1.はじめに
わが国では長崎県五島市沖1)、福島県沖2)、福岡県北九州市沖3)の実証試験が実施され、さらには長崎県五島市沖では商用機4)が運用されている他、商用ウィンドファームの建造が開始されている5)。ヨーロッパではわが国よりも早くに複数の商用ウィンドファームの運用が開始されている。技術の実証段階においてはできる限りきめ細やかな計測システムを構築して対象となる技術に発生する現象をできる限り詳細に把握することに努め、その後商用運用段階に至った際には必要最小限の現象のみを対象として計測システムを簡略化し、運用コスト削減を図る考え方が一般的であると考えられる。
本稿では浮体式洋上風力発電がウィンドファームとして商用運用段階に至った際に想定される計測システムについて述べる。
2.実証試験における計測システム
わが国における浮体式洋上風力発電の実証試験は表1に示すとおりである。報告書等により明らかになっている計測システムについて、表1に示した浮体のうちNo.1、No.2、No.5の浮体部に対する計測システムについて表2に示す。
No. | 海域 | 事業実施期間(運転期間) | 風車 | 浮体形式 |
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1 | 長崎県五島市沖6) | 2010年度~2015年度(2013.10~2016.3※1) | 2MW | スパー型 |
2 | 福島県沖7) | 2012年度~2021年度(2013.11~2020.2) | 2MW | セミサブ型 |
3 | (2015.12~2018.8) | 5MW | スパー型 | |
4 | (2017.2~2020.2) | 7MW | セミサブ型 | |
5 | 福岡県北九州市沖8) | 2014年度~2022年度(2020.3~継続中※2) | 3MW | バージ型 |
※1:事業期間終了後、五島市崎山沖において2016.4.15より商用運転を開始。
※2:事業期間終了後、民間に移管し発電を継続。
No. | 計測機器 | 計測対象 | 設置個所 | 計測点数 |
---|---|---|---|---|
19) | DGPS | 変位 | 浮体デッキ | 3 |
ジャイロ | 傾斜、加速度、角加速度 | 浮体内 | 9 | |
地磁気センサー | 方位角 | 浮体上 | 1 | |
レーザー距離計 | 相対水位 | 浮体上 | 1 | |
歪ゲージ | 曲げ歪 | 浮体 | 20 | |
ロードセル | 係留張力 | 係留索取り付け部 | 3 | |
水温 | 水温計 | 浮体水中部 | 3 | |
気温 | 温度計 | 計測ラック内 | 1 | |
加速度計 | ダイナミックケーブルの運動 | ダイナミックケーブル | 9 | |
水圧計 | バラスト水位 | バラストタンク | 1 | |
210) | 加速度計 | 変位応答 | タワー | 8 |
歪計 | 曲げモーメント・ねじりモーメント | タワー | 24 | |
ジャイロ | 動揺 | 浮体内 | 6 | |
加速度計 | 動揺 | 浮体内 | 3 | |
GPS | 変位 | 浮体上 | 6 | |
歪計 | 応力(係留張力) | 係留チェーンストッパー基部 | 12 | |
歪計 | 応力 | 浮体 | 63 | |
511)※3 | 動揺センサー | 動揺 | ナセル | 1 |
N/A | 曲げ応力 | ナセル基部 | 1 | |
歪計 | 応力 | タワー | 3 | |
光学式ジャイロ | 傾斜 | トランジションピース内 | 1 | |
簡易ジャイロ | 傾斜 | トランジションピース内 | 1 | |
RTK-GPS | 変位 | 浮体デッキ | 2 | |
歪計 | 応力 | 浮体、トランジションピース基部 | 3 | |
波圧計 | 波圧 | デッキ、スカート、トランジションピース | 7 | |
水温 | 水温計 | プール内 | 2 | |
流速 | 流速計 | プール内 | 1 | |
歪計 | 応力(係留張力) | シャックル | 18 | |
変位計 | 係留索位置 | N/A | 9 |
※3:参考資料より計測点数を算出した。
(DGPS: Differential GPS, RTK-GPS: Real Time Kinematic GPS)
これらに加え、気象海象の計測には風速風向計、波浪計、流速計等の計測機器が必要となるが、計測したい風の高度や海域の水深により設置可能な計測機器が制限されることがある。
ここに示した計測システムは定常的な計測を目的としたものであり、これらの他に必要に応じ随時実施される計測として、人による水面より上の箇所の外観検査、ダイバーやROV等による水中部の外観検査、搭載されている様々な機器の動作確認、外板の腐食状況の確認、ROV/AUVによる係留索の状態確認、ダイナミックケーブルにおける付着生物の状態把握等がある。このような計測には多大なコストと時間が必要であることが推測される。
次回に続く-
参考文献
- 環境省,洋上風力発電実証事業,https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/sanyo/dai7/siryou3.pdf
- 福島洋上風力コンソーシアム,https://www.fukushima-forward.jp/
- 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究,https://www.nedo.go.jp/floating/
- 戸田建設株式会社HP,https://www.toda.co.jp/business/ecology/special/windmill_02.html
- 戸田建設株式会社HP,https://www.toda.co.jp/news/2022/20221007_003122.html
- 宇都宮智明,佐藤郁,白石崇,環境省浮体式洋上風力発電実証事業について,日本エネルギー学会機関誌 えねるみくす,97, pp.151-156(2018),2018.
- 福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業総括委員会,福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業総括委員会最終報告書,2020.
- 丸紅(株),(国)東京大学,日立造船(株)ら,風力発電等技術研究開発/洋上風力発電等技術研究開発/次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究(バージ型),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2022年度成果報告会,2022.
- 石田茂資,二村正,國分健太郎ら,浮体式洋上風力発電2MW実証機の計測システム及び応答,第36回風力エネルギー利用シンポジウム講演会論文集,pp.273-276,2014.
- 福島洋上風力コンソーシアム,浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業(報告書概要版),2016.
- 丸紅(株),(国)東京大学,九電未来エナジー(株)ら,風力発電等技術研究開発/洋上風力発電等技術研究開発/次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究(バージ型),国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2020年度成果報告会,2020.
【著者紹介】
中條 俊樹(ちゅうじょう としき)
(国研)海上・港湾・工区技術研究所 海上技術安全研究所
洋上風力発電プロジェクトチーム チームリーダー
(兼)海洋先端技術系再生エネルギー研究グループ グループ長
■略歴
2008年 独立行政法人 海上技術安全研究所入所
2011年 同 主任研究員
2020年 洋上風力発電プロジェクトチーム チームリーダー
2021年 海洋先端技術系再生エネルギー研究グループ グループ長
海洋構造物、特に浮体式洋上風力発電の波浪中応答評価、安全性評価に従事。