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宇宙環境に対応した設定可能な高集積PoL DC-DCコンバータを発表

STマイクロエレクトロニクスは、QML-V認定取得済みのPoint-of-Load(PoL)DC-DCコンバータ「RHRPMPOL01」(最大出力7A)を発表した。同製品は、拡大し続けるSTの高集積・耐放射線性パワー製品のポートフォリオを拡充し、最も要求の厳しい航空宇宙アプリケーションに対応した高い電力効率を実現するという。

RHRPMPOL01は、Nチャネル・パワーMOSFETとブートストラップ・ダイオードを内蔵した包括的なPoLコンバータ。低電圧保護、過電圧保護、過熱保護および調整可能な過電流保護機能を備えており、小型で接合部・ケース間熱抵抗が低い気密封止セラミック・パッケージ「Power FLAT-28A」で提供されるため、電力損失を最小限に抑えることができるとのこと。

この認定取得済み製品(Standard Microcircuit Drawing (SMD) 5962-28208)は、最大100krad(Si)の放射線耐性保証(RHA)と、最大70Mev.cm2/mqのシングル・イベント・ラッチアップ(SEL)およびシングル・イベント・スナップバック(SESB)耐性を備えている。シングル・イベント・アップセット(SEU)とシングル・イベント・ファンクショナル・インタラプト(SEFI)は7Vの動作電圧で特性評価されている。完全な放射線レポートも入手可能。

RHRPMPOL01は同期および電流共有が可能なため、最も要求の厳しい負荷であるFPGA、マイクロプロセッサ、ASICなどのコンパニオン・チップとして最適な製品。同期機能により、複数のPoLの位相を分散させ、アプリケーション・ボードのピーク電流と出力リップルの両方を最小化できるため、高い精度が得られる。同期したチップは、異なる電圧レベルを必要とする負荷に個別の出力を供給することも、複数の出力を合わせて高電流の負荷を供給することも可能で。高電流動作では、高精度の電流共有機能を活用するという。

また、RHRPMPOL01は供給電圧の絶対最大定格が14Vと高く、3.0V~12Vの範囲の入力電圧を、0.8Vから入力電圧値の85%までの間で設定可能な出力電圧に変換する。最小出力が0.8Vであるため、低電源電圧で動作する先進的な製品への電力供給が可能。

ピーク電流モード制御をベースにしたRHRPMPOL01は、外付け部品を使用して容易に安定させることができ、負荷に対する過渡応答の高速化を実現します。スイッチング周波数を100kHz~1MHzの範囲で調整できると同時に、ソフトスタートの持続時間と遅延時間を調整することで突入電流を制限できます。イネーブル・ピンが電力シーケンスを簡略化し、パワーグッド・ピンが出力電圧の状態に関するリアルタイムの情報を提供するとのこと。

RHRPMPOL1は、シングル・イベント効果に対する回復力で実績のあるSTのBCD6S SOIプロセス技術を活用し、欧州宇宙機関(ESA)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)によるサポートを受けて開発されたという。

RHRPMPOL01は現在量産中で、評価ボードEVAL-RHRPMPOL01、ユーザ・ガイド、PSpiceモデル、放射線レポートを含むドキュメントなど、包括的な開発エコシステムが提供されている。価格およびサンプル提供については、STのセールス・オフィスまたは販売代理店までお問い合わせのこと。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001108.000001337.html

アストロスケール、民間世界初デブリ除去実証実験衛星の2021年3月打ち上げを決定

(株)アストロスケールホールディングスは、世界初、スペースデブリ除去実証実験衛星「ELSA-d (End-of-Life Services by Astroscale – Demonstration」を2021年3月、GK Launch Service社によりカザフスタン、バイコヌール基地よりソユーズロケットにて打ち上げることを発表した。

衛星開発と打ち上げのコストの削減、宇宙からのデータへの世界的な需要の高まり、および大規模な商用衛星コンステレーションの台頭により、低軌道(LEO)のオブジェクトの密度が急速に増加している。この宇宙利用の増加は、社会に大きなメリットをもたらす一方で、衛星の衝突やスペースデブリの拡散の脅威も大幅に増加している。デブリの破片が増大する可能性は、現在および将来の衛星ミッションを危険にさらし、宇宙からのデータの依存が高まるたびに社会インフラ維持の脅威となる。 ELSA-dは、LEOの利用可能性を維持するために、軌道から機能しなくなった衛星を安全に取り除くという価値のあるサービスを実証するという。
ELSA-dミッションは、サービサー(約175kg)とクライアント(約17kg)で構成される革新的なアプローチを使用して、軌道から機能しなくなったオブジェクトを排除するために、難易度の高い捕獲実証実験を行う。近接ランデブ技術と磁気捕捉メカニズムを備えたサービサーは、強磁性ドッキングプレートが内蔵されたクライアントを繰り返し、リリース、ドッキングする。アストロスケールは磁石を用いた複数回に及ぶ捕獲とリリースによって、接近(相対航法)、診断(近傍制御・作業)、捕獲(ランデブ・ドッキング)、捕獲後の軌道変更まで、デブリ除去に必要なコア技術を一連のシステムとして実施するとのこと。

アストロスケールは、英国国立軌道上サービスオペレーションセンター(IOCC)を使用してELSA-dを運用。オックスフォードシャー州ハーウェルのSatellite Applications CatapultにあるIOCCは、衛星サービスミッションのために特別に開発された。

ELSA-d ミッションは、スペースデブリの除去に必要な技術的能力を証明するだけでなく、軌道上サービスに必要な宇宙政策とエコシステム、さらに商用にむけたベストプラクティスに関する議論を前に進める意味も担う。アストロスケールは、このミッションを日本で開発された宇宙セグメント、英国の地上セグメント、カザフスタンからの打ち上げ、複数の国での地上局のサポート、および5か国にまたがるチームにより、国際協力によって実現している。さらに、本ミッションにおいての同社のグローバルサプライチェーンと潜在的な顧客との対話は、宇宙経済の商業的実行可能性を証明するとしている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000067481.html

ミリ波レーダーを用いた接舷支援システムの販売を開始

(株)アカサカテックは、2020年より取り扱いを開始した24GHz / 77GHz / 79GHz帯ミリ波レーダーモジュールの活用製品として、新たに接舷支援システムの販売を開始した。

◇製品の概要
この製品は、ミリ波レーダーで距離計測を行い、計測データをPCにリアルタイム表示させる。ミリ波レーダーを活用することで、見通しの悪い荒天時においても、画面をみながら安全な接舷が可能になる。従来品と比較するとコストパフォーマンスに優れ、一体型ユニットを置くだけで簡単に利用できるとのこと。

■ 画面で距離をみながら接舷
レーダーを設置した土運船(画面左)と対象物となる浚渫船(画面右)を画面上に表示、浚渫船側面までの距離を10cm単位で計測する。
■ バッテリー駆動で簡単取り付け
受信ユニット、送信ユニットともにコンセントや発電機による電源供給が不要の為、置くだけで簡単に計測可能。
■ 見通しの悪い荒天時にも距離計測
カメラやLiDAR (ライダー)とは異なり、雨や雪など視界不良な荒天時でも検出が可能で、太陽光の反射など急激に照度が高まった場合も、安定して計測することができる。
■ 2種類のレーダーで安定した計測を実現
送信ユニットは、近距離向けレーダー『OSA-DH-BC7』を下部に、長距離向けレーダー『OSA-77G-PA-EV』を上部にそれぞれ配置することで、より安定した計測が可能になり、取得した計測情報は、バッテリー内蔵の無線BOXを経由し、押船側のPCに送信される。

ニュースリリースサイト(akasakatec):https://www.akasakatec.com/news/2869/

LPWA(狭帯域無線)で画像伝送を可能にする独自開発の画像“超高圧縮”技術

(株)情報システム総合研究所(以下 ISRI)は、独自開発の画像の超高圧縮技術(MX Codec)を基にしたソリューション展開を図っている。今回、ISRIの超高圧縮技術(MX Codec)がエヌエスティ・グローバリスト(株)(以下 NSTG)の「SR-PicSen」にて採用されたという。

ISRIでは、狭帯域での画像伝送分野のリーディングカンパニーとして、静止画像を付加させたセンサーデータソリューションをLPWAなどの狭帯域無線で実現している。
携帯電話網を使用せず、独自の無線を使用することで、“災害時でも画像伝送を可能とする”システムは市町村防災行政無線やダム監視システム等で数多くの事例を手掛けた実績があるとのこと。

【独自開発の画像圧縮技術(MX Codec)の紹介】※画像
驚異的な画像圧縮技術(JPEGの3~5倍の能力)
圧縮率は設定により変更可能。(一般使用範囲1/50~1/300程度)

【SR-PicSen概要】
NSTGでは、LPWA通信モジュールを搭載した小型ユニット・低コスト化を実現させた結果、出荷累積:14,000台でセンサーを活用したサービス立ち上げは5年間で数多く(実績案件:約100以上)の事例を手掛けた実績を誇っており、「SR-PicSen」は“自然災害対策”の利用目的で契約数が増加しているという。

1. センサーユニット
  アナログ(4-20mAまたは0-5V):2ch、デジタル入力:4ch、
  CT電流:4系統、シリアル(RS232CまたはRS485):1ch
2. 通信ユニット
  通信方式:LoRa、LTE-M、LTE
3. 画像ユニット
  センサー向けLoRa無線で画像伝送を可能とした高圧縮技術
4. 電源装置ユニット
  太陽光パネルと50Ah大容量バッテリー(鉛またはリン酸鉄リチウム)
5. バッテリー劣化計測ユニット
  遠隔地からバッテリー監視して交換時期や性能状態を把握
6. 万が一に備えた落雷対策
  各種(電源、信号、通信)SPDの組み入れにも対応
7. 低価格
  従来の価格で計測ポイントを2箇所に導入設置できる価格設定
8. 可視化/メール通知サービス ※月額サービス料は別途必要
  見栄え重視ではなく本当に必要な機能だけを絞り込んだ設計・開発
導入検証向けに短期間レンタルもご用意

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000069923.html

弾性波フィルタとは何か-FBARやSMRをわかりやすく、詳しく解説(2)

東北大学 大学院
工学研究科ロボティクス専攻
教授 田中秀治

5. スプリアス応答とその対策

スプリアス応答についてその理解を助ける別の説明を試みよう。仮にFBARの振動膜が空中に浮かんでいて、図4 (a)に示すように純粋に膜厚方向に伸び縮みしているだけだとする。これは理想的な状態でピストンモードと呼ぶ。その振動周波数は、縦波の音速をv、振動膜の厚さをhとするとv/2hである。この振動モードだけなら単純であるが、実際はそうはならない。まず、振動膜の周囲が固定されていると、図4 (a)の代わりに図4 (b)のような振動モードとなるだろう。また、図4 (c)、(d)に示すような振動モードも存在すると思われる。図4 (b)~(d)を見比べると、これは、振動膜の膜面に沿った方向に異なる波数kxの波(板波)が伝搬して定在波が生じている状態だと理解できる。kxの異なる波は周波数が異なるから、図4 (b)に相当するピーク、すなわち欲しいピークの他に、図4 (d)に相当するピークやそれよりkxの大きいモードのピーク、すなわちスプリアス応答が現れる。これが図3の状態だ。

図4 FBARの振動モード

スプリアス応答を無くすためには、FBARの振動を図4 (a)のようなピストンモードだけにできればよい。これは振動膜の外周に図5 (a)に示すような小細工を施せば理論的に可能である。その理由はここでは省略するが、このような小細工によって、図4 (b)~(d)の振動をそれぞれ図5 (b)~(d)のように変えられる。固定端であった外周があたかも自由端のように振る舞うわけである。図5 (b)はほとんどピストンモードである。図5 (c)、(d)はスプリアスモードであるが、圧電膜上の電極で正負の電荷がキャンセルするため電気的に励振されない(実は図4 (c)も)。NHKの人気番組「ブラタモリ」でタモリは「へり」が面白いと言っているが、BAWデバイスもしかりである。

図5 FBARのスプリアス応答対策

へりの工夫によってスプリアス応答は減らせるが、それだけでは不十分である。ここまでに、板波がへりで反射して定在波を作り、振動面に周波数ごとに異なる振幅分布が生じ、スプリアス応答が起こると描像してみせた。ということは、BAW共振子の形状を図6のようにすれば、反射を繰り返した板波は閉ループを描かず、定在波は起きにくくなる。BAW共振子が奇妙な形をしているのはそのためである。これはアポダイゼーションと呼ばれる。

図6 BAW共振子のアポダイゼーション

6. 弾性波デバイスの将来

さて、MEMSのディフェンディングチャンピオンであるBAWデバイスに敵はいるのか。いる。HAL(Hetero Acoustic Layer) SAWデバイスなどと呼ばれる新型SAWデバイスである。これは、図7 (b)に示すように、波長程度以下に薄い、具体的には厚さ1 μm程度以下のLiTaO3単結晶またはLiNbO3単結晶を別の基板で支持した構造を有する[5]。この構造によって、従来構造(図7 (a))では基板に漏れる弾性波を表面の圧電単結晶に閉じ込められる。漏れが少なければ、振動エネルギーの損失が少なく、Q値を高くできる。しかも、基板を水晶にしたり、LiTaO3単結晶の下にSiO2膜を付けたりすることで、共振・反共振周波数の温度依存性(TCF)を小さくできる。LiTaO3やLiNbO3を含めておおよその物質は温度が上がると柔らかくなるので、負の温度係数を持っている。しかし、SiO2やある結晶方向の水晶は温度が上がると硬くなる性質、すなわち正の温度係数を持っている。これらをお互いにキャンセルさせてTCFを小さくしようというわけだ。HAL SAWデバイスは、基板の層構成、結晶方向、電極構造などに設計パラメーターが多いため、BAWデバイスより様々な優れた可能性を秘めていると期待されている。

図7 (a) 従来のSAWデバイスと(b) HAL SAWデバイスの構造

もう1つ問いを投げかけておこう。BAWデバイスはどこまで高周波化できるのか。これはFAQでもある。5Gの新バンドn77、n78、およびn79は3.5~5 GHzと高い周波数帯にあるが、BAWフィルタで対応できるのかという問いである。5Gでは28 GHz帯のミリ波も用いられる。これはどうかという問いでもある。前者は対応可能、後者は難しいというのが今のところの答えである。

既存のBAWデバイスの高周波化すると、次のような難しさが生じる。まず、材料の音響損失はおおよそ周波数の自乗に比例する。材料損失について支配的なのは電極膜である。高周波化して振動膜を薄くすれば、電極膜は圧電膜に対して相対的に厚くなる方向で、音響損失についてより一層厳しくなる。次に、高周波化するとBAW共振子のインピーダンスが下がる。振動膜が薄くなると静電容量Cが小さくなり、しかも周波数(角振動数ω)が大きくなるので、インピーダンス1/jωCは周波数の自乗に反比例して下がることになる。したがって、50 Ω整合のためには、それをキャンセルするようにBAWデバイスを小さくしなくてはならない。BAWデバイスが小さくなれば、へりの影響は相対的に大きくなり、損失とスプリアス応答が増える。耐電力性も厳しくなる。これらの理由から上述のような答えとなるわけだ。

ミリ波まで欲張らなくても、BAWフィルタの市場にはまだまだ十分な伸び代がある。有望な市場だけに新たな参入者はいるが[6]。私は、既存のBAWデバイス、HAL SAWデバイス、そして新しいBAWデバイスが切磋琢磨して発展する未来を思い描いている。

[5] 田中秀治, 「成熟したはず」の弾性表面波フィルターが、新技術開発ブームに沸くワケ, 日経xTECH, 2020/2/21, https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03663/

[6] 田中秀治, 中国教授の産業スパイ事件で有罪評決、スマホフィルター技術窃盗, 日経xTECH, 2020/8/19, https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04470/



【著者紹介】
田中 秀治(たなか しゅうじ)
東北大学 大学院工学研究科 ロボティクス専攻 教授

■略歴
1999年3月 東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻博士課程修了
1999年4月 東北大学大学院工学研究科助手
2013年8月 同教授
2004年1月~2006年3月 JST研究開発戦略センターフェロー
IEEE Fellow 日本機械学会フェロー

MEMS技術との融合により実現する人工細胞膜センサ(2)

神奈川県立
産業技術総合研究所
大崎寿久
東京大学 大学院
情報理工学系研究科
教授 竹内昌治

3.ナノポアを利用した人工細胞膜センサ

前節で述べたような脂質二重膜形成デバイスは、標的となる膜タンパク質を脂質二重膜に再構成することで、膜タンパク質+脂質二重膜=人工細胞膜デバイスとして研究が進められるようになった。まず着目されたのは、膜タンパク質の機能解析への利用である7,10)。デバイスに電極を配置することで、特に膜タンパク質の中でもイオンチャネルを標的とした例は多く報告されるようになった。またイオンチャネルの機能解析によりデバイス開発が進んだことで、逆に膜タンパク質の優れた機能を活用したアプリケーションが提案されるようになり、中でもセンサ応用が注目されている11)
人工細胞膜デバイスのセンサ研究で最初に広く用いられるようになったのは、生体ナノポアと呼ばれる脂質二重膜にナノメートルサイズの孔を作る膜タンパク質である。生体ナノポアとして代表的なアルファヘモリシンは、水溶液に可溶であり、脂質二重膜には自発的に再構成して最狭部が約1.4 nmのポアを膜に形成する。MEMS技術でも再現良く作ることが容易ではないナノサイズの貫通孔を、再現性高く簡単な操作で得られる点に魅力がある。ナノポアを使った人工細胞膜センサは、コールターカウンターのように、標的物質がポアを通過する際のイオン電流の変化にもとづいて検出を行う。アルファヘモリシンのように、ポアサイズがちょうど1本鎖DNAが透過できる程度であるナノポアは、DNAやRNAなどの核酸のシーケンシング技術へと発展し11)、また現在はタンパク質を構成するアミノ酸の識別へと研究が進んでいる12)
ナノポアによる核酸検出では、生体ナノポアの閉塞に伴うイオン電流の低下によって、核酸1分子(1本)を観測する。竹内らは、ナノポアを閉塞しない小分子の計測技術として、DNAアプタマーとナノポアを利用することを提案した13)。DNAアプタマーとは、標的分子と特異的に結合する配列を持つことで、標的分子との複合体を形成するDNAのことである。標的分子がない場合、DNAアプタマーはナノポアを透過できるが、標的分子と複合体を形成するとナノポアを透過できず、閉塞が生じて電流が顕著に低下する(図5)。すなわち複合体を形成することにより、標的が小分子であってもその1分子を検出できる。このセンサは、DNAアプタマーが標的分子との特異性を保証し、ナノポアが1分子計測可能な信号増幅を担うことで、感度・選択性の両面に優れた特性を示すことができる。

図5 人工細胞膜デバイスにおいて、DNAアプタマーとナノポアを利用したコカインセンサ。コカイン存在下ではDNAアプタマーとコカインが複合体を作製しナノポアが閉塞される(右上)。このときのイオン電流は、閉塞によって顕著に低下している(右下)。
Adapted with permission from Ref. 13. Copyright 2011 American Chemical Society.

マイクロRNAは18-25塩基長の短いRNA鎖からなり、体内でタンパク質の発現制御などに関わることが明らかになってきており、近年、がんの診断マーカーとして注目されている。このマイクロRNAの特異的検出法として、脂質二重膜に対するナノポアの再構成をシグナルとして利用するセンサが提案されている14)。図6aに示すように、標的マイクロRNAに相補的な配列をもつDNAの末端に、磁気ビーズとアルファヘモリシン再構成リポソーム(脂質二重膜小胞)をそれぞれ結合したものを検出素子としている。スイッチとして2本鎖特異的切断酵素を用いることで、標的配列のマイクロRNAがあるときにのみ、アルファヘモリシン再構成リポソームが遊離し、脂質二重膜にナノポアを形成して電流シグナルを発生させる(図6b, c)。このセンサにおいてはDNAの相補的配列が標的特異性を担保し、100万種・10倍濃度の夾雑マイクロRNAに対しても偽陽性を示さないことが確認されている。このようにナノポアを利用した人工細胞膜デバイスでは、DNAなど生体分子の特異的相互作用と組み合わせることで優れたセンサが生み出されている。

図6 (a) マイクロRNA検出素子。(b) マイクロRNA検出の仕組み。標的マイクロRNAと検出素子が結合すると、2本鎖特異的切断酵素が働き検出素子のDNAが切断される。切断により遊離したナノポアが脂質二重膜に融合し電流シグナルが発生する。(c) 人工細胞膜デバイス模式図と得られた電流シグナル。標的マイクロRNAが存在する時のみ、ステップ状の信号が得られる。
Adapted with permission from Ref. 14. Copyright 2018 American Chemical Society.

4.昆虫嗅覚受容体を利用した人工細胞膜センサ

前節のナノポアに対して、より高機能な膜タンパク質をもつ人工細胞膜センサの研究も近年行われるようになってきた。昆虫嗅覚受容体は、リガンド依存性陽イオンチャネルを形成すると考えられており、受容体にリガンド(匂い物質)が結合すると陽イオン電流を生じる。1分子の結合をピコアンペア程度に増幅することから、特異性・増幅率を併せ持つ優れた素子として匂いセンサへの活用が期待されている。
匂い物質は、その分子構造がもつ性質から親油性、水に難溶性のものが多い。液滴接触法を利用した人工細胞膜は、2つの油中水滴界面に脂質二重膜を形成しているため、このような匂い物質を水相に移行させることが難しく、匂いセンサデバイスには適さなかった。そこで、図7aに示すように2つのウェルの片側は水溶液(ゲル)のみとして脂質二重膜を形成し、匂いセンサへの適用可能性を検討した。まず、農薬の成分であるオメトエート(揮発性有機化合物)を標的分子として、前節のナノポアとDNAアプタマーの系を用いて検証したところ、100 ppbのオメトエートを気中から検出することに成功した15)。オメトエートが気中から自発的に水溶液中に溶解できたことで、アプタマーと複合体を形成し、ナノポアの閉塞現象によって検出できたと考えられる。
次に、このデバイスに対して蚊の嗅覚受容体を再構成した人工細胞膜センサを作製し、ヒトの汗の匂い成分の一つであるオクテノールを標的分子として検出を行った16)。人工細胞膜センサに再構成された嗅覚受容体は、オクテノールに対して矩形波状の電流応答を示すことが分かった。このセンサを用いて気中オクテノール10 ppbの検出を達成している。ここで用いた嗅覚受容体は、受容体自体が高い選択性をもつ。オクタノールやオクタノンなどの類似化合物と比較して、標的分子であるオクテノールに高い特異性を示すことが確認できた。この匂いセンサを搭載する無線・携帯型計測器を作製し、ロボットと連携させることで、匂い物質に応答するセンサシステムの開発も考えられる(図7b,c)。

図7 昆虫嗅覚受容体を利用した人工細胞膜匂いセンサ。(a) 液滴接触法デバイスで、片側のウェルをアガロースゲルとすることで気液界面を形成され、匂い物質が水相に溶解可能となる。(b) 嗅覚受容体を再構成した人工細胞膜センサのオクテノールに対する応答特性。嗅覚受容体を無細胞発現し、オクテノールを加えた場合のみ矩形波状の応答が見られた。(c) センサとロボットの連携。オクテノールを染み込ませた不織布に反応してロボットが異動する様子。
Adapted with permission from Ref. 16. Copyright 2019 American Chemical Society.

嗅覚受容体を利用した人工細胞膜センサは、現在その原理実証ができた段階にあり、感度や応答性のようなセンサとしての基本的性能の向上が求められる。上述のように、受容体は水溶液中で活性を示すが、一方で匂い物質の気中に対する水中の分配係数は低いことが多い。性能向上には、匂い物質の自発的な溶解を待つのではなく、積極的に溶解するための要素技術の開発が必要であろう。また、生物の嗅覚と同様に、複数種の嗅覚受容体を搭載したセンサによる複雑な匂いの認識など、今後のますますの研究展開が期待される。

5.まとめ

本稿では、細胞膜を生体外で再現するために研究されてきたデバイス技術と、そうしたデバイス上で活用されるようになった人工細胞膜のセンサ応用について紹介した。これまで人工細胞膜センサの研究は、ナノポアや膜タンパク質に関わるような、センサの核となる検出原理について集中して行われてきた。今後、実用化を意識した周辺技術への研究の広がりが待たれる。特に生体分子に由来する保存・寿命や品質管理・較正といった課題への取り組みは、人工細胞膜センサに限らず、バイオと人工物のハイブリッド型デバイスの実用化においては不可欠である。こうした要素技術が集約され、人工細胞膜センサのプラットフォームが早期に確立されることが期待されている。

7) R. Kawano, Y. Tsuji, K. Sato, T. Osaki, K. Kamiya, M. Hirano, T. Ide, N. Miki and S. Takeuchi, Sci. Rep., 2013, 3, 1995.

10) K. Kamiya, T. Osaki, K. Nakao, R. Kawano, S. Fujii, N. Misawa, M. Hayakawa and S. Takeuchi, Sci. Rep., 2018, 8, 17498.

11) N. Misawa, T. Osaki and S. Takeuchi, J. R. Soc. Interface, 2018, 15, 20170952.

12) S. Howorka and Z. S. Siwy, Nat. Biotechnol., 2020, 38, 159-160.

13) R. Kawano, T. Osaki, H. Sasaki, M. Takinoue, S. Yoshizawa and S. Takeuchi, J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 8474-7.

14) S. Fujii, K. Kamiya, T. Osaki, N. Misawa, M. Hayakawa and S. Takeuchi, Anal. Chem., 2018, 90, 10217-10222.

15) S. Fujii, A. Nobukawa, T. Osaki, Y. Morimoto, K. Kamiya, N. Misawa and S. Takeuchi, Lab Chip, 2017, 17, 2421-2425.

16) N. Misawa, S. Fujii, K. Kamiya, T. Osaki, T. Takaku, Y. Takahashi and S. Takeuchi, ACS Sensors, 2019, 4, 711-716.



【著者紹介】
大崎 寿久(おおさき としひさ)
神奈川県立産業技術総合研究所 人工細胞膜システムグループ サブリーダー

■略歴
2002年 東京工業大学大学院理工学研究科 博士課程修了
2002年 ライプニッツ高分子研究所 博士研究員
2006年 産業技術総合研究所 特別研究員
2007年 東京大学生産技術研究所-LIMMS/IIS-CNRS CNRS博士研究員
2009年 神奈川県立産業技術総合研究所 サブリーダー、現在に至る
専門は界面物理化学、高分子材料科学。2007年より、細胞膜をマイクロチップ中で再構成するためのプラットフォーム技術に関する研究に従事。近年は膜タンパク質機能解析やそのセンサ応用について実用化研究を進めている。

竹内 昌治(たけうち しょうじ)
東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授

■略歴
2000年 東京大学大学院工学系研究科 博士課程修了
2000年 日本学術振興会 特別研究員
2001年 東京大学生産技術研究所 講師
2003年 同 助教授(2007年より准教授)
2014年 同 教授(2019年より兼務)
2019年 東京大学情報理工学系研究科 教授
この間、2004-2005年 ハーバード大学化学科 客員研究員、ほか
専門はバイオハイブリッドMEMS。3次元組織構築、体内埋め込み型デバイス、人工細胞膜、培養肉などのプロジェクトに従事。

ディスプレイとライダーのためのMEMSミラーの設計基本ポイント(2)

東北大学
大学院工学研究科
教授 羽根一博

4. 疲労寿命の延長

3節でねじればねの破壊強度が設計を制限していることを述べたが、破壊限界はミラーの実用化における信頼性を確保するためには欠かせない問題である。破壊限界に近づく設計をすれば、走査角を増加させ解像度を上げるが、一方で、疲労寿命を縮める。走査角をある程度大きく取り、製品に必要な長い寿命を確保することが重要である。シリコンの破壊強度や疲労寿命はこれまでにも調べられている。疲労寿命は、真空封止されたシリコン振動子の繰返し曲げ実験から、表面酸化がほとんどない状態で封止することで、理想的な寿命が得られている7)
一方、同様の繰返し曲げの振動子に原子層堆積(Atomic Layer Deposition)アルミナでコーティングすると、疲労寿命が2桁延びるとの報告がある8)。我々は、ALDアルミナ膜をミラーのねじればねに厚さ3nm程度コーティングして、ミラーの破壊強度と疲労寿命を測定した。 図4は疲労寿命試験の結果である9)。応力振幅はねじればねの式(4)を用いて回転角より求めた(実際の最大応力振幅はFEM解析からばねの接続部で2倍程度になっていると考えられた)。低い繰り返しでは、むしろコーティングすると応力振幅は低下している。これは同時に行った静的な破壊強度の試験とも一致している。一方で、通常設計に用いる応力(1GPa程度)では、逆にALDアルミナをコーティングした方が、疲労寿命は長いようである。
疲労寿命実験では、この程度の応力では、実験期間(約1週間)に破壊にいたるものはほとんどない。さらに実験を重ねても傾向は変わらないが、より精度の高い測定が必要である。原因については、なお研究中であるが、極めて薄い原子層堆積膜により、破壊寿命が実用応力領域で伸びるのであれば、実用的には大変有効と思われる。

図4 ALDアルミナ膜をコーティングしたミラーの応力振幅と破壊寿命の測定例

5. MEMSミラーの試作例

図5は3本の曲げばねで支持したミラーで、共振周波数1185Hz、 交流電圧60V、真空中で、θOptが約30度の円錐状走査が得られた10)。比較的大きい走査角が得られたが、非線形性も見られた。慣性モーメントによる運動の非線形性および、曲げばねの非線形性も影響していると考えられる。

図5 3本支持構造の全方位走査ジンバルレス型スキャナ、(a)スキャナの写真、(b)レーザー走査例

6. まとめ

本稿では、レーザディスプレイおよびライダーに用いられるMEMSミラーの2軸スキャナの光学条件、機械運動、破壊と寿命について、設計に必要な基本的な特性を述べた。光学系は単純なため光学特性はよく知られている。全方位走査の2軸スキャナの機械運動は、複雑な運動相互作用を含んでおり、特性はまだ十分解明されていない。破壊と寿命の問題は常に悩ましい問題であり続けてきたが、これらの問題の改善につながる提案もいくつか見出されている。本文中に述べた解析は、走査ミラーを設計するための一つの指針と考えていただきたい。今後の研究開発に期待したい。
謝辞:本報告は、佐々木敬氏、鈴木克也氏、小林丈晃氏、福田航一氏の協力を得たので、感謝します。

7) V.A. Hong, S. Yoneoka, M. W. Messana, A.B. Graham, J.C. Salvia, T.T. Branchflower, E.J. Ng, T.W. Kenny, “Fatigue Experiments on Single Crystal Silicon in an Oxygen-Free Environment” J. Microelectromechanical Syst. 24 (2015) 351-359.

8) E.K. Baumert, P.-O. Theillet, O.N. Pierron, “Fatigue-resistant silicon films coated with nanoscale alumina layers”, Scripta Materialia 65 (2011) 596-599

9) 藤田裕樹, “原子層堆積膜によりコーティングしたSiマイクロスキャナに関する研究,” 東北大学(機械系)修士学位論文 (2020).

10) 小林丈晃, “全方位型長距離LiDARのためのジンバルレス2軸MEMSスキャナ,” 東北大学(機械系)修士学位論文 (2020).



【著者紹介】
羽根 一博(はね かずひろ)
東北大学 大学院工学研究科 ファインメカニクス専攻 教授

■略歴
1978年3月  名古屋大学工学部電子工学科卒業
1980年3月  同大修士課程修了
1983年3月  同大博士課程修了
1983年4月  同大助手
1985年2月から13ヶ月  カナダ国立研究所物理部門客員研究員
1990年8月  名古屋大学助教授
1994年4月  東北大学教授

非冷却赤外線イメージセンサ(2)

立命館大学
理工学部 特任教授
木股雅章

4. 発展段階にMEMS技術が果たした役割

イメージセンサにとって画素ピッチ縮小は最も重要な課題であり、非冷却赤外線イメージセンサでもこれまで画素ピッチを縮小するための技術開発に多大なリソースが投入されてきた。画素ピッチは、1992年に発表された非冷却赤外線イメージセンサでは50 μmであったが1)、2001年には25 μm、2007年には17 μm、2013年には12 μmに縮小されており2)、2016年には画素ピッチ10 μmの素子3)も発表されている。
画素ピッチを縮小すると高解像度化が可能になる。解像度は1992年のQVGA (Quarter Video Graphics Array, 320×240画素)から、1999年にはVGA (Video Graphics Array, 640×480画素)、2009年にはXGA (Extended Graphics Array, 1024×768画素)の非冷却赤外線イメージセンサが報告されており2)、現在ではフルハイビジョン対応の解像度を持った高解像度非冷却非冷却赤外線イメージセンサも開発されている4)
画素ピッチを50 μmから10 μmと縮小すると、画素面積は0.04倍となり、一画素で受光することができる赤外線放射束が0.04倍に減少する。放射束減少にもかかわらず、10 μm 画素でもNETD < 50 mK(F/1光学系を用いた場合)の性能を維持しており、1992年以降熱型赤外線検出器の感度は25倍向上した。

2で説明したように、熱型赤外線検出器の性能は、温度センサの高感度化または熱コンダクタンスの低減で改善することができる。図4は、これまで報告されている非冷却赤外線イメージセンサの熱コンダクタンスと画素ピッチの関係を示す5)。この図から熱コンダクタンスは画素ピッチの2.7乗に比例(一点鎖線)していることがわかる。画素面積の減少による赤外線放射束の減少を補うには、熱コンダクタンスを画素ピッチの2乗に比例するように設計すればいいが、これを超えて熱コンダクタンスが低減されており、これまでの性能改善が熱コンダクタンス低減によって達成されてきたことがわかる。

図4 画素ピッチと熱コンダクタンス。MEMS技術は画素ピッチ縮小による感度低下を熱コンダクタンス低減で補償し発展を支えた。

図5にピッチの小さな画素で高い断熱性(低熱コンダクタンス)を実現するために開発された画素の構造の例を示す6)。この構造は、支持脚と受光部を別の層として形成することで、開口率を減少させることなく支持脚を長くして熱コンダクタンスを低減できるもので、2層の犠牲層を使ったマイクロマシニングプロセスで作製される。また、支持脚とボロメータ層を一つの層とし、赤外線吸収層を別の層としたものも開発されている7)

図5 熱コンダクタンスの低減が可能な画素構造の例6)

MEMS微細加工技術を高度化すると、図3の画素構造のまま支持脚を微細化して熱コンダクタンスを低減することもできる。MEMS微細加工技術の高度化に関しては、50 μm画素では1.5 μm、25 μm画素では0.8 μm、17 μm画素では0.5 μm、12 μm画素では0.3 μm というMEMS最小設計寸法が採用されているという報告がある8)
以上のように1990年代から現在に至るまでの発展段階においても、画素ピッチ縮小で非冷却赤外線イメージセンサの進化を支えたのはMEMS技術であった。

5. 現状と今後

技術面では、画素ピッチは回折限界に近付いており、これ以上画素ピッチ縮小を進めると理論的な限界である熱的な揺らぎが感度維持に影響を及ぼす可能性も出てきている。そのため、これまでの技術をブラッシュアップして画素ピッチの縮小を進めることはかなり難しく、技術的には踊り場を迎えつつあると思われる。技術的には飽和状況にはあるが、現状の非冷却赤外線イメージセンサはほとんどの応用分野で十分な性能を有しているので、当面、現状技術を産業に繋げることが肝要と考えられており、最近はビジネス動向に注目が集まっている。
非冷却赤外線イメージング市場では数年前から応用分野拡大に向けて低価格下が進んだ。また、カメラコアのビジネスの活性化で赤外線技術の蓄積がない企業が非冷却赤外線カメラを搭載した製品を市場投入する例も増えてきた。現在、世界全体で非冷却赤外線イメージング市場の規模は140万台、$3Bまで成長している9)
非冷却赤外線イメージング市場を金額的に支えている応用分野は、これまでと同じセキュリティーや保守保全である。しかし、2014年にスタートしたスマートフォン用赤外線カメラの出荷数は、2018年には47万台に達しており9)、現在、スマートフォン用赤外線カメラが数量で市場をけん引役する状況になっている。多くの赤外線関係者が今後を期待している自動車搭載赤外線ナイトビジョンシステムについては、立ち上がりが遅れているものの、単なる画像表示装置からADAS用あるいは自動運転用のセンサの一つとしての注目が高まっており、今後が期待できる。すでにGM傘下のCruise Originが自動運転車に赤外線ナイトビジョンシステムの搭載を決定しているとの報道もある10)

6. おわりに

以上のように、非冷却赤外線イメージセンサの発展にはMEMS技術が非常に重要な役割を果たした。非冷却赤外線イメージセンサでMEMS技術の導入が成功したのは、それ以外の技術では不可能な性能を実現できる技術であり、実用化した後の画素ピッチ縮小にも対応できる技術であったことによる。すでに10 μmの大きさの画素を200万画素以上集積化した非冷却赤外線イメージセンサが開発されていて、ビジネス面でも市場拡大の兆しが見え始めており、今後が期待される。

1) R. A. Wood, et al., Tech. Dig. IEEE Solid-State Sensor and Actuator Workshop, pp. 132-133 (1992).

2) 木股, 赤外線センサ 原理と技術, 科学情報出版 (2018).

3) G. D. Skidmore, Proc. SPIE, Vol. 9819, pp. 98191O-1-98191O-9 (2016) .

4) A. Kennedy, et al., Proc. SPIE, Vol. 9451, pp. 94511C-1-94511C-10 (2015).

5) 木股, 応用物理, Vo. 87, pp. 648¬-654 (2018).

6) D. Murphy, et al., Proc. SPIE, Vol. 4721, pp. 99-110 (2002).

7) H. Jerominek, et al., Proc. SPIE, Vol. 4028, pp. 47-56 (2000).

8) J. J. Yon, et al., Proc. SPIE 6940, pp. 69401W-1-69401W-8 (2008).

9) 株式会社テクノ・システム・リサーチ, 2019年非冷却赤外線イメージング市場のマーケティング分析 (2020).

10) https://www.youtube.com/watch?v=TGe4sOHYiXc (2020年8月16日)



【著者紹介】
木股 正章(きまた まさふみ)
立命館大学 理工学部 特別任用教授

■略歴
1976年 名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了。同年 三菱電機株式会社入社。
2004年 三菱電機株式会社退社。同年 立命館大学理工学部教授。1980年より現在まで赤外線イメージセンサの研究開発に従事。
2009年よりJAXAのType-II超格子赤外線センサの開発に参画。電気学会、日本赤外線学会、応用物理学会、IEEE会員、SPIEフェロー。
2013~2014年 日本赤外線学会会長。
2016年 立命館大学退職。同年 立命館大学理工学部特任教授。

1988年 市村賞貢献賞、1993年 全国発明表彰内閣総理大臣発明賞、2016年 日本赤外線学会業績賞などを受賞。工学博士。

製造業におけるIoTサービス「OMNIedge」のラインナップを追加

 THK(株)は、2020年1月に販売を開始した製造業向けIoTサービス 「OMNIedge」(オムニエッジ)の第二弾として、ボールねじをラインナップに追加した。さらに、2021年1月には第三弾として、回転部品の予兆検知サービスを開始する目的で、30社を対象とした無償トライアルを実施する。

 「OMNIedge」は、2019年の無償トライアル51社を経て2020年1月、第一弾としてLMガイドに対応するサービスの正式販売を開始した。 「OMNIedge」を年内に導入予定のユーザー主要装置は約300台、THK自社工場でも同様に約700台の製造装置に導入。部品の状態を「見える化」し、日々、数値の収集・解析をおこなっている。導入ユーザーからは多くの評価と要望を貰っており、あらゆるユーザーが最適に使えるソリューションサービスの拡大を目指していくという。

 今回、第二弾として、待望のボールねじがサービスのラインナップに加わった。LMガイドとセットで使用されることが多いボールねじも、予兆検知のニーズが高く、早期のサービス提供が望まれていたとのこと。
さらに今後は、「OMNIedge」の適用範囲を回転部品やアクチュエータなどにも拡げる予定。機械要素部品の予兆検知を基盤とした装置全体の健康管理へと進展させるとしている。

〔特長〕
ボールねじの異音・異常振動を見える化
THKは、ボールねじにセンサを装着し、収集したデータを数値化、状態を可視化する独自技術「THK SENSING SYSTEM」を確立した。これにより、ボールねじの異音、異常振動を数値化して検知することが可能となる。

保全作業の効率化で生産性向上
部品の状態を数値化する「OMNIedge」を用いることで、従来、現場作業員の経験と感覚による確認・判断に頼っていた装置の保全作業に計画性を持たせることが可能。それにより、作業員の経験やスキルに左右されることなく保全作業を効率化でき、予備在庫の管理コスト削減に寄与する。さらに、保全の形態をこれまでの時間管理から状態管理に移行させることで、部品交換時期を適正化し、設備稼働率を高め、現場の生産効率を全体として向上させることができる。

製造業の課題解決に貢献
国内の製造業では、製造設備の保全作業に際し、熟練工の感覚に頼らざるを得ない場面がある一方、熟練工の高齢化や人手不足により技能継承が難しくなっている点が近年の重要課題として挙げられる。同社は、その課題を解決する手立ての1つとして、装置の保全作業の一端を担う「OMNIedge」をパッケージ化。ハードルが高いとされてきた製造業におけるIoTを、リーズナブルな価格で簡単に導入できる仕組みを取り入れている。

製品専用サイト(THK):https://www.thk.com/omniedge/jp/

docomo、Skydio社と自律飛行型ドローンを国内で提供を開始

(株)NTTドコモはSkydio,Inc※1と、Skydio社の自律飛行※2型ドローン「Skydio 2™」を、2020年11月13日(金)から国内で提供を開始する。なお、Skydio社の自律飛行型ドローン「Skydio X2™」、「Skydio Dock™」についても、国内で順次提供予定。

 「Skydio 2」 は、AIによる自律飛行技術や、障害物回避技術を搭載しており、従来飛行が難しかった場所においても安全な飛行が可能である。そのため、これまで課題とされていたパイロットの操作技術の習得が容易になり、産業用途でのドローンのさらなる活用が期待されている。また、「Skydio X2」は、赤外線カメラを搭載しており、より高度な飛行性能を有しているため、幅広いシーンにおける活用が期待されている。「Skydio Dock」は、ドローンを活用した点検・警備作業などに関するオペレーションを自動化・省人化する技術を搭載しており、運営を効率化できるという。

 これらSkydio社の製品と、ドコモのドローンプラットフォーム「docomo sky™」を連携することで、飛行計画の作成や撮影、取得データの管理・解析などを含めた一連の業務フローを一元管理し、ドローン活用のさらなる高度化・効率化を実現する。(画像:Skydio社のドローンとdocomo skyの連携イメージ)

 ドコモは、ドローンを活用した点検・警備作業などを通じた安心安全でサステイナブルな社会作りをめざして、2020年1月以降Skydio社と協業検討を行って来た。Skydio社との協業検討において、基地局鉄塔、道路下の構造物、家屋の屋根の点検作業などで、「Skydio 2」が持つ障害物回避技術がドローン飛行の安全性に寄与することを確認してきた。また、倉庫内、建物内において、GPS情報に依存しない環境下での飛行経路の導出・巡回航行について有用性を確認した。これらの検証実績をもとに、今後は構造物やインフラ設備などの点検作業に加え、屋内の設備巡回など、幅広い利用シーンにおけるドローンの活用に向けて取り組んでいくとのこと。

 今後もドコモは、社会課題の解決やより豊かな社会の実現をめざして、さまざまな産業分野のパートナーと実証実験や検証を行い、先進的なドローンサービスを提供していくとしている。

※1 ドコモは、ドコモの100%子会社である(株)NTTドコモ・ベンチャーズを通じ、Skydio社へ出資している。
※2 ドローン操縦者の限定的な介入または介入なく、障害物などを回避するなど安全に目的に応じた飛行を行うこと。
* 「Skydio 2」「Skydio X2」「Skydio Dock」はSkydio, Incの登録商標。
* 「docomo sky」は(株)NTTドコモの商標。

ニュースリリースサイト:https://kyodonewsprwire.jp/press/release/202011127054