2.2 味を目標にあわせながらコストダウンを図る最適設計
食品メーカーでは、コストダウンを目的に、味覚センサのデータに基づいて、計算によって食品の最適設計が行われるようになってきた。
例えば、多くのコーヒーメーカーでは、原料のコーヒー豆を味覚センサのデーターベースを作成し、最適設計ソフトでインスタントコーヒーやレギュラーコーヒーのブレンド設計が行われている(5)。これは味項目ごとに許容範囲を設定し、その中で一番コストの低いブレンド比率を最適値探査の計算で求めるものであり、10~30%のコストダウンに成功している。
図4ではNHKの海外放送の取材の際に設計した例であり、官能的にも差がないだけでなく、原価はなんと約10分の1である。
2.3 味を伝える
ワインは種類も多く、消費者にとって何を選んでよいかわからない。それで大手流通小売りではウェブ上で、味のデータをグラフで示してある。味のグラフの形を見ながら、飲んだワインが好みであったら、同様な味の傾向のワインを選ぶことができるし、好みの味でなければ、別の味のワインを選ぶことができるようになる。
島根県では、味覚センサのデータを地元の商品のパンフレットに入れて、商品の特徴をグラフで示している。今まではスーパーマーケットやコンビニエンスストアに売り込みに行っても相手にもしてくれなかったのが、中身の味をグラフで特徴を説明することで、取り扱ってくれるようになったとのことである。
3 試練を乗り越えて
東北大震災の後、弊社は約5,000万円の債務超過に陥り倒産の危機になった。また当時、研究開発に人物金を投資しており、毎年5,000万円の減価償却があった。私が性能を上げれば売れると勘違いした結果であった。その時に私が考えたのは、味覚センサは本当にお役に立っているのか?であった。
その頃、食品メーカーの開発者から「非常に困っている。味センサでなんとかして欲しい。」との要望を頂いた。スーパーマーケットやコンビニエンスストアのプライベートブランド(PB商品)の開発の苦労であった。試作品を持って行っても顧客からは「少し違う」で何回も試作をよぎなくされるのである。試作の繰り返しが数か月に渡り、合格になっても厳しい価格を求められる。しかも各社毎に味の要求が異なるのである。そこで味覚センサを使って解決したいとのことであった。必ず、お役に立つと感じた。そしてお役にたつことだけに専念しようと決めたのである。
それまで展示会に一杯出展していたが全てやめて、困っておられるお客様をこちらから探すスタイルにした。全部門のトップの方、中堅の方と実際に活用される方に勉強会をさせて頂き丁寧な営業に徹底した。ビジネス活用のためには、全社で活用していただかないと成功しないからである。
またソリューションサービス部門を新設し、食品開発の経験者を採用した。食品開発の経験者ならではのきめ細かなアフターフォローを行うためである。次章で述べたように、国内外で激動の世界となり、味覚センサがお役にたてることを私は確信した。これまでの30年の歩みは大切な意味があったと感謝している。そして債務超過はなくなり、毎年黒字化になった。
次週に続く-
引用文献
(5)石脇智広”Biochemical Sensors: Mimicking Gustatory and Olfactory Senses”、 Pan Stanford Publishing、pp.83-90 (2013)
【著者略歴】
池崎 秀和(いけざき ひでかず)
(株)インテリジェントセンサーテクノロジー 代表取締役社長
1986年 早稲田大学大学院電気工学専攻 修士修了
同年 アンリツ(株)入社、味覚センサの研究開発に従事
2002年 アンリツ㈱退社
(株)インテリジェントセンサーテクノロジーを設立
現在 同社代表取締役社長、九州大学客員教授、博士(工学)
受賞歴 :
山崎貞一賞、井上春成賞(いのうえはるしげしょう)、
ものづくり日本大賞特別賞、
飯島記念食品科学振興財団技術賞