スコットランド国際開発庁・英国大使館 松枝 晃
3.水素社会
3-1.政府のコミットメント
2020年12月にスコットランド政府(Scottish Government)は、Hydrogen Policy Statement 4) を発表した。スコットランドが水素社会を推進するにあたり政府が出したコミットメントで、戦略の上位部分になる。これに続いてアクションプランが発表される事になっている。
4) https://www.gov.scot/publications/scottish-government-hydrogen-policy-statement/
このStatementには、以下の様な今後10年毎のビジョンが書かれている。大まかには、最初の10年で需要・供給を確立して市場を立ち上げ、次に生産量増加・コストダウン、さらに生産量を増やしてコストを下げてスコットランド域外に輸出すると言うものである。
• 2020年~ Demonstration, Market demands, Policy Framework. 政府の支援で交通と産業用市場を確立。
• 2030年~ Production at Scale. スケール拡大、コスト低減、国内向け価格競争力、Floating Production.
• 2040年~ Scale up & Global expansion. 最低価格の水素生産。パイプライン等海外への輸出インフラ整備。
さらに、投資額を含むいくつかの要点が書かれている。
• 水素生産目標:2030年までに5GWの生産設備容量を確保,2045年までに25GW.
• 投資: 5年で£100 million の政府予算を投入.
• Blue Hydrogen:’20半ばまでCCSと組み合わせてblue hydrogenを量産
• Green Hydrogen – Offshore Wind:長期には、洋上風力によるgreen hydrogen生産のskillとsupply chainが重要。
• 技術とInnovation:官民の資金投入, 水素燃料電池, 電気分解装置などのキー技術の確保.
• 国際コラボレーション:Shared hydrogen economy , 水素輸出.
3-2.マーケット予測
同様に2020年12月にスコットランド政府から洋上風力から水素への市場機会を評価するレポートが出されている 5)。需要と供給の両面から可能性が検討されているが、需要面での予測を図9に示す。円の大きさが需要の大きさを示している。
比較的近い将来の市場として、建物の暖房がある。これは地域の暖房が天然ガスを用いて行われており、現状の二酸化炭素排出の大きな部分を占めていることによる。
また交通では、一般の自家用車ではなくトラック、バス、鉄道などが有力とされている。これは車両の運行範囲が限定されるため、燃料供給のインフラが作りやすい事による。
また元々ある化学・産業用途も可能性のあるマーケットで、農業肥料のアンモニアの原料としての水素などがある。
5) Scottish Offshore Wind to Green Hydrogen Opportunity Assessment
https://www.gov.scot/publications/scottish-offshore-wind-green-hydrogen-opportunity-assessment/
3-3.現行のプロジェクト例
3-2の評価の中で、水素のコストについても検討されており、一つのシナリオとして洋上風力発電サイトの近傍で水素を製造する案が示されている。それによると2030年頃に2.3GBP/kgの可能性があるとの事だが、これは日本の経産省の基本戦略目標 6) で示されている2030年に30円/Nm3とほぼ同じ数値となっている。
6) https://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190312001/20190312001-2.pdf
実際に、洋上での水素生成に関して幾つかの実証実験が行われており、その一つにアバディーン沖15Kmの地点で行われているDolphyn Project 7) がある(図10-1,2)。2MWの風車を利用するものから始め、2027年には10MW風車10台を使用する計画である。
7) https://ermdolphyn.erm.com/p/1
他の水素利用に関するプロジェクト例を示す。
Aberdeen市は、Hydrogen Hubになると言うビジョンを持っており、水素利用に関して先進的な取り組みを行っている。公共交通(バス)や公用車に水素燃料電池車を使っている(図11)。
Levenmouthでは、SGN(Scotland Gas Network:企業)がH100Fife 8) というプロジェクトを行っている(図12)。第一フェーズでは、洋上風力の電力で水を電気分解してGreen Hydrogenを生成し、300家庭にクリーンガスを供給するものである。水素は、暖房その他現行の天然ガスの機能を置き換えるものである。
8) https://www.sgn.co.uk/H100Fife
【著者紹介】
松枝 晃(まつえだ あきら)
英国大使館・スコットランド国際開発庁
上席投資担当官
■略歴
金沢大学 工学部 電気工学科卒、
1981年オリンパス光学株式会社(当時)。研究開発部門で回路設計、新規事業開拓、オープンイノベーション等経験。
2010年スコットランド国際開発庁。センシング技術を中心に日本スコットランド間の技術案件を担当。
2012年から海洋関係。北海のSubsea技術と日本の海洋関連技術のコラボレーションを促進。