▮ポイント
龍谷大学 先端理工学部 応用化学課程の内田欣吾研究室は、一種類の分子のみで白色の蛍光発光を示す新しい有機材料を見出した。
この白色蛍光は、複数の発光材料を組み合わせることなく、きわめて純度の高い白色が得られ、一種類のみの発光材料で構成された新しい有機EL等の発光素子用の基本的な材料の一つとして期待される。
本研究成果は、英国王立化学会の材料系オープンアクセスジャーナル『Materials Advances』誌に掲載(Webでは既に公開)される。
▮概要
この度、龍谷大学の内田研究室では、ある芳香族化合物が容易に結晶化して白色蛍光を発することを見出した。この白色蛍光は、結晶中での分子のパッキング様式に依存し、単分子発光による青色発光と分子間相互作用による黄色発光が同時に出ていることによるもので、国際照明委員会のCIE標準表色系である (CIE) 1931の座標値は(0.31, 0.30)、蛍光量子収率は0.12という研究結果を得た。
一般的にテレビや発光ダイオードの照明では白色光が非常に重要になるが、白色光は、赤、緑、青の3種あるいは青と黄の2種の光を発する有機材料同士の組み合わせや無機材料同士の組み合わせで作られる。
それらの材料の一つとして、有機蛍光分子があり、発光ダイオード、化学センサ、蛍光プローブなどに広く応用されている。その有機蛍光分子は、パイ軌道が分子中に広く共役した構造をとっており、その構造の違いにより、赤、青、黄、緑など多彩な発光色を示すことが知られている。
近年、一つの材料で白色の発光色をもつ蛍光材料の研究は非常に注目されており、白色発光を示す単一化合物がいくつか報告されている。本成果もその関連の研究の一つになる。
内田研究室では、フォトクロミック化合物であるジアリールエテンの研究を長年行ってきた。その誘導体の酸化閉環して作成した多環芳香族化合物1ar(図1a)の結晶が分子内で青と黄の発光現象を同時に行い、白色の蛍光を発することを見出した。この結晶は、有機溶媒に溶かした1arをインクのように用いて文字を書き、溶媒が蒸発すると文字が白く発光することから、極めて容易に結晶構造を取り易いことがわかる(図1b)。この白色光は、青と黄の蛍光の混じりだとわかった(図1c)。蛍光発光スペクトルを観察すると、青と黄のスペクトルが観測できるとともに、これらの蛍光寿命も異なっていた。この時の白色光の色座標は(0.31, 0.30)で、純白の値(1/3, 1/3)に極めて近く、純度の高い白だった。さらに蛍光量子収率も0.12と実用レベルと言われる0.1を超えていた。
結晶のX線構造解析を行うと、1arには2種類の回転異性体(外側のフェニル基と中央の多環芳香環の間の回転角が異なる)があり、それらが開きにした魚の骨のような模様のへリンボーン状に積み重なっていることがわかった。青色分子間の重なりは少なく、分子間の距離も離れているため、単分子的な青色蛍光を発するが、黄色分子間では重なり部分も大きく分子間距離も小さいため、2分子的なエキシマー発光を示すことになり、これが合わさって白色の発光を示している。このような、構造が結晶成長時に自発的に形成され、白色の発光が得られることは非常に興味深い現象である。今後、有機ELディスプレイなどへの応用が期待されるという。
なお、この研究内容は、「白色発光可能な新規化合物と白色蛍光組成物」(発明者 内田欣吾、中川優磨 特願2022-018020 (令和4年2月8日))として出願中。
▮発表論文について
●英文タイトル:White light emission generated by two stacking patterns of a single organic molecular crystal
●タイトル和訳:単一有機分子の2つの積み重ね様式から生じる白色発光
●掲載誌:Materials Advances
●URL:https://doi.org/10.1039/D2MA00670G
●論文著者: 中川 優磨、木下 久恩、糟野 潤、西村 涼、森本 正和、横島 智、畠山 充、坂本 裕紀、中村 振一郎、内田 欣吾
ニュースリリースサイト:https://kyodonewsprwire.jp/press/release/202208104969