順天堂大学とNTTコミュニケーションズ(株)(以下 NTT Com)は、農作業を行うことでストレス軽減を実現する「アグリヒーリング」の効果を医科学的に確立した手法をより広く普及させるため、ウェアラブル生体センサhitoe®(以下 hitoe)※1をはじめとするICTを活用したストレス測定システムの開発を行う実証実験(以下 本実証実験)を2018年11月16日より開始する。
1.背景
近年、日本の精神疾患患者数は、従来の4大疾病(悪性新生物、糖尿病、脳血管疾患、虚血性心疾患)の患者数を上回り、平成26年度には約400万人に達している。また、精神疾患患者の年間医療費は医療費全体の約6.5%に相当する約1兆9,000億円※2に上り、社会的・経済的な損失および医療費負担は非常に深刻化している。精神疾患の要因に上げられるストレスは、職場や家庭などの環境を問わず発生し、人々はストレスを無意識のうちに蓄積している傾向にある。このようなストレス社会においては、ストレスを自分自身でコントロールする手法や軽減する環境の創出が重要である。
順天堂大学は、一次予防手法として着目する「アグリヒーリング」などの園芸療法※3において、心理負担の緩和によるストレス軽減効果の定量・数値化(以下 可視化)に近年取り組み、具体的な成果を確認している。ストレス軽減効果は、「アグリヒーリング」参加者の唾液から採取するストレスホルモンを計測して判定しているが、唾液採取キット※4が高価で、かつ取り扱いに制約※5があり、参加者が抵抗感※6を抱くこともある。このため、「アグリヒーリング」のストレス軽減効果を医科学的に証明しても、会社や学校などで取り組まれているストレス対策プログラムとして活用されにくいという課題がある。
今回、順天堂大学は、ストレス軽減効果の可視化を唾液採取ではない手法で、より簡易かつ高精度に実現するため、「DX Enabler」としてICTを活用した社会問題の解決や企業のビジネス変革を行うデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しているNTT Comと共同で本実証実験を実施する。
2.実証実験の概要
両者は、NTT Comのhitoeと「データ流通プラットフォーム」を活用して、「アグリヒーリング」によるストレス軽減効果を医科学的に可視化する測定システムの開発に取り組む。
(1)順天堂大学がストレス軽減効果を判定する手法とアルゴリズムを確立
順天堂大学が、従来行ってきた「アグリヒーリング」参加者の唾液採取によるストレスホルモンの計測に加えて、hitoeで自律神経をリアルタイムに計測する手法を検証し、得られた自律神経などのデータを分析するストレス軽減効果の高精度かつ簡易な計測手法とそのアルゴリズムを確立する。
(2)NTT Comがソフトウェアとストレス可視化アプリケーションを開発し、「データ流通プラットフォーム」でストレス測定を実施
NTT Comが、アルゴリズムを反映するソフトウェアを開発し、「データ流通プラットフォーム」に組み込むことで、hitoeから得られた自律神経などのデータからストレスの可視化を行う。また、ストレス可視化アプリケーションを開発することで、スマートフォンやタブレットでリアルタイムにストレス軽減効果を確認する。
本実証実験により、今後は唾液採取ではなく、hitoeから得られるデータを「データ流通プラットフォーム」上のアルゴリズムで分析することで、ストレス軽減効果の医科学的な根拠データとしての有効性を見出し、この測定システムを用いた「アグリヒーリング」を精神疾患予防と将来的な治療へ活用することを目指すとのこと。
<実施期間>
2018年11月16日から2019年3月31日(予定)
<計測方法および計測物質>
・唾液採取により以下のストレスホルモンを計測
コルチゾール、免疫グロブリン、αアミラーゼ、オキシトシン、クロモグラニンなど
・hitoeを活用し以下の自律神経などを計測 心拍数、心電位、加速度
■関連文献
・『花を介した軽園芸作業によるストレス軽減可能性の考察』千葉吉史、水嶋章郎、他(日本ストレス学会報告:2018)
・『農業公園での農作業および自然体験のストレス軽減作用』山口琢児、水嶋章郎、他(日本ストレス学会報告:2017)
※1: hitoeは、東レ株式会社と日本電信電話株式会社が共同で開発した機能繊維素材であり、両社の登録商標。
※2: 厚生労働省「平成26年度国民医療費の概況」第6表、性、傷病分類、入院-入院外別「精神および行動の障害」のデータを引用。
※3: 園芸療法(horticultural therapy)は、花の鑑賞や農作業の実施により精神疾患の改善や高齢者の認知レベルの改善を行う治療方法です。数値的なエビデンスの提示ができず、効果を確認しにくいと言われている。
※4: 唾液採取キットは、「Saliva Collection Aidキット」という唾液中のバイオマーカー研究用製品のリーディングカンパニーであるSalimetrics 社により開発された綿棒状の唾液採取用スワブを用いる。スワブ由来物質に影響されずに高回収率で唾液試料を採取し、保存することができる。
※5: 唾液採取キットは、医療従事者のみが取り扱うことができ、再利用ができないなどの制約がある。
※6: 唾唾液採取キットを活用したストレスホルモン計測は、高齢者や精神疾患患者のように唾液が出にくい方には、苦痛を感じる場合がある。
プレスリリースサイト(順天堂大学):https://www.juntendo.ac.jp/news/20181107-01.html