比誘電率と導電率を測定した。直径2.2mmの誘電体プローブを使用して10%の測定誤差を許容するとき、深さ1.5mm、半径3.75mmの円筒状の領域が必要である(4)。検体を、3Dプリンタで作成した1cm×1cm×0.5cmの容器につめ、上から直径2.2mmの誘電体プローブを押し当てて複素誘電率を測定した。測定範囲は1~8GHzである。図1に測定の様子と検体の写真を示す。

図1 測定の様子
図2 測定結果

図2(a)に日本人に多い浸潤性乳管がん患者の乳房組織の測定結果を示す。実線は複素誘電率の実部、点線は虚部である。赤、黒、青はそれぞれ、がん、乳腺、脂肪組織に対応する。組織の複素誘電率が周波数によって変化し、がん、乳腺、脂肪の順に複素誘電率が高いことが確認できる。
これまで100例近くの乳がん患者から組織を採取してデータを蓄積している。データを整理するなかで、図2(b)に示すように、乳房組織の比誘電率と導電率には強い正の相関があることを発見した。特に1.8GHz付近では、比誘電率εrと導電率σの関係は各組織とも一律に以下の式で近似できる。

この発見は逆散乱トモグラフィで画像再構成するときの重要な予備知識となる。
浸潤性乳管がんには充実型、硬性型、腺管形成型がある。また、浸潤性乳管がんのほか、管状がん、粘液がんなどの特殊型や、良性腫瘍もある。腫瘍の型によって複素誘電率の分布に特徴が認められるか、測定サンプルを増やして継続調査中である。また、組織の複素誘電率が、生体からの摘出前(in vivo)と摘出後(ex vivo)で、どの程度変化するかについても調査する予定である。

3. ハードウェア

図3にマイクロ波マンモグラフィのハードウェア構成を示す。乳房の周りにアンテナを複数置く。1つのアンテナを選択してマイクロ波を乳房に照射し、送信に使ったアンテナを含むすべてのアンテナで乳房からの後方散乱波を受信して記録する。送信に用いるアンテナを次々と変えて、観測データ群Xnn(n=1,..,N)を収集する。Xnnの添え字の1桁目は送信、2桁目は受信の番号を表す。18個のアンテナを使ってパルスを送受信する場合は、18×18=324の観測データ群が得られる。複数のアンテナからの信号を同時に受信するとハードウェアが複雑になるので、切り替えスイッチを使って時分割で受信する。送受信機は市販のベクトルネットワークアナライザ(VNA)を使用することが多い。フーリエ変換の関係から、UWBパルスは広帯域の周波数掃引信号と等価なので、パルスレーダであってもVNAが利用できる。なお、散乱トモグラフィとUWBレーダでは使用周波数が異なることが多いが、ハードウェア構成は同じである。

図3 MIのハードウェア

空中にあるアンテナから乳房にマイクロ波を照射しても、空気と乳房組織の電気インピーダンスが大きく異なり、ほとんどのエネルギーは皮膚で反射される。このため、アンテナと乳房を、乳房組織と類似した比誘電率や導電率を持つ整合液で満たしたタンクに入れて撮像することが多い(5)。近年、ホログラフィ技術を使えば、整合液がなくとも画像を再構成できるという報告もある(6)

4. 撮像アルゴリズム

4.1 UWBレーダ

(1) アーチファクト除去
アンテナで受信される信号は、乳房組織からの散乱波のほか、皮膚からの反射や隣接アンテナからの再放射信号が含まれる。乳房組織からの散乱波は、皮膚からの反射や隣接アンテナからの再放射信号に比較すると1/100以下で、画像を再構成する前にこれらの不要信号(アーチファクトという)を除去する必要がある。アーチファクトを除去する方法として、平均減算法、回転減算法、線形予測法等が知られているが、近年、主成分分析と独立成分分析を組み合わせ、精度良くアーチファクトを取り除く方法が提案された(7)。筆者らも独立成分分析は主成分の1/100以下の大きさの信号を精度良く分離できることを確認しており、今後の展開が期待される。

(2) Delay and Sum(DAS)

図4 DASによる画像回復

図4 に代表的な画像再構成手法のDAS アルゴリズムを用いた撮像原理を示す。乳房の周りに置かれた複数のアンテナを乳房に向け、各アンテナから順次パルスを送信し、散乱応答を同じアンテナで受信する。乳房内に設定するピクセルの位置ベクトルをr、散乱体(がん)の位置ベクトルをr0 で表す。乳房内ピクセルを設け、ピクセルとアンテナ間距離から応答の伝播遅延時間 τp = [τ1p τ2p … τNp] を計算する。N はアンテナの数である。伝搬遅延時間は、伝播距離と撮像領域の平均的な伝搬速度(8)から求める。求めた遅延時間だけ各アンテナの受信信号の時間軸を進める。設定したピクセルの位置r とがんの位置r0 が一致する場合、各アンテナの時間シフト後の後方散乱応答のタイミングが一致するので、それらの信号の総和をとると大きな応答が得られる。一方、r とr0 が一致しない場合、時間シフト後の散乱応答の総和は小さな応答となる。ピクセルを乳房内の領域で順次移動し、時間移動後の散乱応答の総和からピーク電力を計算していくことで後方散乱電力分布が得られる。
図4の説明では、送信と受信で同じアンテナを使用した。このようなレーダはモノスタティックレーダと呼ばれる。送信と受信に異なるアンテナを用いるレーダ波をマルチスタティックレーダと呼ぶ。一般に、マルチスタティックレーダは扱う情報量が多く、再構成画像の情報量も増す。DASはマルチスタティックレーダに容易に拡張できる。

(3) いろいろな撮像アルゴリズム
再構成アルゴリズムとして、DASのほか、ビームフォーミング法 (MIST : Microwave Imaging Via Space Time(9), MAMI : Microwave Adaptive Multistatic Imaging(10))、超分解法(TR MUSIC, Time Reverse MUSIC(11)), 波頭再構成法(電波ホログラフィ(12))など多くの方法が提案されている。超分解法は欧州の実証機に採用され、評価が行われている(7)。波頭再構成法はノートPCでも2-3秒で画像が再構成でき、超音波診断装置のようなリアルタイム性が実現できる可能性がある。

4.2 逆散乱トモグラフィ

(1) 画像再構成の原理(13)
逆散乱トモグラフィでは、乳房を含む撮像装置のハードウェアを小さな立方体(ボクセルという)でモデル化し、モデルでのアンテナの応答と、実際の撮像装置で得た応答を比較し、両者が一致するモデル化した乳房内のボクセルの複素誘電率を探索する。図5に画像再構成のブロック図を示す。

図5 逆散乱トモグラフィによる画像再構成

最初に計算機シミュレーションで各アンテナの受信応答を求める。乳房内のM個のボクセルに、予備知識に基づき適当な比誘電率と導電率を割り当て、受信データ群Ynnを計算する。一方、実際の測定装置では観測データ群Xnnが得られる。Ynn=Xnnとなるように、モデル化した乳房の比誘電率と導電率分布をニュートン法に基づいて更新する。比誘電率と導電率分布をまとめてτ=(ε,σ)で表すと、

ここで, kは繰り返し番号、Δτk は観測データ群Xnnと、仮定した比誘電率と導電率分布で計算した受信データ群Ynnの差ΔΨ=Y-Xを小さくするための更新量で、次の式によって求められる。

D (∝CN×3M)は、現時点での比誘電率と導電率分布において、あるボクセルの比誘電率や導電率を変化させた時、受信信号に現れる変化を表す感度行列(ヤコビアン)、+は行列やベクトルの共役転置を表す。行列の次元が3Mになっているのは、x、y、zの3方向の電磁界を考えなければならないからである。[ ]の逆行列計算を解くため、次のチーホノフの正則化を適用する。

ここで I (∝C3M×3M) は単位行列、gは正則化係数である。これらの処理を繰り返し実行し、Δτk のノルムがある程度小さくなったとき、処理を打ち切る。このときのτkが再構成画像となる。

(2) 逆散乱トモグラフィの課題
逆散乱トモグラフィを実現するに当たって解決すべき課題は以下に要約できる。

a. シミュレーションモデルで得た受信応答を、実際の撮像装置で得られる受信応答と完全に一致させなければならない。この実現は、マイクロ波帯では極めて困難である。
b. mmオーダーの分解能を得るため、数千から数万のボクセルで乳房をモデル化するので、未知数の数は1つの周波数で数万に達する。一方、実際に得られる測定データの数は、N素子のアンテナではN(N-1)/2である。アンテナの大きさは使用周波数で決定され、SNRの確保を考慮すると使用周波数は低いほうが望ましいが、アンテナが大きくなる。このとき乳房の周りに多くのアンテナを配置することはできない。逆散乱トモグラフィは未知数よりはるかに少ない観測データで未知数を求める不適切問題である。不適切問題を正確に解くことは困難である。
c. 受信アンテナは小さなボクセルの複素誘電率の変化に帰する散乱波の変化を検出できなければならず、高利得が必要である。

これらの課題を解決する方法については後で述べる。

次回に続く-

参考文献
1) C. D. Lehman, C. Isaacs, M. D. Schnall, E. D. Pisano, S. M.Accher, P. T. Weatherall, D. A. Bluemke, D. J. Bowen, P. K. Marcom, D. K. Armstrong, S. M. Domchek, G. Tomlinson, S. J. Skates, and C. Gatsonis, “Cancer Yield of Mammography. MR, and US in High Risk Women,” Radiology, Vol.224, no.2, pp.381-388, 2007.
2) Kuwahara,” New Perspectives in Breast Imaging,- Microwave Imaging for early breast cancer detection” ISBN 978-953-51-5553-9, Intech, 2017
3) M. Lazebnik, L. McCartney, D. Popovic, C. B. Watkins, M. J. Lindstorm, J. Harter, S. Sewall, A. Magliocco, J. H. Brooske, M. Okoniewski, and S. C. Hagness, “A large scale study of the ultra wideband microwave dielectric properties of normal, benign, and malignant breast tissues obtained from cancer surgeries,” Phys. Med. Biol., Vol.52, no.20, pp.6093-6115, 2007.
4) D. M. Hagl, D. Popovic, S. C. Hagness, J. H. Booske, M. Okoniewski, “Sensing Volume of Open-Ended Coaxial Probes for Dielectric Characterization of Breast Tissue at Microwave Frequencies,” IEEE Trans. on Microwave Theory and Techniques, vol.51, No.4, pp.1194-1206, 2003.
5) T. M. Grzegorczyk, P. M. Meaney, P. A. Kaufman, R. M.diForio-Alexander, and K. D. Paulsen, Fast 3D Tomographic Imaging for Breast Cancer Detection, IEEE trans on Medical Imaging, Vol.31, No.8, pp.1584-1592, 2012.
6) M. S. Nepote, T. Reiner, and S. Pistrius,”An Air Operated Bistatic System for Breast Microwave Radar Imaging: Pre-Clinical Validation,” Proc. of EMB2019, 2019.
7) A. Fasoula, B. M. Moloney, L. Duchenene, J. D. Gil Cano, B. L. Oliveria, J-G. Bernard, and M.J. Kerin, “Super resolution radar imaging for breast cancer detection with microwaves: the integrated information selection criteria,” Proc. of EMB2019, 2019.
8) M. Sarafianou, I. J. Craddock, T. Henriksson, M. Klemm, D.R. Gibbins, A.W. Preece, J. A. Leendertz, R. Benjamin, “MUSIC Processing for Permittivity Estimation in a Delay-And-Sum Imaging System,” Proc. of 2013 EUCAP, 2013.
9) Essex J. Bond, Xu Li, Susan C. Hagness, and Barry D. Van Veen, “Microwave Imaging via Space-Time Beamforming for Early Detection of Breast Cancer,” IEEE Trans. on Antennas and Propagation, VOL. 51, NO. 8, pp. 1690-1705, 2003.
10) Y. Xie, B. Gio, L. Xu, J. Li, and P. Stoica, “Multistatic Adaptive Microwave Imaging for Early Breast Cancer Detection,” IEEE Trans. on Biomed. Eng. Vol.53, No.8, pp.1647-1657, 2006.
11) D. Hossain, A. S. Mohan, and M. J.Abedin, “Beamspace Time- Reversal Microwave Imaging for Breast Cancer Detection,” IEEE Antennas and Wireless Propagat. Letters, Vol.12, pp.241-244, 2013.
12) D. Flores-Tapia and D. Rodrigues, “Experimental feasibility of multistatic holography for breast microwave radar image reconstruction,” Med. Phys. 43(8), pp.4674-4686, 2016.
13) J D. Shea, P. Kosmas, V. Veen and S. C. Hagness, “Contrast-enhanced microwave imaging of breast tumors: a computational study using 3D realistic numerical phantoms”, Inverse Problem 26 074009, 2010.

【著者紹介】
桑原 義彦(くわはら よしひこ)
静岡大学 工学部 電気工学科 教授

■略歴
1978 慶大・工・電気卒、同年日本電気(株)入社
1999 静岡大学工学部助教授
2006 同大教授、現在に至る
工学博士
アンテナ・電波伝搬、航空電子機器、移動通信システム、アレー信号処理、ワイヤレス送電、マイクロ波イメージングの研究開発に従事
1988 防衛装備協会賞
1997、1999電波功績賞受賞 IEEE会員

CMOSアンテナ型THzイメージャ(1)

北海道大学
量子集積エレクトロニクス研究センター
  教授 池辺 将之

1.まえがき

テラヘルツ波はミリ波と赤外光の中間に位置する電磁波である.テラヘルツ波はミリ波よりも波長が短いため空間分解能が優れており、また、電磁波としての透過性も併せ持っている.さらに、テラヘルツ帯には物質固有の吸収スペクトルが存在するため、物質同定を行うことも可能である.そのため、この性質を利用して、従来の電波天文や分析科学のみならず、超広帯域通信、医療、薬物・食品分析、危険物探知など幅広い分野での応用が期待されている。(図1)世界市場は2022年に3億3510万ドル、2027年に13億ドルに成長する予測である1)。テラヘルツ光を発生検出するためには、多くの方法が開発されているが、それらのほとんどは大掛かりなレーザー・光学系を必要とする、低温動作が必要な場合もあり、テラヘルツ波利用の促進を妨げている大きな要因の一つとなっている。このため、室温で動作し、小型・低価格の固体テラヘルツデバイスの実現が切望され、グラフェンなどの新材料やプラズモン共鳴などの新動作原理に基づくデバイスが提案されている。現在までに、単体素子を用いたイメージングでは、共鳴トンネルダイオード(RTD)を発光・受光素子を1個ずつ用いたスキャン方式のイメージングシステムが開発されている2)。本解説では、テラヘルツ光イメージセンサにおいて、特にCMOSプロセスを用いたアンテナ型テラヘルツセンサについての設計要素について述べる。

図1 テラヘルツ帯の特徴

ここで、テラヘルツ光センサの感度において、受光感度(Responsivity)と雑音等価電力(NEP: Noise Equivalent Power)を提示する。受光感度は、振幅(Vpp)/入力パワー[V/W]である。NEPは、信号対雑音比(S/N)が 1 となるときの入射光量パワーで示される。そのため、雑音量に埋もれる入射光量の限界を知る指標となる(デバイスが受光できる最小の入射光量)。NEPは式(1)で表される。

ここで、Pは入射光のエネルギー[W/m2]、Aは受光領域の面積[m2]、Sは信号出力[V]、Nはノイズ出力[V]、Δfは雑音帯域幅[Hz]である。ResponsivityとNEPは以下の関係がある(式(2))。

2.CMOSアンテナ型テラヘルツ光センサの構成

この構成では、マッチング回路を介して、アンテナとデバイスを接続し、2乗検波の概念で変調されたテラヘルツ光を検知するものである(実際には、検波原理は自己ミキシングによるものである:後述)。現在、CMOSプロセスに適合するよう、ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky barrier diode)を用いた構成の開発が進んでいる3-5)。MITにおいてアンテナピッチ450μmのピクセルにより0.3 THz帯の受光に成功している6)(NEP: 数10 pW/Hz1/2)。また、MOSFETにより構成される検出器についても同時集積するアンテナにおいて、比較的帯域の広いbow-tieアンテナ7)、リングアンテナ8)、パッチアンテナ9)、差動パッチアンテナ10)を用いた構成の研究が進んでいる。

シリコンCMOSの微細化により電流遮断周波数fTと最大発振周波数fmaxは数100 GHzまで著しく向上しているが、fTとfmaxがテラヘルツに達しなくてもトランジスタの非線形特性を利用した包絡線検波方式によりテラヘルツ光の強度を検出できる。トランジスタによる検波モデルは、浅野らによって解析されており、統合電荷制御モデルで記述される。自己ミキシングにより、チャネルのソース端で存在していたテラヘルツ波のAC成分が減衰し、ミキシング後のDC成分としてドレイン端で取り出せる。そのチャネル内の変化は、拡散およびドリフト電流成分で異なり、この成分の重ね合わせで、最終的に取り出せるDC成分が決まる。DC成分に変化した後は、チャネルは検波に寄与せず、寄生抵抗として働く11)

この構成で、最も重要な課題は、解像度とI/Fである。アンテナアレイによる画素ピッチは、数100 μmにも及び、高解像度撮影を阻む要因となっている。通常のスキャンに加えて、高解像度化を担う技術として、「超解像手法」が挙げられ、複数枚、または一枚の画像を利用して対象画像のナイキスト周波数を超える再構成画像への利用が望まれる。筆者らもアンテナアレイ構成の高速な応答性を活かし、高速撮像による超解像化の適用を検討中である。

次回に続く-

参考文献
1) K. Kawase, Y. Ogawa, Y. Watanabe and H. Inoue, : Optics express, 11(2003), 2549-2554.
2) 深澤 亮一「分析・センシングのためのテラヘルツ波技術」日刊工業新聞社
3) J.L. Hesler et al.: in Proc. 18th Int. Symp. Space Terahertz Techn(Pasadena, 2007)
4) E.R. Brown et al.: in Proc. SPIE, 6212, 621205(2006)
5) Z. Zhang, et al., : IEEE Microw. Wireless Compon. Lett., 21(2011)267-269
6) B, Assim, et al.: “A Low-Noise CMOS THz Imager Based on Source
7) Modulation and an In-Pixel High-Q Passive Switched-Capacitor n-Path Filter”, Sensors, 16, 3, p.325(Mar. 2016)
8) A.H. Richard, et al.: “A 1 k-pixel Video Camera for 0.7-1.1 Terahertz Imaging Applications in 65-nm CMOS”, JSSC, 47, 12, pp.2999-3012(Dec. 2012)
9) K.D. Yeon, et al.: “Design and Demonstration of 820-GHz Array using Diode-Connected NMOS Transistors in 130-nm CMOS for Active Imaging”, IEEE Trans. Terahertz Science and Technology, 6, 2, pp.306-317(Mar. 2016)
10) S. Kiryong, et al.: “A CMOS 300-GHz 7 by 7 detector array for THz imaging”, RFIT, Sep. 2017)
11) H. Kojima, D. Kido, H. Kanaya, H. Ishii, T. Maeda, M. Ogura and T. Asano: “Analysis of square-law detector for high-sensitive detection of terahertz waves”, Journal of Applied Physics, 125, 17, 174506(2019)

【著者紹介】
池辺 将之(いけべ まさゆき)
北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授

■略歴
1998年 4月 日本学術振興会 特別研究員 「知的イメージセンサの研究」に従事
2000年 3月 北海道大学 大学院工学研究科 博士後期課程修了 (電子情報工学専攻)(博士(工学))
2000年 4月 大日本印刷㈱ 半導体製品研究所 勤務
2002年 8月 豊橋技術科学大学 知識情報工学専攻 受託研究員
2003年 4月 大日本印刷㈱にて 電子デバイス研究所 勤務 「無線・画像処理システムの研究・開発」に従事
2005年 4月 北海道大学 大学院情報科学研究科 准教授 「画像処理アルゴリズム/システム/センサLSIの研究・無線システム開発」に従事
2018年 4月 北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授 「イメージセンサ・高速画像処理(AIアルゴリズム・ソフト/ハードウェア)の研究」に従事

【新型コロナ支援】AIみまもりロボットGPS BoTを、小中学生世帯に無償提供

ビーサイズ(株)は、 新型コロナウィルス(COVID-19)の影響で学校の授業再開が不透明な中、自宅に子どもを残したまま外で仕事をしなければならない保護者や、 分散登校/時差通学等によって不規則な休校や登下校時間への対応が迫られる小中学生世帯を対象に、同社が開発するAIみまもりロボット「GPS BoT(ジーピーエス・ボット)第一世代モデル」の無償提供を開始すると発表した。

■ 受付
2020年4月6日~5月末日までの期間内に、同社ウェブサイト https://bsize.com/bot/ より、申し込みのこと。

■ 提供条件
対象:小・中学生のこどもを持つ保護者(個人のみ)
申込期間:2020年 4月6日〜5月末日
提供製品:GPS BoT ( 第1世代モデル )
台数:こども1人1台まで。兄弟で複数台の申し込み可。
契約年:縛りなし
料金:無償(別途送料と月額料金が必要。)
条件:・SMSが受信でき、BoTアプリが動作するスマートフォンが必要。
   ・クレジットカードが必要。(プリペイド・デビット等は非対応)
※利用開始:6月14日までに必ず利用開始のこと。
 (6月14日までに利用を開始していない端末は、以降利用不可。)

ニュース・申し込みサイト(Ssize):https://www.bsize.com/bot

畜産業向けIoTサービス「ファームクラウド」を全国展開開始

(株)セラクは、畜産向けIoTサービス「ファームクラウド」を2020年4月より本格的に営業展開することを発表した。
これまで一部地域の養豚・養鶏業にて先行導入していたが、養豚業、養鶏業における環境モニタリングが生産性向上に有効に機能することが実証できたことと、全国の養豚・養鶏業社からも多くの導入希望があったことから、この度全国展開するに至ったという。

「ファームクラウド」は畜産業向けに特化して開発されたIoTサービスであり、畜舎環境の遠隔モニタリングを可能とする。温度・湿度・二酸化炭素濃度といった一般的な環境指標を可視化するだけでなく、利用者の要望に合わせた項目の遠隔監視をカスタマイズにて対応可能。また、アラート機能を標準装備しており、異常発生時にはスマートフォンでのプッシュ通知やメールにて、そのアラート連絡を受け取ることができる。

さらに、これまでに一次産業分野で2,000台以上の導入実績のあるハードウェアとプラットフォームをベースに設計されており、ハード及びソフトの両面において優れた耐久性の実績がある。導入方法はシンプルで、ハードウェアの設置場所を決めた後は、電源をつなげるだけで利用可能。畜舎の形態等に依存せず、規模の大小にかかわらずどのような畜舎へも追加で導入できる。

また、希望に応じて基本セットの内容に加え、飲水量・pH・溶存酸素濃度等をカスタマイズ対応しており、既存の設備では実現できなかったきめ細やかなセンシング、可視化を可能にしているとのこと。

ニュースリリースサイト(セラク):https://www.seraku.co.jp/info/2020/04/p20200401/1614