1.はじめに
近年、災害対応のさまざまなフェーズ(※)においてドローン等の機械技術の活用が試行され、その社会的ニーズも高まりつつある。しかし、人命救助を行う災害の初期対応のフェーズでは、消防、警察、自衛隊など、危険地での活動訓練を受けた公的機関によってのみ行われているため、人命救助活動の現場には、民間企業等が有する最新の科学技術や知見が十分に投入されてきたとはいえない。実際に、人命救助活動ではいまだ人海戦術の割合が大きい。活動の迅速化・効率化、隊員の安全向上に向けて現場活動の現状を変えていくために、ドローンやセンシング技術のさらなる活用が期待される。そこで本稿では、近年の豪雨災害の高頻度化によって各地で懸念が高まっている土砂災害をターゲットとして、災害発生直後の初期対応におけるドローン活用の現状と課題を紹介し、この分野で求められるセンシング技術について考察する。
※防災に関する対応や対策などの様々な活動は、時系列として「平時の予防」「災害発生直後の初期対応」「復旧」「復興」の4つの大きなフェーズの中で実施される。それぞれのフェーズにおいて、多様な主体が、異なる専門性を持って活動を展開している。「ドローンの防災活用」のような言い回しを耳にする機会は多いが、この表現では、どのフェーズで、どんな主体が、何のためにドローンを活用したいのかが分からない。このため、防災を語る場合には、フェーズと主体を特に意識して議論をすると論点が明確になる。
2.災害初期対応で使用されるドローン
ドローン技術の実証実験のニュースでは実に多様なドローンの使い方が試行されている一方で、消防機関等の現場に導入されたドローンの多くは、100万円未満の民生用機で、光学カメラや熱赤外カメラを搭載したものが多い。また、災害直後のオルソ画像(写真地図)の作成のために、自動航行機能を備えたものもある(オルソ画像については、内山(2022)1)を参照されたい)。そうしたドローンの一般的な性能として、2022年度に消防庁から配備された小型空撮ドローンを例に挙げる(表1)。
寸法(アーム展開時) | 637mm×560mm(プロペラ含む) |
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最大離陸重量 | 2,000g |
最大飛行時間 | 25分(標準カメラ搭載、風速8m/s条件) |
最大伝送距離 | 4km(障害物や電波干渉がない場合) |
防塵・防水性能 | IP43 |
標準カメラ | 動画4K対応、静止画2,000万画素 |
機能 | 自動飛行、画像トラッキング、3方向センサによる衝突回避 |
セキュリティ対策 | フライトログ・撮影データ漏洩防止、通信暗号化 |
現在の災害初期対応を行う機関の多くは、この例に近い性能の機体を使用していると考えてよい。このクラスの小型ドローンは、プロペラの騒音が小さく、ダウンウオッシュの影響もほぼないため、地上で活動する部隊への影響が少ない。垂直離着陸とホバリングができる機体は、操縦スキルが低い者でも運用できる。そして、Li-Poバッテリーを動力とする電動機は、整備に高度な専門技術や設備を必要としない。運用においては、飛行時間が短いために、飛行する場所まで機体・備品・運航チームを移動させる必要がある。このため、機体サイズが小さいほど機動性が高くなる。車両や防災ヘリなどの貨物スペースに機体を積めることも運用において重要なポイントになる。
3.土砂災害における初期対応の流れ
まず土砂災害における活動の流れと全体像(図1)を紹介し、次章で個々の段階で行われる活動の課題を整理する。 土砂災害の初期対応では、現場到着後に情報収集と検索活動を単独あるいは同時並行で実施する。その目的は、要救助者・行方不明者の人数と位置の特定・推定、および二次災害リスクから活動する隊員の安全を確保することである。次に、救助活動の要否、救出方法と優先順位を判断・決定し、救助活動を実施する。救助活動は、表面検索、空間検索、最終検索の順で捜索範囲を二次元的、三次元的に拡大していく。
情報収集は、要救助者に関するものと活動場所の評価に関するものとの2種類がある。119番通報の情報では断片的なため、被災した家屋が分かればその同居者や周辺住民、地域に詳しい消防団員、被害の目撃者等へヒアリングを行う。行方不明者の全容が把握できない場合は、警察や自治体の持つ情報に加えて、避難所での聞き取りも実施することもある。活動場所の評価に関する情報収集では、土砂災害の種類、気象、ハザードマップ等の地図、災害前の空中写真、災害後のドローン写真、防災ヘリからの報告と映像、地上から見える範囲での危険情報などを取得する。
土砂災害の種類は崖崩れ、土石流、地すべりの3種があり、まずはこの種類を特定する必要がある。次に、土砂の流出地点、流出方向、到達範囲、土砂の水分量、流木や瓦礫の量、住宅の被害状況、道路の通行可否に加えて、土砂に巻き込まれた要救助者の被災位置を検討し、要救助者がいる可能性が高い場所を絞り込む。要救助者の被災状況としては、建物上層への垂直避難による逃げ遅れ、流出した家屋や住宅低層部あるいは車両への閉じ込め、屋外にいた場合には土砂流に直接巻き込まれるといった被災状況が想定される。
検索活動には3種類あり、目視と呼びかけで行う表面検索、要救助者がいる可能性の高い住宅の内部に進入する空間検索、重機を使用して瓦礫や土砂を撤去する最終検索の順に実施する。土砂などに圧迫され声が出せない状況も想定されるため、サイレントタイムを設けて車両、ヘリコプター、呼びかけなどを停止させることもある。要救助者の携帯電話番号が分かった場合は、電話の呼び出し音を探す方法もとられる。空間検索では、要救助者が土砂や瓦礫に閉じ込められていることが想定されるため、内視鏡のような画像装置、地中音響・電磁波・二酸化炭素などの各種探査装置、熱赤外カメラなどの様々なセンサを用いる。また、住宅への進入の際は、住宅の崩落による二次災害を防ぐため、瓦礫や障害物の除去による避難路の確保と、進入路を安定させる支柱の設置を行う。ここまでの活動で発見できない要救助者がいる場合には、最終検索として土砂や瓦礫を大規模に除去し、被災範囲全体について再度検索を行う。
次回に続く-
参考文献
- 内山庄一郎 (2022)オルソ画像作成の基礎, 災害対応におけるドローンの有効活用に向けた勉強会(第1回), 2022年2月4日, 防災科学技術研究所.
http://id.nii.ac.jp/1625/00002381/ - ACSL(2022)小型空撮ドローン(SOTEN).
https://product.acsl.co.jp/product/post-369/
【著者紹介】
内山 庄一郎(うちやま しょういちろう)
防災科学技術研究所 マルチハザードリスク評価研究部門 特別研究員
■略歴
1978年宮城県仙台市生まれ。博士(環境学、東京大学)。2003年より現職。
ドローンによる災害状況把握技術の開発と社会実装に従事。地すべり地形分布図(2014年完了)、災害事例データベース(2012年)、防災科研クライシスレスポンス(現bosaiクロスビュー、2012年)の設計と構築を行った。著書「必携ドローン活用ガイド」など。