2.代表的な自動車用センサ
自動車用制御システムは大きくパワートレイン系、シャシ―系、ボディー系等に分類することができ3)、「走る」「曲がる」「止まる」という基本機能に加えて、安全関連や快適性向上のためのシステムも多く用いられるようになった。表2に代表的な自動車用制御システムとそれに必要とされるセンサをまとめた。ここではレーダやカメラを用いて外部環境認識を行い、走行支援や安全制御を行うシステムをITS(Intelligent Transportation Systems)系としてまとめることとした。
2.1 パワートレイン系
ガソリンエンジン制御システムにおいては出力向上、燃費改善、排ガス規制クリアなどの要求事項に対応するため、インジェクタによる燃料噴射量や点火プラグの点火時期/通電時間の最適化制御を行う必要がある。このため、吸入空気量を計測するエアフローメータ、空燃比フィードバック制御のためのO2センサ、クランク角を検出するためのクランク角センサなどが用いられる4)。エアフローメータではかってはフラップ式など機械式が用いられていたが、近年ホットワイヤ式やMEMS式など熱式が主流となっている。O2センサは固体電解質であるZr O2の両側に電極を形成した構成となっていて、酸素濃度差に応じて起電力が発生するので理論空燃比を境に出力がスイッチする特性となっている。クランク角センサはかつて電磁コイル式が主流であったが、出力電圧が回転数に依存しないホール素子式・MR素子式へと移行していった。
AT(Automatic Transmission)やCVT(Continuously Variable Transmission)などのトランスミッション制御では入力軸の回転数など様々な運転条件に応じて最適な変速制御を行う。
2.2 シャシー系
ブレーキ制御関連では現在広く普及したABS(Antilock Brake System)があり、車輪速センサによりスリップを検出し、ブレーキ力を制御することで車輪ロックを防止する。車輪速センサもクランク角センサと同様に回転軸に取り付けられた歯車に対向させた磁気センサで角度を検出するギアトゥース式が主に用いられている。ESC(Electronic Stability Control)では4輪のブレーキを独立に制御することでオーバーステアやアンダーステアによる車両の不安定を抑制する。このため操舵角センサやヨーレートセンサで運転者の操作や車両の旋回を検出する。ヨーレートセンサとしては圧電式やMEMS式の振動ジャイロが用いられている。
ステアリング制御関連ではEPS(Electric Power Steering)や4WS(4 Wheel Steering)があり、前者はモータによる操舵のアシストを、後者は後輪操舵による高速時走行安定性の向上や低速時の小回り性向上を実現している。運転者の状態を検出するために操舵トルクセンサや操舵角センサが用いられる。
サスペンション制御関連では乗り心地と走行安定性の両立を狙った電子制御サスペンションがあり、車高センサや上下加速度センサが用いられている。
2.3 ボディー系
エアバッグシステムは1990年代に低価格のMEMS加速度センサの実用化と相まって広く普及していった。多様な衝突形態に対応するために中央のメインの加速度センサに加えて、クラッシュゾーンやBピラーなどに多くのサテライトセンサが用いられるようになり、ネットワークを構成するようになっている。MEMS加速度センサについては次回詳細に述べたいと思う。
2.4 ITS系
ACC(Adaptive Cruise Control)やLKA(Lane Keeping Assist system)があり、カメラやレーザレーダ/ミリ波レーダを用いて障害物や走路を検出し、追従走行や同一車線走行の走行支援を行う。これらのセンサは衝突被害低減ブレーキシステムや将来の自動運転システムにおいても不可欠な存在となっている。夜間歩行者検知システムでは赤外線イメージセンサにより夜間の歩行者を検出し、運転者に知らせる。赤外線イメージセンサには遠赤外線方式と近赤外線方式があり、前者ではMEMSの熱分離構造が利用されている。ITS用センサについては最終回で説明したいと思う。
参考文献
3) 「車載センサの基礎2010」(日経BP社)、pp.10-15 (2009)
4) 加藤光治 監修、「カーエレクトロニクス(上)システム編」、第3編第6章第2節 自動車用センサ、pp.559-567 (2016)
次週に続く―