慶應義塾大学SFC研究所と富士通(株)は、共同研究拠点「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」における研究の成果として、既存のインターネット層とアプリ/Web層の間に、新しい階層「Endorsement Layer」を追加し、インターネット上のデータの確からしさ(正しさの程度)を汎用的に確認可能とする「Trustable Internet」(信頼できるインターネット)のコンセプトを策定し、そのホワイトペーパーを10月13日に公開した。
「Trustable Internet」では、従来、データの確からしさの確認が困難だったインターネット上のデータに対して、データの生成や処理などに関与したヒト・モノの情報や、データを見た第三者による確認や評価に関する情報、そのデータに関連したフィジカル空間の情報(センサデータなど)を付与し、その付加情報に基づいてデータの正しさを利用者が判断可能となる。これにより、多角的な視点からデータの確からしさを判断できるようになり、データの確からしさが不明なまま利用することや、偽情報を信じたまま再拡散することなどを未然に防止できる。
今後、慶應義塾大学SFC研究所と富士通は、「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」での技術開発を通して、2028年度までに「Endorsement Layer」、および利用者の端末からデータの確からしさを確認するアプリやブラウザ機能などを実装することで、「Trustable Internet」の実現を目指すという。
・「Trustable Internet」のコンセプトについては、Web技術に関する標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)の年次総会である、W3C TPAC 2022会合(2022年9月12日~16日)において発表し、専門家の様々な意見を踏まえたうえで策定した。
■背景
現在、インターネットは社会・経済活動において不可欠である一方、意図的に誤った内容を含む偽情報や、確からしさが検証できないデータも多く存在しており、フェイクニュースによる経済損失は年間780億ドル(約10兆円)に達する(注)とも言われている。従来、データの確からしさを確保する手法として、文書の承認管理システムや配送荷物の追跡システムなど個別システムごとに証跡を記録する機能が存在するが、膨大なデータが存在するインターネット上でその確からしさを確認できる汎用的な方法は存在せず、該当データが本当に正しいかどうかの判別は非常に困難となっている。
慶應義塾大学SFC研究所は、1990年代よりWeb技術に関する標準化を進めてきたW3Cの日本拠点であり、様々な活動を通じてグローバルにインターネットの標準化を牽引してきている。富士通は、インターネット黎明期よりITビジネスを開始しており、長年開発・提供してきたセキュリティ関連技術や、近年開発した、異なるアイデンティティー基盤を相互接続して自己主権型で連携利用が可能な技術など、多くの技術や知見を有している。
慶應義塾大学SFC研究所と富士通は、データの確からしさの課題を解決するため互いの知見やノウハウを結集し、インターネット上で信頼に基づいたデータのやり取りを実現する技術の研究を目的とし、2022年4月に設立した共同研究拠点「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」での研究成果として、「Trustable Internet」のコンセプトをまとめたホワイトペーパーを公開した。
■「Trustable Internet」について
「Trustable Internet」によるアプローチでは、インターネット上のデータの確からしさを容易に判断できるよう、発信者または第三者が元のデータの確からしさとして裏付け可能な情報を付加し、利用者との間で共有する「Endorsement Layer」をインターネットの階層上に追加することでデータの確からしさを確認可能とする新しいアプローチである。この構成は、既存のインターネットに影響を与えず実現可能なため、インターネット利用者は従来通りにWebとアプリケーションを利用し、必要に応じてデータの確からしさの根拠となる情報が取得可能である。
確からしさの判断の根拠となる付加情報は、データ生成時に人と機器が付与するもの(生成者(人・法人)の名前、所属、資格、または生成した機器、場所、日時など)のほか、データ生成後に付与されるもの(専門家のような第三者によるデータへの確認・評価など)、さらにはセンサの計測値といったフィジカル空間から得られるものがある。これらの付加情報を「Endorsement Layer」(図)にグラフデータとして蓄積し、利用者がインターネット上のデータを閲覧する際に「Endorsement Layer」から付加情報を検索・確認したり、また確からしさを判断するために必要な情報をリクエストしたりすることで、利用者がデータの確からしさを判断可能になる。
これにより、多角的な視点からデータの確からしさを判断できるため、データに基づく意思決定をより正確にすることと、確からしさが不明なデータの拡散を防ぐことが可能になるとのこと。
■「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」の体制
代表 中村 修 (慶應義塾大学環境情報学部 教授)
副代表 村井 純 (慶應義塾大学 教授)
副代表 鈴木 茂哉 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授)
慶應義塾大学SFC研究所と富士通の研究員 約20名
(注)フェイクニュースによる経済損失は年間780億ドル(約10兆円)に達する:
THE ECONOMIC COST OF BAD ACTORS ON THE INTERNET FAKE NEWS | 2019
プレスリリースサイト(fujitsu):https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/10/13.html