1.はじめに
光学式モーションキャプチャはエンターテインメント向けの機器として、
・アクターの動きのデジタル化
・オブジェクトの位置姿勢のデジタル化
ツールとして、拡く利用されてきた。
そして昨今のVR/ARなどにおける高精度トラッキングシステムとして、主にロケーションVRの施設を中心として用途の拡がりを拡大している。
基本的にはマーカーと呼ばれる反射体を人体やヘッドマウントディスプレーなどの対象に貼付し、そのマーカーをカメラによる三角測量により、位置測位を行う原理である。我々は長らくその計測原理に基づき、より高精度な3次元トラッキングシステムとして利用できるよう、システムの改善を行ってきた。その結果として、類を見ない3次元位置測位システムとしてのシステム化を実現した。それによる用途の拡大は従来のそれと比較して、飛躍的に拡がる可能性を持つ。モーションキャプチャ応用技術の進化として、本編に記す。
2.位置測位システムの特徴
空間における位置を検知する位置測位システムには、様々な手法がある。
現在、世の中にある代表的な位置測位システムと計測原理、精度等を以下に記載する。
・GPS
原理:複数の人工衛星との距離より測位
精度:2-5m程度
環境:屋外
測位範囲:衛星が届けばどこでも
・Wifi
原理:アクセスポイントからの電波強弱と到達時間により測位
精度:5-10m程度
環境:屋内
測位範囲:50m程度
・ビーコン
原理:発信機からの電波強弱と到達時間により測位
精度:0.5-10m
環境:屋内
測位範囲:10-100m程度
・IMES
原理:衛星と同等の信号を発信する送信機にあらかじめ緯度経度やフロア情報等の位置情報を持たせ、端末でその情報を読み取る方式
精度:5m程度
環境:屋内
測位範囲:10-15m程度
・UWB
原理:電波到達の時間により測位。基地局と端末の時刻同期とnsレベルの高速サンプリングにて電波方式の測位技術では一番の精度を持つ
精度:5-10cm程度
環境:屋内
測位範囲:10m程度まで
・SLAM
原理:移動体に搭載したセンサにより環境の特徴点を検出し、登録された地図情報を参照に自己位置を推定
精度:1-2m程度
環境:屋内、屋外共に可能
測位範囲:300m程度まで
・モーションキャプチャ
原理:画像位置測位による三角測量
精度:0.1-1mm程度
環境:屋内(屋外も可)
測位範囲:100m程度まで
上記の比較により、モーションキャプチャが位置測位システムとして精度が非常に高いことは上記にてご理解頂けると思う。
更に
・サンプリング周波数の高さ(200Hz以上 低サンプリングも可)
・遅延の少なさ(5msec程度)
・位置と同時に姿勢(ベクトル)の算出
・複数対象の位置を同時に測位
を実現しており、位置測位システムとしての用途を拡げている。
3.モーションキャプチャが最高精度の位置測位システムとなる理由
モーションキャプチャシステムは運用面、機能面にて以下の特徴を挙げることが出来る。
・非接触で多点の高精度計測
・運用の手軽さ
・対象毎にシステム構築が可能な柔軟性(カメラ配置等)
電波ノイズ等も考慮が不要で、運用面でも他と比較し、優位性を持つことから、今後の拡がりが期待できる。
4.第三者評価による精度評価
我々はモーションキャプチャシステムの保証制度を刷新し、JCSS (Japan Calibration Service System)標章付き校正証明の発行に対応した。本サービスはモーションキャプチャシステムで初めてJCSS 標章付き校正証明に対応し、計測における信頼性向上に貢献し、トレーサビリティの担保を可能としている。
・取組の背景
新しい計測手法として精度に対する信頼性や保証の仕組みを整えている過程で、当社はトレーサブルな計測に向けて一般校正での校正器による校正サービスを実施してきた。そして、産業の国際化に伴い、ISO 9000 やIATF 16949 取得など品質管理への取り組みが盛んになってきていている中、本システムにおいてもより信頼性が高い保証制度への対応が課題となっていた。
・本制度の効果
当社は、長年に渡り、モーションキャプチャによる工業計測を実施し、一般校正を積み重ねたことにより、第三者機関による客観的な評価を受け、国際的に信頼性の高いJCSSの保証制度による証明が可能となった。その結果、ご利用者様に対して、トレーサビリティの担保をサポートできるようになった。
※JCSSについて
JCSS とは、日本における計量法に基づく「計量法トレーサビリティ制度」です。本制度は、「計量標準供給制度」と「校正事業者登録制度」から成り、独立行政法人製品評価基盤機構(NITE)により校正事業者登録制度として運営されている。本制度は、APAC(アジア太平洋認定協力機構)及びILAC(国際試験所認定協力機構)の相互承認(MRA)への参加により、国際的に信頼性のある証明として扱われている。また、本制度による証明書は、米国(NVLAP、A2LA)、英国(UKAS)、ドイツ(DKD)、オーストラリア(NATA)などが認定した校正機関の発行する証明書とも同等になる。
※精度保証の取組みについて
我々は測定精度の信頼性や保証に向けて、国家計量標準機関として計量標準および関連した計測技術の開発を行う産業技術総合研究所 計量標準総合センターからの技術支援を受け、光学式3D計測における精度保証の取組みも行なっている。新しい計測手法である光学式3次元計測において、既存のISO規格への適用性の検証及び光学式3D計測に適した検証方法を起案し、保証の仕組みづくりや規格化に向けた取組みを行なっており、信頼性の高い精度結果が得られている。
次回に続く-
【著者紹介】
佐藤 眞平(さとう しんぺい)
アキュイティー株式会社 代表取締役 CEO兼CTO
■略歴
専門分野:画像処理、3次元計測、モーションキャプチャ
東北大学大学院医工学研究科博士課程後期単位取得退学
1998-2008年 画像処理ベンチャーにて技術営業として顧客要件実現及び新規商品開発職に従事
2008-2011年 大手広告代理店デジタルビジネス開発業務に従事
2011-2015年 専門商社にて新規事業開発マネージャとして新規事業及び商品開発
2015年 オプティトラック・ジャパン株式会社創業
2019年 アキュイティー株式会社へ商号変更