1.はじめに
近年世界的に脱化石燃料に向けた取り組みが盛んに行われている。中でも実現性、採算性の高い再生可能エネルギーとして洋上風力発電が注目されており、日本においてもカーボンニュートラル実現に向け洋上風力発電産業が急拡大すると見込まれている。当面は産業成熟度の高い着床式が主となるが、今後の更なる風車大型化や遠浅海域が少ないわが国の地域性から、収益性・信頼性の高い浮体式洋上風力発電の実現が重要となっている。
ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は日本有数の造船会社であり、商船・艦船などの船舶事業に加え様々な海洋構造物の設計・建造も多く手掛けている。洋上風力発電浮体の実績としては2011年より経済産業省による「福島浮体式洋上ウインドファーム実証研究事業」にて、当社が開発したアドバンスドスパー型浮体コンセプトを用いて5MW風車浮体および洋上変電所浮体の2基を設計・建造・設置し、約5年間に渡り保守を行ってきている。また設計段階で行った連成解析や水槽試験の結果を実海域計測データと比較したところ、非常に高い精度であったことが確認できている。
(出展:福島洋上風力コンソーシアムHP http://www.fukushima-forward.jp/index.html)
本項では、当社で新たに独自開発した12MW級以上の大型風車に対応した浮体式洋上風力発電向けのセミサブ型浮体デザインコンセプトについて紹介する。
2.浮体形式の比較
洋上風力発電の浮体形式には主にセミサブ型、スパー型、バージ型、TLP型がある。スパー型はシンプル形状で浮体設計が容易、浮体重量も比較的軽量で国内外実績も多くあるが、浮体喫水が深く設置水深が限られ、海象の荒い沖合で風車搭載が必要なため設置費が大きくなる傾向にある。バージ型はシンプル形状で適用水深の制限が少ないが、動揺特性がやや劣るため優位性が得られるのは静穏な海域に限られる。TLP型は浮体が軽量かつ低動揺、また海中占有面積が小さいが、浮体の復原性能を係留で補う性質上係留系の損傷リスクが大きい。そのため十分な冗長性を確保するために係留本数が多くなり設置費が大きくなる傾向にある。またMW級の大型風車浮体の実績がないため、実用化に今しばらく時間を要する。セミサブ型は形状がやや複雑であるが、適用水深の制限が少なく動揺性能も高い。また喫水が浅いため港湾内で風車搭載が可能であり、国内外でも多くの実績がある。
上記のように浮体形式にはそれぞれ一長一短があり最適な形式は設置海域の水深や環境条件によるが、当社では汎用性の高さ、施工性の良さ、実績面などを考慮しセミサブ型に注目し、JMU独自デザインのセミサブ浮体を開発した。
次回に続く-
【著者紹介】
神澤 謙(かみざわ けん)
ジャパンマリンユナイテッド株式会社 海洋エンジニアリング事業部 海洋エンジニア
リングプロジェクト部 洋上風力開発G
■略歴
2017年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 卒業
同年 ジャパンマリンユナイテッド株式会社 入社 現在に至る
洋上風力発電浮体を始めとした、海洋構造物の開発・設計に従事