1.緒言
近年,人体に装着可能なウェアラブルデバイスが注目を集めており,スマートフォンと連動するリストウェアやアイウェアなど様々な形態のデバイスが登場している.これらのデバイスが新たなエレクトロニクス市場を牽引していくことが期待されている.
ウェアラブルエレクトロニクスの特長は,名前のとおり,人体に装着して使用できることであるため,現在市場に出ているウォッチ型デバイスやアイウェア型デバイスなどもウェアラブルデバイスに分類されることが多い.しかし,ウォッチ型デバイスは大面積である必要は無く,また,必ずしもフレキシブルである必要も無いため,従来のリジッドデバイスの実装技術により製造することが可能である.しかし,ウェアラブルエレクトロニクスの市場予測等では,ウォッチ型デバイスから衣服型のウェアラブルデバイスがシェアを増加させる傾向にあり,フレキシブルデバイスやプリンテッドデバイスのさらなる活用が見込まれている.それでは,衣服型のデバイスが活躍するのはどのような分野であろうか.やはり,人体のモニタリングを対象とする医療やヘルスケア分野がウェアラブルデバイスの活用の場として考えられることが多い.例えば,長期の心拍モニタリングや体の動きのセンシング等を行うことにより日常の体調管理に用いることなどが検討されている.また,建築現場や工場などの作業員や,消防士,自衛隊員,警察官などの体調管理,危険予測などへの活用等様々な試みがなされている.
現行でも,脈拍や心電等をモニタリングできるデバイスは多種多様なものが存在するが,より多くの情報を多角的に解析し,より有用な情報を得ることが望まれている(図1).最近では,人工知能(AI)の活用によりさらに高確度の疾病予測をする試みなどの発表も多くみられるようになってきた.社会の高齢化に伴い,在宅医療や介護などにこれらのデバイスを用いることが想定され,将来的により多くの情報を高精度に収集し,医師が診断に利用する等の需要が高まることが予測される.
本論文では,具体的に現行のデバイスをウェアラブル化するにあたり,必要不可欠となる柔軟なエレクトロニクスを利用した電子回路形成技術,布上への高伸縮導電配線形成技術を基にして開発したウェアラブルデバイスなどについて解説する.
2.ウェアラブルデバイスに必要な要素技術
現行でも,脈拍や心電等をモニタリングできるデバイスは多種多様なものが存在するが,より多くの情報を多角的に解析し,より有用な情報を得ることが望まれている(図1).社会の高齢化に伴い,在宅医療や介護などにこれらのデバイスを用いることが想定され,将来的により多くの情報を高精度に収集し,医師が診断に利用する等の需要が高まることが予測される.
ここで、パルスオキシメータという医療機器をウェアラブル化することを想定した場合、どのような柔軟エレクトロニクス技術が必要になるか考えてみたい。
図2に示すように,現行のパルスオキシメータを主要なユニットに分割すると,センシング部(発光部および受光部),表示部,処理・制御部,給電部,配線部となる.これらをウェアラブル化するためには,それぞれのユニットをフレキシブル・薄膜化する必要がある.特に各ユニットを結合する配線部に関しては伸縮性を持たせ,人体曲面にフィットするようにデバイスを設計する必要がある.本解説では、特に、デバイスをウェアラブル化するために不可欠な高伸縮配線技術について説明する。
次回に続く-
【著者紹介】
吉田 学(よしだ まなぶ)
国立研究開発法人産業技術総合研究所
センシングシステム研究センター・研究チーム長
■略歴
1999/3 千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了・博士(工学)
1999/4-2001/3(財)科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業(CREST)特別研究員
2001/4-2009/9(独)産業技術総合研究所 光技術研究部門 入所 任期付研究員
2009/9-2012/6(独)産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 主任研究員
2012/7-2013/6(独)新エネルギー・産業技術研究開発機構(NEDO) 電子・材料・ナノテクノロジー部 主任研究員
2013/7-現在 現職
2017/10-現在 埼玉大学大学院 連携教授 兼任