磁気通信技術と実用事例(2)

坂田電機(株) 技術部
藏谷 朋哉

3.2ダム構造物の計測

3.2.1 従来の計測方法の課題
フィルダムのような盛土構造物において、ダム提体内などの盛土内には間隙水圧計や土圧計、沈下計といったセンサが埋設される。これらのセンサは、センサから伸びたケーブルを監査廊などに配置してあるデータロガーや測定システムに接続するため、ダム軸方向に掘削したトレンチ内にケーブルを配線し、そのトレンチを埋め戻すという方法が一般的である。このため、ケーブルルートが、構造物の品質から見て弱部になる可能性を有しており、ケーブルの費用に加え、施工性低下など、施工コストへの影響も大きくなる。また、ケーブルは断線や絶縁低下といった計測不能状態の原因ともなる(3)

 

3.2.2 地中無線通信システムによるダム構造物の計測
図4にワイヤレス間隙水圧計の概略構造を示す。

図4 ワイヤレス間隙水圧計

ワイヤレス間隙水圧計は、アンテナ、データロガー、間隙水圧計、バッテリーで構成されている。データロガーには、複数の測定スケジュールを登録することができ、地上側の受信器からの指令によって任意に切替が可能である。このため、ダムの安全管理において定められている「ダム構造物管理基準」のⅠ~Ⅲ期に対応した測定頻度を選択することが可能となり、運用可能期間を10年以上とすることも可能である。また、通信距離は100m程度である。
  計測機器からケーブルがなくなることにより大きく分けて3つのメリットがある。第1に計測対象である構造物自体への影響を減らすことができる。これはケーブルルートが原因の水みちの形成がなく、転圧不足といった弱部の形成の原因を作らない。第2に計測自体の安全性の向上が見込まれることである。施工中のケーブル断線や、誘導雷によるセンサの故障、長期運用に伴うケーブル絶縁性の低下といった、ケーブルに起因する計測不能状態を引き起こす可能性が無い。第3に、施工面から見た場合、短時間で設置可能であることに加え、ケーブル配線のためのトレンチ掘削や埋め戻しが不要であるため、材料コスト・時間コスト縮減にも大きく貢献することができる。
図5にフィルダムにおける本システムを用いた計測システムの概要を示す。

図5 フィルダムにおける地中無線通信システム

また、ボーリング孔内に設置するタイプのワイヤレス間隙水圧計も実用化されており、維持管理を目的とした既設の土構造物への設置等、ワイヤレス間隙水圧計が有効に利用できる範囲は広がっている。これらのワイヤレス間隙水圧計は、ケーブルレス化による計器の延命、総合コスト縮減により、これからの土構造物の維持管理に貢献できる。
今後の課題は、機器の小型化と通信距離の延伸である。機器のサイズを小さくしながらも通信距離を向上させることが望まれる。

4. 地中無線通信システムの仕様

表1に地中無線通信システムの標準的な送信器の仕様例を示す。

表1 地中無線通信システム 送信器仕様例
名称 海・地中両用データ送信器 地中埋設用データ送信器 ワイヤレス間隙水圧計
型式 TR-071 TR-063 TR-044b,TR-049
接続可能
センサ方式
差動トランス、摺動抵抗、
ひずみゲージ、電圧、
電流、デジタル
差動トランス、摺動抵抗、
電圧、電流、デジタル
差動トランス式間隙水圧計
接続可能
センサ数
10ch 4ch 1ch
搬送周波数 1.2kHz 8.5kHz
通信距離 地中:100mもしくは
200m程度
海中:40m程度
地中:100mもしくは200m程度
通信速度 75bpsもしくは18.75bps 75bpsもしくは18.75bps
測定頻度 3分~24時間間隔で任意 10分~1年間隔で任意
通信頻度 5分~1ヵ月 10分~1年間隔で任意

送信器外観図

図6 送信器外観図(左図:地中用[TR-063] 右図:海中用[TR-071])
図7 ボーリング孔内用ワイヤレス間隙水圧計外観図[TR-039]

受信器外観図

図8 受信器外観図(左図:ポータブル受信器[EO-029] 右図:設置型受信器[EO-030])

5.おわりに

本システムを利用した計測機器のケーブルレス化は、従来のケーブル等を用いた計測方法と比べて以下のような利点がある。

①土中、岩盤中、水中、空気中でデジタルデータ伝送が可能
②構造物への悪影響の低減
③ケーブルに起因する計測機器の故障・欠測を回避することが可能である。
④計器設置時間の短縮による総合コストの縮減

また、維持管理計測としてみた場合、以下のような利点がある。

①施工から供用まで一貫した連続計測が可能となるため、合理的な維持管理に必要な種々の挙動等の履歴を知ることができる。
②計測対象内部に立ち入る必要が無く、地上や周辺の地下構造物からデータを収録することができる。

 

一方、以下のような課題が考えられる。

①埋設される送信器が内蔵の電池で動作することから、運用可能期間が有限となってしまう。種々の計測目的に合わせて必要な運用期間が得られるように、長寿命化を図る。
②通信可能距離の延長
③機器の小型化

 

本技術は、これからの維持管理時代に貢献できる技術であると考えられる。今回紹介した事例は、ほんの一部であり、より多くの分野での利用が期待される。

参考文献
3) 藤井敦、鈴木慎也、森川嘉之、中山敦:磁気伝送水圧式沈下計による大規模埋立地の沈下計測、地盤の環境・計測技術に関するシンポジウム2005 pp.17-24

【著者略歴】
蔵谷 朋哉(くらたにともや)
坂田電機㈱ 技術部

2012年 国立都城高等工業専門学校 卒業
         化粧品メーカーおよび医薬品メーカーを経て
2016年 坂田電機株式会社 入社(技術職)
2019年 現在に至る