微粒子可視化技術を用いた評価手法 ~飛沫を題材に~(2)

古川 太郎(ふるかわ たろう)
新日本空調(株)
ソリューション事業部
事業部長
古川 太郎

(3)拡散角度と速度の計測
 画像4は、微粒子可視化用多機能LED光源 パラレルアイDハイスピードカメラを使って、咳で発生する飛沫粒子を可視化した事例である。1回の咳を高速撮影(3,000fps,露光10μsec)した連続画像から一部を抽出した輝度加算画像で、画像の実寸は横幅で約20cm、画素当たりのスケールは0.19mm/pixelである。
 多くの粒子が、約60°の拡散角度で直線的に飛んでいる様子が見られる。この中からある粒子1つの挙動について着目して、輝点と輝点の移動量をフレームの時間間隔で割れば、画像から速度を計測することができる。図3に飛沫粒子の飛散距離と速度の関係を示している。この画像計測値から近似線を得ることで、口から発したときの初速は約18m/sと推測できる。

画像4 咳の飛沫の可視化画像
画像4 咳の飛沫の可視化画像
図3 飛散距離と速度の関係
図3 飛散距離と速度の関係

(4)水平方向への拡散範囲の計測
 図4は、歌唱したときの床上1mの高さにおける飛沫の分布である。超高感度微粒子可視化用レーザシート光源 パラレルアイHでレーザシートを床上1mの高さにセットしている。ソプラノ歌手とテノール歌手のお二人にご協力頂き、実験室のなかで歌って頂いた。歌唱すると大きな沈降飛沫がレーザシートを通過して散乱光を発する。それらを天井にセットした微粒子可視化用超高感度カメラ アイスコープで撮影して、画像で得た各輝点の位置をもとに点描した。
 同じ歌唱でもソプラノ歌手よりテノール歌手の方が広範囲に拡散していること、その範囲は前方に約80cmであり、右に約70cm、左に40cmと左右非対称に拡散していることなど、画像計測によって二次元方向の面的な分析が可能となる。

図4 床上1m高さにおける水平方向の拡散範囲
図4 床上1m高さにおける水平方向の拡散範囲

(5)微粒子の全量計数
 高感度な微粒子可視化技術と微粒子整流化技術を駆使して開発した、微粒子発生量評価装置 P-Windを紹介する。前出した事例では、レーザシートをあらかじめ観察断面にセットしておいて、そのレーザシートを通って自然落下する飛沫の拡がり範囲を明らかにした。一方、P-Windでは、清浄給気供給部と乱流整流風洞によって粒子検出部へ送気し、専用の微粒子可視化装置で高感度かつリアルタイムに計数する。一般的な計測では困難であった、局所的かつ瞬間的な発塵のリアルタイム全量計測を可能にした。
P-Windの概要図と、発声と咳で発生する微粒子を測定した事例を図5のグラフに示す。試験チャンバの部分に頭部を挿入して、た行を30秒間隔で5回発声し、そのあと、30秒間隔で5回咳をした。速い応答で測定することができるため、図に示すように微粒子の瞬間的な変化量を捉えることができる。ちなみに個人差はあるが、当実験に協力頂いた被験者の咳の微粒子数は、発声よりも1ケタ多いことが分かる。

図5 微粒子発生量評価装置 P-WindTM の概要
図5 微粒子発生量評価装置 P-Wind の概要
(参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=v6Khk5usnIc
図6 発声と咳の微粒子測定例

5.おわりに

 本報では、ヒトの飛沫を題材に、微粒子可視化技術を用いた評価手法について紹介をさせて頂いた。冒頭に少し触れさせて頂いたが、半導体工場での微粒子汚染の原因探索から始まった微粒子可視化技術だが、この何年間かは、コロナに影響を受けた各業界団体から、飛沫に関わるたくさんの実験と対策評価を行ってきた。このとても小さな微粒子だが、社会にもたらす影響というのは決して小さくないということを思い知らされた数年間だったように思う。今後も感度と精度を高めて、現場の技術者に活用頂けるような微粒子可視化技術の研究開発を進めていきたい。



参考文献

  1. 岡本隆太 「飛沫粒子の可視化と計測の技術及び実例」クリーンテクノロジー Vol.33 No.1 2023
  2. 古川太郎 「飛沫の可視化実験技術」空気調和衛生工学 95巻 2021
  3. 新日本空調株式会社ホームページ http://www.snk.co.jp/particle


【著者紹介】
古川 太郎(ふるかわ たろう)
新日本空調(株) ソリューション事業部 事業部長

■略歴
1969年 長崎県生まれ、1991年 九州大学工学部卒、1993年 同大学院修士課程修了。同年 新日本空調株式会社入社、技術研究所(当時の呼称) 室内環境工学研究室で、空調制御用体感温熱センサや外皮負荷低減技術、ダクト騒音の消音装置などの研究開発に関わる。2001年に同社の独自技術である微粒子可視化技術の研究開発に携わり、以降、同技術を中心に据えた受託評価業務や可視化商品の販売を押し進め、現在は微粒子可視化技術の適用拡大と顧客深耕に取り組んでいる。