パナソニック ホールディングス(株)は、世界最高感度*1でハイパースペクトル画像*2を撮影する技術を、医療や宇宙探索の分野で活用が進む圧縮センシング技術*3を用いて開発した。本技術により、肉眼では判別できないわずかな色の違いを、従来のカラーカメラ*4と同様の操作性で識別できるようになり、画像分析・認識の精度向上が可能になる。こうしたハイパースペクトル画像撮影を実証した世界初の研究成果として、ベルギーの研究機関であるimecとの連名で英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に2023年1月23日に掲載された。
<概要>
画像認識技術の進化に伴い、画像データを産業的に利用し効率化・省人化・省エネルギー化を可能にする、マシンビジョンの応用が広がっている。マシンビジョンでは画像をコンピュータで認識するため、人間が知覚できない情報、例えば連続的な色変化(スペクトル情報)を用いた解析が可能になる。スペクトル情報をもつ画像はハイパースペクトル画像と呼ばれ、マシンビジョンの応用範囲を拡大する役割が期待されている。
従来のハイパースペクトル画像撮影では、プリズムなどの光学素子や、特定の色(波長)の光を選択的に通すフィルタが用いられていた。しかし、これらの方法は光を波長ごとに分けて検出するため、波長の数に反比例して光の利用効率、つまり感度が低下するという物理的な制約があった。そのため、撮影時には晴れた日の屋外に匹敵する明るさの照明(照度10,000ルクス以上)が必要となり、操作性・汎用性に難があった。
今回開発したハイパースペクトル画像撮影技術では、観測データを“間引く”ことで効率的に取得し、演算処理で“間引かれる前”のデータを復元する、圧縮センシング技術を応用した。これは、医療現場でのMRI検査やブラックホール観測でも使われている手法である。複数波長の光を通し画像データを適切に“間引く”特殊フィルタをイメージセンサ上に搭載し(図1)、独自のデジタル画像処理アルゴリズムによりデータを復元した。ソフトウェアが色を分ける機能の一部を担うことで、従来技術の課題であった波長数と感度の制約を突破した。これにより、世界最高感度のハイパースペクトル画像撮影、さらには室内照明(550ルクス)下での動画撮影を実現した。
今後は本技術の活用により、色情報に基づいて高精度に画像分析・認識を行う新たなセンシングソリューションや、高感度なハイパースペクトル画像撮影技術によるマシンビジョン用途の拡大を、パートナーとの共創も検討しながら目指すとしている。
<特長>
1. 複数波長の光をランダムに通す特殊フィルタを用いた観測データの“間引き”取得により、物理的制約を超えた感度向上が可能
2. 世界最高感度(従来比約10倍)のハイパースペクトル画像撮影により、室内照明(550ルクス)で鮮明な撮影を実現
3. 独自のアルゴリズムでフレームレート*5を動画レベル(>30fps)に向上し、カラーカメラ並みの操作性でスペクトル情報の取得を実現
<用語説明>
*1:2023年1月26日時点。
*2:光の波長ごとに取得された画像の中で波長数が4以上のものをマルチスペクトル画像、さらに波長数が概ね10以上のものをハイパースペクトル画像と呼ぶ。
*3:少ない観測データからより多くの信号を復元する手法。観測対象データがある表現空間(例えば周波数空間)では偏った分布になるという性質(スパース性)を利用する。MRIの高速化技術に応用されているが、近年ブラックホールの観測にも使われた。
*4:赤、緑、青の三種類のフィルタをイメージセンサ上に搭載し、三色の比率で色を表現するカメラ。デジタルカメラやスマートフォン搭載のカメラはほぼこれにあたる。
*5:動画が1秒あたり何枚の画像で構成されているかを示す指標で、fps(frames per second)という単位で表される。一般的なテレビ映像は30fpsである。
プレスリリースサイト(panasonic):https://news.panasonic.com/jp/press/jn230126-1