徳島大学 研究・産学連携部 地域産業創生事業推進課
徳島大学 高等教育研究センター学修支援部門 創新教育推進班 徳島大学i.school
4.2 大学産業院における研究の事業化と起業人材育成
地方大学である徳島大学のミッションは、「地域の発展への貢献と世界レベルの研究維持」である。このうち、世界の問題を地域から解決するとともに、研究成果の社会実装を実現するために、2018年4月に設置された組織が「大学産業院」である。大学産業院は、大学病院にモデルに設置された学長直轄組織で、大学内で特区的に活動している。大学病院は「疾患を予防し、治療するための教育・研究・臨床の組織」であるのに対し、大学産業院は、「世界の問題を解決するための教育・研究・産業の組織」と定義している。
大学産業院には、産学連携活動を推進する学内外の研究者を集中的に伴走支援して、社会実装や大学発ベンチャー企業設立等を推進するための「研究開発事業部門」、新規産業の創出に向けた事業の企画立案や、社会と大学を結びつける企画の立案や連携協定の締結を進めるための「企画戦略部門」、起業意識・ビジネスマインドをもった学生・教職員の育成や、アントレプレナーシップ教育の推進やセミナー等の啓発活動を行う「教育・経営支援部門」があり、これらが学内関係部局と連携して活動することで、成果を迅速に事業化・産業化し、ひいては新しい研究・教育の在り方を示すことを目指している。
さらに、大学産業院の取組みから芽吹いた起業人材のため、学内の人的・物的資源を基盤とした大学産業院教員の全面的な伴走支援により、徳島大学発スタートアップ企業を育成する「スタートアップ・スタジオ『U-tera(ユーテラ)』」(以下「U-tera」という。)を大学産業院内に開設している。U-teraでは、『地域に「新産業」を創出できる人材を地域社会へ』の理念を実現するため、事業創出支援に取り組んでいる。
4.3 U-teraの概要・取組と実績
U-teraの考える”起業“とは、会社を起こす事だけではなく、やりたい事や好きな事、その”想い”を起こす事と定義している。未完成で抽象的な”想い”を支え、育むために、学内外のリソースを通じて、経営、資金調達、ものづくり等のあらゆる面からサポートすることを目的としている。このことはU-teraのシンボルに表現されている(図5)。U-teraのシンボルで表現されているものは「胎動」であり、中で回る赤い円は、”想い”を起こしたい学生や教職員、周囲の青い円は、それを支える子宮(大学、フェロー)を意味している。
U-teraでは、毎週定時に相談会を実施している。相談者は、まずはそこで自身が持つ粗削りなアイデアを、U-teraスタッフとともにブラッシュアップし、実現イメージを構築することが可能である。実際に起業を目指すこととなった学生・教職員にはメンタリングを行い、実現可能なビジネスプランを策定していく。その後、策定したプランを基にプロトタイプの構築と評価を実施し、メンター及び各フェイズの担当者が法人設立、事業拡大の段階まで支援している。2020年度には49回、2021年度においては70回の相談を実施し、同期間の利用者数は延べ203人となっている。
このような取組による成果も生まれ始めている。例えば、オンラインLIVEクッキングサービス “WORLD APRON”を運営している「World Resort」は、2019年度「とくしま創生アワード」ビジネスコンテストにおいて学生賞を受賞した。この”WORLD APRON”は「食の力で世界中の人々の心と身体を元気にする」をミッションに、参加者と世界中の国・地域のキッチンをビデオ通話で繋ぎ、一緒にその国の家庭料理を作り、食事をして異文化交流を楽しむサービスである。(2022年8月現在、新規事業準備のため休止中)
また、シニアとネットの融合をコンセプトとし、高齢者の方がスマートフォンやタブレットを使いこなせるようになるための教育サービスを提供する株式会社GoFerは、2020年度「とくしま創生アワード」ビジネスコンテストにおいて特別賞を受賞した。
これらが呼び水となり、U-teraの活動がますます活性化することで、本学からの新規課題解決型企業の誕生が増加していくとともに、学生や教職員の起業家マインドの醸成が促進されることが期待されている。
【5.まとめ】
本特集号では、現在徳島大学で行われている、イノベーション創出に向けた、特色ある多様な取り組みついて、以下の4つの観点から紹介した。
1.地方大学・地域産業創生交付金事業における産学連携
2.徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所の産学連携
3.CO.TOKUSHIMAの活動
4. 高等教育研究センター 学修支援部門 創新教育推進班(イノベーションプラザ)の活動
これらの活動に基づき、「キラリと光る徳島大学」として、冒頭で紹介した「次世代ひかりトクシマ」の実現に貢献できるよう、今後更に産学連携・地域連携に取り組んでいきたいと考えている。
執筆担当
1章国立大学法人 徳島大学 研究・産学連携部 地域産業創生事業推進課
2章国立大学法人 徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所(pLED)
3・4章国立大学法人 徳島大学 研究・産学連携部 地域産業創生事業推進課
国立大学法人 徳島大学 高等教育研究センター学修支援部門
創新教育推進班 徳島大学i.school