1-Wire®バス(1)

永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ(株)
リージョナル・ビジネス・グループ
永井 郁

1. 1-Wire®バスとは1), 2)

 センサ・システムの設計において、センサそのものの性能実現と共に、用途に適した通信手段と給電手段を選択する事が重要である。本稿に紹介する1-Wire技術は、電源や電気回路が搭載されていないメカ部品などのモニタリングや管理を簡易かつ経済的に行う上で有効な通信技術である。
 1-Wireバスは、1対のデータ線とグランド線を共有するコントローラと1つまたは複数のペリフェラルとの間で半二重双方向通信を実行するシリアル通信であり、ペリフェラル・デバイスの電力も1-Wireラインを介して供給することができる(図1)。

図1.1-Wireコントローラ/ペリフェラルの構成
図1.1-Wireコントローラ/ペリフェラルの構成

 ペリフェラル・デバイス内では、データ送信中のラインがHi状態のときに内部コンデンサへ電荷を蓄え、ラインがLoのときに蓄えた電荷をデバイスの回路駆動に使用する。1-Wireコントローラには、専用のライン・ドライバICを使用する以外に、マイコンのオープン・ドレインI/Oポート・ピンへ3Vから5Vへの抵抗プルアップを接続して構成する事も可能である。
 すべての1-Wireペリフェラル・デバイスには、個々のデバイスに固有の変更不可能な64 ビットのシリアル番号 (ID) が格納されている。デバイスの種類や機能の識別ビットを含むこの64ビットID値により、コントローラは同じバスに接続できる多数のデバイスの中から個々のペリフェラル・デバイスを認識でき、個々のペリフェラル・デバイスを搭載した製品に固有の電子IDを付与することができる。
 I2CやSPI などの他のシリアル・バスと比較して、1-Wireバスは断続的な接続環境で使用できるように設計されている。1-Wireバスから切断、または接続を失うと、1-Wireペリフェラル・デバイスは規定のリセット状態に戻る。再びバスに接続されて電源が戻るとペリフェラル・デバイスが再起動し、その存在をバス上に通知する。また1-Wireデバイスは保護する通信端子が1点のみであるため、堅牢なESD保護を内蔵でき、メカ製品など静電気に晒される非電子オブジェクトに追加して識別、認証、および校正データまたは製造情報の保存や配信などを経済的に行うことができる。
 1-Wireコントローラは、すべての 1-Wire 通信を開始および制御する。図1左に示すように、1-Wire 通信波形はパルス幅変調によりロジック0(パルス幅大)およびロジック 1(パルス幅小)を表現する。コントローラがバス全体を同期させる規定の長さのリセット・パルスを発行することで通信シーケンスが開始となり、すべてのペリフェラルはLoレベルのプレゼンス・パルスを発行してリセット・パルスに応答する。コントローラからペリフェラルへの書き込み操作では、各ビットのタイムスロットでコントローラが最初に1-WireラインをLoに駆動することでタイムスロットを開始し、次にラインを Low に保持してロジック0を送信するか、ラインを解放してロジック1を送信する。コントローラがペリフェラルからデータを読み取る場合も、各ビットのタイムスロットでコントローラが最初に1-WireラインをLoに駆動することでタイムスロットを開始し、次にペリフェラルがオープン・ドレイン出力をオンにしてラインをLoに保持してパルスを延長することでロジック0を返すか、オープン・ドレイン出力をオフのままにすることでロジック1を返す。ほとんどの1-Wireデバイスは、約15kbpsの標準速度と約111kbps のオーバードライブ速度の2つのデータ伝送速度に対応する。1-Wireプロトコルはセルフ・クロックであり、長いビット間遅延を許容し、割り込みのあるソフトウェア上でもスムーズな動作が可能である。
 その他1-Wireバスの詳細は参考資料に説明を譲る。

2. 1-Wireデバイスの例と用途

 表1に、1-Wire製品の種類と用途例を示す。以下にこのうちの幾つかの製品と用途の紹介を行う。

表1.1-Wireデバイスの種類と用途
表1.1-Wireデバイスの種類と用途

2.1.1-Wireインターフェース製品

 図2に1-Wireインターフェース製品の用途例として、DS28E18を用いてSPIセンサとマイコン間の通信を1-Wireで延長する例を示す。比較的低いデータ伝送速度の用途では、このようにSPIなどの基板内の短距離通信を1-Wireに変換して基板外へ伸ばすことで、大幅な設計変更を必要とせず、また無線で伝送距離を伸ばす場合と比べて部品点数や開発工数を削減できるシンプルで経済的な設計を実現できる。

図2.1-Wire―SPI変換による遠隔センサ・ノードとの通信
図2.1-Wire―SPI変換による遠隔センサ・ノードとの通信


次回に続く-





【著者紹介】
永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ株式会社 リージョナル・ビジネス・グループ

■略歴

  • 1999~2004年電子部品メーカーで製品開発に従事
  • 2004年~アナログ・デバイセズ社 MEMSセンサのビジネス開拓と技術サポート、産業分野のビジネス等に従事