3.商用運用段階に求められる計測システム
商用運用段階においては、2節に示すような計測システムの構築は初期コスト・運用コストの増大につながるため、ウィンドファームの維持運用に不可欠な現象のみを計測し、コスト削減につなげることが想定される。そこで、どのような現象の計測が必要となるか、他の現象の計測により代替可能な現象は何か、考えることとする。表2に示した実証段階における計測システムに対し、商用運用段階における重要度を表3のように区分する。ただし、これはあくまで一例であり、安全基準、浮体形式、設計、発電事業者の意向やウィンドファーム内の浮体配置等によって変化することも考えられる。ウィンドファーム内の浮体配置については、例えば図1のようにそれぞれの浮体の役割や近隣施設との距離等により計測システムの密度を変えるというアイディアである。
計測機器 | 計測対象 | 重要度 | 特徴 |
---|---|---|---|
GPS | 浮体変位 | 大 |
|
ジャイロ | 浮体傾斜 | 大 |
|
歪計 歪ゲージ |
タワー・浮体の歪 | 中 |
|
ロードセル | 係留張力 | 中~小 |
|
水位計 | バラスト水位 | 中 |
|
(VRS RTK: Virtual Reference Station RTK-GPS)
デジタルツイン技術等の進歩により、推算可能な現象は増加しそれに伴い計測すべき現象は減少していくと想定される。しかしながら、突発的な事故等により実際の現象を正確に再現できていないことも考えらため、計測対象の選択が重要となる。またデジタルツインによる推算には正確な入力情報が不可欠であるため、気象海象の計測精度が重要となる。
4.おわりに
浮体式洋上風力発電の計測システムについて、実証試験における計測システムを紹介するとともに、将来の実現が期待される商用ウィンドファームにおける計測システムの重要度区分の例を示した。
参考文献
- 黒岩隆夫,花岡諒,陳曦ら,浮体式風車の弾性模型試験および応答に基づく波浪推定-規則波および長波頂不規則波-,第38回日本船舶海洋工学会春季講演会論文集,2024.
- T., Fujikubo, T. Okada, H. Murayama, et al., A digital twin for ship structures—R&D project in Japan, Data-Centric Engineering (2024), 5: e7 Cambridge University Press, 2024.
【著者紹介】
中條 俊樹(ちゅうじょう としき)
(国研)海上・港湾・工区技術研究所 海上技術安全研究所
洋上風力発電プロジェクトチーム チームリーダー
(兼)海洋先端技術系再生エネルギー研究グループ グループ長
■略歴
2008年 独立行政法人 海上技術安全研究所入所
2011年 同 主任研究員
2020年 洋上風力発電プロジェクトチーム チームリーダー
2021年 海洋先端技術系再生エネルギー研究グループ グループ長
海洋構造物、特に浮体式洋上風力発電の波浪中応答評価、安全性評価に従事。