“3E+S”とは地産地消 -自然エネルギ―の利活用は自然と共に生きる事- (2)

Xodus Group Japan(株)
代表取締役社長
小川 逸佳

 自然エネルギーは地産地消型発電が可能である。日本においては、地熱、太陽光、水力、陸上風力などもあるが、一番大きな可能性を含むのは洋上風力発電である。洋上風力発電は欧州では普通に電気の供給先として使われている。特に英国においては、洋上風力発電の価格は近年各段と下がり、最近では英国の10%近くの電力を供給している(5)。

 今稼働中の洋上風力発電は、主に着床式の洋上風力発電を指す。それは洋上風力導入を先駆けて進めた英国周辺の海が浅瀬で、着床式が作り易いと言う地の利があったからだ。例えば、北海南部の平均水深は30m(北海全体の平均は90m)、世界最大級のDogger Bank(6)は約15-30mである。しかし、水深がおよそ60mを超えると着床式では難しく、浮体式が必要になる。簡略して説明するが、着床式の場合、風車は大型化すれば大型化するほどコストパフォーマンスが良く、海底の地質によりモノパイルかジャケットで基礎を作るという二択になる。現在設置されているもので、一番大型の風車はロッテルダムにある、GE Haliade-X 14MW(7)で、ローターが220m、羽の長さは107m、高さはおよそ248mである。今開発されている一番大型な風車であるMingYangになると、サイズが16MWに上り、現在それを設置できるSEP船はない。しかしながら、着床式においての風車の大型化の波はまだ留まりを見せず、主だった風車メーカー三社は只管大型化にフォーカスをしている。

 世界規模で見た場合、着床式が出来る場所よりも、浮体式しか出来ない深さの海域の方がはるかに広い。国を例に挙げると、欧州ではフランス、ポルトガル、またアメリカ西海岸、アジアではもちろん日本だ。日本では30m以下の浅瀬の海は、今公募に出ているような秋田や銚子などかなり限定された場所にしかない。それは日本の海はトラフが多く、平均水深が1667m(8)だからである。よって日本の洋上風力開発は主に浮体式に成らざるを得ない。浮体式洋上風力発電は着床式に比べて難易度が高く、そのため現在欧米でもこれがスタンダードと言える形が一つあるわけではなく、まだ研究開発が続けられている。また、開発の中心となっているのは風車ではなく、浮体式基礎の部分である。2016年に世界で初めて事業化された浮体式洋上風力発電が、スコットランド沖のHywindだが、これはスチール製スパーで、Hywind Tampen側はコンクリートのスパーを使用している。その他主な浮体式基礎を簡単に説明すると、セミサブ型、TLP型などがある。

 日本は現在2030年までに10GW、2040までに30-45GWを目標とし、そのためNEDOでも10月にグリーンイノベーション基金事業の一環として、洋上風力発電の低コスト化プロジェクトが公募(9)に出されているが、この浮体式基礎がスタンダード化しない限り、大量生産には繋がらないのでコスト削減はかなり難しいと思われる。

 世界で見ると浮体式基礎ではセミサブ型の開発と実証がリードしている。国内調達比率を上げるということも政府の方針の一つであるため、日本を中心に話をすると、日本だけでも三菱造船の箱柱のV型(またはA型)、Navel Energies社と共同開発のブレースなしの日立造船型、またはジャパン・マリン・ユナイテッドの四本柱のセミサブ型などいろいろな形が試されている。今日本で実証されている基礎でセミサブ型以外では、現在建設中の戸田建設のハイブリッド・スパー、BW IDEOLのバージ型、更にMODECのTLP型である。これらの個別の技術比較はここでは割愛するが、どの浮体式基礎にしてもスチールを使用する限り、一つ共通する重大な、日本の浮体式基礎建造のボトルネックになっている問題がある。それは造船所のドックヤードを使用するということだ。ドックヤードと言うのは船を作るためにあるで、船の形のように細長い長方形に用地が取られている。しかし、浮体式基礎の形を見てもわかるように、細長いヤードでは、最終的にセミサブ型の基礎を組み立てる際の溶接には不向きである。欧州では北海油田開発の歴史により、港湾設備が整っているだけでなく、洋上風力用に港湾の設備拡大も進めている。アジアでは韓国は国が造船所を纏めて浮体基礎に取り組もうとしている。例えスパーで進めようにも、日本は基地港湾の整備が遅れているだけでなく水深が浅く、サテライト港湾もまだ構想段階である。各造船所のドックヤードも簡単に拡大とはいかないというのが現状だ。それでは12MW級以上の風車の浮体式洋上風力発電を日本でするためには、風車から基礎まで海外生産したものを日本まで運んでくるしかない。この浮体式基礎建造用地はスチール製で進める限り、真っ先に解決するべき問題である。

 また、第二の問題点は、浮体式構造物に対する認証の見直しが必要であることだ。これも建設基準法を含めいくつかあるが、主にコンクリートの使用を認めるかどうかである。コンクリートの利点は簡単に言えば、早く作れて、高度な技術を持つ専門人材が必要なく、すなわちローカライゼーションがしやすいため、地元企業が参画でき、地元経済への促進と還元に繋げることが可能である。IDEOLのコンクリート式バージ型はフランスで実証中、また先ほど例に挙げたHywind Tampenもコンクリートだ。しかし、日本では浮体式基礎構造物は「船」として評価されるため、コンクリートの船はない(10)ということから、基本的に使用不可と言う状況になっている(11)。

 以上二点より、政府は国内調達比率を2040年までに60%と言う意欲的な目標を立てているが(12)、達成はかなり難しいと思われる。

 第三の問題点は、新しい技術をもっと意欲的に支援するべきいうことである。日本はたくさんいい技術を持っているが、海外に比べて研究から実証までのサポートのギャップにより、新技術開発が進んでいない。欧米各国では、様々な新コンセプトの小型海上実証に支援金が出されることに対し、日本での「実証」は海外でほぼ確立したコンセプトの大型化支援という状況が起きている。ここで日本の政府機関に申し上げたいのは、実証と言うものはこれから実験する技術で、前例がある、または実歴がある技術には実証は必要がないということである。それこそある程度確立されている技術なら、次は大型化することがコスト削減への近道であり、Feed-In-Tariff/Feed-In-Premiumや英国のContract for Differenceのような別のファンディング・スキームでサポートするべきである。

 第四の問題点は洋上風力が開発されるにつれ、ますます系統接続の問題が出てくることだ。日本はエネルギーミックスの中に原子力発電を含んでいるため、系統を開けておく必要があることを考慮すると、売電以外の洋上風力発電の市場が必要になる。

 そこでまた表題の地産地消に戻ることになる。日本は世界でも先駆けて水素とアンモニア燃料両方のロードマップを作り上げているが、水素の供給においては、3E+Sから外れ、海外輸入ベースとした構想になっている。欧州でもドイツなどは輸入するしかないが、洋上風力が進んでいる英国、更にその中でも風力の余剰電力の多いスコットランドでは、すでにグリーン水素輸出を視野に入れた洋上風力開発をしている(13)。政府だけでなく、民間企業も後れを取っていない。例えば、スコットランド沖には、Subsea 7とSimply Blue Groupが始めた、浮体式からグリーン水素を作るというSalamanderプロジェクトがある。弊社Xodusは、このSalamanderのトップ・エンジニアを務めている。また、グリーン水素の事業化にも積極的に官民が動いており、政府はカーボン・タックスと言う形でサポートし、民間企業は事業化への実証を始めている。そのいい例が、スコットランドの名産品であります、ウィスキーの脱炭素化に水素を使用することである。化石燃料を燃やして熱を出して蒸留するよりも、水素を代わりに使用した実証がされている。これも弊社Xodusが参画しているプロジェクトの一つだ(14)。

 水素のコスト削減には二つの関門がある。一つ目は貯蔵、二つ目は運搬だが、この二つの問題は結局同じ根を有する。水素は宇宙の中で最も軽い物質であり、そのため常温では分散しているということがネックである。そのため、運搬するにも貯蔵をするにも、水素を圧縮して高圧ガスにし、それを強靭なカプセルに入れるか、ガス管を通して運ぶことになるが、日本のように遠い外国から持ってくる場合は後者は現実的ではない。また、水素を高圧化しても、需要量を完全に海外輸入に頼るなら液化することが必要になる。しかし、水素をマイナス235°まで液化するだけで膨大なエネルギーが必要だ。それだけでなく、実際に現在の技術では運搬の最中で水素が気化し漏れてしまうため、最終的に日本に到着した時点では30%減になると言われている。

 そうすると液化では水素のコスト削減は難しいということになり、水素キャリアが期待されるが、主に三つキャリアの候補がある。一つ目は一番安定しているため安全な水素合金だが、これは重さの面により長距離を運搬するには向かない。第二はMCHになるが、この技術を使用すると水素をMCHに付着させる際にエネルギーをかける必要があり、また水素を抽出する際にもエネルギーを必要する。それはアンモニアを水素キャリアとして使用した場合も同じである。そのため、日本政府はアンモニアを水素キャリアとしてよりは、そのまま燃料として使うロードマップを築いている。結果、水素キャリアを使用してもやはり水素のコスト削減は難しく、水素社会の実現は儚い夢に見える。

 しかし、国内で日本の自然エネルギーでグリーン水素を作ったらどうだろうか?水素を使う場所で水素が必要な時に、水素を作ることが出来れば、貯蔵と運搬の問題はほぼ解決される。結局地産地消が一番のコスト削減への道なのである。

 結論として、3E+Sを本当に成し遂げるには、国内自然エネルギー導入率をあげること、これには浮体式の成功が不可欠である。また水素も輸入に頼らず国内調達をすることが一番水素社会構成へ繋がる。そのためには政府が意欲的な自然エネルギー導入を進めるための政策を、積極的に打ち出していくことをお願いしたい。また、同時に学術機関、認証機関と民間企業には、一丸となって浮体式の技術開発とスタンダード化を目指すことを期待したい。そうすれば、自然エネルギー100%をベースとした3E+Sは困難な目標ではあるが、決して不可能ではないのだ。



参考文献および注釈

  1.  2Q 2021年は風速が落ちたため、7%まで落ちた。
    https://www.ons.gov.uk/economy/environmentalaccounts/articles/windenergyintheuk/june2021
  2.  完成次第Hornsea2が世界最大になる。
  3. https://www.ge.com/renewableenergy/wind-energy/offshore-wind/haliade-x-offshore-turbine
  4. https://www.jma-net.go.jp/jsmarine/japansea.html
  5. https://www.nedo.go.jp/content/100938386.pdf
  6.  第二次世界大戦中はコンクリートの船もあったが、戦時下なので比較対象にはならないということなのだろう。
  7.  戸田建設で建設中のものはハイブリッド・スパーなのでコンクリートが部分的に使われている。
  8. https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/002_02_e01_01.pdf
  9. https://www.emec.org.uk/press-release-scottish-government-launch-hydrogen-action-plan/
  10. https://www.xodusgroup.com/whiskhy-campaign/


【著者紹介】
小川 逸佳(おがわ いつか)
Xodus Group Japan株式会社 代表取締役社長

■略歴

  • 2019年7月~2021年6月
  • 英国国際通商省 エネルギー・インフラストラクチャーセクター 対英投資上級担当官 英国洋上風力、洋上風力海底送電線、潮流・波力発電などの自然エネルギー・エリアにおける、日本投資家・企業へのアドバイスと英国政府、自治体、学術機関や諸団体・協会との連携を一環としたプロジェクト・サポート。 また、産業クラスター中心の二酸化炭素回収・貯留プロジェクト、港湾の脱炭素化プロジェクト化。 水素ハブの形成、水素サプライチェーンとオフテイカーの連携と実証。
  • 2021年6月~2012年11月
  • Star Magnolia Capital Ltd. Co-Founder & Partner 香港と上海に拠点を置く、マルチ・ファミリーオフィスの超長期投資ファンド立ち上げと運用。ヘッジファンド、プライベート・エクイティファンドへの投資以外にも、ブロックチェーン事業や植物工場案件などを担当。
  • 2010年10月~2009年7月
  • Sullivan & Cromwell LLP ニューヨーク州弁護士

学歴
2009年 University of Pennsylvania Carey Law School卒業