このように人間とセンサとの関わりは古代から最も縁が深く、関心も高かったように思う。人間の病理的な内的状態のセンシングと共に最近では、人間の官能制御機能、つまり味覚、臭覚、触覚などの定量化が困難な物理量の測定評価が要請されてきた。人間の感じ方には個人差があり、客観的な数値を示すことは難しいと言われていたが、金属酸化物半導体素子を使った臭いセンサは、臭いの定量化を可能としている。人間の五感に関するセンサはほぼ完成の域にあると言ってよい。
次に外観、表情などの画像処理技術も上がってきた。現在、人間の顔の特徴から個人の特定まで可能だとされている。さらに表情から喜怒哀楽の感情までが検知できるようになった。最近は、人間のストレス状態の定量的評価が可能となり、企業の健康管理システムなどに寄与している例がある。さらに動作研究から、スポーツ科学やリハビリテーションへの応用も進んでいる。
人間とセンサとの相関の中で最大の難題は、ウソ発見器であろう。ウソは、人間の本能に起因する最も深い部分での心理状態である。発汗や動悸、体温の変化などである程度は検出できるとされているが、裁判での冤罪事件が絶えないのは、ウソの発見がいかに難しいものであるかを物語っている。さらに、オウム事件で知らされたようにマインドコントロールの課題もある。犯罪の客観事実が判明し、かつ冷静に思考できる期間が20年以上あったにもかかわらず、麻原を信じつつ刑を受けた者が居たことは驚きであった。それほど、人間の心理の奥底は深くて暗いのであるかも知れない。ガンをはじめ生理的な病理現象の定量化は、今後ますます精緻になってゆくであろうが、心理現象の定量化は当面困難であろうと思う。特にウソは、人類最大の罪でもあるとも言われる。社会的にも冤罪事件や詐欺罪などその影響は極めて大きい。さらにマインドコントロールによる人格崩壊のる危険もある。こうした心理状態を定量的に、少なくともウソかマコトかの定性的な判定でも可能となれば、人類への多大な貢献となろう。ウソ発見器に関するセンサの開発は、今後残された挑戦的な課題の1つであろう。
参考文献
【著者略歴】
1967年 京都大学大学院無機化学専攻修了
同年、日本板硝子社に入社、以降光ファイバ、マイクロオプティックス、
光センサ、セルフォックレンズ、光・電子応用ガラス材料の開発に従事した。
通産省大型プロジェクト「光計測制御システム」に参画し、ガスセンサの開発に従事した。
1991年 北海道大学工学研究科応用物理分野で工学博士取得
1996年 厚生労働省傘下の職業能力開発大学校教授に赴任
2004年 通信システム工学科を創設、初代教室主任
2007年 技能五輪世界大会(静岡)で日本国技術代表
2008年 諏訪東京理科大学客員教授となりガラス材料工学を担当
同年、㈱プライムネット(特許ビジネス)を設立
2010年 ㈱みらい知研を設立、その後、代取社長、会長を勤める
2018年 同社後進に譲り退任
次週へつづく―