サウンドスケープ観測システムの開発 Development of Sound Scape Observation System(2)

笹倉 豊喜(ささくら とよき)
(株)アクアサウンド 名誉会長
笹倉 豊喜

4. システムの評価

 試作したシステムの評価を52音種の音源を用いて実海域(石垣島名蔵湾)においてプレイバック実験で行った。水深約10mの海底に設置したSS録音機のハイドロフォンと水中スピーカー用ハイドロフォンを音響結合し、船上の音源サンプルを録音した録音機を再生する。975音源サンプルを1音源あたり20回ずつ再生しトータルで約6時間を要する。水中スピーカーから放音された音をハイドロフォンで受信しSS録音機内で、AI画像識別モデル音源分類アルゴリズムが実装された処理器で分類処理されその結果ログをSS録音機内に記録すると同時にその結果を水中通信を用いて海上に浮かぶ通信ブイに伝送する。さらに通信ブイからは無線通信で陸上のクラウドサーバーにその結果を転送する。

5. 実験結果

 プレイバック実験では、再現度、適合度、F値を測定した。混同行列の結果は、再現度72.7%、適合度83.0%、F値77.5%であった。正解率(再現度と適合度の調和平均)は72.6%であった。プレイバック実験の正解率がPCシミュレーションのそれよりも20.6ポイント低いのは、石西礁湖の海底設置状態では背景雑音が多いため分類精度が落ちるためである。

図6 プレイバック実験の分類精度
図6 プレイバック実験の分類精度

6. まとめ

 サウンドスケープ観測システムの開発を行い、ハードウェアの設計、音源分類アルゴリズムの構築と演算処理器へ実装し、試作機を製作して石西礁湖海域に持ち込み海上実験を行なった。その結果は5.項で述べたとおりであるが、当初の目標値に達している。水中の音風景(サウンドスケープ)をリアルタイムで配信することにより、これまでに想像すらできなかった新しい海洋の利用が拓けると同時にサステナブルな海の利用にもつながることを期待したい。


謝辞
本研究は防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の支援を得て行なったものである。




【著者紹介】
笹倉 豊喜(ささくら とよき)
Toyoki Sasakura, Ph.D.
株式会社アクアサウンド 名誉会長

■略歴

  • 1973年古野電気株式会社入社
    同社在任中、主にソナー・魚探など超音波機器の開発に従事
  • 1984年戦艦大和探索に参加、東シナ海で発見
    舶用機器事業部開発部長を歴任
  • 1990年東京水産大学(現東京海洋大学)より水産学博士号授与
  • 1997年古野電気退社
  • 2010年東京海洋大学 客員研究員
  • 2012年株式会社アクアサウンド設立 代表取締役会長に就任(現在は非役員)
  • 2017年株式会社AquaFusion設立 代表取締役

現在に至る.

古野電気入社以来、一貫して魚群探知機、ソナーなどの水中超音波機器の研究開発に従事。2010年には東京海洋大学と共同開発で日本発小型ピンガー(超音波発信機で魚の体内に埋め込んで魚の行動を研究するデバイス)の開発に成功、現在多くの研究者が使用している。