4. 海洋観測プラットフォームへの搭載
開発された小型電子回路基板では、シリアル接続(RS232C、RS485、RS422)とアナログ接続(1-5V)を、接続する海洋観測プラットフォームによって使い分けている。RS232C接続ポートは元々メイン基板に組み込まれており、それ以外の接続は同サイズの専用接続サブ基板を用いる。RS232C接続は大型有索無人海中ロボット(ROV;ハイパードルフィン)・大型AUV(AUTOSUB6000)・海洋グライダー(Seaglider)3)、RS485接続は小型ROV(VideoRay)、RS422接続は長距離RS422ケーブル4)、アナログ接続はCTD多筒採水器システム(CTD-RMS)でそれぞれ使用し、小型AUV(REMUS100)5),6)や他のROV5),7)にはスタンドアローンで搭載している(図3)。また、海洋観測プラットフォームがケーブルで接続されているROV、CTD-RMS、RS422では、船上(あるいは陸上)においてリアルタイムのモニタリングが可能である4)。
図4は、SeagliderにpH/pCO2センサを搭載し、地中海において表面から水深1000mまでの範囲で15日間の広範囲連続計測を行ったものである。また、図5は、pH/pCO2センサを搭載したREMUS100による鹿児島湾の熱水噴出地帯の水深100m層でのpHとpCO2の広範囲マッピング計測結果である。水深200mの海底に存在する熱水由来の低pH・高CO2水塊の拡散状況を捉えている。
5. その他の現場型化学センサ
放射性元素は生物起源沈降粒子や陸起源粒子などの懸濁粒子に吸着し、懸濁粒子の沈降に伴って深層へ輸送される。これまでの沈降粒子中の放射性核種の計測は、大容量採水器や現場ろ過装置で試料採取して陸上実験室で計測を行ってきた。海洋中の放射線を現場計測できるセンサで鉛直連続計測を行うことができれば、データ取得にかかる労力の大幅な減少や、計測データ数の飛躍的な増加が期待できる。筆者は、放射線の一つであるガンマ線を現場計測するガンマ線センサを開発した8)。
これまでの海洋環境における放射線計測では、一般的にアルミニウム容器等に密閉したNaI(TI)シンチレータ(結晶)、光電子増倍管検出器(PMT)、マルチチャンネルアナライザ(MCA)を耐圧容器内に収納したものが用いられてきた。しかし、シンチレータが2重の容器に密閉されるため検出感度の低下は避けがたく、かつ、MCAによる核種同定のための10分程度の積分時間(同一場所に留まる)が必要であるため機動性に欠けていた。開発した現場型ガンマ線センサ(図6)は、検出器であるNaI(Tl)をドープしたプラスチックシンチレータを耐圧容器に嵌合する形状に加工し、耐圧容器の一部とすることによって耐圧性と高感度を実現させた。海水中のガンマ線量を1秒毎に現場計測できるため機動性があり、空間的な連続計測が可能である。可視光によるプラスチックシンチレータの発光を防止するためとガンマ線による発光のみをPMTで計測するため、プラスチックシンチレータの検出面には遮光塗料を塗布してある。現場型ガンマ線センサはRS232C通信あるいはアナログ出力によってオンライン計測が可能である。
図7は竹富島海底温泉地帯(水深20m)で実施したマッピング計測結果である。海底から噴出する温泉水由来のガンマ線(主にラドン由来)の拡散状況を捉えている。図8は現場型ガンマ線センサをCTD-RMSのフレームに取り付けて北西太平洋の外洋域で実施したガンマ線、濁度、蛍光強度(クロロフィル量)の鉛直連続計測結果である。これらの成分は水深25m付近に極大値を示しており、植物プランクトンなどの懸濁粒子に吸着した放射性核種を鉛直連続計測することができた。
その他の化学センサとして、陽極溶出法(ASV)センサによる金属元素計測法や、光ファイバー型表面プラズモン共鳴(SPR)センサによる海水中に溶存した気体計測法の検討を行っている。
6. マルチセンサ統合型制御システム
これまでの化学センサを使った観測や探査では、種々のセンサを別々に運用していたため、センサの設定やデータ管理が繁雑であった。このため、筆者が開発したセンサや市販センサなどの種々のセンサを接続して一括制御でき、多成分同時計測が可能な小型のマルチセンサ統合型制御システムを開発をした。このシステムでは、先に開発したpH/pCO2/ORPセンサの電子回路基板(図2)に接続できる、シリアル入力用とアナログ入力用の2種類の同形状・同接続方式のサブ基板を新たに開発した(図9)。これらのサブ基板は、それぞれの市販センサに適合した電圧供給と計測データ取り込み機能にあわせて設定し、順次メイン基板に接続してメイン基板で全ての接続されたセンサを制御する。なお、市販センサ接続用サブ基板では、センサを作動させるための電源を別途に供給する方式とした。これまでに統合したセンサはpH、pCO2、ORP、深度、塩分、水温、溶存酸素(DO)(以上はシリアル入力)、濁度、蛍光性有機物(以上はアナログ入力)の9種類である。今後は、より多くのセンサを接続したマルチセンサ統合型制御システムを海洋観測プラットフォームに搭載することを考慮し、大量のデータ通信に対応できるようにイーサネット接続への変更を計画している。将来的には、マルチセンサ統合型制御システムの汎用化を見据えた開発を進めている。
参考文献
- Hemming, M. P., Kaiser, J., Heywood, K. J., Bakker, D. C. E., Boutin, J., Shitashima, K., Lee, G., Legge, O., and Onken, R. “Measuring pH variability using an experimental sensor on an underwater glider”, Ocean Science, 13(3), 427-442 (2017).
- Shitashima, K., Maeda, Y. and Sakamoto, A. “Detection and monitoring of leaked CO2 through sediment, water column and atmosphere in sub-seabed CCS experiment”, International Journal of Greenhouse Gas Control, 38, 135-142 (2015).
- Shitashima, K., Maeda, Y., Ohsumi, T. “Development of detection and monitoring techniques of CO2 leakage from seafloor in sub-seabed CO2 storage”, Applied Geochemistry, 30, 114-124 (2013).
- Maeda, Y., Shitashima, K. and Sakamoto, A. “Numerical study of leaked CO2 diffusion in sub-seabed CO2 release experiments”, International Journal of Greenhouse Gas Control, 38, 143-152 (2015).
- Shitashima, K., Maeda, Y., Koike Y., Ohsumi, T. “Natural analogue of the rise and dissolution of liquid CO2 in the ocean”, International Journal of Greenhouse Gas Control, 2, 95-104 (2008).
- 下島公紀: プラスチックシンチレータを用いた現場型ラドンセンサの開発. 電力中央研究所報告, V0854, (2009).
【著者紹介】
下島 公紀(したしま きみのり)
東京海洋大学 海洋資源エネルギー学部門 教授 学術博士
■略歴
- 1989年3月広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期修了 学術博士
- 1989年4月日本学術振興会特別研究員(東京大学海洋研究所)
- 1990年8月(財)電力中央研究所 我孫子研究所 研究員
- 2006年7月(財)電力中央研究所 環境科学研究所 上席研究員
- 2011年6月九州大学 世界トップレベル研究拠点カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 CO2貯留研究部門 准教授
- 2016年4月東京海洋大学 大学改革準備室 教授
- 2017年4月東京海洋大学 海洋資源エネルギー学部門 教授
■受賞歴
2004年10月 第一回 堀場雅夫賞