三井海洋開発(株)事業開発部 ⼩林 秀信
1. はじめに
我が国における浮体式洋上⾵⼒発電設備の設置可能な⽔深海域は、着床式の適地とされる約50m 以浅の海域⾯積を⼤きく上回り、将来的に再⽣可能エネルギーの有望な産出地になりうる。浮体式はより沖合に設置されることから、⾼い⾵⼒エネルギーが得られる⼀⽅で、その⾵浪環境は、着床式に適した海域と⽐しより厳しいものとなり、浮体式洋上⾵⼒発電の普及には、浮体・係留システムの信頼性と経済性の両⽴が必要になる。
三井海洋開発はFPSO (Floating Production Storage and Offloading) やTLP (Tension Leg Platform)の建造や運転・保守に関し世界で有数の実績を有し、⽇本で唯⼀の浮体式洋上設備のトータルソリューションを提供する企業として⽯油・ガス業界では広く知られる存在である。現在、その経験と技術を活⽤し、過酷な環境においても⼤容量発電⾵⾞(12〜15MW)の搭載を可能にし、優れた経済性、更に、⾼い社会受容性を兼ね備えた浮体・係留システムを開発中である。
以下に、開発中である浮体式洋上風力発電用TLP(Tension Leg Platform)型浮体・係留システムを紹介する。
2. MODEC TLPの概要
<MODEC TLP型洋上風力発電設備の特徴>
(1) 大型風車に対応する浮体の信頼性と経済性の両立
1) 浮体の信頼性
洋上風力発電の普及においては発電コストの低減は必須であり、その達成のためには大型風車を採用し、より風況の良い場所での発電が要件となる。大型タービンを搭載する浮体としての構造信頼性の確保は非常に重要なテーマであり、タービンやケーブルへの影響の最小化を実現するため当社はTLP型をベースに開発を行っている。
当社のコンセプトは、先のコンセプト図で説明したように3本のカラムとそれらを上下で繋ぐブレーシングとポンツーンにより、浮体全体の剛性強化を意図した構造体配置としている。
浮体係留の連成解析シミュレーション
TLP型の動揺特性
・ 鉛直方向の運動が殆ど無い
・ 浮体の傾斜も十分に小さい
構造信頼性
・ タービンタワーを強固な立体連結構造で支持
・ DNV-GLよりAIP取得
2) 更なる経済性
TLP型用浮体の建造費はその構造からセミサブ型と同等であるが、優れた浮体安定性は、発電設備の性能を最大限に発揮させ、20年に亘る長期の運用では風車をはじめとする搭載設備の信頼性向上に寄与し、設備のメンテナンスの低頻度化にも貢献すると考える。
また、一般に、風車を大型化した場合、荒天時に風車に作用する加速度や傾斜角を許容内に収めるために浮体が極端に巨大化していく一方で、TLP型の採用は浮体の大型化を他の浮体形式に比べて抑えることが可能となり、この点でも他の浮体形式との比較において経済性に寄与するものと考えている。
(2) 係留システムにおける技術要件と経済性の両立
1) 係留索システム
本コンセプトの係留索システムは、緊張力の分散と冗長性確保を目的として、各カラムに3本ずつ合計9本の係留索を採用している。石油・ガス分野でのTLPの係留はパイプをつなぎ合わせたテンドンパイプを採用しているが、浮体式洋上風力設備では、係留索に求められる強度要件と経済性の観点から汎用の鋼製ワイヤーを採用した。係留索については、緊張係留索の負荷特性である定常緊張力、浮力変動、水平復原力を把握した上で、係留索に求められる強度要件(破断強度、疲労強度)から、鋼製ワイヤーを採用している。
2) 係留接続工事費、係留交換や重故障発生時のメンテナンス費用の削減
本コンセプトの係留システムでは、洋上施工期間の短縮に向け、バラストによる浮体喫水の調整機構と係留索の着脱コネクターを採用している。これにより、浮体に漲水して通常時より沈めた状態で係留端部を浮体に接続、排水することで簡便に緊張状態の実現が可能となる。係留索システムの浮体からの着脱を容易にできるため、ヘビーメンテナンスが必要になった場合の基地港への迅速な輸送を可能とし、施工期間短縮によるヘビーメンテナンス費の低減を実現する。
また、係留索・電力ケーブル着脱機構は重故障時のダウンタイムを最短化し、保険料の低減の可能性につき複数の保険会社が、他の浮体方式に比べ、保険引き受けに優位性ありと評価している。 更に、浮体喫水は6m程度と浅く、日本の浅い岸壁に有効であり、拠点港の選択肢を広げることに寄与すると考えている。
3) 汎用鋼管杭による係留基礎
TLP型浮体は浮力により生じる緊張力を海底で受ける必要があり、既往の開発では大型の重量式アンカーを採用している例もあり、実用化にはその製作費や設置費が課題であった。一方で、石油・ガス分野で使用されるTLP型浮体はメキシコ湾などにおいて汎用鋼管杭を用いた基礎が一般的であるが、需要の観点から日本国内での実績はない。そこで、この方式を浮体式洋上風力にも導入することで重力式アンカーの経済的なボトルネックを解消する。
次回に続く-
【著者紹介】
小林 秀信(こばやし ひでのぶ)
三井海洋開発株式会社 事業開発部
■略歴
20年以上にわたり、石油、ガス、化学業界にてEPCのセールス/マーケティングに従事。
2018年に三井海洋開発(株)入社。新規事業を担当。
現在 同社の風力発電事業の推進において2030年の商業化を目指し活動中。