◆上半文昭(ウエハン フミアキ)
鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 構造力学研究室 研究室長
東京大学生産技術研究所および鉄道総合技術研究所ユレダス開発推進部地震防災研究室で、鉄道の早期地震検知警報システム、災害予測・復旧支援システムの研究を担当の後、平成13年より鉄道力学研究部構造力学研究室で、鉄道構造物の災害対策、維持管理、鉄道車両の走行安全性向上などに関わる研究開発に従事。
本記事で紹介した「構造物検査用遠隔非接触振動計測システムの開発」で平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(開発部門)等を受賞。博士(工学)。
高度成長期に整備されたインフラの老朽化がクローズアップされている。中央自動車道のトンネル事故の例を見るまでもなく、一たびインフラでトラブルが起これば多くの人命や財産が危険に直面するだけに、喫緊の課題と言えよう。
万一、今後、こうした事故が多発し、日本のインフラの信用が棄損されるような事があれば、我々の生活はもちろん、日本の経済そのものが成り立たなくなるだけに、事態は相当深刻である。
これに対し、インフラの状態を効率的に調査する様々な研究が行なわれており、光技術も大きな役割が期待されている。弊誌2016年3月号で紹介した、トンネル検査技術であるレーザー打音法もその一つだ。
今回、鉄道全般に関する研究・開発を行なう、鉄道総合技術研究所の上半文昭氏を訪ねた。同氏は橋梁を始めとするインフラの健全度評価技術の研究を進めている。そこで求められる光技術の役割とは何か。早急な実用化が求められる、研究の一端を御覧頂きたい。
─鉄道総合技術研究所とご研究について教えてください
この研究所では鉄道全般に関する研究開発を行なっています。旧国鉄がJRに分割民営化される際に、旧国鉄の技術研究所、労働科学研究所、ならびに本社の設計・技術部門が担当していた研究・開発業務を引き継いで財団法人として発足し、平成23年に公益財団法人化されました。
運営はJR各社からの負担金と受託研究などの収益事業、その他に国からの補助金などで成り立っています。要員は523名、そのうちのだいたい400名くらいが研究開発に携わっています。車両構造技術研究部、構造物技術研究部、信号・情報技術研究部など13の研究部があり、その中にそれぞれ4~5程度の研究室があります。
そのうち鉄道力学研究部は鉄道に関わる構造物から軌道、車両、電車線におけるダイナミクスの問題を取り扱っており、比較的基礎的な研究を行なっています。構造物・軌道と車両、レールと車輪、パンタグラフと架線などの境界領域の問題、相互作用に関する問題が主たる研究課題です。
鉄道力学研究部には5つの研究室があり、車両力学、集電力学、軌道力学、私が所属する構造力学、そして計算力学があります。このように様々な分野の研究者が一つの部に集まって境界問題の研究に取り組んでいます。
構造力学研究室では橋梁などの構造物を主な対象として研究を行なっています。具体的にターゲットとしているのは、地震時や平常時の列車の走行安全性、ならびに橋梁など土木構造物の維持管理に関わる技術開発です。また、災害時の構造物・車両の被害低減、騒音・振動対策、橋梁やまくらぎの新しい設計法の提案や、検査コストの削減などの課題にも取り組んでいます。キーワードとしては、構造物のダイナミクス、そして車両と軌道・構造物の相互作用問題を取り扱っています。
我々構造力学研究室の主たる研究ツールは二つあって、一つは高度シミュレーション技術、もう一つは高度センシング技術です。今回紹介するのは高度センシング技術の一部である、レーザーを用いた構造物振動の非接触測定技術とドローンを用いた検査技術です。
次週に続く-
(月刊OPTRONICS 2017年10月号より転載)