自然災害発災初期の対応におけるドローン活用の動向と期待(2)

国立研究開発法人
防災科学技術研究所
内山 庄一郎

4.土砂災害初期対応における現場活動の課題

4.1 情報収集と安全確保の課題

土砂災害では、土砂や瓦礫、広範囲に達する泥水によって道路網が寸断され、車両が進入できない場所も多い。このような地上からの限られた目線では十分に情報収集が行えないため、災害状況や被害の全体像を早期に把握することが難しい(図2)。さらに、平成30年7月豪雨のように、広域で同時多発するケースもあり3)、現場活動のリソース(部隊)が分散する。また、防災ヘリの数は限られるため、速やかに上空からの情報収集ができるとは限らない。平成26年8月豪雨による広島市の土石流災害では、各地で同時に発生した土石流により住宅や道路が流失し、地域の景観が一変した。これにより、道路や建物などのランドマークが失われ、既存の地図が使えない状況となった4)

図2 土砂災害発生直後の現場の状況(2018年7月撮影、株式会社ライズ伊木則人氏提供)
図2 土砂災害発生直後の現場の状況(2018年7月撮影、株式会社ライズ伊木則人氏提供)
大量の土砂や瓦礫が道路を埋め、暗渠からあふれた水が地面やアスファルトを侵食して濁流と化している

検索活動の第一の課題は、要救助者・行方不明者の特定に時間を要することが挙げられる。自治体が把握している住民情報と居住実態が異なることは多く、災害当時の在・不在や、訪問者の存在もあるために、要救助者の特定には相当な時間と労力を要する。聞き取りで有力な情報が得られない場合、要救助者がいる可能性が高い場所の絞り込みが難しくなり、空間検索と最終検索の効率は大きく低下する。
次に、安全確保の課題として、情報の少ない初期対応フェーズでは特に、土砂の流出傾向が不明な中での活動となるため、安全監視員の配置と退避経路や退避場所の確保が課題になる。例えば土石流が秒速10mで流下すると想定した場合、活動場所から600m上流部に安全監視員や監視装置を配置できれば、60秒間で退避できる範囲で活動を展開できるが、常に退避時間に余裕を持たせた安全監視体制が構築できるとも限らない。こうした現場の安全確保対策は、現場の状況がほとんど分かっていない現場到着直後の情報収集の段階から必要となる。このため、夜間や道路でアクセスできる範囲が大きく限定される状況では、検索救助活動の開始までに長時間を要することもある。

4.2 救助活動の課題

流出した土砂、瓦礫等が障害となって車両で現場に到達できない場合、活動に必要な資機材を人力で搬送しなければならない。多くの場合、障害物は人力で撤去が難しい重量物であり、さらに撤去後の一時置き場や廃棄場所までの搬送も課題となる。
現場活動者の個人レベルでも救助活動には困難を伴う。降雨時には視界不良に加えて会話も不明瞭となり、ぬかるみの移動やその中での重量物の扱いが難しく、疲労を加速させる。加えて、切れた電線や太陽光パネルからの漏電、ガス漏れ等の事故リスクも常時抱えている。
重量物の撤去作業では重機が用いられる場合もある。この際、民間企業の重機が投入されることもあるが、二次災害のリスクが高く一般の工事現場とは異なる安全管理が求められるため、重機操作員の安全確保も課題となる。このほか、重機レンタル費や燃料代の負担、災害によるものか重機か定かではない建物等の破損に対する補償など、災害後に生じる問題も多い。

4.3 情報活動と情報資機材の課題

情報収集では、要救助者と活動現場に関する膨大な情報を扱う。これらは部隊間の無線コミュニケーションと白地図への情報集約によって行われる。無線コミュニケーションには、情報の不正確さ、聞き逃し、現場活動から手が離せず無線対応ができない、振り返って情報を確認できないといった制約がつきまとう。また、白地図へ情報を集約する担当者にとって、多数の部隊や外部組織からの報告を集約して地図を更新し続ける負担は大きい。さらに、長時間の活動では、書き込まれた情報が多くなり、情報の読み取りや外部組織等へ情報共有の困難さが課題となる(図3)。

図3 林野火災図上訓練で情報が書き込まれた白地図(画像提供:釜石大槌地区行政事務組合消防本部)
図3 林野火災図上訓練で情報が書き込まれた白地図(画像提供:釜石大槌地区行政事務組合消防本部)
各小隊から異なるタイミングで、時には同じタイミングで無線報告される情報を白地図に書き込むため、時間経過とともに情報量が増え続け、読み取りが困難な地図になる

5. ドローンの活用と現場のニーズ

災害初期対応におけるドローンの活用では、情報収集の課題(4.1)に対する有効策としての活用が先行している状況にある。一方で、ドローンには元来、様々なセンサを搭載できるプラットフォームとしての潜在能力があり、その活用可能性は情報収集だけにとどまらない。例えば空間検索では、瓦礫や土中の要救助者の呼吸や心音などのバイタルサインの検出や、土中の人体の存在の検出、携帯電話の電波発信源の検知といった、要救助者の位置を直接的に特定する技術へのニーズは大きい。これらに対するセンシング技術が登場すれば、人命救助活動のあり方を大きく変えうるものとなるだろう。また、要救助者の特定では人口動態に関するもの(4.1)や、隊員の身体能力の限界(4.2)などの課題を示した。これらの課題についても、現場のニーズと考えることができる。

6. まとめ

土砂災害を例として、災害初期対応フェーズにおける情報収集、検索活動、救助活動の実態と課題を紹介した。現状ではアナログ的な手法が用いられている部分も多く、今後、最新のセンシング技術が活用される余地がある。自然災害の被災地という危険かつ生身の人間には太刀打ちが困難な状況において、センシング技術を通じて人間の活動能力を高めることができれば、安全・安心な社会の発展に貢献できる。土砂災害などの危険な現場活動には、民間企業や研究者の入る余地は通常はほとんどないため、今回はその実態を紹介した。本稿がこの分野に対する技術者の挑戦の幅を広げるきっかけとなれば、これに勝る喜びはない。



参考文献

  1. 内山庄一郎(2020)災害対応の初期フェイズにおける無人航空機の活用-平成30年7月豪雨における広島県での捜索支援地図の作成事例-, 防災科学技術研究所主要災害調査報告, 53, 175-189.
    https://doi.org/10.24732/nied.00002158
  2. 内山庄一郎、須貝俊彦(2019)平成26年8月豪雨による広島市土石流災害の被害の特徴,
    自然災害科学, 38(特別号), 57-79.https://www.jsnds.org/ssk/ssk_38_s_057.pdf


【著者紹介】
内山 庄一郎(うちやま しょういちろう)
防災科学技術研究所 マルチハザードリスク評価研究部門 特別研究員

■略歴
1978年宮城県仙台市生まれ。博士(環境学、東京大学)。2003年より現職。
ドローンによる災害状況把握技術の開発と社会実装に従事。地すべり地形分布図(2014年完了)、災害事例データベース(2012年)、防災科研クライシスレスポンス(現bosaiクロスビュー、2012年)の設計と構築を行った。著書「必携ドローン活用ガイド」など。