オフセットの弊害
電流センサの基本的誤差は,ノイズ誤差,ゲイン誤差,オフセット誤差に大別できる.ノイズ誤差は確率分布で現れるために平均化するとゼロになる.ただし許容される平均化時間に限界があるため,実用的にはゼロにはできない.ゲイン誤差は真値に対して一定の比率で現れる誤差であり被計測値がゼロの時は出力もゼロになる.オフセット誤差は被計測値に相関しない誤差であり被計測値がゼロでも出力はゼロにならない.したがってオフセット誤差は被計測値が小さくなると誤差率が大きくなり被計測値がゼロでは誤差率が無限大となる.電流センサのオフセット発生部は検出部分と駆動回路(電子回路)部分に大別できる.前記の着磁によるオフセットは検出部分の要素である.駆動回路については電子回路技術で様々な工夫ができて十分に小さな値にすることができる.
直流大電流センサのこのようなオフセットは一部の用途では深刻である.例えば今後普及するであろう直流電力の売買である.移動した電力は電力量計で積算される.この際電流センサにオフセットがあると,それが積算されて長時間では大きな誤差になる.電力を全く使っていなくても徐々に積算されていくことにもなりかねない.交流電力量計では起こらない現象である.
オフセットがあると,充電量の誤差がどちらかに少しずつズレていき,時々別の手段で真値を求めなければ危険である.この別の手段は所定の条件が揃わないと発揮できず,通常は稼働中には電流センサに頼るしかない.そこで,電池の容量に余裕を持たせることもできるが,これは電池の能力を十分に使っておらず利用効率が悪い.
直流大電流センサのこのようなオフセットは一部の用途では深刻である.例えば今後普及するであろう直流電力の売買である.移動した電力は電力量計で積算される.この際電流センサにオフセットがあると,それが積算されて長時間では大きな誤差になる.電力を全く使っていなくても徐々に積算されていくことにもなりかねない.交流電力量計では起こらない現象である.
Fig. 2 ゲイン誤差とオフセット誤差の性格
また,直流電力を蓄電池に貯蔵(充電)して使用する際,電池のSOC(State Of Charge)を監視して過充電や過放電にならないように制御する必要がある.これが正しくできないと電池の種類によっては発火や爆発,あるいは破損につながる.スマホのような小さな電池でさえも発火すると危険だが,EV搭載電池や太陽光発電の充電施設のように大エネルギーを貯蔵している電池で事故が起こると大惨事になる.オフセットがあると,充電量の誤差がどちらかに少しずつズレていき,時々別の手段で真値を求めなければ危険である.この別の手段は所定の条件が揃わないと発揮できず,通常は稼働中には電流センサに頼るしかない.そこで,電池の容量に余裕を持たせることもできるが,これは電池の能力を十分に使っておらず利用効率が悪い.
興味ある情報
以上述べたように直流大電流センサの信頼性向上には着磁によるオフセットという厄介な障壁があるが,近年斬新な電流センサが提案されている.それは磁気コアを磁性流体にしたものである.磁性流体には磁壁が存在せずヒステリシスがない,そして磁壁のピンニングで生じるバルクハウゼンノイズも発生しない.そのB-H特性はランジュバン関数で表され,磁気設計もしやすい.そして絶対に着磁しない.言い換えると着磁するものは磁性流体ではない.したがって磁性流体を使用すると着磁によるオフセットが発生しない.
一例として次のような使い方がある.それは直流饋電(電車の電力)の地絡(漏電)の検出である.饋電電流はその区間に電車が走っている時には,最大で10 kAになることもあるが,その区間に電車がいない時には,漏電がなければ0 Aになるはずである.したがってこの電流を測れば地絡が検出できる.しかし従来の電流センサに10 kAも流すと,1 Aオーダを高信頼性で測ることは困難である.ところが,磁性流体を用いた電流センサは絶対に着磁ないないため,定格10 A程度のセンサを設置しておけば,これに10 kA流れても通電電流が10 A(定格)以下に戻れば正確に計測することができる.現在研究発表 1)されている試作品では定格±100 Aで5 mA以下を計測できることが示されている.これには10 kA通電の実績はないが3 kAの実績はあり,その通電後でも同じ特性であることが確認されている.
Fig. 3 磁性流体のB-H特性と透磁率の模式図.
飽和磁束密度と初透磁率をそれぞれ 1 とした比率で表現.
このグラフの横軸最大値目安は数十 [kA/m]
一例として次のような使い方がある.それは直流饋電(電車の電力)の地絡(漏電)の検出である.饋電電流はその区間に電車が走っている時には,最大で10 kAになることもあるが,その区間に電車がいない時には,漏電がなければ0 Aになるはずである.したがってこの電流を測れば地絡が検出できる.しかし従来の電流センサに10 kAも流すと,1 Aオーダを高信頼性で測ることは困難である.ところが,磁性流体を用いた電流センサは絶対に着磁ないないため,定格10 A程度のセンサを設置しておけば,これに10 kA流れても通電電流が10 A(定格)以下に戻れば正確に計測することができる.現在研究発表 1)されている試作品では定格±100 Aで5 mA以下を計測できることが示されている.これには10 kA通電の実績はないが3 kAの実績はあり,その通電後でも同じ特性であることが確認されている.
おわりに
直流大電流の計測やスイッチングの技術は,直流発電や充電池のように一般には報じられないために,その重要性に関心を持つ人は少ないだろう.しかしこれらの技術がなければ直流電力社会は成長しない.そこで,直流大電流センサの一実情に迫ってみた.まだ気付いていなかった読者がいて,その目に触れたなら光栄である.
参考文献
- 電気学会研究会資料MAG-22-167
【著者紹介】
忠津 孝(ただつ たかし)
ロイヤルセンシング合同会社 CEO
■著者略歴
専門分野:磁気応用センサ
九州大学大学院総合理工学附量子プロセス理工学専攻 博士(2012年)
2002年:磁気ブリッジ方式(磁気検出方式)を提案/特許査定
2004年度:加速器用電流センサ共同研究開発(SPring-8)
2005年~:磁気ブリッジ型磁界センサの宇宙実証共同研究(JAXA)
2008年:磁性流体を用いた電流センサの提案/特許査定
2013年:磁性流体磁気ブリッジを用いた電流センサの共同研究開発(産総研 計測標準研究部門)
2014年:定励磁磁束方式電流センサの提案/特許査定
2017年:波状磁束型磁界センサの提案/特許査定
2018年:ロイヤルセンシング合同会社設立 代表に就任 現在に至る
現在は磁界センサと電流センサの新技術の研究に取り組んでいる.