ネイチャーポジティブ実現に向けたバイオロギングによるソリューション開発(2)

野田 琢嗣
Biologging Solutions Inc.
京都R&Dセンター
野田 琢嗣
小泉 拓也
Biologging Solutions Inc.
京都R&Dセンター
小泉 拓也

2.太陽電池搭載型・LTE-M通信GPSロガー

 近年、野生生物と人間社会の軋轢が問題となっており、獣害もその一つである。例えば、カワウやシカ、サル、イノシシなどによる農作物の被害が挙げられる。その対策として電気柵や駆除などもあるが、人間による対策は労力的・金銭的にも限度があり、効果的な実施のためにも、それぞれの地区において野生生物の基礎的な移動生態を把握することが不可欠である。さらに、これらの野生生物は、生態系の中で様々な餌資源や環境を利用していることから、野生生物の移動データから、生物目線で生態系を可視化することも可能である(Kays et al. 2015)
 陸域での野生生物の移動はGPSロガーを取り付ければ容易に把握することができる。国内では、これまでにビーコンを頼りに野生生物に近づいた時に、ロガーに記録されたGPSデータを遠隔ダウンロードできる機器が主に利用されていたが、急峻な山など調査困難な場所で発見されることもあり、データダウンロードが困難という問題があった。そこで、新たに、近年IoT向けに利用できるようになった、LTE-M通信を用いたGPSロガー(LoggLaw G2)(図3)を開発した。本ロガーは太陽電池も搭載していることから、電池がなくなっても、太陽光で充電されれば再びGPS計測とデータ送信を行うことができ、半永続的な利用が可能である。実際に、本ロガーは、例えば、カワウやシカなどの移動追跡に用いられているところである(図4)。

図3:LoggLaw G2
図3:LoggLaw G2
図4:シカに装着した首輪タイプ
図4:シカに装着した首輪タイプ

3.データ解析基盤

 本稿では紹介しきれなかったロガーとして、回遊魚の移動追跡を行うことができるロガーがある。水中ではGPSが利用できないため、別手段で位置を推定する必要がある。そこで用いられているのが、照度や深度、加速度などのセンサである。しかしながら、解析の実施には、最先端の知識や、プログラミング能力が必要であることかボトルネックとなっていた。そこで、誰もが簡単に結果を得られることができるシステムとして、クラウド上で、データを表示し、クリックにて解析可能なシステム(LoggLaw Cloud)(図5)を開発した。

図5:LoggLaw Cloud
図5:LoggLaw Cloud

 また国際的には世界中で取得されたバイオロギングのデータをアーカイブするデータベースとして、ドイツのマックス・プランク研究所が主導するMovebank(https://www.movebank.org/cms/movebank-main)がある。ここには、既に35億点の位置データが格納され、事実上のスタンダートとなっている。しかし、このデータベースには、国内からはわずか0.4%しかデータが登録されておらず、その理由としては明確ではないが、海外のデータベースにデータを格納することの不信感やセキュリティの問題などが考えられる。そこで、主に日本国内向けに、国内のバイオロギング研究者有志らを中心に、「令和3ー4年度 文科省・海洋生物ビッグデータ活用技術高度化事業」に採択(代表:東京大学・佐藤克文 教授)されたことを受け、新たにバイオロギングのデータを蓄積可能なデータベース(Biologging intelligent Platform) (https://www.bip-earth.com/)が開発されている(図6)。Biologging Solutions Inc.は本システムの開発・運用を行っている。ここには、フォーマットが異なる様々なバイオロギングのデータセットを統一的に解析できるようにするために、データを標準化して格納する世界初のシステムを搭載している。本システムにデータが蓄積されることで、生物多様性の可視化や、生物目線で重要な環境(ホットスポット)の解明に繋がることが期待されている。

図6:BiPの画面
図6:BiPの画面


Biologging Solutions Inc.ホームページURL:https://biologging-solutions.com/



引用文献

  • Kays, R., Crofoot, M. C., Jetz, W., & Wikelski, M. (2015). Terrestrial animal tracking as an eye on life and planet. Science, 348(6240), aaa2478.


【著者紹介】

野田 琢嗣(のだ たくじ)
Biologging Solutions Inc. 京都R&Dセンター 最高技術責任者

■略歴
バイオロギング測器を開発するBiologging Solutions Inc.の共同設立者・最高技術責任者。岐阜県出身。2008年3月京都大学農学部卒業。2012年9月京都大学大学院情報学研究科、博士後期課程を修了。日本学術振興会特別研究員(DC及びPD)を経て、現職。博士(情報学)

小泉 拓也(こいずみ たくや)
Biologging Solutions Inc. 京都R&Dセンター 代表取締役

■略歴
経歴:バイオロギング測器を開発するBiologging Solutions Inc.の共同設立者・代表取締役。愛媛県出身。2006年3月トランスパシフィックハワイカレッジ卒業。2008年3月カリフォルニア大学サンタクルーズ校 環境学部卒業。2011年3月京都大学大学院情報学研究科 修士課程を修了。