高速度カメラとイメージセンサ(2)

(株)ナックイメージテクノロジー
執行役員
小熊 和彦

3.高速度イメージセンサの仕様

 映像の画質を決める5大要素は、解像度、撮影速度、階調、ダイナミックレンジ、色域と言われている。高速度カメラはこれらに加えて「感度」が大変重要である。本項では、高速度イメージセンサが一般のイメージセンサと異なる点について記す。

3.1 撮影速度

 ほとんどのCMOSイメージセンサの構造は図2 (a) または (b) であるが、高速度イメージセンサは (b) の列並列信号処理である。(b) のセンサは信号増幅器やA/Dコンバータなどの処理回路を1列ごとに設けている。この構造のセンサは、信号処理を1水平期間内に完了すれば良く、回路が比較的低速で消費電力やノイズを低く抑えられる。そして、少なくとも1行の画素の信号処理は同時に行われるため、出力を複数本にすることが可能である。CMOSならではの特徴を生かした利点であり、イメージセンサはより高い撮影速度を得られるようになった。
 さらに、図3 は1列に2個の回路を配置し、2行の信号処理を同時に行うことができる例である。縦2個、横8個の画素信号を16本の信号線で同時に出力できる。つまり、映像の1フレームの水平期間の数を半分にでき撮影速度を上げられることを意味している。最近では、1列当たり16本の信号線を引き、さらに信号処理部を上下に配置して超高速度を実現したセンサも報告されている。
 図2 (c) は各画素に信号処理回路が設けられている構造である。高解像度かつ高速度、広ダイナミックレンジ、低消費電力などの可能性が見込まれ、今後の開発が期待されている。

3.2 感度

 感度を重要視する理由は「撮影速度が高い」イコール「露光時間が短い」からである。また、短いシャッタ時間に設定して、被写体の動きをぶれずに捉えたい時もある。
 高い感度を得るために、画素サイズを大きくして光電変換(フォトダイオード)部を大きくすることは容易な手段である。この点はデジタルカメラやスマートフォンの小画素、高解像度のセンサと大きく異なる。高速度イメージセンサの画素サイズは時に20 µmを超える。スマートフォンのセンサのそれが1 µm前後で議論されているのとは別世界である。引き換えに、解像度は妥協せざるを得ない。
 高速度カメラは一度に多くの画素の信号を出力したいので、図3 の1ブロックの画素数を多くしたい。この時、垂直方向の画素数を多くすることは画素の中を走る信号線が多くなる。その結果、光電変換部の開口率は小さくなり感度が落ちる。撮影速度と感度は相反する関係になってしまう。解決策は裏面照射型センサにすること。光電変換部を気にすることなく信号線を引くことができ、信号の干渉が低いと言った利点もある。表面照射型センサでの解決方法はマイクロレンズだが、20 µmもの画素サイズとなると効果的なレンズを付ける工夫が必要である。
 ノイズも感度に影響する。たとえイメージセンサの感度が低くなっても、それを上回ってノイズを小さくできれば、カメラの感度は上げられることを付け加えておく。

3.3 出力インターフェース

 例えば、画素数1280×960、撮影速度1,000 fps、階調12-bitのセンサはおよそ15Gbpsのデータレートになる。この場合、出力インターフェースを1 GbpsのLVDSとすれば、16本/32ラインの信号線があれば間に合う。仮に、同じ画素数と同じ階調で撮影速度100,000 fpsのセンサを想定するとデータレートは1,500Gbpsになり、1Gbps程度のインターフェースは現実的でない。従って、ここまでのデータレートでなくても、数GbpsのSLVS, CMLのような高速インターフェースは必要であり、実際に使われ始めている。
 では、アナログ信号出力はどうか。画素数1280×960で10,000 fpsのセンサは、80MHzで高速A/D変換しても、160個ものA/Dコンバータの数を必要とする。問題はセンサとA/Dコンバータを含めた回路の大きな消費電力である。より高い撮影速度を目指すと、アナログ信号出力は適切でない。

4.撮影例

 高速現象の一瞬を捉えた映像を紹介する。動画は弊社ホームページに掲載されているのでご覧ください。
https://www.nacinc.jp/analysis/demo-movie/standard_shooting-m/  図4 (a) 空気砲による球の貫通実験(65,000fps、1280×480)
 図4 (b) 溶接における溶滴、アーク、溶融池の同時観察(50,000fps、1280×896)
 図4 (c) 水滴の落下(2,000fps、2560×1920)
 図4 (d) 歩行者保護エアバッグ展開試験(1,000fps、1920×1080)

(a) 空気砲による球の貫通実験
(a) 空気砲による球の貫通実験
(b) 溶接における溶滴、アーク、溶融池の同時観察
(b) 溶接における溶滴、アーク、溶融池の同時観察
(c) 水滴の落下
(c) 水滴の落下
(d) 歩行者保護エアバッグ展開試験
(d) 歩行者保護エアバッグ展開試験

5.これからの高速度カメラ

 今後の高速度イメージセンサを開発するうえで、利用したい技術は裏面照射型と3Dスタッキングである。前者はより高い撮影速度と高い感度を実現するには避けて通れない技術である。後者はより高い撮影性能の実現やセンサ内で画像処理をしたい場合に必要である。FPGAのようであればなお良い。画像圧縮したり、画像処理した映像に変換したり、画像処理の結果を数値で欲しいユーザーもあると考える。
 高速度カメラは単に撮った映像を見るだけでなく、ユーザーが求める結果を出す存在に変わる必要があるだろう。



【著者紹介】
小熊 和彦(おぐま かずひこ)
株式会社 ナックイメージテクノロジー 技術部 執行役員

■著者略歴
1976年 名古屋工業大学電子工学科卒業
1977年 株式会社ナック(現ナックイメージテクノロジー)入社、技術部
高速度カメラ、高速度イメージセンサの開発に従事