漏れ量の校正(1)

(株)フクダ
取締役営業部・海外営業部 部長
中澤 茂夫

1. 漏れ量の信頼性

測定をするという行為には、その結果に対する信頼性が必要である。例えば100gあたり500円の肉がパックに230g詰められ1,150円と表示されていた。1,150円の代金を支払う顧客は、肉の重さの測定結果を信頼している。もし大きな誤差があれば大きな問題につながる。
漏れ試験など、その測定で安全性を担保するような場面でも、測定の信頼性が要求される。
漏れが引き起こすさまざま問題、例えば、
① ガス機器において漏れが発生すると爆発や火災の危険。
② ガソリン車の燃料系統に漏れがあると漏れた燃料に引火して火災が発生。
③ 防水性が必要な家電では水の侵入で故障。密封された電子部品では性能劣化。
④ 密封容器に入った食品の変質。
⑤ 医薬・医療機器では菌や湿気、気体などの侵入により本来の性能や効能が得られない。
などを防ぐために、それらを起こさない漏れ量の閾値が設けられて、漏れ量の測定(漏れ試験)が行われている。すなわち漏れ試験では、漏れが「あるか無いか」ではなく「この値より少ない」ことを測定によって定量的に試験されているのである。
本稿では、漏れ試験における漏れ量測定の信頼性がどのように確保されているか、について解説したい。

2. 校正

信頼性のある測定を行うためには、測定を行う計測器が、国家標準や国際標準などから切れ目なく連鎖した標準により校正された機器であることが重要となる。ここで校正とは、「指定の条件下において、第一段階で、測定標準によって提供される不確かさを伴う量の値とそれに対応する指示値との不確かさを伴う関係を確立し、第二段階で、この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作」とJIS Z 8103:2019計測用語に定義されている。言い換えれば、指定された条件下で、信頼のあるより安定した基準となる標準器の指示値と、測定を行う計測器の指示値を明らかにすることで、信頼性のある値を知ることである。校正証明書は測定した結果が記載され、試験所・校正機関から発行される。校正証明書は標準器の指示値と計測器の指示値および国家標準などの特定標準器からの連鎖の不確かさと測定から来る不確かさの合成が示されるもので、合否や計測器の精度を示すものではない。

2.1 試験所・校正機関

試験所・校正機関はISO/IEC17025 校正機関および試験所の能力に関する一般要求事項 に適合している事が求められる。要求事項を満足し発行する校正証明書の信頼性が確保できる能力を第三者により評価、認定されることが求められる。国内においての認定機関は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構認定センター(NITE)-IAJapan と公益財団法人 日本適合性認定協会-JAB があり、前者のIAJapanはJCSSの認定機関であり、アジア太平洋試験所認定協力機構-APACおよび国際試験所認定協力機構-ILAC の相互認証に署名している。後者のJABはISO17025の認定機関であり、同じくAPACとILACの相互認証に署名している。
当社は独立行政法人 製品評価技術基盤機構で審査を受けた、JCSS登録事業者である。

2.2 JCSS登録事業者

計量法第8章「計量器の校正等」では、計量標準供給制度および計量事業者登録制度が定められている。JCSSは、Japan Calibration Service Systemの略称で、計量法の定めによりJCSS登録事業者が発行する校正証明書にJCSSのシンボルマークが入っている。更に前述のように、独立行政法人 製品評価技術基盤機構-IAJapanはILAC(MRA)との相互承認に署名している為、登録事業者は国際MRAに対応することで、下記のようなシンボルマークの入った校正証明書の発行が出来る。

JCSS 0340

漏れ量の登録事業者としての登録は、計量法 第8章 第2節の(特定計量器以外の計量器による校正等)における第143条(登録)に定められた「計量器の校正等の事業を行う者は、校正を行う計量器の表示する物象の状態の量又は値付けを行う標準物質に付された物象の状態の量ごとに、経済産業大臣に申請して、登録を受ける事が出来る。・・・。」に従う。登録においては、計量法関連法規に適合する事とISO/IEC17025の要求事項に適合することが必要となる。

3. 漏れ量の区分

3.1 登録区分とトレーサビリティ体系

JIS Z2300:2020 非破壊試験用語 において、漏れ量/リーク量は、「ある条件下で漏れ箇所を通過する、定められた液体または気体の流量」と定義されている。言い換えれば漏れ量は密閉された容器のひび割れなどの欠陥を通して流出する、或いは侵入する単位時間当たりの流体の体積である。漏れ量は一般的に量が少ない領域の流量のイメージになる。
気体の漏れ量/リーク量に関しては、その量の大きさによって、計量法施行規則第90条第2項 (計量器等の区分)において、圧力区分と流量・流速区分の2区分に分かれる。以下に区分の抜粋を示す。

表1 漏れ量の登録に係る区分、校正手法、軽量器 3)
表1 漏れ量の登録に係る区分、校正手法、軽量器 3)

登録区分が異なることで国家標準からのトレーサビリティ体系も異なる。
流量・流速区分での国家標準からのトレーサビリティ体系の一例を図1に示す。
また圧力区分における国家標準からのトレーサビリティ体系の一例を図2に示す。
いずれもJCSS認定機関の独立行政法人 製品評価技術基盤機構ホームページに記載されている。

図1 JCSS流量・流速トレーサビリティ体系/図2 JCSS圧力(標準リーク)トレーサビリティ体系

3.2 登録区分による漏れ量の範囲

漏れ量を表す単位は、流量・流速区分では、「m³/h(mL/min.)」の流量単位となる。また圧力区分における単位は、「Pa・m³/s 」のリーク単位となる。同じ漏れ量の単位ではあるが、校正証明書では登録区分によって表記される単位は異なって記載される。その為本稿では、漏れ量について、流量・流速区分では「流量」、圧力区分では「リーク量」とする。
流量・流速区分での流量は、気体用流量計の技術的適用指針 4)にてその校正範囲の下限は、定められている。具体的には室内環境条件に換算した体積流量で、2.5×10-4 m³/h(4.167mL/min.)と示されている。
当社では、圧力区分は2.5×10-4 m³/h(4.167mL/min.)を含む8.6×10-3Pa・m³/sより小さなリーク量の校正範囲としている。表2に当社の登録区分と校正範囲を示す。

表2 当社の登録区分と校正範囲
表2 当社の登録区分と校正範囲


次回に続く-



参考、引用文献

  1. JIS Z 8103:2019計測用語
  2. JIS Z 2300:2020非破壊試験用語
  3. JCSS種類⁻40:計量器等の種類を定める規定
    独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター
  4. JCT20810:第23版 JCSS 技術的要求事項適用指針(流量・流速/気体流量計)
    独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター
  5. JCT20503:第4版 JCSS 技術的要求事項適用指針(圧力/リーク計)
    独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター
  6. Arai K and Yoshida H Metrologia 51 (2014) 522-527


【著者紹介】
中澤 茂夫(なかざわ しげお)
株式会社フクダ 取締役 営業部・海外営業部 部長

■略歴
1982年 株式会社長野計器製作所(現長野計器株式会社) 入社
2015年 株式会社フクダ 入社
2017年 同社 取締役 開発部 部長
2020年 現職