磁気応用と環境発電(2)

(株)KRI
フェロ&ピコシステム研究部 部長
藤井 泰久

4.共振を用いた環境振動発電

 磁性エラストマを用いた振動発電のさらなる高効率化を目的として、共振現象を利用した振動発電について研究をおこなっている。共振現象は、環境中の振動源の周波数とデバイスの固有振動数に合致させることにより起こり、通常のQ倍の振幅が得られる。(Q値と呼び、振動系の共振の鋭さの指標)一般的に発電量はQ値の2乗の利得があり、高効率な発電が望める。

4-1.振動発電デバイスと実験

 作製した振動発電デバイスと加振機等構成を図6、図7に示す。コイルの内側に設置した磁性エラストマの上部に円柱状の錘(SUS304製)を取り付け、共振周波数の調整を行えるようにしている。磁性エラストマの直径は34mm、高さ15mmの円柱形上で、分散媒はシリコンポッティングゲル、分散質は永久磁石粉(混合割合は70w%)であり、型に入れて無磁場で加熱硬化させ(ランダム配向)、6T磁場を印加して着磁してある。
 実験ではデバイスの下側から正弦波状の強制加振を与え,ファラデーの電磁誘導の法則により発電を行い記録した。実験条件として 123~284 g の質量の異なる錘を 5 種類用意し,それぞれを取りつけたデバイスに加振機にて振幅 1 mm,周波数 10~100 Hz の範囲で振動を与えた。
そしてデバイスの錘上部の振幅を記録し,加振振幅に対する錘上部の振幅の増加率から共振現象の確認を行った。

図6 共振振動発電デバイス
図6 共振振動発電デバイス
図7 加振機等構成図
図7 加振機等構成図

4-2.発評価験結果

 デバイスの錘上部の振幅の測定結果を図8に、コイルにおいて得られた起電力の結果を図9に示す。デバイスの錘上部の振幅が周波数によって変化し、ピークを持つことが確認でき、このピークの共振周波数が錘の質量によって異なることがわかった。図9より、振動発電の起電力が周波数の増加に伴い増加している。ファラデーの電磁誘導の法則では直線的に増加すべきところが、本実験では共振現象によって振幅が一定でない為、増加率が周波数ごとに異なっており、共振周波数に近い範囲では増加率は高くなっている5)
 本実験では、Q値は図8より最大で約1.8程度であり、共振現象を伴わない振動発電量の約3.3倍の発電量が見込めることが分かった。エラストマを使用したデバイスではヤング率上げれば(硬くする)Q値を大きくできるが、一般的な金属材料、Siなどの無機材料と比較してQ値は低くなってしまう。 しかしながら、外部振動源の周波数とデバイスの固有振動数が少しずれても振幅(発電)が下がりにくいという利点がある。また、エラストマを使用した最大の利点は、振動に対して破壊しにくいというところにある。

図8 デバイス錘上部の振幅測定結果
図8 デバイス錘上部の振幅測定結果
図9 起電力測定結果
図9 起電力測定結果

5.おわりに

 破壊に強い柔らかい磁性材料を用いた環境振動発電の弊社の研究例をご紹介した。弊社では、環境発電は、環境中のエネルギー源や収穫した電力を使用する用途や目的に合わせて、磁性エラストマ以外にも圧電薄膜、圧電フィルム、薄膜磁石、超磁歪素子(FeGa系、FeCo系)、摩擦発電などの各種方式の技術を保有し、受託研究をおこなっている。ご興味ある方はお問い合わせいただきたい。→コンタクト先:ya-fujii@kri-inc.jp



参考文献

  1.  佐伯、岩本、井門、出口、藤井、山本、共振現象を利用した永久磁石エラストマー振動発電、MAGDAコンファレンス、(2021)


【著者紹介】
藤井 泰久(ふじい やすひさ)
株式会社KRI フェロ&ピコシステム研究部 部長

■略歴
1988年 東京理科大学理工学部卒業
1988年 ローム株式会社入社
サーマルヘッド、インクジェットヘッドの開発
1997年 ミノルタ株式会社入社
ライン型インクジェットヘッドの開発、MEMS開発
2002年 株式会社KRI入社 フロンティア研究部 研究員
流体MEMS研究開発(バイオチップ、マイクロリアクター、嗅覚センサなど)
2014年 フェロ&ピコシステム研究部 部長
~現在  磁気MEMSの研究開発(振動発電、触覚センサ、磁気冷凍・磁性流体冷却など)