洋上風力発電の方向性と可能性 (1)

足利大学 理事長
牛山 泉

1.はじめに

 近年、世界各国で地球温暖化が原因と考えられる自然災害が頻発し、年を追うごとに劇甚化の傾向にある。21世紀における人類最大の課題の一つが地球温暖化防止である。
 これに対する最強の切り札は、原子力発電の安全・コスト神話が崩れてしまったいま、二酸化炭素を発生しない再生可能エネルギー(以下 再エネ)の積極的な導入しか残されていない。主要国の再エネによる発電比率は、2018年現在、水力発電中心のカナダ66.3%、イタリア39.7%、スペイン38.2%、ドイツ35.3%、イギリス33.5%、原発中心のフランスが19.6%、石炭火力中心の中国が25.5%であるのに対して、わが国は18.0%に過ぎず、そしてアメリカが16.8%と続く。最近の15年以上、欧州では原子力、石炭火力、石油火力の発電所は全く建設されておらず、さらに欧州の新規電源の20%は風力発電なのである。1)
 一方、2021年には、第5次エネルギー基本計画の改定がなされ、第6次基本計画においては、再エネのみが純増となった。「2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年度に脱炭素」という政府の基本方針からバックキャストする考え方で、わが国のエネルギー政策史上、初めて再エネを最優先するという画期的なものとなった。
 2030年のエネルギー構成の目標は再エネが36~38%(第5次エネ基では22~24%)と前回より大幅に割合を増やし、一方、原子力を20~22%で据え置き、化石燃料系(石炭・石油・LNG)を41%、新たに水素・アンモニア1%が初めてミックスに組み込まれた。今回の野心的ともいえる再エネの主力電源化は世界の政治・経済の動きの中で、再エネを使わない企業は国際サプライチェーンから外されてしまうような動きをも先取りして対応したといえる。なお、これまで「最大限活用」がうたわれてきた原子力に関しては、新増設やリプレースなどについても触れていない。
 こうした再エネ導入活性化の動きの中で、風力発電の急進展が目立つが、2020年には太陽光と風力の合計設備容量が1,500GWに達し、原発(約400GW)の4倍近くにもなったのである。

2.世界と日本の風力発電の現状

 世界の風力産業にとって2020年はCOVID 19のパンデミックにもかかわらず史上最高の年となり、前年比53%にも相当する93GWが新規に導入され、洋上風力も6.07GWが新規導入された。
世界の風力発電の累積導入量の推移を図1に示すが、2020年末には、約34万基の大型風車が回り、設備容量は734GW(原発730基相当)に達している。累積導入量の多い国は、中国288GW、米国122GW、ドイツ63GW 、インド39GW、スペイン27GWと続き、日本は4.4GW(2521基)で22位に低迷しているのが現状である。また、洋上風力発電の累積導入量のトップ5は、1位は英国10.21GW(28.9%)、2位は中国10GW(28.3%)、3位はドイツ7.73GW(21.9%)、4位はオランダ2.61GW(7.4%)、5位はベルギー2.26GW(6.4%)である。
 特に、その国の電力に占める風力発電の比率(導入率)については、デンマーク48%、アイルランド38%、ドイツ27%、英国27%、ポルトガル26%、スペイン22%、スウェーデン20%など7か国が20%を超え、10%を超える国はオランダを始め8か国になる。世界全体の電力の8%は風力発電が供給し、原子力発電大国フランスでも9%が風力であるのに対し、日本はわずか1%にすぎない。1) 2)

2.1 欧州における洋上風力発電導入の動き

 欧州においては陸上の風況の良いサイトが次第に乏しくなり、景観問題や騒音問題も少ないことから1990年代初頭から洋上への進出が検討されてきた。本格的に洋上風力発電が始まったのは2000年代に入ってからで、英国を中心に拡大し、2020年末には22.4GWに達し、欧州主要5か国を中心に5400基の大型風車が洋上で回っている。欧州における国別の洋上風力発電導入量は2020年現在、英国10.4GW(42%)、ドイツ7.7GW(31%)、オランダ2.6GW(10%)、ベルギー2.3GW(9%)、デンマーク1.7GW(7%)、となっており、これら5か国で99%を占めているが、圧倒的に英国が多いことがわかる。

図1 世界の風力発電導入量の推移
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図1 世界の風力発電導入量の推移

 さらに欧州の洋上で回っている風車のメーカーは、Siemens Gamesa16.9MW、3674基(68%)が多く、次いでVestas、5.7 MW, 1290基 (24%)の2社の寡占状態である。
 また、欧州での洋上風力発電事業者は20社以上存在するが、2020年までの累積でトップ7を挙げると、Oersted(17%), RWE Renewables(10 %),Vattenfall(6%), Macquarie Capital(6%), Iberdrola Renewables (4%), Global Infrastructure Partners(4%), Netherland Power(4%), となっており、OerstedやRWE など複数の企業が既に日本に進出している。
 また、近年の洋上風力発電用の風車の大型化も顕著で、2010年時点で平均3MWであったものが、2017年には6MW、そして2020年には8.2MWに達している。大規模洋上ウィンドファームのトップ10は、Hornsea Project I(1,218MW, )を筆頭に英国が6件、オランダが3件、ドイツが1件となっており、海洋国の英国が圧倒的に多い。
 これらの洋上ウィンドファームの多くは北海に設置されているが、北海は偏西風帯にあり風況に恵まれている上に、遠浅で水深が深くないことから着底式の設置に有利である。しかし、最近ではウィンドファームの平均水深も44m、平均離岸距離も52kmと、陸地から離れ、水深の深い海域に展開されていく傾向がある。
 さらに欧州諸国は以前、北海の海底油田の工事をしていたことから海洋構築物の設置経験があり、そのための特殊船舶も多く保有するため、これを洋上風力発電設置に転用できることも有利であった。欧州風力発電協会では洋上風力発電の導入目標を、2019年11月には、「2050年までに洋上風力発電450GW開発計画」を公表し、このうちで英国は80GW(原発80基分)を占めており、これにより、EU全体の電力需要の50%(洋上のみでは30%)を供給するとしている。3) 4)
 特に洋上風力導入に熱心な海洋国の英国においては、世界中の風力発電企業の研究施設や製造拠点を集積し、英国の一大産業として発展させる壮大な計画があり、事業規模は13兆円、2030年までに7000基以上の洋上風車を設置して、国の電力需要の3分の1を賄うとしている。

2.2 米国およびアジアでの洋上風力発電導入の動き

 米国における風力発電の導入量は2019年3月時点で、97GW(総本数56,000基)に達しており、これにより米国の電力需要の6.5%を賄っている。再エネに占める風力の割合は、1998年には1%に過ぎなかったが、2008年には7%になり、さらに2018年には22%にも達している。これに伴って発電コストも2010年には円換算で14.8円/kWhであったものが、2018年には4.6円/kWhまで低下している。導入量の多いのはテキサス州の25GWを筆頭に、アイオワ州8GW、オクラホマ州8GW 、カリフォルニア州6GW、カンザス州6GW、そしてノースダゴダ州の3GW と続く。
 一方、洋上風力発電も勢いづいており、ニューヨーク州では2035年までに9GW、マサチューセッツ州でも2035年までに3.2GWと高い導入目標を掲げている。米国全体では、2023年までに2.1GW、2030年までに18GWという目標を掲げており、8兆円規模のビジネスチャンスになるものと期待されている。なお、米国の風力発電導入を促進してきたPTC(生産税控除)が2019年末で終了したことから、陸上風力は2021年以降は導入量が減速するのに対して、2023年以降は洋上風力発電が増大するものと見込まれているが、課題は送電線の増強である。5)
 また、アメリカ以外では、中国、ベトナム、台湾、日本もシェアを伸ばす予想され、英国と同様な海域策定計画は、アジア諸国でも検討されており、例えば台湾では2025年までに5.5GWの開発を予定している。6)


次回に続く-



参考文献

  1.  Global Wind Energy Council; Global Wind Report 2019, (2020).
  2.  IEA Offshore Wind Outlook 2019
  3.  山家公雄;日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する, インプレスR&D (2020)
  4.  Offshore Wind Europe-key trends and statistics (2020)
  5.  山口日出夏;バイデン大統領就任後の米国の環境政策と風力エネルギー, 第21回風力エネルギー利用総合セミナーテキスト, 足利大学総合研究センター, 2021年6月
  6.  石原孟; 洋上風力発電の現状と将来展望, 第21回風力エネルギー利用総合セミナーテキスト, 足利大学総合研究センター, 2021 年6月.


【著者紹介】
牛山 泉(うしやま いずみ)
足利大学理事長

■略歴
1942年長野県生まれ。1971年上智大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。
エネルギー変換工学を専門とし、主に風力発電など再生可能エネルギーの研究に従事。1971年より足利工業大学(現足利大学)機械工学科講師、助教授、教授を務め、2008年度より2期8年間学長。2016年度より足利大学理事長、大学院特任教授。日本機械学会フェロー、1977年に足利工業大学において日本風力エネルギー学会創設、元会長、日本太陽エネルギー学会元会長、フェロー、日本技術史教育学会前会長、経済産業省(METI)および新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)洋上風力発電委員長、新エネルギー財団(NEF)風力委員長、などを歴任。論文は風力関連を中心に160件、著書は単著共著合わせて26冊(うち5冊は中国、台湾、韓国で翻訳出版)。受賞はWWEC世界風力エネルギー会議栄誉賞、WREC世界再生可能エネルギー会議パイオニア賞、同功労賞、文部科学大臣賞、日本風力エネルギー学会特別表彰など12件。